ロクノベ小説保管庫 ロックマンコードⅠ 第四章~約束~

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第一話

 視線の先には漆黒の闇が広がっている。
 照明も何も無い。本来なら煌めいている筈の星々の姿も無い。
 そんな夜空を、ロックマン・コード-松浦 輝は窓枠に頬杖をついて眺めていた。
 ロックマン・フラットから、地球の運命を左右するまであと一週間だと宣告されてから、
僅か数時間しか経っていない。
 後一週間。あとそれだけしかない。
 後一週間で、ガイア・リカバリーズとの闘いが終わる。泣いても笑っても-だ。
いや、泣いても笑っても・・などと生優しい言葉は通用しない。
負ければ地球上の生命全てを失うことになる。
それを避けるためには、たった一つ、そう自分が勝つしか無い。
 初めて闘った時、一撃すら入れることが出来なかったロックマン・フラット。
 あれから少しは強くなったつもりだが・・・。
 しかし負けるわけにはいかない。負ければ全て失ってしまう。
 かくなる上は、自分の命で実力差を埋める。
そうでもしなければ、勝てない相手なのかもしれない。
「・・・地球の汚染・・・」
 大気の汚染によって、この漆黒の空には何も見えない。
 唯一見えるのは、薄ぼんやりとした不気味な月だけだ。
 視線を降ろして、ここ以外全て廃墟と化してしまった街を見渡す。
 数百年前なら、辺り一面に花や緑が生い茂っていた筈の大地。
今は殆どその面影が無い。
 メカニロイド達との戦闘で燃えてしまった分もあるかもしれないが、
この大地にはもう殆ど純粋な木々は生えていない。
 それを見て、少しだけ表情を曇らせる。
 自分だって緑が好きだ。花が好きだ。
 それが失われている現状は、正直哀しい。
 そしてそれを失わせているのは、紛れも無く自分達人類とレプリロイドだ。
 彼-フラットの気持ちが分からないわけじゃない。
だが、それでも、生命を奪ってまで-地球上の全ての生命を奪ってまで護ることに何の価値があると云うのか。
いや、それは実質的に『護る』と云う行為に属するのだろうか。
とてもそうは思えない。
 今の地球上全ての人類やレプリロイドが地球を破壊しているわけではない。
 中には自然を愛し、残そうと考えている人々だって多く存在する。
 そんな者達にまで手をかけ、護ったモノなど、結局は独り善がりでしか無い筈だ。
 自分は護ってみせる。人類やレプリロイド、地球の生命を。
 自分は緑が、花が、木々が好きだ。
 彼とは違う、全く違うやり方で、それも護りたい。
 扉の擦れる不意な音に、輝ははっとした様に振り返った。
 そこに立っていたのは、少しキョトンとした表情の茶髪の少女だった。
「・・・・ヒカル・・・?」
 身体ごと少女の方に向き直って、輝はそっと少女の名を呼んだ。
「あっ・・ごめんなさい・・。起こしちゃった?」
「ううん。ちょっと空を見てただけだから・・」
 「どうしたの?」という輝の問いに、ヒカルは「扉が開いてたから・・」と小さく答えた。
 少しの間ヒカルの姿を見詰めていた輝の視線は、再び窓の外の漆黒の空へと向けられた。
「眠れないの・・・?」
 視線を夜空に向けたまま問う。
 数秒して帰ってくる返答。「うん・・・」
 立っているのに疲れたのか、ヒカルはそっと輝の横に腰を降ろした。
「・・・見えないね・・」
「えっ・・?」
「・・・星・・・」
 輝の呟きに、ヒカルはそっと窓から空を見上げた。
 数秒間だけ空を見詰めていたヒカルは、不意に輝の横顔に視線を落とし、小さく微笑した。
 輝は疑問符を浮かべて、夜空からヒカルの瞳へ向き直った。
「私・・生まれてから・・プラネタリウムでしか・・星見た事無いんだ・・」
 この時代の人間は大体そうだ。
 かなり山奥にでもいかない限り見えない星々。
それを追い求めるように作られたプラネタリウム。
 最近では、星と云うのはプラネタリウムでしか見られないモノ。
夜空に光るなんて迷信だ-とまで云っている輩がいる。
「そっか・・・」
 そして静寂が走る。
「私ね・・思うことがあるの・・」
 唐突に切り出された言葉。
 輝は黙ってヒカルの瞳を直視した。
「彼・・・ロックマン・フラット・・だっけ。知ってる?」
 小さく頷く。
 知らない筈は無い。
 彼はこれから闘うべき相手で、同じROCKMANの名を持つ者。
「彼の云ってる事は間違いじゃないんだ・・って」
 無言で次の言葉を待つ。
 一呼吸置いた後、ヒカルはそっと続けた。
「でもね・・云ってることは正しくても・・やってる事は間違ってると思う。
 壊したって何も始まらないよね?それよりも・・」
「それよりも俺達で今どうすればいいか考えればいい・・」
 ヒカルの言葉を遮って、輝は一呼吸で言い切った。
 ヒカルは少しの間眼を瞬かせていたが、すぐににこっと頬笑んだ。
 輝も少しだけ微笑を浮かべる。
「もしそれでちゃんとした星が見える様になったら・・」
 窓の外の漆黒の闇に目を向け、ヒカルは云った。
「そしたらみんなで見れるといいね。勿論輝君も一緒に・・」
「そうだね・・・」
 そっと窓の外を見上げる。
 光っているのは朧月のみ。
だが、星の光の軌跡がなんとなくだが見えた気がした。
 そのなんとなくの感覚が、輝には「大丈夫・・」と云ってくれた様な気がした。
「約束するよ。星が見れたら一緒にいる。そして・・」
 身体ごとヒカルの方向を向き、グッと瞳を見詰める。
 疑問符を浮かべるヒカルに向かって、静かに、それでいてしっかりとした発音で言葉を紡ぐ。
「・・・俺は・・・君を・・護る」
 そして人間とレプリロイド。地球上の全ての生命も。
輝は頭の中で付け足した。

