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「Wake Up . The ヒーロー その1」(2008/10/04 (土) 23:58:14) の最新版変更点
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**Wake Up . The ヒーロー その1 ◆hqLsjDR84w
シグマによって用意されし、四つのコロニーから成るバトルロワイアルの舞台。
四つのうちの一つ、左上のコロニー=所々に鉱山のそびえ立つ雪原ゾーン。その一画、エリアB-3。
そこの東側、今では瓦礫と化した民家前の通路をリングに二人の――いや正確には二体の男達の戦闘が、いま開幕のゴングを鳴らそうとしていた。
互いに睨み合い、言葉はないがギスギスとした雰囲気。ピシィと、空気が張り詰めている。
緊張感が、静かにだが確実に辺りを侵食していく。
常人ならば、存在することすらいたたまれなくなり、この場からの逃走を企てることであろう。
――とは、言ったもののだ。
生憎か、幸運か。偶然か、必然か。
このバトルロワイアルには常人は呼ばれておらず、このエリアに『常人のような感覚を持ったモノ』は存在しなかった。
「はッ! 不意打ちしかけといて何を言うかと思えば、戦えだあ?
言われなくても、テメェはこの俺がじきじきにぶちのめす! そうしねえと、こちらの気が収まりそうもないんでな!」
額からは真赤な巨角を生やし、緑色の複眼を持つ男が、右腕で空中を薙ぎ払いながら叫ぶ。
その言葉の節々から、堪忍袋がプッツンきていることが推測できる。
黒いボディスーツと赤いプロテクターに身を包んだ、その男の名は城茂――いや、この姿の時の名は、仮面ライダーストロンガー。
悪の組織に対抗するべく、自らの意思で改造手術を受けた電気人間である。
「だが、その前にこっちの質問に答えてもらおうか! なんでテメェが、T-1000……っつっても、分かんねえか。
なんでテメェが、シグマの影武者と俺が戦ったことを知ってやがる!?」
ストロンガーが先ほどから言葉を投げつけている相手、つまるところ怒りの対象は目の前の少年。
赤い髪を石製の髪飾りで掻き上げた、上半身裸で右腕に奇妙な箱を装着している少年の名は、ナタク。
太乙真人の作り上げた宝貝『霊珠』を胸に埋め込み、核としている宝貝人間であり、蓮の花の化身である。
「……知りたければ、俺を倒してみろ」
ストロンガーとの戦闘を前にうずうずしていたナタクが、相手の都合など知ったことかとばかりに言い放つ。
一瞬にして、大気が凍ったかのような緊迫感が、周囲に漂う。
それまでゆっくりであった緊張感の侵食速度が、一気に加速する。
期を伺っているのか、動かないストロンガーをよそに、ナタクは右腕を前に向ける。
■
何やら目の前の男――城茂か、はたまたT-800か――が、ぐだぐだと問いかけてくる。
……下らぬことに拘る奴だ、鬱陶しいことこの上ない。
話してやるのは別にかまわないが、話し出せばいつまで会話が続くだろうか。
時間が無駄でしかない。役に立ったのは、シグマの影武者が『T-1000』というらしいことくらいか。
早く戦いたいというのに、まったく面倒な男だ。
ゆえに、告げる。
俺を倒せば教えてやる、と。
男が黙る。
了解したということだろう。
そう認識し、M.W.S.を構える。
――シグマの影武者と戦い、放送を待つまでの間に知った新たな力を使ってみるか。
シグマの影武者との戦闘後、探知機に示された光点の場所に来るには、放送までの時間が足らなかった。
だから放送を聞くまで移動を行わなかったが、いざ待ってみればすぐに暇になった。
そこで暇を潰すためというワケでもないが、俺は未だ詳細のよく分かっていないM.W.S.についての説明をPDAに表示させた。
それを読んでみれば、何とも興味深いことが分かった。
――M.W.S.は、射撃用以外の武器も搭載している。
最初に読んだときは、『ビームランチャー』、『ボム』、『電磁ロッド』などの単語を流し読みしただけだった。
その為に気付かなかったし、あの時気付いても使う気は起こらなかっただろうが、今は別だ。
そう、燃料を気にせねばならない今は。
射撃用以外の武器は、燃料を気にせずに使える。
実に、都合がいい。
