ロクノベ小説保管庫 最終章 表か裏か!?

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六十一話 『相対』
暗い道だった。
まわりをわずかに照らしているのは壁面を走り回る無数の赤いライン。
その明るさは不定でリズムは一定。
壁を血が巡っているかのようでなんとも不気味だった。
道はとても静かだった。そう遠くない所で激しい戦闘が繰り広げられているにも
かかわらず自分の息づかいが…足音が…聞こえていた。
自分の通ってきた道はどんな道になるのだろう?
地獄への道か、天国への道か、それともまったく別の道か。
彼、ロック・ヴォルナットには予想できなかった。
なんにせよ、答えはこの先で明らかになるだろう。
この扉の先で。

ロックはドアの境に手を掛け、力をこめた。
重くて大きな扉がゆっくりと左右に開いていく、そこから漏れる光は明るく白い、
穏やかな光だった。
完全に扉が開ききるとようやくロックはその部屋へと足を踏み入れた。
そこは真っ白な部屋。
第一印象は…何も感じない事だった。
当然さっきまでの道のりで感じてきた嫌な気配や重苦しい雰囲気は
かけらも感じられない。
不思議な感覚だった。
目の前に一人の男が立っているというのに、その気配すら感じられないのは
ある意味異常なことだったのだろうが。

男はロックに向き直り、言った。
「よく来た、待ちかねたぞ」
男は白を基調に紺色の紋様で縁取ったローブに似た服を着て
腰には幅の広めな剣を一振り帯刀していた。
その柄尻にはくすみの無い綺麗な大きな紅玉が一つくっついている。
「私がイルダーナだ」
深い紺色の髪に漆黒の瞳。
端正ではあるが幼さは無く厳しい顔立ち。
そして大柄ではないものの頑強そうな体。
「青い少年よ、君の名は?」
その物腰、言葉には威厳、気品が溢れ、彼が頭である事が説明を
受けずとも納得できる。
それがロックの相手、イルダーナだ。
ロックは相手の強大さを理解しつつも臆せずに言った。
「ロック・ヴォルナット」


六十二話 『表と裏』
イルダーナはよろしいとでも言うように頷くと腰の剣に手をかけるでもなく
ロックに質問を投げかけた。
「君は何故ここへ来た?」
「…そんなこと、あなた達がやろうとしている事を止めるために決まってる!」
「では何故止める?」
「僕達が生きていくためだ」
「なるほど…やはりそこが君と私との考えの違いなのか…?
ロック、今一度問うが君は自分たちの存在に疑問を持った事が無いのだな?」
「??よくわからない…けど、せっかくマスターが僕らを生み出してくれたんだ。
僕は精一杯生きたい、皆と一緒に。それだけだよ」

一瞬辺りの空気が揺らめいた気がした。
「フ…生み出された者か…実に滑稽だ。我ら含め今地球にはびこる人間たちや君達は
造りだされた者だ、主の為にな。自然の中で現れたものではない、主がいてこそ
存在価値がある。それを勘違いして生きようとするなどおこがましいにも程が
あるとは思わないのか?」
「何だって!?」
明らかにむっとした様子で声をあげるロック。
しかしそれをよそにイルダーナは腰についていた小さな袋から1枚のコインを
取りだし、答える。
「まぁ君が異を唱えるのは無理も無い事かも知れん…
これを見ろ、このコインには一つの面に太陽の絵、
もう一つの面に月の絵が描かれている。各面で明確な区別はつくが
どちらが表でどちらが裏なのかは知らん。
太陽が表で月が裏だということもその逆も言えんのだからな。
何が正しくて何が誤りなのかなど簡単にはわからんさ」
ここまで言ってイルダーナは腰の刀に左手を軽くのせる。
右手はコインを持ったままだ。
「世界は表と裏で全てが成り立っている。一見どちらでもなさそうな事でも
いくつもの裏と表の結果の集合に過ぎん。0と1という表と裏だけの
コンピューターの世界で3択以上のクイズが出せるのと同じように。」

イルダーナが右手のコインを強く弾く。
コインはまっすぐに、素早く回転しながら高い天井へ…
「だから…確かめてみようではないか。表なのか裏なのか…」
コインは最高点へ…そして…落下…そして…

キィン………………!