第二話

 真っ赤な太陽が東の空に見える。
 心地よい風を頬に感じながら、ロックマン・コードは北の方角に向かって目を細めた。
 後六日。後六日以内にフラットの所に辿り着き、奴を倒さなければならない。
 データを参照すると、北の基地跡に辿り着くのには、実質上二日もかからない。
しかもネオ・イレギュラー・ハンター特製のライド・チェイサーを使用する為、このまま行けば今日の夕方には辿り着ける。
何事も無ければ-だ。
 もちろんそんな甘い考えを持ってはいない。道中でガイア・リカバリーズ達と闘う覚悟はある。
 もう今までのような甘い闘いにはならない。
彼の云った通り。
 風に靡く蒼の髪を手で抑え、コードは深くヘルメットを被った。
 一度だけ振り向き、さっきまで自分が居た場所-ヒカルの家を見る。
 彼女はまだ眠っているだろう。起こさないよう早朝に出てきたのだから。
 もしかしたらもう彼女に逢うことは無いかもしれない。
 それを考えれると、得体の知れない寂しさが胸の中に広がってくる。
 それを無理矢理押さえ込み、自分に言い聞かせる「大丈夫・・・大丈夫だ・・・」
 腰のホルダーからカプセル状にしたライド・チェイサーを取り出し、足元に展開する。
 真新しいシャープなライン。ベースが自分専用にと蒼色にカラーリングしてくれた。
 先端に輝くのは強化されたブラスターの銃口。
 そっと左ハンドルに触れ、グッと捻ってみる。
 一瞬だけの空吹かしだが、それでもきちんと整備されている事がわかる。問題は無い。
「・・・・ヒカル・・・。俺・・勝つよ絶対。またね・・」
 コード・・いや輝は、「またね・・」と云う言葉に意味を強く込めた。

 少女がそれを読んだのは、それから数時間後の事だった。
 いつも通りに起床して、朝食を作ろうとした時、目に飛び込んできたのは、
テーブルの上に簡単な重しと共に置かれた、一枚のメモだった。
 走り書きだが、それでいてきめ細かい字だった。

 ヒカル・チェレスタ
 今までありがとう 凄く楽しかったし 嬉しかった
 僕はまた旅に出ます
 帰って来れるかどうかはわからないけど 帰ってこれるようであれば 真っ先にここに寄ろうと思う
 どうもありがとう 約束は守ります

 松浦 輝


 再びメモはテーブルの上に戻された。
 少女はメモを握っていた手で、今度は自身の顔を包んだ。
 テーブルの上のメモ用紙に、一滴の雫が零れ落ちた。

第三話

 飛びかかってきた最後の一体をオルティーガで一閃のもとに斬り裂いて、
コードは大きく息をついた。
 大量のメカニロイド軍団と交戦を開始したのは、確かまだ昼間のことだったと思う。
 必死に酸素を求める全身を、肩で息をすると云う形で制しつつ、コードは少し紅く染まり始めた空を見上げた。
 まさかあんな大量の敵が出てくるとは思っていなかった。
 なるべくダメージとエネルギー消費を抑えて闘ったが、それが逆効果だったのかもしれない。
 今覚えばさっさと特殊武器で一掃してしまえば良かったのだが、フラットとの闘いに備えて、
なるべくユニットチップ系の武器の使用は抑えたかった。
 これからは教訓にするべきだ。
今回は退けたが、今は一時撤退の後再出撃と云う形が取れない。
 大分落ち着いてきた呼吸。コードはそっとメットのバイザーを降ろし、現在位置を確認した。
 基地跡-ガイア・リカバリーズの本拠地まではまだ大分ある。
 今日はこの辺りで進行を止めた方がいいだろう。
 夜間での移動は自殺行為だ。
こんな照明も無い廃墟やあぜ道を走る際、一体いつどこから攻撃されるかわからないからだ。
いくら三百六十度注意を張り巡らせていても、疲労し始めた心身は信用出来ない。
「・・・・・んっ・・・!?」
 額に垂れてきた汗を拭おうと、メットに手をかけたところで、
不意に誰かか拍手をするような音が、コ-ドの耳に飛び込んできた。
 オルティーガを展開しつつ振り返ると、コードの瞳に飛び込んできたのは、
ニッコリと頬笑んだ甲冑を付けたレプリロイドだった。
 まるで中世の騎士の様な出で立ちだ。腰には細身のビーム・ソードの柄が刺さっている。
「・・・お初お目にかかります。わたくしベルザと申します。以後お見知りおきを・・」
 丁寧な物腰で頭を下げるレプリロイド-ベルザ。
 コードはオルティーガを中段の構えに取りつつ、ギリッと歯軋りをした。
 静かな雰囲気をしているが、コイツは・・強い。
「アンタも僕を狙いに来たのか・・・!」
「狙いに来たなどとは失敬な。私はただ・・ロックマン・コード。貴方と剣を交えに来たまでですよ。
 わたくしは正々堂々と闘わせて頂きます・・」
 ゆっくりと腰のビーム・ソードに手をかけ、ベルザは瞬時に凄まじいスピードでそれを引き抜いた。
「・・・長話が過ぎましたね・・・」
「・・どうしても闘うつもりなのか?」
「当たり前ではありませんか。わたくしはその為に参上したのです」
「・・・・・・・・・・・・・・わかった」
 バスターの銃口内にオルティーガの柄が吸い込まれ、蒼色のレーザー・ブレードを発生させた。
 コードはザッと地面に足を擦りつつ腰を落とすと、いつでも戦闘を展開出来るよう、臨戦態勢を整えた。
 二人の間を突風が潜り抜けていく。
 そして、一枚の木の葉が、風が止むと同時に地面についた瞬間、
二人の姿はその場から消え去った。
 次の突風を待たずして、地面に散らばった木の葉の山が吹き飛んだ。
「・・・・っ!」
 向かい合って立っていた二人の中心。
不意な衝撃の原因はそこだった。
 蒼いレーザー・ブレードが、綺麗に細身のソードに受け止められた。
 圧倒的にビームの出力では勝っている筈なのに、幾ら押し込んでも一mmたりとも動かす事が出来ない。
「どうしました・・・貴方の実力はそんなものですか・・・・!?」
 ベルザの挑発を聞き流しつつ、コードは不意にレーザー・ブレードを後に引いた。
 コードの機転に、ベルザは思わず前のめりにバランスを崩した。
 その瞬間にバックスウェーで間合を取り、即座にレーザー・ブレードを解除して、
バスターの高速連射を浴びせ掛ける。
 が、瞬時に体制を立て直したベルザは、雨のように襲いかかってくる蒼い光弾を、全て身を捩ってやり過ごした。
 ベルザが地面を蹴ったことを確認した時には、一手遅れていた。
 再びレーザー・ブレードを発生させるよりも前に、ベルザのソードから繰り出される連続的な突きに、
コードはもはやギリギリで躱すしか手だては無かった。
 躱していると云っても、ソードの先端部分などが少しずつアーマーの各所を削り取っていく。
 耐えきれなくなったコードは、ベルザの顔面に掠る程度の打撃を入れ、再び間合を広げた。
「・・ほぉ・・やりますね・・」
「・・・・強いな・・・」
 これは早く終わりそうには無いな・・。
 コードは心でひとりごちた。

