ロクノベ小説保管庫 輪廻-ただ友のために 3章

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 その場の状況をただ一言で表すとするならば、『異常』の文字しかなかっただろう。

 床や壁に人形のようにぐったりと寄りかかっている武装した屈強なる水兵達。

 システム内でも五つの指に入る実力者、マザー二人と各々のガーディアンが捕縛されている事実。

 更に不可思議としか思えぬ謎のジェルかスライムに似た物体が部屋中に張り巡らされている状況。

 極めつけに・・・そんな『異常』の中心にいる人物の・・・・

 「う~~ん・・・こう見てるとクモの巣に引っかかったチョウチョとトンボさんね~~。
 ・・・じゃあ、私はジョウロウグモのメス?キャーー!何だかイヤーンな展開に私ドッキドキ~~♪」

 ・・・見事なまでにシリアスぶっ潰しな発言。見ていて腰が砕けるというか、気が抜けるというか。

 「・・ねぇロック?この人、敵なんだよね?私なんだかどう対応していいやら・・・」
 「そんな事より、あんなのがホントに私を洗脳していたと思うと嫌になるわ・・」
 「・・・・僕も頭痛くなってきたよ。こういうときはどうすればいいのかな?」

 流石のロック達も開いた口塞がらず。セラ達のことも一瞬忘れて立ちすくんでしまう。

 「バイスさん・・でしたっけ?。前システムを復活させるってどういうことなんですか?
 システムは一年前に・・・・・ダブルが壊してもう存在しないはず・・・・・」

 ようやくトリップから戻ってきたのか、問い掛けるロック。一年前の事を思い出してか、
言葉の端に少し悲しみが入っていたようにも見える。

 「ん?あ~そうだったわね。バイスおねーさんが教えてしんぜましょう~~♪」

 イヤンイヤンと妄想に耽っていたのをやめ、笑いながらこちらを見るバイス。

 「まずは前システムの復活ね。一年前のゼロは過去に残された前システムのバックアップファイルを
 直接ウィルスのっけて支配させようみたいなことやってたみたい・・」

 「つまり、今のシステムを基盤に前システムを再構成しようとしたわけね。」

 バイスの言葉にロールが納得したかのように呟く。時間が掛かるかもしれないが強引な方法。
 あの時のゼロらしい方法である。

 「正解~♪でも私は違う方法で行くの。そんな事なんかしないでもっと手っ取り早い方法・・・」

 ニッコリと笑いながら話すバイスに、心なしか寒気を感じ一歩下がってしまうロック達。
先程の軽い感じからは想像できない様子のバイスから恐ろしい言葉がその口から紡がれる。

 「私は今あるシステムを全てぶち壊して、新しく前システムを作り直すの♪」




                  バギィ!!!

 唐突なバイスの発言に唖然となるロールとトロンの耳に鈍い音が入ってきた。
何かが折れるような音にハッとロックに顔を向ける二人。
そこにはリミッターを二段階も外し、溢れる憤怒そのままに飛び掛らんとするロックが・・。

 「バイス・・・・あなたは罪の無いこの世界の人たちも一緒に?!」

 「・・・・ええ、全部ぶっ壊す気よ♪」

 異常なほど膨らんでいくロックの殺意を感じていないのか平気な顔のバイスにロックはすさまじい表情を
浮かべる。それを見たロールとトロンがとっさにロックの前を塞がなければ、どうなっていた事か・・・

 「あらら?怒らせちゃったかしら?ゴメンなさいねー。で・も、撃ったら撃ったで人質が
 大変な事になるとこだったわね~。そのガールフレンドたちに感謝しないとね~~」

 まるで悪びれることもなくバイスは挑発を繰り返す。『反応を見て楽しむ』ただそれだけの為。
その言葉に歯を噛み締めるロールとトロンだが、今バイスを撃てば後ろの四人を巻き添えに
する事はわかりきった事。今の彼女達にはただただ睨み返す以外反抗は出来なかった。

 「ん~~反抗しないの?それじゃあ私はそろそろこのチップを持って帰るけど?」

 そう言いながらバイスは窓まで行き指を鳴らす。するといつのまに居たのか飛行型のリーバードが
せりあがってきた。ガガやジジと同じ高速機動型、逃亡にぴったりの乗り物である。
ロック達も逃すまいとバスターを向けるがバイスは未だ人質との直線状に居る。攻撃は不可。

 「それじゃあ皆さん。また会える日までご機嫌よ~~~。あとで人質の拘束を解くからね~」

 ご丁寧に手の部分をハンカチ状にして振りながらバイスが身を乗り出し、リーバードに飛びつく。
その途端ロックはダッシュして斬りつけようとするが部屋中の物体が威嚇するように轟き始めた。
逃げるための時間稼ぎ、完璧にタイミングを崩された。万事休すと誰もが思った・・その時!