六十三話 『弾かれたコイン』
「ぐぅ…」
ロックは胸を刺された…
…ような気がした。
目の前の男から強烈な殺気が巻き起こっていた。
しかし以前感じたモトとか言う男のようなやたらめったらな野獣のような殺気ではない。
触れるものを皆傷つけるようなあの殺気も恐ろしいものだったが
この殺気はまた違う恐ろしさだ。
いや、殺気という言葉自体適さないかもしれない。
目の前の敵と闘う為に、そのためだけに研ぎ澄まし、敵に刃を自覚させ、畏怖させる。
威圧感とも違う威厳とも全然違う、そうだ…
『闘気』
ロックは自分だけにその闘気全てが向かっているのを感じ取り。
胸を刃で刺されたような錯覚を起こしたのだ。
実際イルダーナは柄に手をかけてはいるがまだ抜刀すらしていない。
しかしこの気迫に飲み込まれるようでは勝負せずとも結果は見える。
神経を集中しなおし周りの闘気を跳ね除け…
ロックはイルダーナを真正面から見据える。

その様子を確認したイルダーナが驚きと楽しさを交えた顔を僅かに見せた。
「行くぞ…」
トーンを落とした静かで重い声が響き渡ると…
二人の瞳孔が開いた。

柄に手をかけたまま駆け出すイルダーナ。
左手をイルダーナに向けるロック。
先手はロック、バスターが火を噴き金色の弾がイルダーナめがけて直進する。
それをイルダーナが剣を抜き銀色の刀身で弾き飛ばす、
同時に振り上げられた剣が唸りを上げ振り下ろされる!
派手に砕け散る床、もはや刃物の傷痕ではない。
しかしそれに驚嘆するでもなく刃が来る直前一蹴りで身を引いたロックが
体制を立て直しつつバスターを連射する。
ギィンと鈍い音を立ててイルダーナの剣とぶつかり合うエネルギー。
次々と襲いかかる後続を次々ねじ伏せ叩き飛ばし弾くイルダーナ。
一瞬連射弾に僅かなムラが生じた。
再び地を蹴るイルダーナ。そこから先の弾は全て流す。
直進するはずの弾が曲がる。
イルダーナへは当たらない。
あっという間にロックの手前数メートルの所まで来たイルダーナが体をねじり、
剣を横から放つ。
瞬間的にロックは飛び上がる。
銀の扇がコンマ数秒前のロックの体を両断する。
ロックが飛び上がった時に追撃を防ぐために上空から撒いた弾幕は
イルダーナの柄と剣の境で全て弾かれた。
無事追撃を免れたロックは再び距離をとり左手を前に突き出す。


六十四話 『その瞳に曇り無し』
(なんて奴だ…強化されたバスターを全て落とした!)
(序の口か…まだまだ力を隠しているな…面白い!)

ダン!と地を蹴る音が響きイルダーナの白い服がなびく。
出だしと同じような形にはなったがロックは先手を取れなかった。
距離が近かったからではない。
(早い!)のだ。
一刀目は袈裟切り横に飛んでかわすロックを追い、体をひねって再度袈裟。
しかし回避と同時に放たれた連射弾が剣の全くおなじ箇所を強打し動きを止める。
「もらったぁ!」
ロックが彼の頭へと狙いを変える。
びりびりと手に残る感触を感じながらイルダーナは…

ズン!

鈍い音が響きロックの体が飛んでいく。
足を下ろすイルダーナ。
「武器は剣だけではないと言う事だな…しかしよく反応できたものだな。
身震いするほどの反射神経だ」
瞬時に受身を取り、立ち上がるロック。
かなり吹っ飛ばされたが、彼の蹴りに気付き
一瞬早く後ろに飛んだことと強固なアーマーのお陰でダメージは軽微だ。
ぴょんぴょんと跳んで肩を回し、首を回す。
よし、と頷くとロックはイルダーナへと顔を向ける。

その視線を真正面から受け、イルダーナは言った。
「なるほど、いい目だ。モトが気にかける訳か」
ロックも自分の正直な感想を返す。
「君の目も…とても澄んでいる…」
目を閉じ微笑を浮かべるイルダーナ。
「君達は何者なんだ?」
「何?」
「どうして…?君のような人がそんな考えを持つんだ!?」
イルダーナは目を閉じたまま何も言わない…


六十五話 『戯れの昔話』
静寂があたりを支配する。二人とも微動だにしない。
しかしその静寂はイルダーナが破った。
「…私達は君達と違う。今この地球全体に住むデコイと呼ばれる者達は過去の人間に
近い存在だったな?ロック…君はその者達とは多少異なるようだが、
私たちほど差はあるまい。
昔…過去の人間たちがまだたくさん生きていた時代ではレプリロイド…
意思を持つ機械がいた。
意思による行動は実に多様、プログラムでは為し得ない『可能性』を引き出し、
主たちの、自分たちの暮らしを豊かにしていった。
そして…人間たちはその可能性の力に驚きその力を更に高めようとした」
ここまで言って一息つくイルダーナ。
そして閉じていた目を開き、続ける。
「力を高める方法…それは生物における進化という可能性をその機械に
組み入れる事。やがて旧世紀の人間の科学力、技術力は成長する機械を
作り上げる。頭脳や神経系はもちろん身体的な力も鍛えれば鍛えるほど強くなる。
可能性の力は凄まじく強大だったよ。だが起こる問題もそれに比例して
大きいものだった」
僅かな間にロックが声を漏らす。
「可能性と可能性のぶつかり合い…」
「その通り。存在意義を忘れているのか…その存在意義から抜け出そうと
しているのか…自分の力、特に武力をもって創造主に牙むくものが現れた。
そして彼らを迎え撃つために、人も機械も問わず平穏を願うものを守るために
造られた者達の一人が…私さ」
イルダーナはここで語りを止め静かに息を吐いた。