第四話

 バスターの銃口の蒼い光を、目の前の騎士型レプリロイドに向けて解放する。
 直撃の寸前までは確かに弾道の先にいた。
が、閃光が直撃する瞬間、ベルザの姿はもう無かった。
 不意に顔を上げると、ソードを振りかぶった姿勢で跳躍したベルザが視界に入ってきた。
 咄嗟にレーザー・ブレードを発生させて受け止める。
 その剣撃は、重い。
「上手いですね・・」
 未だに余裕を保ち続けるベルザに対して、コードはギリッと歯軋りをしつつ、睨み上げることが精一杯だった。
 上から押しつける形のベルザと、下から押し上げる形のコードでは、
上からの方が力が入れやすいため、コードのレーザー・ブレードは少しずつ押し込まれつつある。
 不意にベルザをビーム・ソードを外側に流した。
 その影響で、それを受け止めていた右腕も、同時に外側へと持っていかれ、
コードの胴体は完全にがら空きと化した。
 コードが右腕を戻すよりも早くにソードを構え直したベルザ。
 思い切り振りかぶられた剣撃が、レーザー・ブレードによる防御が不可能なコードの頭部へと、
刹那の間に振り下ろされた-が、その剣撃は、不意に現れた電撃の壁によって、寸での所で受け止められていた。
「っ・・・!」
 エレクトリック・アートによって発生した電気の盾。
それが壁の正体だった。
 盾の先端から、更に電撃を変形させ、鎖のようにベルザのビーム・ソードを固定すると、
コードのアーマーの色彩は、一瞬にして黄から紅へと変化した。
 「だりゃぁ!!」と声を張り上げつつ、真紅の焔に包まれた拳で、
唯一の攻撃兼防御策を失ったベルザの胴に、強烈な打撃を加える。
 間髪入れずに回し蹴りを入れて後退させ、ブレードを解除したバスターの光弾を一点に集中して連射するが、
そのエネルギー弾の全ては、ベルザが下から上への斬り上げたビーム・ソードの一撃によって、
あらぬ方向へと弾き返されていった。
 フレイム・ストライクと回し蹴りでのダメージは皆無だ。
 それを今のベルザの動きが証明している。
 幾ら隙だらけの箇所を狙って打撃を入れたとは云え、それはほんの一瞬だ。
 ユニットチップ系の武器の中では最高位の威力を誇るフレイム・ストライクでも、真面に決まらなければ何の意味も無い。
それに、自分は元々体術を使用する事を前提としていない。
 ただの回し蹴り程度では、メカニロイドは倒せても、目の前の達人級の戦闘型レプリロイドにダメージを入れることは出来ない。
 再びバスターに蒼い閃光を灯し、コードはギリッと歯軋りをした。
 剣術では相手が上だ。だからと云って銃撃戦をしたとしても、一瞬で懐に飛び込まれるか、
或いは全て弾かれてしまう。
 勝つには・・確実に一撃、チャージ・ショットを撃ち込むか、剣術面で完全に奴を越えるしか無い。
 だとしたら・・何か大きな隙を見つけるか、ベルザのビーム・ソードごと、
このレーザー・ブレードで叩き斬るか。
二つに一つしかない。
「神聖な闘いに無粋な飛び道具を用いるとは・・残念でなりませんよ・・ロックマン・コード」
 相変わらずの物腰で、ベルザは云った。
 再びビーム・ソードを構えたベルザの装甲は、少々焦げていた。
先程のフレイム・ストライクの威力だろうが、ギリギリで外されていたのか、その跡は異様に軽かった。
「・・・・・・くっ・・・」
 ベルザの云う神聖な闘いをしているつもりは無いが、
コードは銃口内に納まりきらなくなった閃光を、不意に拡散させた。
 バスターでは懐に入られ、下手をすると致命的なダメージを受ける-と、今頭の中で結論を出したばかりだからだ。
「・・・・やるしかない・・・」
 聞こえないように呟き、グッと拳を握りしめる。
 コイツに勝つには・・もう手は一つしか残っていない。
 しかし・・上手く当てることが出来るかどうか。それだけが問題だ。
「さぁ・・第二ラウンドと行きますか・・」
 再び構えを取り直し、ベルザは声に威圧を込めた。
 コードはザッと足を開き、レーザー・ブレードを発生させた右腕に、左掌をそっと添え、呟いた。
「・・・これが最終ラウンドだ・・!」

