ロクノベ小説保管庫 最終章~紅き落日 オレンジの黄昏時 > 黄色い月がやがて昇る
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最終章~紅き落日 オレンジ色の黄昏時

『ロック!6時の方向・・・真後ろ!!』
ロールの叫びが暗闇を貫いた。

《赤は紅蓮。逆巻く炎》

暗闇の通路を真紅に塗り替えて、瞬時に振り向いたロックの右腕から炎がほとばしる。
火炎放射と言うヤツだ。
炎と同じ色をした巨蛇が身をのけぞらせ、怒りに全身の棘を逆立てる。
まるで怒ったハリネズミだ!
無数の針はその全てが10mも伸びてロックを床を天井を何もかもを襲いまくった。
その一見まるで避ける隙など無いような針の間を、ロックはどうやってか生き延びる。
光の放射のような針の一本一本を、背をしならせ、足先で回転し、潜り抜け。
炎の残滓で赤く輝く奇妙な空間を、エンテとロックが死のダンスを踊っている。
踊り負けた方が、死ぬダンスを。

《橙は広がりゆく熱。四散し猛る強き爆炎》

ヒュン、と無造作に振り回されたロックの右手から鋭く何かが飛んだ。
寸前まで装着されていた特殊武器が、空を切ってエンテの顔面にぶち当たる。
今しもその鋭い牙…というか、
顔の両脇から生えた鎌状の刃物で切りかかろうとしていたエンテは虚を突かれ、
ぎゃっと短く叫んで苦しそうに頭を振った。
ロールが開発したとかいう、特殊武器。
今まで背負って来てたけど、まったく軽いものじゃない。少なくとも数キロはあった。
顔面になんかぶつかったら、人間だったら大怪我だ。
・・・それを野球のボールみたいに投げてしまうロックの腕力に純粋に驚いた。

粛清官だから、こんなに強いのだろうか?
そうじゃない。ロックは、ただ強いだけじゃないんだ。力の使い方も上手いんだ。

すぐさま先ほどの炎を追う形で、エンテの鼻先が爆発する。
ロックは次の特殊武器をすでに着け終わっていたらしい。まるで隙ってものがない。
俺はつくづく溜め息をつくしかなかった。

爆炎!爆炎・・・!

続けざまに、一つの爆破の音が終わらないうちに次々と新たな弾がヒットしているのだろう。
爆音はひとつながりの轟音となって聞え、通路を満たす空気をぐらぐらと揺らした。
硝煙でエンテの顔は消えてエンテの顎の下あたりに仁王立ちになったロックの姿さえ、
煙のもうもうと立つ中に消えてしまった。
あたりはもう、独特の火薬臭い匂いが充満して呼吸も辛いほどだった。

匂い?
腕で鼻先をかばいながら、俺はふと思い出した。
そうだ、匂い…!エンテは実際の蛇のように、物凄く精密な温度センサーを持っていた。
犬が匂いを追えるように、エンテは人や機械の残すわずかな温度を追える。
この真の暗闇でのエンテの強みはそれだった。

そうか、だからこの暗闇に苦しんだ覚えがないんだ。
だが。この巻き散らかされた炎熱と煙とで、エンテのセンサーは人を捕えるのが困難になったはず。
こうやって、七つの手順にしたがって、エンテは一つづつ、機能をそがれてゆく。

最終章~黄色い月がやがて昇る

「次!!グランド!君が持ってきた方を!・・・重いほうだ!!」
「あ、ああ!」
爆炎の向こう、ロックの半身だけが煙の間から覗いて、俺はハッと我にかえった。
あまりにも鮮やかな戦いぶりについつい見入ってしまっていた。

オレンジの残光の中からロックがこちらに手を伸ばす。
俺はなんとかバックパックから武器を引きずり出し、ロックに向けて投げた。
・・・あらためて、その重さに驚きながら。俺だって、弓漁で鍛えてるってのに。
ロックはそれを軽く片手で捕えると、数秒の間に今つけていた特殊武器と付け替えた。

その間に、爆発の衝撃から立ち直ったんだろう。
エンテが煙を二つに割り、リーバードの瞳を赤く強く輝かせた。

じゃああああああああああっ!!
叫びのような、蛇の喉鳴りのような軋り声を上げて、見上げるような巨蛇の頭部が再びロックへと雪崩れ落ちる。

『ロック!危ない!!リーバード反応が強く・・・!避けてっ!!』
ロールの声が高く響く中、ロックは片手を
…特殊武器を付け替えた片手を無造作にエンテに向けたまま、
その殺人的な重量をもつ頭部を振り下ろす巨大リーバードの顎下から一歩も動こうとしていなかった。
俺がロールと同じように叫ぼうと思わなかったのは
・・ロックの、そのあまりの落ち着きようのせいだった。リラックスしきった背中。
しかし力が抜けきっているわけでもなくバランスよく自然体で立ち尽くしている。
堂々と、まるで木かなにかを見上げるみたいにして。

と、ここから見えるロックのアーマーの背中が、ぴくりとぶれた。
直後。

《黄は灼熱。細く鋭く貫く穿光》

―――― カッ!!!!!!