「…理解できない…今の話が本当なら…君の行動は矛盾だらけだ!」
ロックが声をのどから絞り出す。
「理解してもらおうとは思わん。とりあえず私が何者かは言った。
続きの話は戦いの中で聞かせてやる、
君が生きていれば私の話を聞くことが出来よう」
チャキ…とイルダーナが柄を握り締めその手に力をこめ直す。
「くっ…」
なおもためらうロック。
「ロック…君は私と闘うことしか選べん。でなければ君が死に、カラップス・アイが
世界を終わりへと導くだけだ」


六十六話 『続く死闘』
イルダーナの剣がゆっくり動き地に触れる。
そして剣が地にめり込み巨大な衝撃波がロックへ向かう!
横っ飛びで回避したロックが反射的にバスターをイルダーナへと打ち込んだが
彼の姿はもうそこに無かった。
ヒュッ!
音がした瞬間もうすでにロックは地面に手をつきそれを思いっきり突っぱねて
剣が通る道から退いていた。
「まだ終わらん!」
剣が鉛直、袈裟、逆袈裟の方向からたった今体制を立て直し終えたロックめがけて
ほぼ同時に襲い掛かる。
これを辛くも後ろに飛んで交わすロック。
刹那の差で爆裂する床。
火山のように吹き上がる石つぶてがロックの視界を奪う。
(まずい!)
と思ったときにはもうその中できらめく銀の牙が見えた。
ビュゥッ!
今度は三つの突きが逆三角形の配置をなしてロックへ向かう。
「このっ!」
ロックは二つをバスターの連射でそらし
残りの一つは寸での所で首をひねって交わした。
そして転がるように右へ回り込み立ち込める煙幕の中へとバスターをばら撒く。
響く金属音。
(効いてない…!)

「流石だな」
声がすると同時に晴れた煙の中から予想通り無傷のイルダーナが現れた。
「今度はこっちからだ!」
解っている事にロックはいちいち反応しない。
すぐにバスターの引き金を引く。
今までと全く同じように向かってくる光弾を全て叩き落すイルダーナ。
「無駄だ。それでは私は倒せんよ」
「試してみないと解らない…」
ロックがバスターを連射し続けながらイルダーナの周りを円を描くように駆け巡る。
すると自然にバスターの攻撃は多角性に富み、単調さを解消される。
しかしそれでもイルダーナは全ての弾丸を落とし続ける。
いや、落とす必要があった。なぜならロックのバスターの威力がかなり
強力だったからだ。それはイルダーナの剛剣をそらす事でも証明済みである。
まともに喰らってしまえば不利な状況になるのは疑いようがない。
早く、そして規則正しいリズムで響く剣と銃の協奏曲。

六十七話 『正体不明』
その激しい攻防に変化がおきる。
規則正しかったリズムが崩れてきたのだ。
「ぬぅ…!」
気付いた時にはもう遅かった。
剣が僅かに無駄な動きをしてしまっていた。
ロックはそれを見逃さない。
淀みの無い動きで特殊武器『レーザーバンカー』を構え、引き金を引く!
ほんの僅かな時間だけ部屋がまばゆい光に包まれ

…ドォンッ!

ロックの体が大きく揺れ、光は放たれる。
凄まじい弾速と威力こそがレーザーバンカーの武器。
発射してから瞬きよりも短い時間でイルダーナのいる地点で爆発が起こった。
「よし!」
確かな手ごたえ。
爆発による煙が晴れるとイルダーナが壁に強く叩きつけられている姿が見えた。
ぎりぎりでガードが間に合ったらしく大きな損傷は見られないがこの状態ではもはや
勝負は見えている。