第五話

 身体の中で何かが弾けた。
 一気にとんでも無い圧力が全身を駆け巡り、充実させていく。
 アーマー各所の放熱プレートが展開し、身体全体を半透明の蒼いオーラが包み込む。
 その圧力に耐えかねて、コードは「くぅっ・・」と呻いた。
 銃口から発生しているブレードはスパークし、その刀身は二、三回りにまで巨大化している。
「・・・なるほど・・奥の手ですね・・」
 一瞬驚愕した様に目を見開いたベルザだったが、すぐに余裕を取り戻し、嘆息を漏らした。
 全身から溢れ出てくる力と、逆に締めつけられるような感覚とが交差する中で、
コードは思い切りレーザー・ブレードを振りかぶった。
「・・・身体・・保ってくれよ・・」
 ブレード・アーマーの出力は膨大である。
 凄まじい基本能力に、出力の高いレーザー・ブレード。
 しかし余りに強化され過ぎた能力は、使用者の身体強度を越え、破壊してしまう危険性があった。
 そこで、この鎧を開発した老人が設けたのが、特殊なエネルギー・リミッターだった。
 これによって、使用者の身体強度に合わせた出力に自動的に抑えられるようになっている。
 リミッターを解除すれば一時的に圧倒的な力を得ることが出来る。
機動力、攻撃力、防御力、反応速度など、闘いには欠かせない要素の全てが。
 それが今の状態だ。
凄まじい力を得る代わりに、少しずつ負担が増えていく。
 今のコードでは、リミッターを解除して放てる攻撃は一撃が限界だろう。
 しかし他の手は無いのだ。
 コードはそれに賭けた。
「正面からの全力攻撃ですか・・。面白い・・乗りましたよ。小細工は無用!!」
 一連の闘いの中で最も素早い速度で、ベルザは地面を蹴った。
 先程のような突きの連打では無く、正真正銘の必殺の一閃。
 ベルザが剣を左から右へ払うと同時に、コードは凄まじく巨大なブレードを、思い切り振り下ろした。


 閃光が走った。

「・・御見事・・」
 ゆっくりとその場にベルザの身体は崩れ落ちた。
 コードは少しの間無言でベルザを見詰めていたが、すぐに蒼いオーラを打ち消した。
 バスターの銃口からオルティーガを取り出し、肩のバックパックに納める。
「・・・大丈夫ですか・・?」
 ゆっくりと歩み寄り、そっと手を差し出す。
 ベルザは差し出された手を決して取ろうとはせず、たった一言呟いた。
「何故・・外したのですか・・・?」
 その表情は苦しそうだった。
 当然だろう。ベルザのビーム・ソードの光剣部分ごと、ベルザの胴を深く斬り込んだのだから。
 そしてそのまま押し切れば、彼の身体を真っ二つにする事だった不可能では無い傷だ。
 本当はそのまま真っ二つにする事だって出来た。
寧ろ斬り裂く寸前に腕を引き、ブレードが彼の身体を裂くのを寸でで阻止したのだ。
「・・・・勝負はつきました。もう闘う理由も無いし・・殺す必要だって無い。
 僕はもう・・あなたと闘う必要が無い・・」
 そう云ったコードに、ベルザはフッと微笑した。
「噂通りですね・・ロックマン・コード・・・」
「・・なんで・・あなたの様な騎士がフラットに・・」
 どうしても聞きたかった、闘う理由。
 そう問われて、ベルザは少し懐かしむ様に眼を閉じた。
 数秒の沈黙の後に、一言一言に丁寧さを込めて語り始める。
「・・・私は・・捨てられた騎士でした・・」
「・・・捨てられた・・」
「騎士型戦闘用レプリロイド・・ベルザ。それが私の名。
 ですが・・完成直前に護衛する予定だった人間の方がお亡くなりになり・・私の存在は闇へと葬られたのです」
 そこまで云って、ベルザは一呼吸を置いた。
 コードはそっと姿勢を低くし、ベルザとの距離を縮めた。
 少しずつ、微量にだが、ベルザの声から力が失せ始めている気がしたからだ。
「・・・そんな時・・・手を差し伸べてくれたのがフラット様でした。
『行く宛が無いのならついてこい・・』と・・」
「でも・・・!フラットのしようとしている事は・・!」
「わかっています・・。でも私は決めたのです。この人を生涯護り抜く・・と。
 私だって自然が好きなのですから・・」
「で・・でも・・!」
 何か云いたかった。
 何か云いたかったけれど、言葉が浮かんでこなかった。
 捨てられた騎士を拾ったフラットの真意は分からないが、ベルザの気持ちが分からなくは無い。
 唯一差し伸べられた手。それにすがって何が悪い。
「でも・・・ぉ・・」
 いつの間にか目尻が熱い。
 溢れてきた雫が視界を狭める。
 不意に、そっとベルザが腕を上げた。
「・・・えっ・・・・?」
「そんな顔をしないで下さい・・。貴方は全力で闘い・・勝ったでは無いですか。
 全力で闘った相手こそ・・『友』なのですよ・・。ロックマン・コード・・」
 その腕には、彼が先程まで華麗に扱っていたビーム・ソードの柄が握られている。
「・・・ベルザ・・・・・さん・・」
「・・・貴方の行き着く先が見たくなりました・・。それが例えあの方を倒す道だとしても・・。
 ですから連れて行ってください・・私も一緒に・・」
 グッと胸に柄を押しつけられて、コードはそっとそれを手にとった。
 そしてもう片方の手でベルザの伸ばされた手を握りしめる。
 頬から滑り落ちた雫が、その手を濡らした。
「・・・一緒に・・・一緒に闘おう・・。ベルザさん・・」
「勿論ですよ・・」
 フッとベルザは力無く微笑した。
 握りしめた手から、力がどんどんと失せていく。
「あっ・・!」
 慌てて手に力を込めても、それは止まらなかった。
 ただベルザの力無い微笑を見続けるしか出来なかった。
 また・・殺すことしか・・・・出来なかった・・。
「それでは・・・」
 ベルザはそっと眼を閉じた。
 腕の力が完全に失せ、ぶらりと垂れ下がる。
 コードは無言で渡されたソードを肩アーマーの中にしまいこむと、
そっとベルザを仰向けに寝かせ、その胸の上で両手を組ませた。
 それは奇妙な死だった。
 バスターで粉々にしたのでも無い。
セイバーで斬り刻んだのでもない。
 確かにレーザー・ブレードによる傷が原因だが、今までコードが見てきた死とは違っていた。
 ゆっくりと・・・眠る様にして・・死んだ。
 涙を拭い、もう一度だけベルザの死に顔を見詰めてみる。
 苦しんだと云うよりも・・満足そうだった。微笑している。
「・・・俺・・・負けないから・・」
 泣き笑いのような表情で、コードは呟いた。
 軽い黙祷を捧げた後、ゆっくりと歩み出す。
 今日はここから少しだけ離れた場所で夜を明かそう。