              ドン!!!   ガキィ!!!

 大きな爆発音とともに何かが駆け抜けていき、空へと飛び出したのがロック達には見えた。
その後部屋の中へと転がり込むバイスに火をあげて落ちていく飛行型リーバード。そして・・

 「俺たちマザーガーディアンを舐めていたようだったな。形勢逆転だ!」

 床に手をついて立ち上がろうとするバイスに向けて腕のみをバスターに変えて向けるガガの姿があった。

 「・・・やるじゃない。拘束を解いた後数秒であの子を撃ち落し、なおかつ私を部屋の中に
 弾き飛ばすなんて・・・流石はマザーガーディアンってとこかしら?」

 「見縊ってもらっては困る。油断さえしなければ捕まる我々ではない。セラ様ユーナ様も勿論のことだ。」

 この騒動の間に救い出したのか、ジジはそう言いつつセラとユーナをロールに託す。
ロールとトロンが急いで二人の様子を診るが、どうやら外傷は無いようである。

 「凄いチームワークでしたね!・・・・でも何故最初の時に油断を?」
 「それはジジが・・・・・ウェ・・・」
 「が、ガガ!!今はそんな事を言ってる暇はない!!」

 ・・・なぜか顔を蒼くするガガにジジが冷汗を掻きつつ制する様を見て首を傾げるロックだったが、
今の状況を思い出し頭を振って再度バイスを睨みつけた。

 「さぁ、観念して前システムを起動するような真似を止めてもらえますか?!」

 先程の暴言がまだ耳に残っているのか。どことなく殺気も含まれたロックの声に辺りはシンと静まり返る。
 そんななかバイスは何故かロックの眼を凝視していた。何かを探るようじっくりと、念入りに。
そんなバイスの眼差しにロックは耐え切れず少し目を外す。するとバイスはクスリと笑い、

 「・・・やっぱりそっくりね・・・あの人が造っただけに瞳の色も、心の中も・・・」
 そう呟き、立ち上がる。話がつかめず疑問符を浮かべるロックだがバスターは常に向けておく。

 「やっぱり仕返しし甲斐のありそうな子ね~トリッガー。その顔がどんな風に歪むか、
 信念って奴がどんな風に捻じ曲がっていくのか・・見るのが楽しみになってきたわ~~♪」

 キャピキャピという音が付きそうなほど笑顔を浮かべるバイスに一同は唖然となる。
逃走用の乗り物は無し、三人に囲まれている、しかも人質は解放されたばかり。絶体絶命なはずだ。

 「あら?『何を言ってるの?このおねーさんは。』みたいな顔ね~。逃げられもしない、
 逃がすはずもない。そう思ってるのかな~~ここに居る皆さんは・・・?」

 全員首を縦に振る。さも当然のようにはっきりと・・・だが、バイスは笑いを止めない。

 「でも、にげられるんだな~~これが。」

 そう言うが否や指を鳴らすバイス。その瞬間セラとユーナの体が大きく跳ね上がった!
 全員何事かと視線を集める中セラとユーナの身体はますます跳ね上がり、発光まで始めた!

 「あなた達が逃がしてくれるんだもんね~~?」

 バイスが笑いながら呟く。それこそ悪戯が成功したような無邪気な笑顔で・・・。



 「「・・・ううう・・・ああああ・・・あああああああ!!!!!!」」

 セラとユーナが声を上げ更に発光を強めていく。彼女達のシルエットもそれに合わせて変わっていく。
その様子をみてロック達は嫌な気配を感じ始めた。一年前のバイスは洗脳型のリーバードだった。
そしてさっきまで彼女達はそのバイスの一部に囚われていた。だとすれば答えは一つ。

              しゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・

 発光が止み、セラとユーナの姿がはっきりと現れる。その姿に全員が息を飲む。

           二人とも戦闘端末に換装されていたのだったから。

 眼も虚ろで焦点も合っていない。一年前のトロンと同じ。洗脳された状態だった。

 「セラさん!ユーナさん!!」
 「もう、マザーの癖に乗っ取られてんじゃないわよ!!」
 「そんなバカな!セラ様ユーナ様のプロテクトを解除して乗っ取るなんて・・・」

 ジジとガガが絶望し項垂れ、ロールは信じられず立ちすくみ、トロンは震える膝を抱え虚勢を張る。
 眼の前にいるのは『女神』。単体での戦闘力こそ、リミッターを全て外せたロックなら対抗できるが、
 二人同時には分が悪すぎる。ジジにガガ、それにロールとトロン達は戦闘力こそ追いつけていない。
 そんな最悪の状況の中。ロックはバイスを睨みつけていた。掌を強く握り締め、歯を食いしばりながら・・。

 「なぜ・・・こんな事をするんだ・・・・こんな酷い事を!!!」
 「逃げるためよ?私まだ闘いは出来ないのよ~。だから何もしないでね?まだ何もさせないから・・」

 ロックの声にウィンクしながら答えるバイスはもう一度窓まで行き口笛を吹く。すると別のリーバードが
 現れ、彼女を背に乗せる。その場に居た全員が黙ってそれを見ていた。悔しさと無力感に浸りながら。

 「じゃあね~~。時間が経てば二人とも意識を自己再生させると思うからそのまま待つ事ね~♪」

 そう言うとバイスはゆっくりと旋回して水平線を目指しゆっくりと飛び立っていった。
 やがてその姿が見えなくなった後、溜まった気持ちが爆発したのかロックは膝から崩れ落ちた。

 「・・・バイス・・・許さない・・・・絶対に許さないからなぁあああ!!!」

 怒りのこめ、水平線へと向けられた声はバイスへと届くはずもなく掻き消える。
 何も出来ない歯がゆさを胸にロックはただ立ち尽くすしかなかったのだった。



 それから数十分後、リビングルームにロック達は集まっていた。
ようやく意識を取り戻したセラとユーナが戦闘端末を解除したのはよかったがそのまま失神してしまい、
現在別に設けた客室でロールとトロンの治療を受けているのだ。
彼女達に取り付いたリーバードはなかなか離れず、前回のようにコアを外側から撃って排除しようにも、
きっちり対応され、リーバードの活動が停止した瞬間爆発し二人は助からないであろうとのこと。
仕方なくロックとジジたちは水兵達を治療室へと運び、バイスへの対策を練っているのだが、
肝心のマザー二人がダウンし、ミュラーやバレルはディフレク会社の東南支社へと出かけて留守。
さらにボーン一家からはコブン20名が来てくれたが、肝心のティーゼルが行方不明とのこと・・。
どうやらデパートの管理をコブンに任せてみたところ赤字が一気に無くなり、三倍以上の黒字が出た
ことで、自己の管理能力に不安が出て、山ごもりという名の傷心旅行に出たようである。(汗
こうしてただただ時間が過ぎていくだけの結果となっているのである。

 「・・・・やっぱりここは一つバイスの行方を早く見つけて討つ。これしかないかな・・」

 沈黙を破ってロックが呟く。至ってシンプルだがこれしか思い浮かばないので仕方がない。

 「・・・ジジ、まだあのバイスが乗っていたリーバードの反応は無いのか?」
 「ああ・・見たことがあった型だったんだが微妙に作りかえられているのかもしれない。
 今、飛行型リーバード全種の反応パターンで探らせているが・・・」

 ジジが船のレーダーシステムを使って検索を続けるが、ずる賢いバイスのことだ。
既に手を打って様々なジャミングを仕掛けて見事に隠れてしまったのだろう。
 敵に鼻先をかき回されている気分とはまさにこのことだろう。相手の未知なる力にどうする事も
出来ずただ全てが終わるのを指をくわえて見てるしか方法がないのか・・・。

