ロクノベ小説保管庫 ロックマンXセイヴァーⅠ.Ⅴ~闘いへの伏線~

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-闘いへの伏線-

 少し・・いやかなりの出血だ。

 油断した・・。情けない。

 なんとかベースまで帰りたいけど・・・

 そこまで行ける自身は全く無かった。

 意識が薄れていく・・。

 駄目だ・・・今此処で気を失っちゃ・・・。

 駄目・・・だ・・・待って・・・。



「気が付いたかい?」
 よく本やドラマなどで聴く台詞。
生で聴くのは初めてのこの台詞に、彼の意識はしっかりと覚醒した。
 急いで身体を起こしたため、全身がキリキリと痛み、思わず「うっ・・」と呻いてしまった。
「無理しちゃ駄目だよ」と、再び語りかけてくる声に、彼はゆっくりとした動作で辺りを見回した。
色々な機器が立ち並ぶ。オイルの特特の臭いが鼻を付いてくる。
自分が中央の寝台に寝かされている事を確認して、
彼-ロックマン・セイヴァーはここがどこかの研究所だと言う事を理解した。
「こ・・ここは・・?」
 未だにキリキリと痛む身体を抑えつけて、セイアは声を絞り出した。
 「あぁ・・・」と、先程の声がして、不意に自分と同程度の年齢の少年が顔を覗き込んできた。
黒髪を背中程度まで伸ばしていて、それを一つに縛った、蒼い瞳の少年。
「ここは俺の研究所。まだ身体の方は痛む?」
「えっと・・なんとか大丈夫・・みたい」
 少年のペースに乗せられて、セイアは思わずそう答えた。
「凄い怪我だったね。直すのに苦労したよ」
 微笑して、少年はクイッと親指で、部屋の端のカプセルに収納されたセイアのアーマーを指さした。
あれ程ボロボロになっていたアーマーが、少し名残があるが、完全に直っている。
「えっ・・そんな・・僕のアーマーはそんな簡単に・・・」
「ふふん。まぁややっこしい事は言いっこ無しだよ」
 何者なんだ?この子は。
自分のアーマーはエックスとゼロのDNAデータで構成されている。
それを修理できるのは、自分を創ったゲイトと・・・後はエックス達の構造を熟知した者しかいない。
しかしエックス達の身体構造はブラックボックスだらけであり、今の世の中で完全に解析した者はいないと言うのに。
「それより・・気が付いて良かった。いきなり道端に倒れてるんだもん。ビックリしちゃったよ」
「うん・・助けてくれて・・・どうもありがとう」
 あれからどれくらい経ったかわからない。
 しかし自分は、街で巨大メカニロイドが暴れていると言う通知を受け、
それを止める為の任務に出ていたのだ。
 秘密裏の軍事用メカニロイドだろう。強力だった。
周囲の被害を確認しながら、時にはメカニロイドの攻撃を身体で受け止めて、
住民たちを護るつもりだった。
 しかし、無差別攻撃を繰り返すメカニロイドが破壊した高層ビルの下に、
何人かの人達が残っていた。
 もはや考えるよりも前に動いていた。そして気が付いたときには、ビルの下敷きになり、大幅なダメージを受けていた。
 最近はメンテナンスもロクにしていないアーマーは頼りにならず、最終的にメカニロイドを倒したものの、
受けたのは致命傷だった。
 通信機も全て破壊されたため、自分の足でベースへ帰らなければならなかったが、途中で気を失って・・。
そこから先の記憶が無い。
「いや・・いいよ。お蔭でいいもの見せてもらったしね」
「・・・はは・・・」
 思わず苦笑いがこぼれた。
「君コーヒー好き?入れて上げようか」
「うっ・・・うん・・じゃあ・・貰おうかな」
 セイアの返答に、満足そうに頬笑んだ少年は、背後のコーヒーメーカーをガチャガチャと弄る。
 セイアは寝台の近くのイスに、自分のハンター制服がかけてある事に気が付いて、
おもむろにそれを着込んだ。
「そう言えばまだ名前を言ってなかった。俺はウィド・ラグナーク。宜しく」
「僕はロックマン・セイヴァー。もう一つの名前は徳川 健次郎。みんなにはセイアって呼ばれてる」
「そっか。宜しく。セイア」
 渡されたコーヒーを手にとって、セイアは「宜しく。ウィド君」と返した。
 カップを両手で握って、ゆっくりと喉に通す。
淹れたてで暖かい。少し苦みがあるが、その味はセイアにとっても美味しいと感じるものだった。
「ウィドって呼び捨ててでいいよ」
「うん・・ありがとうウィド」
「どういたしまして」
 セイアは飲み終えたカップをどこに置こうか迷った。
それに気が付いたのか、ウィドがカップを受け取って、部屋に備えられたキッチンに放り込んだ。
 良く見れば綺麗に片づいている。
同じ年ごろだと言うのに、自分の部屋は・・。
 そこまで思って、セイアはコツンと片手で頭を小突いた。
改めて今まで兄に頼っていた自分を恥ずかしく思った。
「さて・・・じゃあ俺はパーツの片付けでも・・」
「あっ・・・僕も手伝うよ」
 セイアのアーマーを修理した時のパーツだろうが?
確かに少し焼け焦げた破片のような物が転がっている。
セイアは寝台から「よっ」と降りて、とりあえず手近に落ちている破片を拾うため、
その場に屈み込んだ。
「あっ・・駄目だよまだ・・!」
 ウィドが言ったときには、セイアは「うっ」と呻いていた。
傷口がまだ塞がっていない。
「うっ・・・ごめん・・」
「とりあえず片付けは俺がやるから。君は寝ていていいよ」
 ウィドに促されて、セイアは「ごめんね」と呟いて、今まで寝ていた寝台に上がった。
ウィドが投げてくれた毛布を受け取って、全身を包む。
「普段は丈夫でも・・怪我してるときくらいはジッとしていな」
「うん・・・」
 そう軽く返す。
 毛布の温もりが偉く心地よい。
さっきまで眠っていたというのに、再び睡魔が襲ってきた。
強敵だ。勝てない。
「もう少し寝てな」
「ありがとう・・」
 その時にはもう睡魔が意識を侵食した後だった。