撃って撃ってひたすら撃つ武器も好きだが、近距離タイプの武器が使えないワケではない。
太乙真人に、俺用に改造させた『火尖槍』を手に入れてからは、近距離用の修行も積んでいる。
かつて、宝貝を飛び道具としか認識していなかった頃の俺とは違う。
火尖槍のように中距離戦闘までこなせはしないが、この武器ならば修行の成果が多分に発揮できそうだ。
頬が緩むのを感じるが、知ったことか。止められるわけがない。
■
「――『スペルブレード』」
ナタクがそう呟いたのと同時に、ナタクが右腕に装着している箱の先から、鋭利な刃が飛び出す。
刃自体の長さは、通常よくある剣の刀身とさほど変わらない。
されど、もとより箱自体が巨大なことにより、リーチは結構な長さになる。
……既にお分かりであろうが、ナタクが装着しているのはただの箱ではない。
数多の武器を内蔵し、非力な人間でも使用可能な武装なのである。名称はMultiple Weapon System、略してM.W.S.。
「何だと!?」
一見ただの箱に見えるM.W.S.から刃が現れるなどと考えてもおらず、ストロンガーは驚愕。一瞬、ナタクへの対処が遅れる。
構わずに、ナタクは地面を蹴って距離をつめる。
しかし、ここは幾つもの悪の組織を叩き壊してきた歴戦の猛者、仮面ライダーストロンガー。
動作が遅れた時点で回避することを放棄して、振り下ろされたスペルブレードを右の前腕で受けることにする。
スペルブレードの刃が、ストロンガーの腕に接触。同時にキィンと甲高い音。
だが派手に響いた音とは裏腹に、スペルブレードの刀身にもストロンガーの右腕にも傷はない。
「面白い」
誰にともなく言いながら、数メートルほど後ろに跳ぶナタク。
当然ながら、スペルブレードも引き戻される。
力をかけていた対象の突然の喪失に、ほんの少しストロンガーの体勢が崩れる。
その隙を狙い、ナタクが再び地面を蹴って距離を詰める。
体勢を立て直したストロンガーの瞳に映ったのは、横凪に振るわれたスペルブレード。
背中を反らすことによって回避するも、返しの二撃目を防ぐことは不可能。
だが、不可能を幾度となく可能として来たのが、仮面ライダーという名の平和と自由の為に戦う戦士達――!
背を逆海老に反らした状態で、ストロンガーは両足に力を込める。
そのまま、両足で地面を蹴り上げることで跳躍。
勢いを両足に乗せて、一気に蹴り上げる。
「おおおおおッ!!」
両足でのオーバーヘッドキック。
がむしゃらに放たれたストロンガーの蹴りは、迫ってきていたスペルブレードへと直撃。
スペルブレードを生やしたM.W.S.ごと、右腕が上空に引っ張られるナタク。
吹き飛んでたまるかと、踏ん張りをきかせるが――――それが仇となる。
右腕は引っ張られ、両足は地面に全ての力を。
ゆえに、ナタクのボディはがら空き。
そんな隙を逃すストロンガーではない。
今度はこちらの番と言わんばかりに、体勢を立て直したストロンガーは回し蹴りをナタクの脇腹に叩き込む。
「がァあ……」
強烈な一撃にナタクの表情が歪み、苦悶の声を上げる。
ストロンガーの蹴りの威力は凄まじく、ナタクは思いっきり吹っ飛んでいく。
その先には、民家。
ナタクの奇襲によって倒壊した物よりも、遥かに巨大な品の良さを感じさせる豪邸。
このままではナタクはそこに突っ込み、その衝撃により崩れるであろう豪邸の瓦礫に潰される。
そう思って、吹き飛んでいくナタクをただ見ていたストロンガーが、不意に怪訝な声を上げる。
豪邸に激突する寸前で、白い何かがナタクを掻っ攫っていったのだ。
疑問に思うストロンガーに、頭上から声が浴びせられた。
「やってくれたな」
ストロンガーにとって、明らかに聞き覚えのある声――さっきまで戦っていた相手と限りなく似ている。
唐突に起こった予想外な事態には、考えるよりも先に体が動く。
それは、改造人間であろうと、電気人間であろうと、意思持つモノ全てが持つ普遍の本能。
思いっきり上に首を捻ったストロンガーの視界に入ったのは、やはり先ほどまで戦っていたナタク。
無表情な彼にしては珍しく、頭に血が上っているということが表情から読み取れる。
そして、ストロンガーの複眼に映ったのはナタクだけではない。
ナタクともう一つ、それは――――
「上……なァ!?」
ナタクを乗せた巨大な白い犬――宝貝『哮天犬』であった。
(あの犬は……! そういや、最初に不意打ち吹っかけてきやがったのもあの犬じゃねえか!