 「クソ・・・どうしたらいいんだ・・・ダブルがせっかく身を挺したのにこれじゃあ・・」

 壁に拳を突きたて肩を震わせるロック。その場に居た全員が絶望した、そこへ・・

          「一つ・・だけ掴めた場所があるわ・・・」

 突然扉から聞こえきた声に全員が顔を向け、一様に驚いた。
扉を開けて入ってきたのはロールに肩を借りて歩いてきたユーナだったからだ。

 「ゆ、ユーナ様?!まだ御身体の調子が!!」
 「ごめんなさい、ガガさん。でもユーナさんがどうしてもって・・・」

 動揺するガガを制し、ロールはゆっくりとユーナを椅子に座らせる。ユーナは軽く礼をいい、
全員へと、何時になく真剣な顔で話し始めた。




 「乗っ取られる時に・・・私はすかさずバイスの分身を調べたの・・驚いた事にその分身、
 単独で行動できるプログラムになっていたわ。つまりバイスは群体である可能性が高いわ。」
 「群体・・・と、言う事は身体が一欠けらでもあればバイスは死ぬ事が無いってことですか・・」

 ロールの問いに「そのとおり」と答え、ユーナはなおも話し続けた。

 「群体だから本人と同じ記憶を持っていたわ。その中からかすかにだけど座標データを引き出したの。」
 「・・と、いう事はその座標は!!」

 ユーナの言葉に身を乗り出すロック。それを見てユーナは深くうなづいたと思うと、ガガに何か呟く。
 ガガは「承知しました」といいモニターに何かを映し出す。見てみるとどうやら遺跡のようなものが、
 モニターに映し出され全体図を事細かに伝えていた。

 「・・・まさかシステム管理下の施設だったとは・・・てっきり古き神々のものだと思ってたのに・・」
 「いえ、ここは古き神々が使用していたものを我々が改修しなおしたものです。現在は『キルガ島』
 と呼ばれる無人島。隠れ家には尤も適した構造になっています。可能性は高いですね。」

 ロックとともに覗き込んだジジが説明する。確かに完全に虚を疲れた見事な方法だった。

 「よし、それじゃあ僕行ってきます!今度こそバイスを止めないと・・・!!」

 目標がはっきりして気が晴れたのか、ロックは顔を引き締め、Z,Bを握り締める。

 「OK・・・さっさと、あんな私を悪者にしたようなのやっつけちゃってね!」

 そんなロックを見てユーナも元気が出たようだ。いつもの明るさが戻った気がする。

 「はい!・・あ、でもロールちゃんにトロンちゃんは置いて・・・?!」

 二人を心配してか、そう言いかけるロックだったが突如両耳を引っ張られたショックで声を失う。

 「ロック!一人だけ悔しい思いをしてるんじゃないのよ?!私だってあの人のこと許せないんだから!」
 「そうよそうよ!あんなのコテンパ~ンにしてやるんだから!さぁ、あなた達!ドラッへを出すのよ!」
 「イエッサー!!」

 痛む耳を抑えるロックに畳み掛ける二人。この二人を止める事は出来ないだろうと瞬時に判断。
もう、彼女達は戦士だったのだ。邪魔をしてはいけない・・・。

 「・・わかった・・・でも無理だけはしないでね!」
 「当然!さぁ、ドラッへに乗った乗った!へなちょこのより早いわよ!」
 「そんなことない!フラッター号を甘く見ないで!でも、今は急ぐから許してあげるわ!」

 そんなやりとりをしながら彼らは走り出していった。それを見送るユーナとガガ達。

 「ヴォルナット様なら大丈夫ですよね?・・・」
 「ええ、負けるはずが無いわ・・・負けられたらもっと困るけど・・・」
 「・・・?ユーナ様、それは一体どういうわけなのですか?」

 ユーナの言葉にジジが尋ねる・・・セラも同じような言葉を言っていた。『負けてはダメだ』と・・
ユーナは少し困ったような顔を浮かべるが、やがて静かに口を開いた。
その言葉は彼らを唖然とさせる・・・その言葉は彼らに闇をもたらせた・・

 「負けたら・・・起きてしまうのよ・・・この世のものとは思えない大惨劇が・・・」

 苦々しく放たれた言葉は何度も彼らの頭に響き、暫らく離れなかった・・・。




 時変わって、『キルガ』島最深部。バイスが隠れていた遺跡の中では・・・

 「あら?もう来ちゃったの?・・・早かったわね~メイクする時間ぐらい頂戴よ~」

 少し高台となっている場所にバイスが足を投げ出した形でこちらを見下ろしていた。
まるで来るのがわかっていたような風であるがロック達は気にせず声をあげる、

 「バイス!!あなただけは許せない!!人を馬鹿にするのもいいかげんにして!!」

 と、赤いアーマーを身に纏ったロールがショットガン型のバスターで狙いをつけ・・

 「あんたみたいな奴だいっきらいよ!!お仕置きしてやるから覚悟なさい!!」

 オレンジのアーマーのトロンが光剣を手に肩部のバルカン砲を構え・・・・

 「もう二度と・・・あんな事が起きないためにも・・・前システムはここで潰す!!」

 蒼いアーマーに光るZ,Bを構え、リミッター全開のロックが吼えた瞬間!

