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 少年が滑り台の脇の段ボールからする声の主に、恐る恐る近づいていくとまだ生まれてから間もない仔犬がいた。
犬の種類など全然知らない少年には、仔犬が茶色くて丸いぐらいしかわからない。
少年はしゃがみこみ、仔犬の掌にすっぽりと納まる小さな頭を撫でた。

「どうしてこんなところにいるの? お名前は?」

 仔犬は少年を見上げ、クゥーンと鳴き声をあげた。
少年にはその鳴き声がまるで『僕はお腹が減っているから食べ物を分けて』とでも言っているように聞こえた。
空耳かとも思ったが、食料品の入ったレジ袋に頭を突っ込んでくるあたり、あながち嘘でもないらしい。
お腹が減っている仔犬は可哀そうではあるが、これをこの子にあげるわけにはいかないのだ。
家にはこの子同様にお腹を空かした妹たちが、今か今かと兄である少年の帰宅を待ちわびている。
しかし、少年に抱きついて離れようとしない仔犬の姿に弱り切った少年は、チャーハンの具にするはずだったハムを分け与えることにした。

「餓えて死ぬのなんて可哀そうだよ。君の気持ちは痛いほどわかってるよ」

 ハムを食べやすいサイズにちぎっては与え、ちぎっては与えを繰り返した。
元気よくハムにとびつく姿を眺め、少年はこれでよかったんだ、と自分に言い聞かせた。
妹たちの分をあげるわけにはいかないので、自分の分相当のハムを与えると再びレジ袋へと戻した。

「ごめんよ。後のものは妹や弟たちにあげないといけないんだ。もっと食べたかったら、僕なんかよりお金持ちの人に拾われなよ」

 名残惜しくはあったが、情が移る前に自分はここを立ち去らねばならない。
両親が健在だった頃、情が移っては動物を拾って家に連れ帰り、その度に親に怒られていた。
そんな時、親は決まって『うちには動物を飼うお金がありません』と言ったものだ。
あの頃と比べて、より一層ひもじい生活を送る今、当然飼えるはずがない。
なのに、

「コラ、ついてくるな。しっし!! 僕は本気で怒ってるんだぞ」

 手を振り追い払おうとするも、仔犬はしつこく少年を追いかけてくる。

「ダメだって言ってるじゃないか。僕の家じゃあ飼うお金もないんだ。だから、困るんだって」

 こんなやりとりを何度繰り返しただろうか。
とうとう仔犬は千聖の家の前までついてきてしまった。
どんなに本気で怒ろうとしても怒れない自分の甘さが招いたとはいえ、これは妹たちにみせていいのだろうか。
もうここまでついてきたら仕方ない、そんな思いに駆られ少年は仔犬を家族の一員に認めることにした。

「ふぅ~仕方ないな。頑固な君に負けたよ。まぁ、家族にするには名前がないといけないね。えぇと、そうだ、君の名前は段ボールからみつかったからダンね。
 そして、僕の名前は岡井千聖。よろしくね」

 ダンをどう紹介しよう、まぁ何とかなるだろう、千聖はそう思うことにして、玄関を開けた。

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