ちいッ、あの野郎自身が仕掛けてきやがったから、犬にまで気が回らなかったぜ……ッ)
「死ね」
混乱しつつも、思考を落ち着かせようとしていたストロンガーに浴びせられたのは、ナタクの無慈悲な死刑宣告。
たった二文字の言葉なのに、それを言い終えるより早くに、ナタクの持つM.W.S.からは無数の光線が射出されていた。
■
あの野郎の装着した箱から、数多の光線が俺目掛けて発射される。
さっきまでの剣は、内部に収納されたのか?
剣が仕込まれただけの篭手かと思っていたが、それだけじゃねぇみたいだな。
……他にも、何か仕込まれてねえとは言い切れねえ。
警戒して然るべき、だな。
つっても、何が入ってるか分からねえ以上、具体的な案は思い浮かばねえが。
「――ッ!?」
気付けば、背後には豪邸。
もちろんぶん殴れば、余裕で壊せる。
だが、そんなことしてる暇はない。
そんなことをしていたら、一秒にも満たないだろうが隙が生まれる。
そうすれば、さっきから滅茶苦茶に飛んできてる光線が、俺に当たっちまうだろう。
やれやれ、本当にやれやれだ。
がむしゃらに撃ってるだけかと思いきや、なかなかに考えていやがる。
だが……これじゃあ、仮面ライダーの命を狙うにゃあ甘すぎるな!
「トゥ!」
一度、ジャンプ。
さっきまで俺のいた場所に光線が命中、幾つもの穴が空く。
さて、空中で野郎の方を見れば……けッ、笑いやがった。
「死、ね」
銃口をこちらに向けての一言。
テメェの乗ってる犬みたいなんを持ってない俺が、空中で身動きが取れるワケ無ぇってか? 馬鹿が。
「ぬうゥんッ!」
豪邸の壁を蹴って、空中で方向転換。
野郎の放った光線を回避する。少し掠ったが、軽すぎる痛み。何も問題ない。
方向転換した今の進行方向は、野郎とは離れた方向。
まさかこっちに行くとは思ってなかっただろ?
ある程度移動したところで、両手を握りしめて掴む。民家の周囲にあった電線を。
普通の人間やただの改造人間なら、電線なんか触ったらひとたまりもないだろうが、俺は別だ。
野郎の方を見れば、こちらに銃口を向けている。
何をするか分からねぇが、とりあえず殺すってことかい。
はッ、いいぜ。仕掛けてやるから、目ェ見開いてじっくり見やがれ!
逆上がりの要領で回転して手を離す。地面に向かって勢いよく落下していく俺、その頭上を野郎の光線が飛んでいく。
回避成功だが、野郎の銃口は俺を追っている。
だがよ、銃ってのは……撃たせる前に叩くのが定石だろうがァ!
