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「ちっさー、ネクタイ曲がってるよ。直してあげる」
「ありがとう。こんな風に愛理に直してもらうのって新鮮だね」
「そう? 気になったから直してあげただけじゃん。はい、直った」

 僕たちは今、新曲のジャケット撮影の真っ最中である。
今回の衣装は皆がダーク系のスーツを着て、男らしさをアピールした珍しいものに仕上がる予定だ。
えりかちゃんや舞美ちゃんは長身だからか、こういう衣装がぴったり似合ってしまう。
皆が僕も似合ってるよと言ってくれはしたけど、案外舞ちゃんが格好よく決まっているのに驚いた。
セットの椅子に片足を乗せたカットでは、表情もキリッとして男の僕よりも凛々しく映っている。
悔しいけど、舞ちゃん格好いいよ。

「舞ちゃん、何みてるの?」
「あっ、え、えりかちゃん。驚かさないでよ。びっくりしたじゃん」
「普通に声をかけただけでしょうが。あら、意外な組み合わせですな。何だか恋人みたいだこと」
「ふん、自分でネクタイが曲がってるのも気づかないなんて馬鹿みたい」

 舞ちゃんは私が声をかけるまで、背後から近づく気配にさえ気づいてもいなかったらしい。
それくらい、千聖と愛理の組み合わせに目を奪われてしまったということか。
中学生にあがり、千聖も精神的に少しは大人になってきたからなのか、はたまた愛理があわせているのかは知らない。
だが、ここ最近であの二人がお互いに相手を認めあい、遊園地に遊びに行こうと話し合うくらい仲が良くなったことは確かだ。
千聖のネクタイを整えてあげている愛理は、以前よりも優しさに満ちている。
そういえば、愛理は千聖が男の子だと知っているのだったっけか。
知っているのならば、これはひょっとするとひょっとするとか?

「えりかちゃん、行こう。何さ、愛理にネクタイ直してもらって鼻の下伸ばしちゃって」
「はいはい。だらしない顔しちゃってるよね~」

 やれやれ、舞ちゃんも舞ちゃんで手のかかる子だこと。
本当はネクタイが曲がっているのをみつけて、自分の役目にしたかったのだろうけど、先を越されたのか。
はじめは直してあげようとでも思っていたのに、千聖の楽しそうな顔をみていて気が変わったのだ。
相変わらず舞ちゃんは舞ちゃんで素直になれない悪い面が治っていない。
ここは仕方ないから、この梅さんが一肌脱いで差し上げようかしら。

「そうそう、いつ遊びにいこうっか? 愛理はBuono!もあるから、愛理の休みにあわせるよ。で、いつ?」
「ん~今年のスケジュール確認しないとだね。えぇと・・・」
「愛理、ちょいこっちこっち。あっちの方で栞菜が呼んでたよ」

 愛理も人を疑うってことを知らないらしい。
栞菜が呼んでいたなどと真っ赤なウソで、私が千聖と愛理を引き離すためにひと芝居打っただけである。
愛理が栞菜を探しに遠のいたのを確認して、私はわざとらしくくしゃみをしてみた。

「ちょっと~えりかちゃん、汚いじゃん。人の顔に向かってかけないでよね」
「ハンカチーフ貸してあげるから文句いわないで。わざとじゃないんだからさ。たまたまくしゃみしたら、千聖がいただけ」
「えりかちゃんのたまたまほど怖いものないな。次は何されるかわかったもんじゃない」
「ごめんごめん。今度は気をつけておくよ。それじゃ~」

 一瞬後ろを振り返り、千聖のネクタイのずれをみてみる。
愛理が直す前よりも酷いくらいにずれたネクタイは、きっと誰かさんがみつければまた直してあげたくなるはずだ。
私がしてあげられるのはせいぜいこれくらいのことに過ぎない。
千聖、あんまり乙女の恋心を振りまわすものじゃないよ。

「千聖は舞ちゃんが呼んでたかも。早くいかないと怒られるぞ」
「えぇ~何だっていうんだよ。えりかちゃんもそういう大事なことは早く伝えてよね」

 スタジオの隅で一人でいる舞ちゃんをみつけ、僕は何の用だろうと思いながら声をかけてみた。

「舞ちゃん、用事って何?」
「用事? 別にあんたなんかに用なんてないけど。愛理とイチャイチャしてたんだから、あっちいってればいいのに」
「何だよ、その言い方。すっごいムカつくぞ。用もないのに呼び出すなよな」
「はぁ!? あんたこそ用もないのにこっち来ないでよね」

 何だっていうんだろう。
舞ちゃんは声をかけて振り返ってみれば、すんごい険しい顔で僕を睨みつけてきた。
12歳にしてこの目つきは怖いにもほどがあるってものだ。
怖いのは怖いけど、ここで怯んでいては舞ちゃんにすっかり言われ放題になるので踏ん張らねばならない。

「そうですか。じゃあ、あっち行きますよ。もぉ~すぐに怒るなよな」

 僕が捨て台詞とばかりに吐き捨てたろうとしたとき、舞ちゃんから呼びとめられてしまった。

「千聖、こっちおいで。こっち」、と手まねきして僕に近寄れと合図を送ってくる。
「な、何だよ・・・」
「そんなにだらしない写真がジャケットになるのじゃ恥ずかしいから、こうしてあげる」

 舞ちゃんは手早く丁度いい長さまでネクタイをあげ、位置を調節までしてくれた。

「あ、ありがとう・・・」
「別に~あんたじゃなくて℃-ute全体が笑われるから直してあげただけ。いくら首までしめないからって、さっきのはありえなさすぎ」
「自分のことだけかよ。ひっでぇ~」
「他のメンバーのことはいっぱい考えてますけど、あんたのは全然考えてあげてませ~ん」

 お互いに意地っ張りで仲良くできない二人だけど、いつまでも仲良くいてほしいとは思う。
ちょっぴりいいことをした夜は、ぐっすり眠られそうな気がする梅さんなのでした。

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