                  散!!!

 三人同時に飛び上がりバイスとの距離を縮めんと走り出す。その様子を見てバイスはただ微笑むだけだった。

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 場所変わって、サルファーボトム号内・・・

 「どういうことなのですか?!トリッガー様が惨劇を引き起こすって!!」

 信じられないという顔でユーナに問い掛けるガガ。その後ろでジジも驚きの表情を浮かべている。
ロックという性格を前世から見てきた彼らにとって信じがたい事なのだからそれも当然だろう。
ユーナは椅子に座ったまま大きく息を吐き、ゆっくりと語り始めた。

 「ロック君は何故生まれたのかは知ってるわよね?前システムの戦闘システムを全て受け継いだ戦神
 ゼロ・ウォーレンツが暴走した時のシステム側としてのカウンター。それが彼・・・。」

 ユーナの言葉にガガ達は頷く。つい一年前に自分達も見てきたことだから・・・

 「じゃあ聞くけど・・・あの時のマスターにゼロを止めるだけの戦闘システムを開発できると思う?
 驚異的な身体能力に戦闘に関する知識、更には魔剣『Z,S』まで操る彼を・・・」

 その問いにはガガもジジも首を横に振った。確かにマスターの作ったシステムは戦闘という面では
それほど得意としていなかった。マザーであるセラとユーナ、それに彼らマザーガーディアンも
かなりの実力者であるとはいえ、基本的にシステムを守るための力。すなわち護衛でしかない。
マスターの力では過去の産物であったゼロに勝つユニットを作り出す事は不可能だったのである。
 ユーナは一度言うのを渋りながらも、思考するジジとガガに語った。一言、だが恐ろしい一言を・・・

 「マスターはロック君に取り付けたのよ。前システムで尤も恐れられたプログラムを・・・
 ゼロに取り付けられた全ての戦闘システムを凌駕する『憎悪』に満ちたプログラムを・・・」



 「そ、そんなことが・・・・」

 あまりの事実に言葉を失うガガ。「とても信じられない」そんな表情が手にとるように読める。
 一年前のゼロ反乱時。あの時のゼロは想像しがたい力を見せつけていた。
 今のロックはそのときのゼロ同等の力を備えている。もし、その上にそのプログラムが発動すれば・・

                    『終焉』

 この二文字しか思い浮かばない。誰も手が届かない破壊の権化の誕生である。

 「ロック君をこのまま戦わせ続けるのは私は反対だけど・・・今動けるものはいないし、
 システム上最強になった彼に対抗できる人物もいないと思ってそのままにしておいたわ
 でも、今回はとても呑気に構えていらられない。私は危険な賭けをしてしまったわ」

 そう言うとユーナは祈るかのように手を組み始めた。暫しの間静寂が流れていく・・が、そこへ・・

        「おまえらしくもないな・・・・もう悪い状況を考えているのか?」

 不意に聞こえてくる落ち着き払った声。その声に振り向くとそこにはセラの姿があった。

 「セラちゃん??もう起きてもいいの??」

 「寝ているのは時間の無駄だ、体内のリーバードは活動をやめているようだしな。」

 そう言いながら驚く一同を尻目に椅子に座るセラ。その後、ギンと眼を光らせ睨みつけた。

 「この状況でヴォルナット達以外に対抗できるものはいない。おまえの選択は間違いではない。」

 「で、でも!もし、ロック君が負けてあのプログラムが目覚めたら・・・その時には!!」

 セラの言葉に焦りながら突っ掛かっていくユーナ。後ろにはジジとガガも動揺しているのが見える。
そんなユーナ達を見てセラはコーヒーを飲みながらゆったりと呟いた。

           「なんとか・・・・・なるのではないのか?」

 その言葉に一同がポカンと呆けた。今の言葉はセラから聞こえてきたのか?あのセラから?
そんな言葉が??針の先程の眼になった彼らを他所に更にセラの言葉は続く。

 「私もヴォルナットやゼロ、そしておまえ―ユーナ―から学んだのだ。前向きに行動する事をな。
 確かに危険な賭けだ。もしかしたらヴォルナットは負け、新たな敵が誕生するかもしれない。
 だからこそ、我々は今動くべきなのではないか?あやつらがもし敗北した時のために・・・」