「…やはり、剣術と体術だけで勝てるような相手ではなかったか」
「?…勝負はついた。カラップス・アイをとめてほしい。
それでも闘おうとするなら…君の両手を奪う…!」
「ほぅ…面白い…だが無理だな。嘘だと思うのなら試してみるといい」
イルダーナが身をよじる。ロックの意思に従う気配は見えない。
ロックは…顔を苦しそうにゆがませると再度レーザーバンカーの引き金を引く。
再び大きな音がした時、イルダーナの手はまだこの世に存在していた。
そしてロックの頬を血がつたう。
「何だって…?」
間違いない、自分の頬のキズは自分が撃ったレーザーバンカーによってつけられた
ものだった。
(これは一体?)
思考に気を取られたロックがハッとなって顔を上げるとイルダーナは
剣を拾い上げ、少し離れたところに立ち尽くしていた。


六十八話 『会話』
「ロック…我々もお前たちも自然の中で生まれて来たわけではない。
所詮異物である我等は滅ぶべきではないのか?」

「何でそんなに哀しい事を…!君を作った人はそんな事を望んでいたはずが無い!」

「…君の言う事はわかる。君達と同じようにただ静かに暮らしたいものは
過去にも大勢いた。そして、我主もその一人。しかしそれは彼ら人間が生きている
世界で達成されるべきであって、我々にその権利があるかどうかは疑問だ。我等は主の
願いをかなえるために生まれてきたのだ。そして願いは主が生きている間に
かなえられるからこそ意味がある。それ以上の事をする必要は無い」

「全ては主の為に…?」

「そうだ…主がいない今では何をしようとも私たちの行動は意味を
伴わないのではないか?」

「イルダーナ…君は何でもかんでも割り切りすぎだよ。
人の望みや意思って言うのは人の命が尽きたとしても残り誰かに受け継がれていく
ものだと僕は思う。君の主が君に生きつづけるのを望んでいたのだったら
君は生きていくべきだ」

「その行動は無意味だ。死者は未来に干渉する事は出来ない。
我々が主の為に生きていられるのはやはり主が生きている間だけだ。
主が死ねば私がする事はもう無い、消えるだけだ。」

「そんな…君は自分を否定しすぎだ!君はまだ生きているのに!」

「生きている?そうはもう思えん…私は思考という概念を持ち自らの意思で
動く事が出来る。
しかし…それだけだ。生きているとは言えん。
あえて言うなら…死んでいない…だな」

「・・・・・・」

「ロック…私は正直お前たちが憎い。
私は主を守るという自分の使命を全うした。主が死に、全てが終わった時は
私も死ぬと決めていた。
しかしお前達はなんだ?日々を平和に暮らしたいだけだと?
自分のなすことも知らず、見つけられず、さ迷うだけの者など私は許せん!!」


六十九話 『Heat up!』
ロックは初めてこの目の前の男が感情を剥き出しにしたのを見た。
憎悪、怒り、悲しみ…このカラップス・アイがエネルギーにする負の感情が
彼からロックにぶつけられた。
しかしその感情の中で最も際立っていたのは…
『虚無』
何もかもが彼の中でどうでも良くなっている。
自分の存在も今の人間やロック達の存在も、戦いも、未来も…何もかも…
裏も表も無いように、全てを消し去りたいと願っている。
ロックはそんな気がした。

「イルダーナ…今君の言った事…それが生きているってことだよ…
今の人間はもう君のいう主の手を放れているんだ。いや、放してもらったの
かもしれないけど。
どちらにしても君の言っている存在意義のために生まれてきたわけじゃないよ。
きっと今までの人間たちや動物たちがそうだったように存在意義を見つけようと
するために歩む事が存在意義になるんだ。」
「理解できん…それが今の世界の正しいことであるというのなら…
身をもって証明して見せろ、ロック・ヴォルナット!」

イルダーナが剣を両手で持ち振りかぶると、剣がうっすらと緑色の
オーラのようなものに包まれているのが解った。
「ハァッ!」
勢いよく振り下ろされた剣から三日月状のオーラがはじき出され
豪快に地面を砕きながらロックへと直進する。
それなりに距離があったために無傷でロックは交わすことが出来たが。
先ほどの衝撃波とは比べ物にならない速度だった。
威力もまた…

ッゴォォォォォンン!!

凄まじい。恐らく壁に大穴があいているだろう事が振り返らずともわかる。
しかしそんな事を考えている隙にはもうイルダーナは目前にまで迫ってきていた。
すかさずバスターをイルダーナに向けて撃つ。
が、やはり叩き落される。
しかしロックは二手目を打った。
ロックの右手から放たれた光の咆哮がイルダーナの足元を打ち砕き
瓦礫を大きく巻き上げる。
「小細工を!」
イルダーナは自らのエネルギーを伝わらせた剣を地面に思いっきり突き立てる。
すると更に強い衝撃波がイルダーナを中心に広がりそこら中を舞っていた瓦礫は
一瞬にして退いた。
だが今度はイルダーナの目前に一発の光弾が迫っている。
(とらえた!)
(避け切れん、が…)
剣の柄から離れている右手がロックのバスターから放たれた光球を受け止める。
「ぬぅん!」
バシィィン!
彼の手の中で燻っていた光球がはじけ飛ぶ。
「バスターを片手で握りつぶすなんて…」
「呆けるのにはまだ早い、お前の力はまだこんなものではないだろう!?」