第六話

 東の空から昇ってくる朝日の光を浴びながら、
コードはただ静かに歩みを進めていた。
 駆け出さそうともせず、ただゆっくりゆっくりと一歩一歩を確かめながら。
 ベルザとの戦闘の後、目立たない木陰に背を預け、少しだけ眠った。
眠ったと云っても仮眠程度だ。敵の気配がした瞬間に目覚められるように。
コード自身も、敵側が自分に睡眠を摂る暇を与えてくれるとは思っていなかった。
だが、彼のそんな予想を裏切って、眠りに入ってから早朝まで、敵の気配が全くしないままに過ぎていった。
 そして今も、コードはただ静かに歩いている。
三百六十度に常に気を配っているが、敵が出現してくる気配も、遠くから狙撃してくる気配も無い。
一応、いつ敵が出現しても差し支えがない様、片手にはオルティーガを握り締めているが-。
 妙だな-コードは、視線の先に見える巨大な門を睨み付けながら、心の隅でそう囁いた。
 不自然に漠然とだけ存在する門。
それは、周りの景色に対しては余りに不自然だった。
 人工的に栽培された林。その中に重々しく存在する門。
それはまるで、フラットがコードを迎え入れる為にわざわざ用意したもののようだ。
 門を潜る一歩手前。そこでコードは立ち止まった。
 誰かがいる-コードは、瞬時に片手のバスターを、視線とは別の方向に構えた。
 照準の先。それは頭上-門の上だ。
 ふと顔を上げる。しかし、バスターを向けた先には、誰もいない。
慌てて視線を真横へと移す。
 立っていた。赤い色を基調とした流線型のレプリロイドが。
「・・っ!」
 ザッと足を開き、戦闘体制に入る。
 いつの間に、だ?-今まで全く敵の気配がしない中、何故奴は突然現れた。
そして何故、瞬時に自分のロックオンを振り切って、いつの間にか真横へと移動しているんだ。
 何故-。
 コードは眉間に皺を寄せると、レプリロイドはニヤリと口元を歪めた。
そのメットから見え隠れする白髪に、顔はコードよりも大分年上の青年。
鋭い切れ目が、コードの緊張を更に深める。
「待ってたぜぇ。ロックマン・コード」
 片手を顔に当て、レプリロイドは心底楽しそうに口を開いた。
その声は、少し嗄れた声で、コードが今まで聞いたことのあるどの声にもあてはまらないものだ。
 コードがチャージ・ショットを発射すると、彼はその蒼い閃光が直撃する寸前、フッと消えた。
「なっ!?」
 まるで転送装置を使ったかのように、レプリロイドの姿は瞬時に目の前に移動してきていた。
 馬鹿な-転送装置をあんな一瞬で使用出来るはずが無い。
転送装置はいちいち使用前に座標を入力しなくてはならないし、こんな近距離で使用するのはほぼ不可能の筈だ。
 複雑化し始めた思考を一旦切ったコードは、素早く片手のオルティーガを薙いだ。
が、その閃光剣が斬り裂いたのは、ただ何も存在していない空間だけだった。
「鈍いねぇ。俺様はただゆっくり避けただけだぜ?」
 声が囁いたのは背後。
コードは、振り返らないままに、ゴクリと喉を鳴らした。
 これは転送装置や幻影なんてものを使用した小細工ではない。
そう、これは-これは極限にまで引き上げられた素早さ。スピードだ。
「速い・・・」
「その通り。よく見切ったな。だが流石に見えちゃいねぇようだがな」
 図星。奴の移動の原理を見切ったとは云え、奴のスピードを見切ることは自分には不可能だ。
「全く気付いてねぇ様だからさっさと殺っちまおうと思ったけどよぉ。
 意外と反応いいじゃねぇか」
「いつから・・・」
「さぁな?ただあの騎士野郎との茶番はなかなか面白かったぜ」
「茶番、だとっ!?」
 思い切り振り返り、同時に撃つ。
だが、バスターの光弾は彼の姿を突き抜けて、奥の人工の木を破壊しただけだ。
 再び彼の気配をロックオンしようとした時には、コードは背後から思い切り蹴りつけられて、
大きく前へとつんのめっていた。
「くっ・・!」
 片手をバネにして体制を整え、再びバスターを向ける。
 相変わらず彼は視線の先でニヤニヤとした笑みを浮かべていて、
それが更にコードの感性を刺激してくる。
 彼は自分とベルザが戦闘をしていた時、既に自分達の様子を見ていたのだ。
自分の仲間が敗れるところを目の当たりにしながら、全くそれに関与しようとはしなかった。
更に、命をかけて正々堂々闘ったベルザに、茶番等と云う言葉を用いて-
「ふざけるなっ!!」
 真横へとダッシュしながら、バスターを連発する。
その全ては次々と躱され、気付いた時には彼はコードの懐に飛び込み、勢いを利用した打撃を喰らわせていく。
 それでも怯まずにオルティーガを薙いだが、その一閃は、剣の先っぽが彼の装甲をほんの少し削り取っただけに終わった。