 ウィドに修理してもらったアーマーを返してもらってから、大体六時間が過ぎようとしていた。
 ウィドの技術を目を見張るモノがあり、自分の身体の方の怪我も、もう殆ど全快している。
 とりあえずメットの通信機でベースに通信を入れた。
どうやら「生死不明」と大騒ぎしていたようだ。
ベースにはすぐに帰ると伝えておいた。
明日にでも帰ろうと思っている。
「ごめんね。色々と世話になっちゃって」
 アーマーを外しながら、セイアは申しわけなそうに呟いた。
 先程から世話しなくキーボードを叩いていたウィドは、視線をモニターに向けたまま、
「いやぁ・・・こっちは好きでやってるんだから・・・気にしなくていいよ」と言った。
 キーボードのEnterを押し込んで、ウィドはぐるりとイスを回転させて、
セイアと目を合わせた。
「見れば見るほど興味がわいてくるよ。君は」
「そ・・・そうなんだ・・」
 最後に髪の毛を掻き毟って、セイアは汗笑いの様な表情を作った。
 この子の目は本当に輝いているな。
「また怪我したらいつでも来なよ」
「あはは。怪我したらね」
 ハンターの制服を着込んで、セイアはスッと立ち上がった。
研究室の出口に向かって、数歩足をすすめる。
「今までありがとう。怪我もアーマーも治してもらって。
僕は帰るよ。僕はイレギュラー・ハンター第十七精鋭部隊副隊長。いつもそこにいるから」
「あぁ。ボクもいつもここにいる。来たくなったらいつでも来いよ」
 ヒラヒラと手を振って、セイアは自動ドアを擦り抜ける。
 しかし、セイアの視界に蒼い空が広がる直前に、
もっと別の感覚がセイアに突き刺さっていた。
攻撃的で凶暴な・・・殺気。
「くっ!!」
 わけのわからない殺気に、セイアは転送したメットをウィドに向かって投げつけた。
 直線的に飛翔するセイアのメットは、ウィドの数cm前で、金色のくもの巣に絡め取られた。
これは・・ライトニング・ウェブ!?
「なっ・・!」
「お前は・・・お前は・・!」
 すぐにウィドの真横に滑り込み、絡め取られたメットを引きちぎって、深く被る。
 セイアがバスターを向けた先-研究室の天井には、見覚えのある一体のレプリロイドがぶら下がっていた。
蜘蛛のような外見をし、外見通りくもの巣に身を吊るす。
 このレプリロイドには見覚えがあった。そして、それは意識するよりも前に、セイアの口から滑り出た。
「ウェブ・スパイダス・・・!?」
 セイアがその名を口にすると、スパイダスは感情の籠もらない機械音で笑い声を上げた。
 ここで闘うのはマズイ。しかもウィドは戦闘型ではない筈だ。
なんとかして外におびき出さなければ。
「コノ攻撃・・・躱セルカ!?」
 兄から聴いたのと同じ台詞を吐いて、スパイダスは再び黄金のくもの巣を放ってきた。
それをサーベルで下から上へ斬り裂いて、すぐに跳躍し、スパイダスに蹴りを入れる。
 間近で見たスパイダスの全身は、データに残っているとはなんとなく違っていた。
そう・・まるで強化されたような装甲だ。色彩も何か違う。
「セイア・・!」
「君は非戦闘タイプだ!下がってて!」
 駆け寄ってきたウィドを片手で制して、セイアは蹴り落としたスパイダスを、そのまま乱暴に屋外へ殴り飛ばした。
「ここは僕が闘う!」