 「・・・セラちゃん・・」

 セラの言葉にユーナ、それにガガとジジが聞き入る。一昔前からは想像できない変貌を遂げたその意思を。

 「わかったわ・・・確かに悩んでたってしょうがないもんね。私も何か出来る事をしなくっちゃ!」

 ユーナの眼から絶望の文字が消え、元の明るい笑顔が戻った。その笑顔に後押しされるように
部屋の中の暗雲も断ち切れたかのように思える。

 「さて、とにかく病気がちじゃ何も出来ないわね。早く私達の中のリーバードを何とかしないと。」

 「し、しかしユーナ様?何とかって・・・・・どうやって??」

 「・・・・あ~。その方法なのだが・・・・」

 ガガの余計な一言であっという間に沈んだユーナを「やれやれ」という感じで見ながらセラがドアを指す。
その指差す方向にはゆっくりと開けられるドアのノブにしがみ付いている小さな物体が・・

 「あやつが何とかしてくれるそうだ・・・・何処で調べたのかは知らんがな。」

 そういうセラの横にチョコチョコとドアノブから飛び降りて歩いてくるそれに驚くユーナ達。
丼型のボディーに先が丸い尻尾。クリッとした眼を持つ猿型ロボ。神出鬼没の不思議なあいつ・・。

 「お久しぶりですー!ユーナ様にガガ様ジジ様~♪」

 「「「デ、データ?!?!」」」



 一方、ロック達が戦いを繰り広げているはずのキルガ島では予想外の出来事になっていた。

 冷たく光る遺跡の壁。所々にある傷がここで行われた戦いの凄惨さを物語っているように思える。
そんな壁に囲まれた部屋の中で身構えるロックがいる。キッと小高い段差にいるバイスを睨みつけ、
腕に鈍く光るバスターと青き光刃を向けていた。一歩も動かず数秒ほど息を整えた後・・・・

 「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 叫びと共に一気にバイスとの距離を縮めるべく走った!

 一歩で数メートルを・・・・

 十歩目でその勢いのまま高く飛び・・・・

 バスターの光弾をバイスに向かって放ちながら、Z,Bを頭上高く掲げ、振り下ろさんとする!

 だが、その凄まじい攻撃の様を見てもバイスは動じない。ニコリと笑い、一言。

 「甘いわね・・・」

           ズガガガガガ!!!ガスッ!!!!

 響き渡る連続音がロックの耳に聞こえるな否や、腹部への強烈な衝撃と共に地面へと叩き落される。
叩き落されたショックで、軽い脳震盪を起こすロックだったが、すぐさま叩き落した張本人を見る。

     バイスの前で仁王立ちの状態で空に浮かんでいるリーバードを・・・・

 大きさはロックの二倍ほどであろうか。だが、人型といってもシャルクルスなどと違って
その姿は人間そっくりの造型をしていた。ただ、顔の真ん中に浮かぶ赤い眼だけがリーバードである
という証明をしているようだが・・・。強さの桁が違いすぎる。

 「どお、トリッガー?あなたの力すら上回る私の下僕ちゃんのパンチのお味は♪」

 勝ち誇ったかのようにリーバードの後ろで満足げな表情を浮かべるバイスを、ロックは睨み返す。
焦りと、憎しみの感情がはっきりと浮かんでいるロックを見てバイスは顎を手に乗せながら呟く。

 「あらら?そんな顔しちゃってもいいの?コワーイわねぇ。そんな顔で見られたら・・・」

 そう言うとバイスは両隣にあった物を掴むと高々と持ち上げる。それを見てロックの顔が更に歪む。

    「捕まえたこの子達に・・・・悪戯でもしちゃおうかしら~♪」

 そう、高々と持ち上げられたのはロックと共に戦っていたはずのトロンとロールだった。
 最初のリーバードの攻撃で気絶してからというもの、ずっとバイスの元に転がされていたのだ。
 今ロックは一人。相手は二人の人質を取っている。文字通り最悪な状態だった。



                 ズガン!!!!

