はぁはぁと荒い息を隠しきれない彼の表情は、いつもは決して見せない苦痛の色。
瞳は心無しか潤んでいて、その右手はしきりに胸の辺りをぎりっと引っ掴む。
今まで彼が見せた中で、最も苦しそうな顔だった。
彼女はそんな彼の顔を見て、悟った。
このままじゃ、危ない――
「輝、輝しっかりして・・!」
「ヒカル」
ヒカル・チェレスタの声に、ロックマン・コードは曇った声で答える。
本当なら明るく、頬笑んで答えたかったが、それすらもう出来なかった。
必死で手を握ってくるヒカル。輝は嬉しかった。
ぐにゃりと視界が歪み始めて、もう完全に顔を確認することも出来ないけれど。
その手から伝わってくる温もりだけは、薄くなり始めた感覚の中でもしっかりと根づいているのが判った。
こんな状況になって、改めて彼女の大切さを知った。いつも以上に。
もう、遅いかもしれないけれど。
「ヒカル、ごめん。僕、もう・・駄目みたいだ」
ポツリ。いつもは吐かなかった弱気が輝の口をついて出た。
いつも弱音を吐かなかった彼の一言に、ヒカルは思わず握った掌に力を込める。
どうして、彼がこんな目にあわなければならないのだろう。
いつだってみんなの為に闘った彼が。いつも優しく頬笑んでいた彼が。
こんなに苦しそうに顔を歪めて。おさまらない呼吸を必死で紡いで。
「輝!そんな、簡単に諦めちゃ駄目だよぉ!」
もしこのまま彼を奪うなら、神であろうと許さない――
「まだ大丈夫だってば。ほら、これを使えば」
ヒカルが慌ててポシェットから出した物を見て、輝はふるふると首を振った。
それは余りにも危険過ぎた。確かに効果はあるかもしれないが今の輝にそれを使う勇気はなかった。
理論的には判っていた。それを使えば、助かる見込みはあると。
それでも、輝にはそれが出来なかった。ちゃんとそれを受け入れられるかどうか、判らなかったからだ。
もしそれを失敗してしまったら、力尽きるのを早めるだけかもしれない。
「・・・僕には、出来ないよ、そんな」
「輝、なにをそんなに弱気になっているの?大丈夫だよ、輝なら!」
「それだけは、それだけは、駄目なんだ。それだけは・・」
こんな輝を、ヒカルは今まで知らなかった。彼がここまで拒否するところを見たのは、初めてだった。
輝の気持ちは、ヒカルには充分判っていた。確かに恐いだろう。
しかし、それをしなければ今の状況を打開出来ないとなれば、
相手がいかに輝とて、ヒカルは容赦しない。出来なかった。
「弱虫!輝がそんなに弱虫だなんて知らなかったよ!」
「ヒカル・・僕は」
「輝はまだ闘うんじゃないの?辛いけど闘うって、まだみんなの為に闘うって云ってたじゃない!」
「ヒカル・・」
「みんなを護るのは輝じゃないと駄目なんだよ。海君や、響さんや、勇気君がいても、輝がいないと意味がないんだよ」
うっすらとヒカルの翠の瞳が潤い始めた。
輝は、グッと拳を握り締めた。
感覚が薄れ始めたせいで、力が入っていないかもしれないけれど、普段なら掌が真っ赤に染まるほど。
「私だって・・・」
目線を逸らしたヒカル。輝は、いつまでも怖がっている自分を酷く恥じた。
そして同時に決意した。決行しよう。どうなろうとも。
「だから輝、お願い」
「・・・判った。やるよ、僕は」
そう云って、輝はヒカルが差し出したものを静かに受け取った。
ヒカルに支えられ、上半身を起こして、それを凝視する。
そして・・・。
「判った。僕は・・・・」
「飲むよ、粉薬!!」
そう高らかに叫び、輝はヒカルが渡してくれたコップの中の水を口に含むと、
思い切り破った袋の中身――粉薬――を口の中へ放り込んだのだった。
正式名称ロックマン・コード 通称松浦 輝
現在体温38.9度 診断:重度の風邪
処方された薬を毎日食後に服用すれば問題なし
補足:ロックマン・コードの最大の弱点は粉薬が飲めないこと
結局飲みきれなかった輝は、水に溶かして砂糖をタップリ入れたものをヒカルに作ってもらい、再度挑戦する羽目になったとさ。
