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 バスツアーの一日目が無事に終わり、メンバーたちが自分の泊まる部屋に次々と消えていく。
私は大好きな千聖と一緒に泊まりたいけど、コンサートなどで遠くまででかけるとお姉ちゃんと同じ部屋に泊まることに決めている。
それに、今日は私とお姉ちゃんの誕生日だからいつも以上に一緒にいたい。
メンバーの姿がいなくなっていく中、千聖が荷物を抱えたまま廊下につっ立ってこちらをじっとみつめてくる。

「千聖、どうかした? まさか自分の泊まる部屋がどこかわからなくなっちゃったとか? それなら今夜はこの廊下で寝るといいんじゃない」

 千聖が何か言いたげにもじもじとしていてからかいたくなった私は、憎まれ口を叩いてしまう。
からかうとそれが原因で喧嘩をすることもしょっちゅうあるのは経験上知っているのに、私は千聖をからかわずにはいられない。
まるで男の子みたいだけど、これが私の愛情の裏返しというか、私なりの愛情表現なのだ。
今も千聖はからかわれたことで怒りだし、ただでさえ丸い顔を含まらせて破裂寸前の風船になっている。

「そんなんじゃないっつうの。どうして舞ちゃんは僕を挑発するかな。君ね、可愛くないよ。そんなんだからリアルせん・・・」
「ストップ。それ以上言うとあんたにジャーマンスープレックスかけるからね」
「よぉし、やってやろうじゃないの。僕も新技開発してるから、実験兼ねてここで試合してもいいよ」

 肩にかけていたバッグを床に下ろし、上着の裾を捲り上げ、千聖はいつでも来いとばかりにポーズを取る。
対して私も、挑戦者からの果し合いを受けて立つチャンピオンばりの余裕の笑みを浮かべる。
身長を抜かしてしまってからは力が弱いと言っても、千聖を抑えつけるくらいのことは簡単だ。

「さぁどっからでもどうぞ、ち・さ・と。舞は負けないよ」
「おうし、いくぞ。とお~りゃ」

 千聖は自慢の脚力を生かし、一気に舞と何メートルも離れていた距離を走り近づいてきた。
お姉ちゃんも早いけど、今なら千聖も早くなっていい勝負になるかもしれない。
と、そんな事を考えているべきではなかったと後悔してしまった。
千聖が舞のすぐ目の前に立ち、今度は千聖が余裕の笑みを浮かべていた。

「捕まえた。残念だったねぇ~ウシシシ。では、舞ちゃんに僕の新技を味わってもらうかな。くらえ」

 何かされる、その恐怖で一瞬目を瞑ってしまった私は、次の瞬間に起きた出来事に驚いた。

「うぅ・・・」

 私の頬っぺたに千聖の唇が触れたのだ。
プロレス技がかけられると身構えていた私にとって、これは予想外で心臓が止まるほどの衝撃があった。

「誕生日おめでとう、舞ちゃん」
「あ、あぁ・・・」
「何そんな声出してるんだよ。あ、もしかしてプロレス技じゃなくてがっかりしたとか?」

 参った、普段からかいあって最後に悔し涙を飲むのは千聖と決まっていたのに、今回ばかりはしてやられた。
この萩原舞を出しぬくなんて千聖を侮っていたかもしれない。

「あははは、舞ちゃん今の自分の顔を鏡でみてみなよ。間抜けだからさ」
「くぅ~よくもやってくれたな~今度は覚えてろよ。いつか仕返ししてやるから」
「待ってるよ。その時にはこっちはもっと腕磨いてるから負けないよ。へっへっへ」

 千聖はしてやったりと勝ち誇った顔をするので、私も売り言葉に買い言葉を返してしまう。
キスしてもいい雰囲気にならないのが、私と千聖らしくて本当笑える。
私も千聖ももう少しでも大人だったら、こうはならないだろうけど、今はまだこのままでもいいと思う。
私には私の成長のスピードがあるし、千聖のスピードがある。
いきなりお姉ちゃんたちと同じようにはなれっこなんてないんだから、焦らずにゆっくりでいいから、大人になっていけばいい。

「ぷっ、ばぁ~か。あんたのその顔の方がよっぽど面白いんですけどぉ~」
「よく言うよ。そっちの顔の方が面白すぎてたまらないんですけどぉ~」

 しばらく睨めっこ状態が続いた後、私たちはお互いの顔を見合っているうちに笑いだしてしまった。
こういうのもまた私たちらしい。
心の底から笑い合った後、さすがに廊下にずっといるのは凍えるのでお開きになった。

「舞ちゃん、おやすみ。また明日ね」
「うん、おやすみ。また明日ね」

 ファンの人たちに祝ってもらえただけでなく、一日の最後に大好きな人に祝えてもらえて嬉しかった。
しかも想像もしていなかった誕生日プレゼントつきでのお祝いだったから、忘れたくない夏ならぬ忘れたくない”冬”って感じだ。
忘れようとしても忘れられるはずはないとは思う。
千聖が部屋の中へ入っていく後姿を見送り、私は自分の部屋のドアを開けた。

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