「エレクトロサンダァアアアーーーッ!! とォッ!」
着地した俺が、即座に両手から火花を散らして電撃を放つ。
空中を奔って、野郎の真上に集う電気エネルギー。
目に見える速度で、電気エネルギーが拳大の小さな塊へと集束していく。
野郎がそっちに目がいってる間に、こちらはまたジャンプさせてもらおうか。
それまで、バチバチと音を立てていた電流の塊が静かになった途端、極大極太の雷となって野郎を襲う。
咄嗟に野郎の乗った犬が空中を駆けて、ギリギリで回避。
だろうな。あの犬の機敏さは、さっきので分かってたぜ。
だから――――さっきのエレクトロサンダーには、大して力を込めてはいない。『避けさせるため』の技さ。
既に俺は、跳躍している。今度はまっすぐ、野郎目掛けてだ。
エレクトロサンダーを回避し、犬を静止させた野郎と目が合う。
会ってからずっとムッツリしてたくせに、珍しく驚きが顔に出てるじゃねえか。
この距離じゃ、犬を動かすのも無理だろうが……
こんな下らねえ殺し合いに乗る奴になんか、容赦はしねえし、出来ねえな!
「ストロンガァァアアーー! 電キィィイイイイーーーック!!」
■
少し前にストロンガーの放ったエレクトロサンダーをも上回る轟音が、周囲に響き渡る。
大地を揺らすほどの衝撃も同時に生まれたが、急にそれまで騒々しかったエリアが静かになった。
「……ちッ」
動くものすらなかったその場で、最初に動いたのはナタクであった。
不機嫌そうに舌を打つと、もたれかかっていた哮天犬から起き上がる。
空中で静止していたはずの哮天犬は、地面に落下したナタクを支えるために地面へと降りてきている。
「テメェ、何をしやがった……ッ」
ナタクが立ち上がって一秒と経たぬ間に、最初のナタクの奇襲でできた瓦礫の中からストロンガーが現れる。
ストロンガーは驚愕と怒りの混ざった語気で、疑問を吐き捨てる。
ナタクは答える素振りを見せず、M.W.S.を装着した右手をストロンガーに向ける。
「電……パァアアンチ!!」
ストロンガーは喉を鳴らすと、拳を握り締めて駆け出す。
電撃を纏ったストロンガーの右ストレート。その行く先には、ナタクの顔面。
発光しながら迫る拳を確認したナタクは、M.W.S.の電磁ロッドを展開する。
電磁ロッドから発せられた電気エネルギーを、M.W.S.に覆われた右拳に纏わせるナタク。
「『イナヅマブロー』……!」
そう呟いて、ナタクが右ストレートを放つ。
電気の覆われた拳同士がぶつかり合い――またしても、接触と同時に轟音。
結果、ストロンガーもナタクも後方へと吹っ飛ばされる。
「ガあッ!」
「……ちッ、またか」
苛立ちながら呟いたナタクの言葉に、ストロンガーは理解する。
渾身の力を込めた電キックも、いま放った電パンチと同じく、電磁ロッドより展開された電気エネルギーに相殺されたのだと。
ストロンガーの推測は、当たっている。
ナタクがストロンガー渾身の電キックに気付いた時点で、哮天犬を駆動させての回避は不可能とナタクは判断した。
そこで、ナタクはPDAの説明で知った、『イナズマブロー』という電磁ロッドから発した電気エネルギーを纏わせたパンチを放ったのだ。
イナズマブローと電キックに纏われていた電気エネルギーは、ほぼ互角。
結果、互いに相手を吹き飛ばしながら、相手の攻撃に吹っ飛ばされたのだ。
これは、ストロンガーのポテンシャルとM.W.S.の電磁ロッドの性能が互角というわけではない。
確かに、M.W.S.は元来戦闘する力を持ち得ぬ者でも、人外と戦闘可能な実力者にするほど優秀な武器だ。
それでも、である。ストロンガーとM.W.S.、そしてM.W.S.を操るナタク。
全てが万全の状態であったならば、『電気』の技という観点ではストロンガーの圧勝であろう。
超電子の力に頼らずとも、スペックに加えて数多の戦闘経験が武器となる。
しかし、ストロンガーは休息を取ったとはいえ、T-1000とマルチから受けたダメージが残っていて万全ではない。
対して、ナタクの持つM.W.S.はどこも故障しておらず。ナタク自身も大したダメージはない。
むしろ、こんなコンディションで互角の技を放ったストロンガーは、大したものなのだ。
……とは言っても、そんなことはバトルロワイアルには関係がない。
