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第2章 第一次作戦開始(後編)(2)

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rocnove

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ダイナモ襲撃
SAランクの緊急事態発生。本部始まって以来の危機。遅れてやって来た死神。
彼らに迫る危険の表現の仕方は色々あるが、とりあえず、その全てが自分に当てはまる
ことだと、ダイナモはいつも浮かべている皮肉っぽい笑みの下で、ひどく冷めた心で
そう自覚していた。
さっきの1番ゲートブロックの外装はひどく貧弱だった。
相手どころかウォーミングアップにもなりやしない──ありったけの中傷を
胸中で呟き、舌なめずりする。
「・・・っへへ。来たよ来たよ、雑兵の皆さん方がね。そんなに僕に
 殺されたいかなあ・・・・」
くつくつと、ダイナモは下卑た笑いを響かせた。
本当に、彼らは潰されるためにかかって来ているとしか考えられない。それとも、
本気で自分を潰せるとでも思っているのだろうか?だとしたら、大きな過信である。
あるいは───命を賭してでも守るべきものがあると言うのだろうか?
(くだらないね。この世に自分の命より大切なものがあるモンか。一番効率のいい
 生き方があるなら、例え僕は全てを犠牲にしてでも優先させるね。
 現に僕は────こうしてここに立っている)
こちらを侵入者と認識し、雑兵達がこちらに射撃の嵐を降らせる。
その雨を何ともなしに、軽く腰を捻らせたり、ステップしたりする程度で、
彼は全ての攻撃をかわし、接近した。まるで流れるようなその動きに、
無駄な部分などない。むしろ、なびくその青髪が美しくさえ見えた。
何が起こったのかまだ理解さえしていない──まあ詰まるところやはり雑兵で
しかない連中もたくさんいたようだった。
「もう遅いよ」
耳元で囁くような優しげな声と共に、右手のビームサーベルが閃いた。
最初の敵は、上体を回転させてその勢いで胴体と脚部を斬り放し、続いて次の相手は
反対の手の拡散バスターで蜂の巣となった。その次は一刀両断にして、
分かれた体の間を通り抜け、勢いに任せて4,5,6番目を自慢の刃で屍にする。
今度は───乱射ではない。ちゃんと通常弾で、周りのターゲット全てを確実に
狙撃していた──1弾も外してはいない──。
そしてひるんだ隙に体を滑り込ませ、弾痕を印代わりとして、その印のついた
標的の首を次々と刈り取っていく。
…ほんの30秒もするかしないかで、その場にいた隊員たちは一人残らず
死骸と化していた。
「ま、こんなものかな」
キマッたな・・・と自画自賛する。
だがその言葉に続く無数の爆発音が──まるで死者の悲鳴のようだ──、この一瞬を
歓迎してるように見えなくはなかった。

シグナスの憂鬱
「侵入者──ダイナモはOブロックを突破。もはや格納庫ブロックに到達するのは
 時間の問題だと思われます・・・・・」
力なく、エイリアが告げる。
「分かった。もう続けなくていい。やはり、頼りになるのはあの二人しか
 いなかったということか・・・・・」
半ば予想していたことが現実となり、明らかに落胆の意を示すシグナス。
エイリア達オペレーターも一同揃って暗い表情を浮かべていた。
(判断を誤ったか・・・最初から彼ら2人を相手にさせれば良かった。
 無駄に部下を・・・・犠牲にしてしまったな・・・・・)
司令官としてあるまじき後悔を胸に、彼はこの事件が終結した後に
辞任すべきかどうかを、本気で決めあぐねていた。














独り言:話・・・・・短かっ!!