思わず閉じた瞼の裏までも真っ白に塗りつぶす閃光が炸裂した。
爆発とも炎とも違う、ただただ容赦ない、光の奔流!!
金属が蒸発する、灼熱のフライパンの上で弾ける水泡のような高い音がしたような気がして、
俺は薄目を開けてエンテとロックの方を盗み見た。
激しい光と闇のコントラストに消えかかりそうになりながら、エンテが口を全開にして悲鳴をあげている。
その口の両脇から生えた、彎曲(しゅうきょく)した二本の刃が融点を越えたらしい。
高温の液体と化したそれを溶けた飴みたいにダラダラと垂らしながら、

絶叫、
また、絶叫。

ロックはエネルギーが尽きてしまうまで、その黄色く輝くレーザーでエンテを攻撃しつづけた。
その熱や強烈な光とかはただ事ではないはずなのに、
かかげた腕も、俺とさほど変わらないはずの細さの脚も微動だにせず。

その時だった。エンテの尾が閃いて、ロックの足首を片方からめ取った。
引き絞られた弓から放たれる矢のような速さだった。

あっという間に、年相応に軽いロックの体が空中をでたらめに振り回されて、めちゃくちゃに宙を泳ぐ。
叩きつけられたら一巻の終わりだ!
こればっかりはいかにアーマーが強かろうとヘッドパーツがしっかりしていようと関係ない。
首の骨を折って生きていられる人間なんて、いるものか!

「ロック!!・・・俺が!」

こうなったら、攻撃できないとか言っている場合じゃない。
手を伸ばして、背中に背負った雨の弓を取ろうとした。
「来るな!!」
振り回されて頭に血が上り、顔色が赤黒く変わってしまった顔で、ロックが鋭く叫んだ。
なんでだよ!?死んじまうだろ!!

「また俺に誰かを見殺しにさせろっていうのかロック!!」
「・・・グランド、何の、ために。君はいままで・・・この瞬間を待っていたんだよ?」
苦しく息をつきながら、
ロックは地面に叩きつけさせまいとバスターでエンテの目を狙い撃ちしながら、そう言った。
目にエネルギー弾が当たるたびにエンテはいまいましそうに頭を振るが、それだけだ。
そのうち怒りに任せて叩きつけられるのは時間の問題にしか見えない。

見てられないだろ、こんなの!
「でもなあ!!」
「君は語らなかったけど、司政官アリアと何か大事な約束をしたんだろ!
 島の人を解放するんだろ?ここでグランドが死んだら、今までの時間は全部無駄になるんだろ!!
 僕は!できないことを安請け合いしたりはしないんだ!」

そこまで言われたら・・・。俺は黙るしかなかった。確かにその通りなんだ。
なんだけどっ!

ロックの放つバスターの瞬間的な光の合間、
足首のあたりのアーマーがびしびしと亀裂が入って割れかけているのが、俺の目には見える。
このままじゃすぐにも骨まで砕かれる。
ロックのバスターじゃエンテの体に傷はつけられない。レーザーは撃ち尽くしてしまった。
最後の・・・緑の攻撃をするための特殊武器は、俺が持っている。

ロックはそれでどうするっていうんだ!?
俺はどうすることもできずに、イライラと手を拳にしてそのへんの床を殴った。
くそっ!

「もっと、信じてよ!」

え?
ハッと顔を上げると、ロックの右腕が足首にからまるエンテの尾に力いっぱい振り下ろされた所だった。
まさか素手で尾を切ろうって言うんじゃないだろうな!?

ビッ!
まばたきの間閃いた、本当にわずかな金の閃光。それがエンテの尾を切り裂いた。
あれは・・あれはさっきの、黄色い閃光。
呆然とする俺の前にロックがどさっと落ちて、ごろごろと床を転がって勢いを殺し、止まった。

「ロック!大丈夫なのかっ!?」
「何があるかわからないから。余力は残しとくのが、ディグアウター」
疲れた顔で、にっと笑ったロックを見下ろして、俺は安心のあまり気の抜けた半笑い。
ロックは、尾の先を失って激しく怒りに狂うエンテをちらと見、
半壊したアームパーツに覆われた腕を俺に差し出した。

壊れた隙間から、血のにじんだ指先が見えた。
「次を」
「ああ」