第七話

 軽く地面を蹴り、間合を取り直す。
 彼は、今の一瞬にコードが削り取っていった装甲の跡を見詰めながら、「へぇ」と小さく嘆息を漏らした。
意外さと期待が入り交じった、なかなかに奇妙な嘆息。
「驚いた。ほんのちょっぴりでも見えてるみてぇだな。この韋駄天のライツの動きをよ」
「ライツ・・」
「おっと名乗り忘れてたか?俺様の名はライツ。史上最速のレプリロイドだ」
 あんなおめでたい騎士野郎と一緒にしてもらっちゃ困るな。
そう付け加えつつ、ライツは再び姿を消した。
 コードの視界の中に彼の姿は、無い。
ただ捉えられるのは、彼が移動する際に聞こえてくる音だけだ。
だがそれは、音よりも彼のスピードの方が断然速いため、全くあてにならない。
「何故・・っ!!」
 エネルギーを注ぎ始めているバスターをもう片方の手で握り締めつつ、
コードは苦々しさを噛み潰す様に、叫んだ。
「何故お前はベルザさんがやられるところをむざむざ見過ごした!!」
「知らねぇな!」
 瞬時に懐に現れたライツ。
コードがバスターを向けるよりも前に、打撃を叩き込まれて、コードの両足はがりがりと地面を掻いた。
 だが、それでもコードは再び声を張り上げた。
「何故仲間を見殺しにしたっ!何故あの時俺の前に現れなかったんだ!!」
「あんな馬鹿みてぇな騎士野郎が仲間だ?はっ、ザケンじゃねぇ」
 腹部に拳を叩き込まれた。
小さく呻きながら、コードは必死に片手でそれを引っ掴むと-。
「ふざけるなぁっ!!」
 背負い投げの要領で大きく地面に叩き付けた。
 だが、バスターの追い打ちをかけようとした時には、遅かった。
再びライツが地面を蹴る音だけが耳に飛び込んできて、それ以外のものからは彼の気配を全く感じることが出来ない。
「彼は、ベルザさんは立派に闘った!それを侮辱していい筈なんか無い!」
「情報通りの甘ちゃんだな手前はっ!」
「はぁぁぁぁ!」
 極限までチャージしたバスターを足元に向け、一気に解放する。
地面に叩き付けられた閃光は、一気に周囲へと衝撃と砂埃を散まいていく。
 モクモクと上がる砂埃の中、コードは迷い無く一点に向かって飛び込んだ。
片手のレーザー・ブレードを携えて-。
「お前なんかにっ!」
 視界の悪い砂埃の中、薙いだレーザー・ブレードに、確かに手応えがあった。
掠った-二撃目を素早く薙ぐ。だが、二撃目が何かを斬り裂いた感触は全く無い。
ライツは既にその場所にはいないのだ。
 再びバスターを足元に発射し、蔓延する砂埃を一気に散らす。
ライツの意表を一瞬だけ突く以外の砂埃は、ただ自分を不利にするだけだ。
 一気に晴れた砂埃。一気に良くなった視界。
コードは、さっきの埃で多少曇った双眼に鬱陶しさを感じながらも、間合よりも少し先にいるライツの姿を、
しっかりと捉えていた。
 見事に削り取られた装甲。
あれだけのスピードを誇るのだ。それに比例して装甲は薄いはずだ。
コードが斬り付けた箇所であろう傷が、バターの様にあっさりと破られ、内部機構がスパークしているのが、それを頷ける。
「お前なんかにっ!!彼を侮辱されて溜まるかっ!!」
 正面に一発。
そしてライツが動くよりも前に、また別の方向に向けてバスターを放つ。
 一撃目が直撃する寸前にそれを躱したライツは、
さっきと同じ様にコードの目に捉えられないほどのスピードで姿を消した。
が、その一瞬後に、再びライツの姿はコードの視界の中へと飛び込んできた。
「なにっ!?」
 あらかじめ放っておいたバスター。
それは移動した瞬間のライツを、タイミングピッタリに妨害してくれた。
 空中で一瞬だけ静止したライツに向かって、ブラスト・レーザーを装填したバスターを、がちゃりと照準する!