生憎バトルロワイアルは、万全の相手同士が正々堂々闘う格闘技トーナメントではないのだ。
「使ってみて分かったが、どうも電気は好かん――『スペルブレード』」
ナタクが電磁ロッドを収納し、刃を展開。
M.W.S.のモードをスペルブレードへと変化させる。
「くッ!」
振り下ろされたスペルブレードの横腹を、右の裏拳で叩いて軌道をずらすストロンガー。
ストロンガーが空いている左拳で、ナタクの顔面にフックを打ち込もうとするが、M.W.S.のボックス部分に阻まれる。
そのまま、押し合い。力比べの形になる。
暫し経過し、両者が背後に飛ぶことで力比べは終局する。
幾度目かの睨み合い。今度は、ストロンガーが仕掛ける。
「電チョップ!」
ストロンガーは電気エネルギーを右掌に纏わせ、手刀の形状のままナタクに打ち込もうとする。
が、それは腕をスペルブレードの横腹で叩かれることで、ナタクに届くことなく終わった。
バチリと軽快にスパーク音を立てたが、腕にまでは電気が及んでいないので、スペルブレードを電流が伝うことはない。
痺れないことを確認したナタクがニィと笑みを浮かべ、ストロンガーの右腕に沿ってスペルブレードを移動させて、ストロンガーの斬首を狙う。
ストロンガーは、勢いよく首を曲げる。スペルブレードの刃は、空気を切断するに終わる。
返しの袈裟懸けを行う前に、ストロンガーは横っ飛びで一旦距離をとり、二撃目を放ち隙の出来たナタクへと飛び掛る。
◇ ◇ ◇
互いに、勝負を決める一撃を決めることが出来ない。
ときどき放たれる決め手はことごとくが回避、或いはいなされ続ける。
もしや永遠に終わらないのではないか――そう思われていた戦闘に、異変が生じ始めた。
「おッ……らあ!」
歯を軋ませながら、大振りの右フックを打ち込むストロンガー。
しかし、軽々とナタクに回避されてしまう。
ストロンガーの動きは、少し前より格段に精彩を欠いてきている。
ストロンガーにスペルブレードによる斬撃が少しずつ決まり出し、少しずつストロンガーの全身に切り傷が刻まれていく。
対するナタクには、大して変化はない。
戦闘開始から新たに生まれた傷も、始めのほうにストロンガーから受けた回し蹴りの分くらいだ。
一気に勝負が傾き始めた理由は――
(ちィ、T-1000の野郎から受けた腹の傷が開いてきやがった……!)
ナタクとの戦闘より前に受けた傷。
ストロンガーは、思案する。勝利する方法を。
『切り札』である超電子ダイナモを使い、超電子人間となる――その案は既にストロンガーが考えた後だ。
しかし、ストロンガーは未だ電気人間のまま。
何故か。
制限時間が短くなっているから? 違う。
たとえ制限時間が短かろうと、一度チャージアップすれば確実に相手を倒しきる自身をストロンガーは持っている。
ならば、なんでなのか。それは――
(こんなボロボロの状態で、超電子ダイナモが起動するかどうかが分からねえ。
最悪なのは、『チャージアップできない』ことじゃない。『チャージアップしようとして出来ない』って事態だ。
超電子ダイナモを起動させる際の隙は、チャージアップ出来たなら余裕で回収できるが、出来なければ……)
そう、ダメージの多さと連戦の疲労のため、チャージアップ出来るかどうかが疑問なのだ。
だが、ストロンガーは諦めない。勝利の可能性を高める方法を考える。
「しま――!?」
ストロンガーが、素っ頓狂な声をあげる。
考え事をしていたため、ストロンガーの足元が疎かになっていて、その隙をナタクは逃さずに足をかけたのだ。
体勢を崩すストロンガー、すぐに体勢を立て直そうとするが――怪我と疲労ゆえに足を踏み外す。
ナタクがスペルブレードを振りかざす。
ストロンガーはそれに気付くも、バランスの取れない状態では反撃も回避も不可能。
スペルブレードを斜め下に振るおうと、ナタクが右腕に力を込める。
――――このとき、両者は目の前の相手との勝負だけに、全神経を集中させていた。
――――――もはや瞳は目の前の男だけを捉え、鋭く研ぎ澄まされた神経は攻撃と防御だけに。
――――――――だから彼らは、本来ならばすぐに気付くことに、二人とも気付くことはなかったのである。
――――――――――凄まじい速度で接近してくるエンジン音にも。只者ではないことをアピールしてくる気配にも。
ドッガァァアアアアアアンッッツ!!