エックス&ゼロV.S.ダイナモ①
そんな不安をよそに、ダイナモの進撃は留まることを知らない。ついに彼は格納庫の
周辺ブロックへと歩み寄っていた。
「そろそろ、かな。ちゃっちゃと破壊して、ちゃっちゃと極楽へと招待させて
 もらおうかね。∑の旦那もせっかちだからな、あんまり帰りが遅いと・・・・」
はっと何かに気付き、ダイナモは独り言を止めた。
向こうの曲がり角から、蒼い装甲を身にまとったレプリロイドが現れる。
見間違えようのない、第17精鋭部隊の───
「・・・やあ、君がエックスかい。この仕事のついでぐらいには戦っておきたいと
 思っていたん───」
「ふざけるな!何の目的があってこんなことを・・・・・」
エックスはダイナモの挨拶を怒号で遮ると、右手をバスターに変化させ、
ダイナモの頭部へと方向を指定した。
「ことと返答次第じゃ、お前の頭が吹き飛ぶぞ・・・・・・」
なるたけ鬼のような形相で睨みつける。同時に、彼はエネルギーチャージも始めていた。
普段の温和な彼は、イレギュラ-を相手にするだけでどこかへ吹き飛んでしまっていた。
「目的?そうだねえ・・・・まあ分かりやすく言えば、僕は自己中心的なんだよ。
 一番楽して得する方法があれば、自分さえ助かれば────そういう男なのさ。
 その場を、あの旦那が提供してくれるってんなら、僕は素直についてくさ・・・・」
「旦那・・・だと?誰だそいつは・・・・」
そのキーワード以外にも色々ツッコミたいムカつく発言はあったが、エックスは
何とか感情を押し殺して、冷静であろうと心がけた。
ダイナモは呑気に続ける。
「君達が一番よく知っている、不死身のレプリロイドだよ・・・・・・
 分かるだろ、両目にアザがあって・・・・・」
「・・・・・・・っ!!」
ダイナモが話し終わらない内に、エックスはチャージショットを放出した。
青白い大きな光の奔流が、真っ直ぐダイナモに押し迫る。
ジェスチャーまで使って会話していたダイナモは、わざとらしく気付かなかった
フリをすると、フン、と鼻をならしてダッシュした。
無論、光波の流れの横を通り過ぎて。
「・・・人が話をしている最中に、攻撃とはね・・・・ひどいじゃない、かっ!!」
リズムをつけて、ダイナモは大きくサーベルを振りかぶった。
眼前のエックスを切り刻むために。
だが───こちらが完璧に王手を取ったというのに、エックスは驚いてすらいない。
しかしそれでも、彼自身に奥の手があるようには見えない。
(終わりなのに・・・・何故何もしようとしない!?驚嘆もしない!?となると一体何だ!?)
ダイナモが逆に一驚を喫していたその時────エックスが通ってきた曲がり角から、
エックスとは対照的に赤い装甲に身を包んだレプリロイドが飛び出した。

エックス&ゼロV.S.ダイナモ②
それはこちらの赤い刃と違い、エメラルドグリーンのビームサーベルを握り締めている。
(新手の攻撃でとどめを刺すって訳かい!!)
ダイナモもそんじょそこらのイレギュラーハンターよりは遥かに優れた戦闘能力を
もっている。それこそ、隊長クラスを敵に回してもひけを取らないほどに。
反応速度を限界にまで上げ、動力炉が跳ねるように脈を打つ中、ダイナモは自分でも
驚くべきほどの反射速度で、こちらへ振り下ろされるビームサーベルを、同じ武器で
受け止めた。
「・・・・くっ!!」
目の前で、二つの刃が交差している。ビーム同士の交わりが、強烈なイオン臭を
発生させ、辺り一体を鼻をつんざく匂いで満たしていた。
かろうじて見えたのは、その赤い装甲の男が第0特殊部隊の隊長、ゼロだったという
ことだけだった。
「今度は君かい、ゼロ。隊長二人がかりで相手なんて・・・僕はモテる奴だねえ!!」
叫んで、ダイナモは鍔競り合いの体勢を、斬り払って飛び退き、終わりにする。
追撃としてやって来るゼロのチャージショットを縦薙ぎで掻き消すと、彼は大地を
踏みしめて、態勢を整えた。
「・・・・・お前の黒幕が誰かはよく分かった。だから俺達は、意地でも
 ここを通さない。一歩も・・・格納庫へは入れさせん!!」
まさに鬼気迫る目つきで、ゼロは声を張り上げた。
「お手柔らかに頼むよ・・・・隊長さん達!!」
エックスやゼロの怒りにも余裕をかましていたが、結局ダイナモは彼ら二人を同時に
相手にするという、人生最大の苦行を目の前にして、ハッタリを張っていただけだった。