 黄金のくもの巣-ライトニング・ウェブ。
大量の出現する子蜘蛛。
 その全てがレプリフォース対戦時とは大きく異なった威力の為、セイアは多少戸惑った。
 子蜘蛛をバスターで撃ち落としながら後退すると、
既に背後にしかけられていたライトニング・ウェブに全身を雁字搦めにされた。
「くっ・・・!」
 外れない。堅い。
 追加装備だろうビーム砲の閃光が、一気にウェブごとセイアの全身を包み込んだ。
しかし、その閃光の中で、セイアは懸命にライトニング・ウェブを引きちぎった。
 チャージしたバスターを真っ直ぐに向ける。
「喰らえ!!」
 蒼と紅の閃光が、防御のために張られたライトニング・ウェブを貫いて、
スパイダス本体を打ちつける。
 今が勝機だ。
セイアは直ぐ様サーベルを引き抜いて、大きく跳躍した。
残像を残す蒼の閃光剣を、一気に振り下ろす!
…筈だった。
 振り下ろす瞬間、セイアは「うっ・・」と小さく呻いた。
 唐突に走った激痛に、サーベルが手の中から落下し、地面で乾いた音を立てる。
 全身が痺れたような感覚がする。
まだ怪我が治りきってなかったのか・・。
 セイアが見せた一瞬の隙に、スパイダスは「ギギギ」と笑い、
強化されたライトニング・ウェブで、再びセイアを雁字搦めに絡め取った。
「やばい・・・!」
 引きちぎろうにも、力が入らない。
今、この状態で攻撃を無防備な箇所に受けたら、幾らこのアーマーでも致命傷だ。
「くっ・・!」
 露出したフェイス部分に向かって、スパイダスのビーム砲がチャージされる。
少しずつ光が宿っていく銃口に、セイアの頬を一滴の汗が滑った。
 やられる・・・!!
 その瞬間、目の前で閃光が爆ぜた。
が、爆裂したのは自分の身体では無かった。
 状況の把握出来ないセイアの目の前で、グラリとスパイダスの身体が崩れ落ちた。
「だから無茶するなって言ったんだよ。危ない危ない」
「えっ・・・ウィド・・・?」
 雁字搦めのまま立ち上がれないでいると、不意にセイアの視界にウィドの顔が滑り込んできた。
片手には一丁のレーザー銃。まだ煙が上がっている。
 見るからに高出力のレーザー銃。上がっている煙をフッと吹き消すと、
ウィドはレーザーメスでライトニング・ウェブを切開してくれた。
「君は・・非戦闘タイプじゃ・・」
「誰も一度もそんな事言ってないぜ?ははは」
 立ち上がったセイアは、少し複雑そうな表情を作った。
不思議な子だ。ウィドは。
「とっ・・・とりあえず・・ありがとう。また助けてもらって」
「まぁいいってこと・・。それじゃあ・・・また来いよ」
「うん。さようなら。また今度」
 アーマーを脱着し、セイアはヒラヒラと手を振ると、少し沈みかけてきている太陽の方向に向かって、
ゆっくりと歩み始めた。
 破壊されたスパイダスの身体から、
まるで生命体のように蠢く一体のレプリロイドでもメカニロイドでも無い機体が密かに離脱したことは、
セイアもウィドも知らない。
 そうこの時は、セイアにもウィドにも・・・
これが新たなる闘いのほんの前奏曲《プレビュート》だと言うことは知るよしも無かった。

「さて・・強化システムでも作ってるとしようかな。また・・厄介なことと一緒に来そうだし」
 ウィドはたった一人、研究室でそう呟いた。
密かに笑みをこぼして。