 急にロックの足元が弾けたかと思うと、ロックがリーバードに羽交い絞めにされたまま落ちてきた。
不可視の速度で飛び上がり、バイスだけを斬ろうとしたらしいが、またあのリーバードに邪魔されたようだ。

 「クッ!!・・・離せ!!二人を・・・・返せェェ!!!」

 リーバードの拘束を必死に振りほどこうとするロックだが、リーバードの力には遠く及ばなかった。

 「くっ!!力が・・・・足りない・・・」

 リーバードの腕の中でもがきながら吐き捨てるように呟くロック。
見上げれば、ロールとトロンを掲げ、高笑いをしているバイスが見える。
今一歩力が足りない・・・。全てをねじ伏せる事ができる・・・・そんな力が・・・。

 「・・・フフ、ずいぶん焦ってるわね~~それじゃ、私がその焦りの元を除去してあげよっか?」

 不意に聞こえたバイスの声。「何をする気か」と尋ねようとした瞬間。ロックの身体が宙に浮く。
気がそれた瞬間にリーバードが放り投げたのだろう。そのままロックは壁に叩きつけられてしまった。
背中を打ちつけたショックに咳き込むロックを他所にバイスは指を鳴らす。最悪への開幕ベルを・・・



 「ところでトリッガーは知ってる?今マザーのあの子達が作り出している人工ディフレクターとは別に、
 ある意外な方法で高純度のディフレクターを作り出す技術の事、それの製法の仕方とか・・」

 せりあがってきた箱のようなものを背にバイスが話し掛ける。ロックはそれを黙って聴いていた。

 「クリスタルフォッシルは知ってるわよね?リーバードのなれの果てだけど、微弱にエネルギー
 を出してるのよ・・・。ディフレクターと同じ質、波長のエネルギーをね。」

 箱の横にあったコンパネで何かを操作しながら語るバイスに、ロックはだんだん不安になってきた。
嫌な予感がする・・・それもとびっきりの・・・・悪夢みたいな出来事が・・・

 「これを聞いてヘブンに避難した古代の人々はどうしたと思う?自分達はいつか尽きるエネルギーを
 補給したい。生命体であれば何でもディフレクターに出来る技術は発明済み・・さ・ら・に。」

 全ての作業を終えロールとトロンの脚を掴んだ後ニッコリと笑うバイス。その表情は悪魔とも、
魔女ともとれる無邪気でいて、邪悪をを押し込めた笑顔で・・・ゆっくりと言葉を紡ぐ・・。

 「初期化の度に無駄と思ってた『デコイ』の山・・・リサイクルにはもってこいよね~?」

 最後の言葉を聞いた瞬間ロックは既に走り出していた!鬼気迫るという顔でバスターを我武者羅に
撃ちまくり、壁を蹴り段差を飛び越え、バイスの懐まで一直線に走りZ,Bを薙ぐ!
だが、やはりあのリーバードが現れ、バイスを守る。バスターを全て弾き飛ばし、Z,Bを腕に
食い込ませて動きを止め、腹を蹴り突き落とす!諦めずにリーバードにしがみ付くロック!だが、遅すぎた・・

 しがみ付くロックの眼には、箱の中に放り込まれた二人の姿がゆっくりと落ちていくのが映ったのだ。

 「悔しいでしょ?・・・力及ばず自分の大事な人がいなくなる瞬間を見るの・・・」

 ずるりと音をたて、呆けた表情で落ちていくロックを見つめてバイスが呟く。
 これが見たかった・・・バイスの脳裏にそんな言葉が思い浮かぶ。絶望するあの顔がたまらなく、
愉快であるのと同時に憎くもあった。あの人の残した子の心が砕ける。同時に自分と重なって見えてしまう。

               「・・・・ざまぁみろ・・・」

 最後に放った言葉。その言葉は他の誰にも届くことなく、その場で霧散して消えた。



『・・・・・・僕は守れなかった・・・・・』

『・・・・・・だからロールちゃんもトロンちゃんも・・・消えてしまった・・・』

 床に倒れ伏したロックの頭に文字が浮かんでは消えていく。
何もかもが真っ白で何も考えられず、ただ浮かんできたその文字をロックは見ていた。

『・・・・どうして・・・力が足りなかったから・・・何故・・・弱いから・・・』

 文字はどんどん連なっていく。自問自答の嵐、止まる事を知らない疑問に解りきった答。
そんなものが響いていく中で一つ、不思議な文字をロックは見つけた。白い文字の中で一際目立つ文字。