第八話

 連射力の続く限りの光の線を浴びせ掛ける。
かなりの弾速を誇るそれは、本当に一瞬だけ動きを止めたライツを-射止められなかった。
「っ!?」
 完全に直撃するコースだったブラスト・レーザーの光は、
そのままコンマ数秒前のライツの姿を突き抜けて、空へと消えていった。
 馬鹿な-コードが心の中でそう叫んだ瞬間、
腹部に強烈な衝撃が迸っていた。
 その威力に思わず体制を崩し、掌で腹部を庇ってしまう。
少し眩んだ瞳で正面を確認すると、ヒクヒクとした笑みを浮かべたライツが、
コードの腹部に拳を叩き込んだままの姿勢で立ち止まっていた。
 ライツ程のスピードを添加された拳は、そこらのエネルギ-弾等よりも、余程強力な兵器だ。
少し咽せを感じたコードの口の端から、つーっと真紅の鮮血が滑り落ちてくる。
「そんな・・っ」
「俺様のスピードを捉えただ?」
 ぼそりと呟いたライツの姿が、再び掻き消えた。
 そして、コードが声を上げる暇もなく、今度は真後ろからの回し蹴りを叩き込まれた。
「この史上最速の俺様のスピードをよぉっ!!」
 片手を軸にして体制を立て直そうにも、
地面に足が突くよりも前に後方に吹き飛ばされてしまう。
 後方の岩山まで吹き飛ばされ、コードは慌てて着壁すると同時に三角蹴りを使用し、空中へと跳び上がった。
 そして、たった今攻撃を受けた地点から自分の場所までのライツの移動の軌跡を予想し、
その軌道に向けてバスターを-。
「くっ!!」
 向ける暇さえなかった。
 片手を上げるモーションよりも先に、頭上から地面に蹴落とされ、
コードは受け身を取れないまま、勢いよく地面へと激突した。
「くっそぉぉっ!!」
 それでも落下しながら充填したバスターを、立ち上がらないまま空中へと解放するが、
その蒼い閃光が削り取っていったものは、ただ漠然と空気中に存在する水分のみだった。
「少しは遊んでやろうと思ったがもうやめだ」
 背後だ-。
 コードは全身をバネにして立ち上がったが、ライツはコードのバックを取っている。
 振り向いて撃とうにも、必ず避けられてしまう-。
 オルティーガは光剣を発生させる時間が無い。
「ガキのくせに舐めた事してくれやがって。この俺様に傷をつけて罪は手前の死で償ってもらうぜっ!!」
「くっ・・ならっ!!」
 無駄だと判っていながらも振り返り、バスターを放つ。外れた-
 次に来る衝撃はどこだ。
背後か。それとも懐か。はたまた頭上か。
 微かに感じる気配。懐だ-
「ならっ!!」
 真横へと跳ぶ。その瞬間にライツの姿が見えた。
一瞬早く、ライツの打撃を躱すことが出来たのだ。
「彼を侮辱したお前を絶対許さないっ!!」
 オルティーガを振り下ろすが、既にそこにライツの姿は無い。
 次に躱そうにも、ライツの気配が三百六十度に散ってしまって特定する事が出来ない。
神経を集中しようとすれば、その一瞬の隙に打撃を叩き込まれ、集中力を削がれてしまう。
 せめて一撃。フルチャージ・ショットかオルティーガを撃ち込むことが出来たのなら-
「くっ・・ぅぁぁぁ!」
 両掌でライツの打撃を受け止めても、そのままの勢いを殺さずに岩山へと押し付けられて、
コードは堪らずに苦痛の声を上げた。

第九話

 岩山に押し付けられたまま、連続的な蹴りを打ち込まれて、
コードの身体はどんどんと岩石へと埋まっていく。
 ライツはただ楽しそうな笑い声を上げながら、ひたすらにコードに蹴りを入れ続ける。
対するコードは、反撃しようにも、そんな隙ならライツに与えられずに、ただその連撃に耐える事しか出来なかった。
「どうだどうだどうだどうだっ!!」
 ライツの蹴りの勢いが増した。
「く、っそぉっ・・っ!!」
 一際威力の高い蹴りが、コードを更に岩石の内部へと押し込んだ。
 そこで一旦蹴りの雨が止んだ。
コードがゆっくりと顔を上げると、数歩の先で、ライツはなんとも嫌らしい笑みでこちらを見ていた。
忌々しくて仕方ない。だからこそ、痛ぶれば痛ぶる程に楽しい。そんな笑みだ。
 必死に岩石に埋まった身体を起こす。
だが、関節に上手く力が入らなくて、コードはそのままがくっと前のめりに膝を突いた。
 ポタポタと垂れてきた汗が地面に染みを作っていく。
時たま紅い雫が混じって、染みを薄いピンク色へと変えていった。
 ガクガクと関節が震える。
鈍痛が常に全身を駆け巡り、頭がほんの少しボンヤリしてきた。
 ライツの武装は無いに等しい。ただあるのは、その強固なる拳と脚だけだ。
アレだのスピードを添加して激突させても砕けない強固な拳と、
そのスピードを生み出している強力な脚。
 ライツの武器は云ってしまえばスピード自身だ。
たったそれだけの単純なものなのに、闘えばこれだけの強敵なのだと、コードは実感した。
 だが、こんな所で負けるわけには、いかない。
 きっと、この先で待っている彼-フラットはライツよりももっともっと強い筈だ。
ついこの前闘った時、自分は奴に一撃も入れること無く、敗退した。
 その差が今になってどれ程縮んだのかは判らないが、
それでも勝つには難しい相手だと云うことは間違いないだろう。
 ライツはガイア・リカバリーズの一員。云ってしまえばフラットの部下だ。
彼自身が忠誠を誓っているかは別としても、彼がフラットに従っていると云うことは、
つまりはライツ自身もフラットの方が上だと認知しているからに違いないはずだ。
 ライツに負けるわけには、いかない。
こんな中途半端なところで負ければ、自分を信じて送り出してくれた者達に申しわけが立たない。
何より、自分がここで負ければ、フラットを止める者がいなくなり、あと数日でこの地球は死の星へと変わる。
「っ・・」
 小さく呻きを残しながらも、コードはゆっくりと立ち上がった。
まだ大丈夫だ。立ち上がれるし、バスターとオルティーガも正常に作動する。
体力も、考えていたよりも多く残っている。まだ、大丈夫だ。
「エレクトリック・アート」
 ぼそりと小さく呟くと、彼の全身の色彩が黄へと変わった。
 同時に掌にスパークが宿り、バチバチと辺りにその存在感を示し始める。
「まだそんな小技出す余裕があんのか?」
 その声が耳に届くと共に、ライツの姿が視界からフェードした。
 しかしコードは、スパークの宿る掌を一瞬だけ頭上に掲げた後、思い切りそれを地面に叩き付けた。
「これでどうだっ!!」
 コードの周囲を囲むように、電気の鎖が一斉に地面を駆けた。
 数cm単位も見落とさない、細かな網目で構成されたエレクトリック・アート。
その分威力も分散してしまう為、それをライツが踏んだところで威力はほぼ、無い。
 しかし、コードは直ぐ様振り返ると、思い切り正面に向けてチャージ・ショットを解放した。