七十話 『力の一端』
イルダーナが地面に突き刺さっている剣をつかむ。
「させるかぁっ!」
イルダーナが剣を引き抜くより早くロックはバスターを撃った。
だが、イルダーナは剣を引き抜く必要が無かった。
手はあくまで支点。
イルダーナの全力の蹴りが剣の背にヒットする。
蹴りの威力は剣に伝わり、そこから生まれた巨大な獣がバスターを喰らって
なおもロックに襲い掛かる!
それをかろうじて脱出した先でロックの目線上方に緑色の三日月が見えていた。
(馬鹿な!イルダーナは…まださっきの場所にいたはずじゃ…)
技が来た方向がイルダーナのいた方ではなかった。
三日月は地面に突き刺さり。
容赦なく地面もろともロックを吹っ飛ばす。
壁から地面、二度の衝撃がロックの体へダメージを与える。

「う…」
よろめきながら立ち上がる。
(さっきもそうだった。ちゃんと狙ったはずのレーザーバンカーが僕に
跳ね返ってきた。何かがおかしい…イルダーナにはまだ隠された能力がある…!)
「解せんという顔つきだな…もう一度、今度はわかるように見せてやるか…」
彼は今の立ち位置から一歩も動かずに剣を真横に振った。
不意に後ろから何かの気配を感じるロック。
すかさずかがむ。
刹那の差で銀色の刃が彼の頭を掠めていった。
目線が激しく動く中でかろうじて捉えたものは自分の首を狙ってきた正体不明の刃物と
刀身の無いイルダーナの剣。
「これが私の力だ」
イルダーナがゆっくり剣を構え直していく。
頭を掠めていった刃が何かに吸い込まれるように消え、
消えた刀身がある面を境にして生まれていく。
「どうだ、理解できたか?」
ロックがごくりとつばを飲んだ。


七十一話 『力の全貌』
もしロックが考えている事が事実ならば今までの奇怪な現象のつじつまが全て合う。
間違いない、イルダーナの能力とは空間と空間を自在につなぐ能力だ。
まずレーザーバンカーによる攻撃は跳ね返されたのではない。
なぜなら弾は確かにまっすぐに飛んでいたからだ。
途中で進行方向が変わるというより進行方向が変えられたと言うほうが正しい。
イルダーナへと向かっていた弾は捻じ曲げられてつなげられた空間によって
ロックへと向かう事になったのである。
突然現れた衝撃波もそうだ。

「その顔だとわかっているようだな…」
ロックの顔からはいつの間にか汗が噴出している。
「私の能力が本来どのような使われ方をするのかも」
そう、それ以外にロックが気付いたことがあった。
「私は…このカラップス・アイの威力を最大まで引き出す事が出来る」
彼がこのカラップス・アイにいる理由。
本来必ず誰か一人はいるはずだったのだ。
カラップス・アイと深いかかわりをもつ人物が。
「カラップス・アイはある一人の科学者が世界の破滅を願って建造された。
科学者の野望は心ある者達に止められたが…
カラップス・アイはなぜか破壊されなかった。
やがて対隕石用の防衛兵器として転用され、
その際私はカラップス・アイを最も有効に使える者として
管理を任された」
ロックの顔から流れ出る汗は止まらない。
「本当に全てを滅ぼすつもりなのか…」
空間をつなぐ能力…これさえあればもしカラップス・アイのレーザーを宇宙へ向けて
はなったとしても、そんな事とは無関係に地球の好きなところへ照射できる。
「止めたければ…戦う事だ」


七十二話 『力の上へ』
イルダーナがまっすぐ剣を振り下ろす。
ヒュッ
空気を切り裂く音が聞こえると同時にその場から一蹴りで移るロック。
縦に振ったはずの剣が横に薙ぐ形になって現れていた。
やはり自由自在らしい。

ズゴゴゴゴッ!