(くそ・・・・・せめて、ファルコンアーマーが使えれば!!)
ホタルニクス博士との戦闘で、意外と自分がアーマーの無理な使用をしていることに、
エックスは帰還するまで気付くことがなかった。エイリアとダグラスが修理する際、
「相当痛んでいる。エネルギーチャージだけなら二日だけで済むが・・・・
転送装置が壊れたなると、5日ほどかかる。これでは二日後のダイナモ戦では
使用できん」と口を揃えて答えたのだ。
あれさえあれば、どんなに敵が強かろうと一瞬で勝負を決めることが出来る。
だがそれが使えないとなれば、何のための切り札なのだろうか。
一人虚しさを噛み締める、と────
ゼロがこちらへ目を合わせてきた。全てその目が物語っていた。
(心配することはない。あんな鎧がなくとも、俺達は、必ずエニグマを
 守ることが出来る)
ゼロの真摯な瞳というのは、それだけで説得力を持ったものと言っても過言では
なかった。その視線の意味を理解し、エックスは微笑みで
ゼロに(ありがとう)とだけ返した。

エックス&ゼロV.S.ダイナモ③
ふと気付くと、ダイナモがダッシュでこちらへと間合いを詰めて来ている。
だが、直前にバスターのチャージを終えた彼ら二人は、そのままバスターを
隣り合わせにして、同時に熱波の渦を迸らせた。
クロスチャージショットという奴である。
(!!これは・・・・避けようがない!!)
通路全体を埋め尽くすエネルギー波がダイナモへと切迫する。
確かに、回避など不可能だった。だが・・・・
(防御なら、可能だ)
スラスターの火を止めてダッシュを中止すると、ダイナモはビームサーベルをの柄を
片手で持って回転させ始めた。
(これなら、こちらにやって来る熱の90%はカットできる)
さすがに移動しながらだと体勢を崩して後方に吹き飛ばされる危険性があったため、
止った状態でやるしかなかった。
瞬間、膨大なエネルギーがダイナモの視界を埋め尽くした───あくまで、
その光だけだったが。
おかげで装甲が少し焼け爛れる程度で済んだダイナモは、視界が晴れない内に疾駆した。
やがて───青白い光の向こうにぼんやりと、エックスの輪郭が浮かび上がってくる。
(こちらの様子に・・・・まだ気付いていないな・・・しめた!!)
彼は早くも勝利を確信した。彼ら二人だけにではない。
この基地内にいる全ての者に、だ。さすがに二人を相手にして、倒した挙句無事で
済むなどという高望みは、ダイナモにもなかった。
だから彼は、二人を出し抜くしかない。出し抜いて、目的さえ果たせば
良かったのだから。
彼ら二人の処理は『可能ならば』とのオーダーだったので、最初からどうでも良かった。
「へへ・・・・もう僕は君達に勝ったぞ!!」
ビームサーベルを振りかぶり、袈裟懸けに相手を切り刻もうとする。
そのサーベルが届く寸前────
「!いかん!エックス、避けろ!!」
(くそ、相手を侮り過ぎた!!)
胸中と同時に口からも叫びを発し、ゼロはひどく焦った。
エックスは言われただけで、状況を把握してなどいない。ゼロの体が
飛び跳ねるように動いていた。
その一瞬───ゼロがエックスの代わりに袈裟斬りにされ、ダイナモは口惜しげに
舌打ちしながらも、エックスの横を通り抜けて行った。
それを忘れて、エックスはゼロを助けることしか頭になかったようだ。
すぐに恐怖に駆られたエックスが、横たわるゼロに駆け寄っていた。
「ゼロ、大丈夫か!ゼロ!」
「阿呆が!俺の心配はどうでもいいだろうが!さっさとエニグマを守れ!」
自分の甘さを指摘され、我に返ったエックスは、ゼロを一瞬悲しげな瞳で見つめたが、
何も言わずに、即座にダッシュでダイナモの後を追って行った。