第十話

 蒼い閃光は何も無い空間で爆裂した。
 小さな驚愕の声と共に、閃光の中にライツの姿が現れた。
そして、その威力はそのまま彼を後方の岩山まで押し切り、その強固な岩の壁に、彼を叩き付けた。
 よしっ-心の中で小さく呟く。
 エレクトリック・アートの網は攻撃では無い。
辺り一面に結界を張り、ライツの動きを把握する為の、いわばレーダーの役割。
軌跡さえ見る事が出来れば、ライツの持つ超速のスピードでも、なんとか捉えることが出来る。
 消費エネルギーは膨大だ。次を放つことはそうそう出来ない。
それに、今のチャージ・ショットは瞬間的に放った為、どうしても一撃必殺性に欠けている。
あれでは、例え装甲の薄いライツとて、完全に撃ち抜くことは出来なかった筈だ。
 際疾いな-コードは再びグッと拳を握り締めた。
 際疾い闘いだ。このままエレクトリック・アートの手が再び通用するかも怪しいし、
何よりフラットとの対戦に備えてエネルギーを温存しておきたいところだ。
通用しなくて負けるのは不味い。だが、出し惜しみをして負けてしまうのはもっとマズイ。
 だが、もう負ける気は、しない。
《ロックマン・コード》
 不意に声が響く。
コードは、目線をそのままに、心の中で一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。
 視界の端っこにフヨフヨと浮遊する、紅色のサイバー・エルフ。
コードは、未だに減り込んだ岩から抜け出せないままのライツを見詰めたまま、少しだけハッとした。
 低い声だった。前に聴いた、蒼や水色のサイバー・エルフよりも更に。
恐らく、今まで聴いたことのある中で、最も年長のものだろう。威厳もある。
《コード。護ルトイウ行為ハ、簡単ナ様デ、実ハ最モ難シイモノダ》
 コードは無言で、少しだけ紅のエルフを見やった。
《ココカラ先ノ闘イデ、少シデモ迷イヲ持ッテイレバ、ソレハ必ズ命取リニナルダロウ》
「・・・迷い」
《オ前ハ迷ワズ、真ッ直グニ挑ム覚悟ハアルカ?》
 紅のエルフの問いに、コードは少しだけ沈黙した。
 だが、すぐに視線を完全にエルフへと向けると、小さく笑って、叫んだ。
「あるさ!」
 その答えを聴いた瞬間、紅のエルフが小さく頬笑んだような、そんな気がした。
《諦メルナ》
 エルフの呟きと共に、心無しが、全身が暖まるような錯覚が走った。
 とても心地よい光。とても優しくて、それでいて強い、誰かの心が全身に浸透するように、
コードの全身を包む鎧ごと、彼を小さな発光が包み込む。
 現れたのは漆黒の鎧。ブレード・アーマーよりもスッキリとした流線型の。
「手前・・!!」
 ぼごっと立ち上がったライツが叫んだ。
その声に反応するように、紅のエルフはフッとその姿を消した。
《ヴァルキリー・アーマー》
 最後にそんな声が聞こえた気がした。
 ライツが地面を蹴った。スピードは変わらない。
だが、コードは小さく首を巡らせると、その方向に向けてバスターを一発。
単発で直進する閃光弾は、そのまま移動し続けるライツの脇を掠め、消えていった。
「なにぃっ!?」
 見える-さっきまでエレクトリック・アートを使用してもやっとだったと云うのに、
今は完全に彼の移動の軌跡を読むことが出来る。
 更にスピードを上げたライツに向かって、コードは思い切り地面を蹴った。
 ドンッとコードの足元の地面が凹んだ。
「はぁぁぁ!!」
 ブレード・アーマーとは比べ物にならない速度で持っていかれる身体で、コードはそのままオルティーガを薙いだ。
 蒼い光の軌跡は、そのまま完全にライツの胴を突き抜けると、コードが動きを止めた地点で、ぴたっとその残像を消し去った。
 ゆっくりと地面に倒れ伏す、ライツの上半身と下半身。
コードは、オルティーガの柄をバックパックにそっと差し込むと、振り返り、ライツの上半身と目線を合わせた。
「畜っ生・・・ぉ」
「ライツ」
 心底悔しそうに表情を歪めながら、ライツはこっちを睨んでいた。コードは、無表情でそれを見返す。
「何故だ。手前の様な甘ちゃんのガキが何故この俺様をぉ・・」
 無言。
「騎士野郎にしろ手前にしろ、一体何だってんだ。何が情だ・・何が友だ・・。
 手前等の甘ちゃんごっこは所詮はただの幻想なんだよ・・!!」
「違うっ!!」
 反射的に、コードは叫びを叩き付けていた。
 ギリッと歯軋りをしながら、思い切りライツを睨み付けて。
「違う!そんなの違う!!幻想なんかじゃないっ!!俺はぁっ!!」
「そうやって今は吠えてるがいいぜ。どうせ手前はフラットにゃ敵わねぇ・・。
 アイツと対峙して、手前の愚かさを、ようやく、認識、するん、だな」
 音声にノイズが混じり始め、間もなく消えた。
ゆっくりと目の光が失われ、ライツの動きが完全に硬直する。
 口の端から鮮血が滑り落ちてくる。
歯軋りをし続けた所為だろう。しかし、今は自分以外に何かをぶつけられる相手はこの場にいない。
ライツは、自分が斬ったのだから-
「違う・・・」
 ようやく頭上へと移動した太陽に向かって顔を上げ、コードはぼそりと呟いた。
 目尻が少しだけ熱い。だが、もう泣いている余裕なんて、無い。
コードはそれを、ギリギリのところでなんとか抑えつけた。
「違う。違う。違うよ・・・。そうだよね?みんな」
 空へ問いかけても、答えてくれる者なんて誰一人居なかった。


次回予告

遂に目的地へと到達した僕。
目指すは総大将。フラットだ。
だけど、彼は僕をそんなに簡単に通してくれる気は無いらしかった。
アンダンテ。またお前と闘う事になるなんて・・!
次回 ロックマンコードⅠ 第伍章~対峙~
「闘いはまだ・・」