間髪いれずに放たれた衝撃波が地を走る!
それを追いかけるように走り出すイルダーナ。
ロックも飛び退いたスピードを殺さずそのまま走ってバスターで応戦する。
が、弾が一箇所に集中しすぎたのか今度は受けられもせず、ただ避けられた。
あっという間に詰め寄られる。
イルダーナの体全体がしなるようにして銀色の刀身がロックに向かって
打ち下ろされる!
ロックがそれをのけぞるようにしてかわし、剣は地面に当たる前に軌道を変え、
横薙ぎとなって再びロックを襲う。
ロックはそれをギリギリまでしゃがんでやり過ごし、
剣が自分の頭上を通る瞬間にしたからバスターで剣を突き上げるようにして撃つ。
バスターの弾が全て剣に命中し、イルダーナの胴ががら空きになる。
ロックはためらわずレーザーバンカーの引き金を引いた、
そしてそれと同時にもうすでにその場を離れていた。
イルダーナはロックが構えた時には足に力をこめていた。
レーザーバンカーの弾が彼のわき腹をかすめ、壁に激突し、盛大に散った。

「やはり、君は恐ろしい…」
ロックはイルダーナの力を試した。
もし本当に自由自在にイルダーナが空間と空間をつなげられるのならば
はっきり言ってロックに勝ち目はない。
しかしイルダーナの能力には自在でない所があった。
それは、時間。
どうやらイルダーナが空間をつなぐには若干…恐らく数秒の時間がかかるらしい。
でなければ今のレーザーバンカーの攻撃はイルダーナがその場を動かなくても当たらず
間違いなくロックが発砲した場所へと打ち込まれていたはずである。
「しかしそれでもまだ私の能力は死なん…!」


七十三話 『力を引き出せ!』
イルダーナの剣が地面を強く打ちつけ、瓦礫の火山が再び噴火する。
凄まじい勢いで吐き出される瓦礫が空間に全て吸い込まれ、リアルタイムに
ロックめがけて放射状にばら撒かれる。
「おおおおおッッッッッ!!」

ドドドンッ!!!

衝撃波が今度は三つ。
瓦礫を撒き散らしながら、爆進する!
「そんな大ぶりな技に当たってたまるかっ!」
上手く間に入ってやり過ごす。
しかしその間を埋めるように時間差で衝撃波が放たれている。
すかさずレーザーバンカーを真正面の衝撃波に向かってぶち当てる。
途端に強烈な爆風が巻き起こるが直撃は免れた。

…ガガガガ!!

「しまった!」
やり過ごした衝撃波の一つが向きを変え横薙ぎの形で後ろから突進してくる。
ダン!と地を蹴って空中に飛ぶロック。
(まずいぞ!)
危惧していた通りイルダーナはロックの目前に迫っていた。
彼の剣はもう振り下ろされている。
「終わりだ!」
「負っけるかぁ!!」

ズドンッッ!!

レーザーバンカーが強烈な火を噴く。
発射の強烈な反動はロックが受ける。
飛行機のジェット噴射の要領でロックの体がその場から飛び出す。
イルダーナが両断した空間にもうロックはいなかった。
ロックの体は地面方向に投げ出され強烈な衝撃を受ける…だが今はチャンスなのだ。
イルダーナの体は宙に浮いている。今の一連の行動はまだ1秒も経っていない。
空間による防御は不可能!

衝撃の中でロックの感性が研ぎ澄まされる。
コンマ1秒の時間がとても長く感じられ、地に叩きつけられる強い衝撃の中でも
驚くほど冷静に、正確にレーザーバンカーの照準を
イルダーナへ向けて合わせる事が出来た。
そして…引き金を引く!



七十四話 『終幕へ』
ズドンッッ!!

今までと変わらぬ乾いた短い爆発音が響き、イルダーナの白い姿が
爆発の中からものすごいスピードで飛び出していくのが見えた。
「やった…!」
正真正銘のクリーンヒット。
レーザーバンカーの出力は最大ではなかったがそれでも今までのロックの武器の中で
最高の威力を誇っている。
もしこれで立ち上がるようならば…
「そんな…」
彼は化け物だ。

「ロック…私をここまで追い詰めたのは君が始めてだ。
そして、君は私の最大の技を受ける最初の人物でもあるな」
そう言うとイルダーナから離れた場所にあった剣が突然地面に吸い込まれ、
彼の手の中に落ちる。
ゆったりとした動作で剣を構える。
ロックはその行動を見ている事しか出来なかった。
例え今レーザーバンカーを放ったとしても無駄だ。
もう既にイルダーナの周りの空間は捻じ曲げられているに違いない。
イルダーナのエネルギーであろう緑色のオーラが剣に収束されていく。
そして僅かに光っている柄尻の紅玉が美しくもあり不気味でもあった。
時間がたつにつれイルダーナの剣に注がれているオーラの大きさは
目に見えて大きくなっていった。
今はもう天井に届くかという高さだ。
「最後の勝負だ」