終わりの道へと①
「よし、エニグマ発射準備開始!」
「了解!エニグマ発射準備開始!第一次安全ロック解除!エネルギー充填開始!
 メインジェネレータ点火!・・・・・・・」
モニター越しのシグナスの威勢の良い号令と共に、技師長であるダグラスが復唱し、
格納庫の作業員全員に指令を下す。
その光景はレプリフォースの訓練を彷彿とさせた。現在、エニグマの材料の
装着・装填が終わり、もはやエニグマは発射を待つばかりとなっていた。
オリハルコンがエンジン全体を包んで過熱を防ぎ、エネルギーカートリッジが
ジェネレータとエンジンをつなぎ、メキシコ湾の海水を電気分解して水素のみを
取り出し───着々と、準備は進みつつあった。
「このままいけば、ユーラシアは・・・・落とせる!」
最大出力2000メガワット。一国ぐらいはこれだけで焦土と化すほどの威力である。
巨大コロニーとはいえ、さすがにその質量は一国のそれには及ばない。
飛び散った残りの破片は大気圏内で燃え尽き、消滅する。計算通りに行けば、だが。
しかし、今のところ途中で邪魔が入る気配は一切なかった。
安泰、と言ったところだろうか。
「第二次安全ロック解除!対ショック閃光防御解除!
 エネルギー装填プラグ接続!・・・・・」
不安と期待の入り混じった気持ちをよそに、ダグラスは次々と指令を下していく。
その様は、まるで自分などよりよほど有能に見えた。
(彼は・・・あまり目立つことはないが、あれで色々頑張って来たのだろうな・・・・)
ふと、シグナスは彼の横顔をモニター越しに見てそう感じた。
「・・・・・そういえば、あの二人はどうした、エイリア。ダイナモの足止めをしている・・・・」
シグナスは血相を変えた。そこには目を丸くしたエイリアが、
ずっとオペレーター専用のモニターを覗き込んでいたからである。
「どうした、エイリア。冷静に状況を報告しろ・・・」
とは言うものの、シグナス自身も冷静さなどカケラも顔に出してはいなかった。
鏡を見れば、エイリアと同じ目つきになっているだろう───
そんな予測がついていた。
「彼らは無事です。しかし・・・・・・・」
また、沈黙。どうやら彼女は危機を伝える時、いちいち間を置かないと
喋れないタチらしい。
「格納庫周辺の・・・Yブロックが・・・・突破されています・・・・・」
その瞬間、戦慄が、シグナスの体を電流のように駆け巡った。

終わりの道へと②
「エネルギー充填完了。方向修正率99.62%。これで発射準備は終わった。
 お前ら、さっさと持ち場を離れろ・・・・・余熱に焼かれたくないならな。
 俺は最後にここを出る」
「了解!」
ダグラスに敬礼し、作業員が全て格納庫の外へと出て行く。
それを見守りながら、ダグラスは独りごちた。
「へっ・・・・ざまあ見やがれってんだ、∑の野郎・・・・・・
 もうじきこいつは火を噴く・・・・てめえの企みも、今回ばかりは
 成功しないんだよ。全く・・・・意外と、あっけなかったな・・・・・・」
はぁ、と疲れ交じりに溜め息をついて、ダグラスは壁を背にペタンと尻餅をつく。
真上にそびえ立つ、エニグマの砲塔を眺めながら、彼はシグナスに連絡を取った。
「こちらダグラス技師長・・・・エニグマの発射準備、終了致しました・・・・・」
「了解した。ご苦労・・・だった」
「どうしたんです、総監。そんなこの世の終わりみたいな声出して・・・・」
「・・・気のせいだ。それでは・・・カウントダウンを始める!」
ダグラスの心配を軽く受け流すと、シグナスはリーダーとしての職務を果たそうと、
懸命にそれらしい声を搾り出した。が────
ガタンッ!
何かを叩きつけて破壊したような音が、格納庫にこだました。
先程作業員達が通った扉の逆方向にある扉から、長髪のレプリロイドが姿を見せた。
「ダ、ダイナモ!?ど、どうして・・・」
「物事ってのは、最後まで分からないモンだよ・・・・」
ビームサーベルから弾ける火花をベロリと舌で掬い取ると、そのまま彼は腕ごと
体を捻って───
「うりゃっ!!」
情けないかけ声ではあったが、その声と共に投げ飛ばされた光波剣は回転しつつ、
標的のエニグマへと一直線に飛んで行った。
同時に、後ろの方で声がした。ダイナモを追いかけてきたエックスだったが、
もう既にサーベルは投げられた後だった。
「や・・・やめろおおおおおおお!!」
もはやどうにもならないことに、エックスは頭を抱えて絶叫していた。
同じことを、ダグラスも言っていたらしく、ダブってダイナモの耳に入っていた。
彼には甘美なハーモニーのように聞こえていたようだったが。
そして───回転する赤色の刃のビームサーベルがエニグマへと達し、
甲板に食い込み、吸収されるようにして貫通したのを見た瞬間、時は止まった。
少なくとも、エックス、ダグラスの二人はそう感じただろう。
数秒が数分に、いや数時間に───彼らには深く、重く感じられた。
ワンテンポ遅れて爆風が彼らの視界を包んだ時は、彼らの思考能力は
もはや凍結されていたも同然だった。