ちゃんちゃん♪
瞳は心無しか潤んでいて、その右手はしきりに胸の辺りをぎりっと引っ掴む。
今まで彼が見せた中で、最も苦しそうな顔だった。
彼女はそんな彼の顔を見て、悟った。
このままじゃ、危ない――
「輝、輝しっかりして・・!」
「ヒカル」
ヒカル・チェレスタの声に、ロックマン・コードは曇った声で答える。
本当なら明るく、頬笑んで答えたかったが、それすらもう出来なかった。
必死で手を握ってくるヒカル。輝は嬉しかった。
ぐにゃりと視界が歪み始めて、もう完全に顔を確認することも出来ないけれど。
その手から伝わってくる温もりだけは、薄くなり始めた感覚の中でもしっかりと根づいているのが判った。
こんな状況になって、改めて彼女の大切さを知った。いつも以上に。
もう、遅いかもしれないけれど。
「ヒカル、ごめん。僕、もう・・駄目みたいだ」
ポツリ。いつもは吐かなかった弱気が輝の口をついて出た。
いつも弱音を吐かなかった彼の一言に、ヒカルは思わず握った掌に力を込める。
どうして、彼がこんな目にあわなければならないのだろう。
いつだってみんなの為に闘った彼が。いつも優しく頬笑んでいた彼が。
こんなに苦しそうに顔を歪めて。おさまらない呼吸を必死で紡いで。
「輝!そんな、簡単に諦めちゃ駄目だよぉ!」
もしこのまま彼を奪うなら、神であろうと許さない――
「まだ大丈夫だってば。ほら、これを使えば」
ヒカルが慌ててポシェットから出した物を見て、輝はふるふると首を振った。
それは余りにも危険過ぎた。確かに効果はあるかもしれないが今の輝にそれを使う勇気はなかった。
理論的には判っていた。それを使えば、助かる見込みはあると。
それでも、輝にはそれが出来なかった。ちゃんとそれを受け入れられるかどうか、判らなかったからだ。
もしそれを失敗してしまったら、力尽きるのを早めるだけかもしれない。
「・・・僕には、出来ないよ、そんな」
「輝、なにをそんなに弱気になっているの?大丈夫だよ、輝なら!」
「それだけは、それだけは、駄目なんだ。それだけは・・」
こんな輝を、ヒカルは今まで知らなかった。彼がここまで拒否するところを見たのは、初めてだった。
輝の気持ちは、ヒカルには充分判っていた。確かに恐いだろう。
しかし、それをしなければ今の状況を打開出来ないとなれば、
相手がいかに輝とて、ヒカルは容赦しない。出来なかった。
「弱虫!輝がそんなに弱虫だなんて知らなかったよ!」
「ヒカル・・僕は」
「輝はまだ闘うんじゃないの?辛いけど闘うって、まだみんなの為に闘うって云ってたじゃない!」
「ヒカル・・」
「みんなを護るのは輝じゃないと駄目なんだよ。海君や、響さんや、勇気君がいても、輝がいないと意味がないんだよ」
うっすらとヒカルの翠の瞳が潤い始めた。
輝は、グッと拳を握り締めた。
感覚が薄れ始めたせいで、力が入っていないかもしれないけれど、普段なら掌が真っ赤に染まるほど。
「私だって・・・」
目線を逸らしたヒカル。輝は、いつまでも怖がっている自分を酷く恥じた。
そして同時に決意した。決行しよう。どうなろうとも。
「だから輝、お願い」
「・・・判った。やるよ、僕は」
そう云って、輝はヒカルが差し出したものを静かに受け取った。
ヒカルに支えられ、上半身を起こして、それを凝視する。
そして・・・。
「判った。僕は・・・・」
「飲むよ、粉薬!!」
そう高らかに叫び、輝はヒカルが渡してくれたコップの中の水を口に含むと、
思い切り破った袋の中身――粉薬――を口の中へ放り込んだのだった。
正式名称ロックマン・コード 通称松浦 輝
現在体温38.9度 診断:重度の風邪
処方された薬を毎日食後に服用すれば問題なし
補足:ロックマン・コードの最大の弱点は粉薬が飲めないこと
結局飲みきれなかった輝は、水に溶かして砂糖をタップリ入れたものをヒカルに作ってもらい、再度挑戦する羽目になったとさ。
ちゃんちゃん♪