七十五話 『勝負』
突然突風が吹き荒れる。
「今私は一つの空間に対して6つの空間をつないだ。
私がこの剣を振り下ろせばこの一振りが六つの残撃となって君を襲う。
逃げ場は、ない。
この技を破りたければ君の右腕の武器で私の攻撃が6つの斬撃へと移り変わる前に
6つの穴のどれかひとつの場所を見極め、撃て。
その結果私の一振りのほうが威力が高ければ、もしくは君が穴を見極められなければ、
君は死ぬ」
イルダーナの顔からは多量の汗と血が流れている。
「最後の勝負…か…解った」

凄まじい闘気が確かに6箇所の方向から自分に吹き付けてくる。
いままでのつなぎ目からの闘気はイルダーナ自信の闘気にかき消され
気付く事も出来なかったが今ははっきりと穴が開いている事がわかる。
しかし突風のような闘気は互いにぶつかり混ざり、正確な流れが捉えにくい。
だが、後戻りなど出来るはずがないのだ。
ロックはレーザーバンカーの出力を最大まで上げる。
武器が耐えられるかどうかは考えなかった。

「心の準備は良い様だな…」
戦いが…終わろうとしていた。

「おおオオオオォォォォッッッッッ!!!!!」
「行っっっけえええええッッッッッ!!!!!」

二人が仕掛けたのは全く同時だった。
レーザーバンカーは確かな狙いを持ってロックの正面にあった
一つのつなぎ目へと向かう。
そして異常なまでの弾速で光はイルダーナの剣が穴に打ち込まれる直前で
食い込むようにして剣とぶつかり合う!
荒れ狂うエネルギーのぶつかり合い。
力は互角だった。
「負けんッッッ!!」
しかしイルダーナが更に力をこめる!
バアアアンッッッ!!

ついに耐え切れなくなったレーザーバンカーの光球が破裂する!
イルダーナの剣が勝った。


七十六話 『落下したコイン…』
「まだだぁっ!!」
イルダーナの剣はレーザーバンカーの光球を打ち破った後でも
その場から先に進む事は出来なかった。
なぜなら…
二撃目が後を継いでいたからだ。
2度の連撃にイルダーナの剣が大きくしなり…

バキンッ…

そしてふいに張り合いをなくした巨大な二つのエネルギーは
その場で巨大な爆発と風を巻き起こす!
(破られた…)

「でえええぇぇやぁぁぁ!!」
爆発の煙の中から突如イルダーナの目の前にロックが現れた。
レーザーバンカーが外れ、剥き出しになったこぶしを握り締めて。
ロックの本当に最後の渾身の一撃が…
イルダーナの頬に思いっきり叩きつけられた!

イルダーナの体は地面をざっと滑っていく。
それを見て肩で息をしながらロックは呟く。
「終わった…でも後、一つだけ」

カラップス・アイを止めなくてはならない。
しかし体が動かなかった。
レーザーバンカーフル出力の衝撃が二つと最後のエネルギーの破裂が巻き起こした
ダメージは予想以上に大きかった。
足に力が入らず、意識が遠のく…

あと少しなのに…
もう、何も考えられなくなった。


七十七話 『答えは?』
彼が目を覚ますと一人の男が目の前にいた。
グレーの瞳を持つ暗く赤い髪の男。
「モトか…」
「気分はどうです?イルダーナ」
体が楽だ、目の前の男の治癒能力にはいつも驚かされる。
「そうだな…すっきりしているよ。彼のおかげでな…
彼の様子は?」
「体は直しておきました。命に別状は無いですよ。ただ…まだ眠っていて
もらっていますがね」
「そうか…ならいい。それより…お前はやっと自分を取り戻したんだな」
モトはふっと笑って。
「彼らのお陰でね。貴方にとってそれは望ましい事だったのですか?」
「ふふ…底意地の悪さは変わらんな」
「貴方には勝てません」

モトがそう言うとイルダーナは立ち上がった。
そして折れた剣の柄を取り上げ柄尻の紅玉をはずす。
「それが貴方の本当の役目ですか」
「ああ…」
「何故こんな回りくどい事をしたんです?」
「別に回り道をしたわけじゃない。
私は本気で今の人類を滅ぼす気だったさ。
今でも私の根本的な考えは変わっていない。
ただ、もう一つ判断のためのコインが増えただけだ。
今の人類はそこの少年に救われたな」
「頑固ですよ、貴方は。誰が貴方のコインをひっくり返せるんでしょうね…」
「さぁな…
そろそろ行け…この部屋の入り口はもう外につないである」

モトは何も言わず従う、今のこの男を止める術は無い。
が、ロックを担ぎ部屋を出ようとしたその時、
不意に呼び止められた。
「モト…悪いがこれをロックに渡してくれ」
それは一枚のコイン。
激しい部屋の只中にいたというのに目立った傷も見つからず綺麗な金色を放っていた。
そして片面に太陽の絵、もう片面に月の絵が描かれている。
「解りました…」
それだけ言うとモトは部屋を出て行った。