第一次作戦失敗
爆発の衝撃は、格納庫ブロックや周辺ブロックを通り抜けて、司令室まで伝わった。
天地を揺るがすような激震に、司令室のメンバーは戸惑いを隠しきれなかった。
「く・・・ダグラス、状況報告を・・・・」
振動が止んで数秒後、シグナスは何とか正常さを保ち、冷静に司令を下すことが
できたようだった。だが如何せん、あちらの調子が悪いらしく、応答が返って来ない。
「お願いダグラス!応答して頂戴!」
エイリアも力を振り絞って叫び、ダグラスの返信を求める。
その時、微かながらノイズと一緒に、かすれた音声が返って来た。
「・・・ガ・・・・・・こちらダグ・・ス・・・事故発・・生・・・・
 ダイナモが・・・・メインエンジン・・を・・・破壊した模様・・・・」
「何・・・では、発射は無理なのか!?」
シグナスはすぐに冷静さを失った。まあ、こんな状況で、例え司令官とはいえ
取り乱さない方がおかしいかもしれないが。
「いえ・・・・何とか・・・発射は・・・可能です・・・・しかし・・・・
 これでは・・・・予定出力の・・・・6割も・・・出せません・・・・・」
「・・・・分かった。可能ならそれでいい。お前はそこから待避しろ。
 それが済み次第、発射する。いいな?」
「了・・・解・・・」
ダグラスの通信は途絶えた。シグナスは肩を落とすと、うつむいて黙り込んだ。
「・・・・・」
もはやシグナスにも、語る力は残されていなかった。通信の内容とシグナスの
面持ちからだいたいのことを察したエイリアは、すぐに発射ボタンのトリガーを
起動させた。
「総監・・・・・・」
「分かっている。私は司令官として・・・・・決断しなければならない!」
絶望に塗れても、誤った決断を下そうとも───ひとかけらでも希望がある限りは、
その希望に賭けてみるしかない。シグナスは思いつめた挙句、そんな最後の選択に
YESの決定をすることしかできなかった。
しかし、そんな情けない自分でも、やるべきことはやらねばならない。
「・・・総監・・・待避・・・しました。後は・・・・頼みます・・・・」
「了解した」
ダグラスとの最後の通信を終えた後、シグナスはおもむろにトリガーの前に移動し、
迷わずに、エニグマの発射ボタンへと手を伸ばした。
「発射!!」
シグナスの右の人差し指が、発射ボタンを深く押し込んだ。

少し傾いた感じのする砲塔──ギガ粒子砲『エニグマ』から、
極太のビームが放出された。だがこれは、最大出力ではない。
そのほんの、5割ほどである。
夜空を青白く照らし上げ、星の光を眩ますその光が狙う先──それは、もう
地球からでも肉眼で観察できるようになった、超巨大コロニー『ユーラシア』だった。
だが、先程の破壊活動によって方向を変えられた砲塔から
走るビームなど、目標地点に大したズレもなく着弾するはずもなかった。
極太ビームは見事にユーラシアの横をかすめて行った。かすめた────程度だった。
終いにエニグマは衝撃に耐えられなくなって爆煙をあげ、大破した。
「第一次作戦・・・・失・・・敗・・・・・」
ショックで硬直していたエイリアから、そんな弱々しい声がこぼれ出たのを、何故か
シグナスは、この後はっきりと記憶記していたのだった。

~第一次作戦終了~
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