耳をつんざく鈍い音。
ナタクとの戦い以外に思考が回っていなかったストロンガーが、その音で我に返る。
それまでナタクしか映っていなかったストロンガーの視界に、入り込んだのはナタクではない別の男。
黒いボディスーツに身を包んだ、筋骨隆々の白人男性……の姿をしたロボット――T-800。
彼は、ストロンガーにスペルブレードを振りかざしていたナタクを発見。
即座にナタクを排除すべき対象と判断し、彼の運転していた特殊バイク『テントロー』のハンドルを思いっきり持ち上げた。
テントローはウィリー運転の形となり、そのままの勢いでナタクに体当たりをぶちかましたのだ。
万に一つどころか、兆に一つも考えていなかったT-800の奇襲に、ナタクは哮天犬を呼び出すことすら出来ずに、豪邸へと突っ込んでいった。
助けられたとはいえ、突然の事態に目を白黒させている――緑色の複眼だが――ストロンガーをまじまじと見つめ……
何事もなかったかのように、T-800は口を開いた。
「ダメージが多いようだな、茂」
「……見れば分かんだろうが」
パンとT-800の肩をストロンガーが叩く。
その行動には、T-800への感謝の意が含まれていたのだが、T-800は気付いていないようである。
ストロンガーはそのことを察したようだが、わざわざ説明するガラでもねえや――などと一人で呟いた。
◇ ◇ ◇
T-800が前方、ストロンガーが後方の陣形で、二人がナタクの突っ込んだ豪邸へと入り込む。
ナタクがT-1000を知っているようだと、ストロンガーから聞いたT-800が、ナタクから情報を聞き出そうと言い出したためだ。
ストロンガーも、殺し合いに乗っていると思われるナタクを見逃すわけにはいかないと、T-800に同意した。
ちなみに室内での戦闘になるということで、テントローは邪魔になると判断され、ストロンガーのPDAに戻してある。
あえてナタクが突っ込んだ穴ではなく、別の窓を破って入り込んだ二人。
彼らの間に会話などは一切ないが、ちゃんと事前に割り振ったとおり、一方が警戒を払い切れない場所をもう片方が警戒する。
両者とも自分以外を気にかけたりするタイプではないのだが、二人とも修羅場を潜っているためか。
即席タッグにしては、なかなかに息の合ったチームである。
■
四肢に力を込め、壁に埋まった体を少しずつ抜き出していく。
やっと両腕が壁から開放された。
あとは両腕に力を込めて一気に――よし、脱出できたな。
あの男、やってくれたな……!
城茂かT-800か、どちらがどちらか分からんが、どちらも面白い。
においは消えてはいない。
おそらく俺が生きているのかを確かめに来るはずだ。
その時に決める、殺す。
パリィン、カツリ、カツリ、カツリ、カツリ……――――
何かが割れる音、そして足音。
忍んでいるつもりかもしれないが、聞こえているぞ。
確実に、近づいてきている。
俺が突っ込んだ穴を知っているのだから、当然か。
フン、むしろ好都合だ。
M.W.S.を構え、『スペルブレード』を展開。
城茂とT-800、さあ来い……!