             【・・・僕の力を使え・・・】

 黒く、そして禍々しいオーラを放つそれはロックの持っていない力を持っていそうだった。
 誰にも負けない、全てを捻じ伏せ、自分の欲望全てを満たせる、そんな強大な力が・・。
 「・・・君の力を使えば・・・・僕は何でもできるのか?」

 【ああ・・・・だから早く僕を使え・・・そして全てを任せてくれ・・・】

 ロックの弱々しい問いに答える強い言葉。ロックはその言葉を聞き、震えながら手を伸ばした。

 【早く・・・恐れずに触ってくれ・・・それだけでおまえは・・・無敵だ・・・】

 急かすように響く文字にロックは押され、更に腕を伸ばした。そしてついに触るかというその時!

 「・・・・おいおい。やけに下手糞なセールスだな~。そんなんじゃ、客にげっぞ?」

 その声にロックは驚き、手を引っ込めてしまった。何処かで聞いた声の気がした。
誰の声だったかと思い出そうとした瞬間、何故か視界が暗転していく。
急な展開に頭が追いつく事が出来ず、ロックはポカンと呆け、立ち尽くしてしまった。

 「さっきの声は?・・それとここは?遺跡じゃないよね・・いつのまにここへ・・」

                 ガコン!!!

 先程痺れていた頭を奮い立たせ、状況を整理しようとするロックの足元から聞こえる音が・・。
「はてな?」と下を覗いてみれば、先程あったはずの床がない。すなわち穴。よって・・・

 「なんでぇぇぇっぇぇええっぇぇええええええええ~~~~~~~~~?!?!?!?!」

 ドップラー効果で素敵に震える叫び声と共に落ち行くロック。ようやく聞こえなくなった声を
確認でもしたのか穴は静かに消え、その空間は音もなく消え去ってしまった。



 「・・・・・・ん・・・・んんん??・・・ハッ!!こ、ここは?!」

 穴に落ちている間気絶でもしたのか、ようやくロックは意識を回復させた。
そして、何処に落ち込んでしまったのかと眼を開けてみれば・・・・・

      すぐ眼の前を高速で通り過ぎていく地面が見えた・・・・

 「う、うわ?!な、なに?!え・・・え?!」

 あまりの唐突さに流石のロックもビビってしまったようだ。そんなロックの真上から不意に声が・・

 「・・・な~にやってんだ、ロック?新しい踊りか何かか?変わった趣味だねぇ~。」

 その声にハッと息を飲むロック。聞こえてきた声はとても懐かしい声。先程も聞こえたあの声だった。
 一年前からずっと忘れなかった・・・あの友人のオチャラケたっぷりのあの声!

 「ダブル!!君なんだ・・・・・・ってあれ?」

 その声のほうを見れば、懐かしいあの友人の姿ではなく、見慣れた自分の姿。
しかし今自分は担がれた状態だったはず?それにしても何故ダブルの声が自分の身体から?
そんな疑問と共にふと自分の姿を見てみるロック。そこにはいつもの蒼いアーマーの身体が・・・

 「うわ?!?!脚がない?!って、Z,Bから僕が生えてる?!?!」

 慌てふためくロック。それもその筈、ロックの身体は紅い光となって上半身のみがZ,Bの刃
の代わりに展開されている状態なのだ。

 「・・あ~~。まぁそのことは後で説明すっから今はお口チャックでいてくれ。
 大事な荷物も抱えてるんでな。落っことしたら大変なんだからよ。」

 「大事なもの?・・・?!ロールちゃんにトロンちゃん?!?!」

 ばつが悪そうに指で顔を掻きながら駆けるダブルの両脇にあるものを見て、ロックは声を上げる。
そこには赤色と紫色のディフレクターと化してしまった二人の無残な姿があった。
上半身だけがディフレクター中央部からはみ出たまま縮小化され結晶と化した二人の姿は、
神秘的に見えながらもどこか禍々しくも感じた。
 そんな二人を見てロックは口を閉ざして俯き、静かに肩を震わせる事しか出来なかった。
 ロックが起こす細かな振動を感じながらダブルは懸命に走り続けた。

 「・・・・ロック・・・・今は逃げるぜ。おまえは死んじゃいけねぇんだからな・・・」

 闇の中へと駆けてゆくダブルの声にロックは頷きもせずただ沈黙していた。

 ただただ・・・・失った悲しみに暮れることしか出来なかった・・・・