「さて…」


七十八話 『選べる道は唯一つ』
ここはネオゲゼルシャフト号のブリッジ。
ティーゼルとセラがカラップス・アイの動きを用心深く監察している。
「おい!ジジとファブネルを連れてきた奴はホントに信用できんのかぁ?」
妙にそわそわしながらティーゼルが聞く。
「確かに…だが奴ははじめてあったときと大分雰囲気が違った。
まるで別人かと思うほどに。ここは奴を信用するほかあるまい…」
それにセラはいかにも無念そうに顔をゆがめながら答える、と。
「ありがたい言葉ですね…」
いつの間にかモトがロックを抱えて後ろに立っていた。

「嫌な登場の仕方すんな!びびるじゃね~か!」
「カラップス・アイはどうした…先ほどと様子が変わらん。
本当に止まるのか?」
モトは近くのシートに以前気絶したままのロックを横たえると
セラへと向き直る。
「彼がカラップス・アイを消し去るでしょう…跡形も無く…」
そうモトが返答した瞬間コブンの悲鳴が上がった。
「ティーゼル様!!カラップス・アイがエネルギーを急速に主砲へ集めてます~!!」
それを聞くや否やモトへとつかみかかるティーゼル。
「おい!一体どうなってんだ!!」
セラもモトをにらみつけ、
「エネルギーの量が今まで放った光のなかでもずば抜けて高い…
しかも主砲の照準は依然地球を狙ったままだぞ!」
二人ににらみつけながらモトは静かに言った。
「…イルダーナを、信じてくれ」


七十九話 『選べる道は唯一つ』
イルダーナは光が消え闇に染まった部屋の中で強い光を放つ紅玉を握り締めていた。
「どのぐらいエネルギーが残っているのか…
場合によってはこれと心中せねばならんな」
何故だか笑いたくなってしまう。
本当に、ただ、なんとなく。

イルダーナの手にしている紅玉は空間をつなげる時に使う補助エネルギー保存装置だ。
小さな空間をつなげるだけならば必要は無いが、人が通れる以上の大きい空間を
つなげたり、先ほどのように一体多数の空間をつなげたりする時には必要不可欠である。
今回はこのカラップス・アイで一番巨大なディフレクターのエネルギーを全て
込めていたが、それでも今からやろうとしていることに対しては不安が残った。
しかしそんな事を四の五の言ってもしょうがない。
決意など、とうにかたまっている。

「ロック…生き抜いて見せろ。そしてお前たちの存在が表である事を証明し続けろ。
それが出来なければ、私は再びお前たちの前に立つ。
コインは裏返る…忘れるな…」


八十話 『その瞳は全てを消し去る』
カラップス・アイの主砲にかつて無いエネルギーが集り、ほとばしる。
「畜生!どうなっちまうってんだ!
…とにかく船を出せ!出来る限り遠くに逃げるしかねぇ!」
ティーゼルが怒鳴るとネオゲゼルシャフト号のメインエンジンが火を噴く。
「祈るしかないわね」
ジジ、ガガ、ファブネルの3人を病室で看護しながらユーナは呟く。
同じく病室で負傷したコブン達を介抱しているロールとトロンも
同じ気持ちだった。
そして、目の前の光が過去そして現在の人間たちの心から生まれているという事実が
何よりも恐ろしかった。

外の世界がまばゆく暗い光に包まれた。

全員が…祈った。

『生きたい』……と。

「見ろ!」
突然セラが声を上げた。
「光が…吸い込まれていく…!」
まぶしい光に目がなれ、カラップス・アイの光がある境界を境に
消えているのが解った。
光は際限なく正体不明の見えない空間に吸い込まれ、
やがて…消えた。
そして、皆が自分の生を認識した…その時。

はるか彼方の地平線から一筋の光が流れた。
光は巨大でまばゆかったがどこか…暗い、
カラップス・アイの光だった。
その巨大な光は軽々とカラップス・アイをのみこみ、
やがて跡形も無くその存在を消し去った。
この戦いの、全てが終わった。


最終話 『表か裏か?』
「う…」
ロックが意識を取り戻す。
笑い声が、歓声が聞こえた。
(ああ、そうか…)
「終わったんだ…」
気付かぬうちに呟いていた。
「いや、まだですよ」
目の前の男が自分の様子に気がつき、手を差し出した。
「彼が…これを貴方にと…」
男の手には金のコインが握られていた。

ロックは寝たまま手を差し出しそれを受け取ると、目の前にかざした。
イルダーナの言葉が思い出される。
「僕らはどっちなんだろう…?」
ロックは手の中のコインを天井に向けて弾く。
コインは勢いよく回り続けた。

Heads or Tails……?