■
最後に残った部屋の前で、ストロンガーとT-800が顔を見合わせる。
数秒経ったところで、二人同時に頷いて――ストロンガーが部屋のドアを蹴破った。
同時にT-800がストロンガーの前に割り込み、部屋の中へと発砲。
一発目、正面。二発目、右上。三発目、左上。四発目、左下。五発目、右下。
それだけ引き金を引くとT-800がしゃがみこみ、かがんだT-800の上をストロンガーが飛び越える。
そのままの勢いで、電撃を纏わせた拳を振り上げて部屋に飛び込んだストロンガー。
「電パァアア――――何ッ、いねえ!?」
ストロンガーは、空中で拳を振りかざしたまま驚愕する。
そのストロンガーに声がかけられる。方向は――背後。
即ち、ドアのあった場所にいるT-800と部屋の中にいるストロンガーの間。
「残念だったな」
ストロンガーが空中で腰を捻って移動しようとするも、スペルブレードをナタクが横凪に振るう方が早い。
勝利を確信したナタクが口角を吊り上げ、ストロンガーは一発食らうのを覚悟する。
――しかし、ストロンガーの身に刃が入ることはなく。
「貴様……ッ」
焦りの含まれた声は、ナタクの口から漏れたもの。
次いで、ナタクが壁に激突する音。
ドアの前にいたT-800が、ストロンガーに切りかかるナタクに飛び蹴りを放ったのである。
すぐに立ち上がったナタクが、今度は乱入者であるT-800目掛けて駆ける。
T-800の着込むライダースーツの脚部には、スタンガンが仕込まれている。だが、ナタクを痺れさせるには弱すぎた。
体勢を立て直したストロンガーが、T-800とナタクの間に割り込もうとするが、間に合わない。
スペルブレードの刃が、T-800の胸部から腹部を斜めに切り刻んだ。
「この程度の電撃では、ダメージを与えられんか」
何事もないようにそう言いながら、倒れるT-800。
大きな斬撃の痕からは、火花が飛び散っている。
「T-800!? おおおおおおおおッ!!」
間に合わなかったストロンガーが、勢いのままナタクに右ストレートを放つ。
ナタクはM.W.S.のボックス部で受けるが、今度はストロンガーの左フックがナタクの顔面を襲う。
舌打ちしながらナタクが、後ろに跳ぶ。
逃す気などさらさらないストロンガーも床を蹴って、ナタクを追う。
跳んだ先で、ナタクは背に違和感を感じ取った。一瞬、視線を背後に投げればそこは壁。
これ以上逃げ場はなく、前方からはストロンガー。
ナタクが意図せずとも、ナタクの顎に力が込められ歯が軋む。
チャンスとばかりに、ストロンガーが渾身の右ストレートを打ち込む。
咄嗟に首を曲げるナタク。ストロンガーの右ストレートは、先ほどまでナタクの顔面の背後にあった壁に激突し――
当然ながら、いかに豪邸とはいえ、ストロンガーのパワーに壁が耐え切れるはずもなく。
哀れ、壁は粉々に砕け散ってしまった。
◇ ◇ ◇
「くそったれッ!」
破砕して塵埃となった壁の所為でナタクを見失ってしまい、ストロンガーが悪態をつく。
――己の背後に探しているナタクがいるのだとも、気付かくことなく。
ナタクは『におい』で相手の位置を大まかにだが、把握できる。
これだけ近くならば、間違えることはない。
相手の居場所を探知する『カブトキャッチャー』を使用しようとしているストロンガーに、ナタクが左腕を伸ばす。
ストロンガーは第六感――いや、不自然な煙の動きに気付いたため、背後にナタクがいることを知る。
横っ飛びで距離を取ろうとするが、それより早くナタクがストロンガーの首根っこを掴んだ。
ナタクの身長はストロンガーと比べて低いとはいえ、腕を伸ばされてしまえばストロンガーの足は地面に着くことはない。
「ガ――ッ、テメェ……!」
「かつて粉塵で相手を惑わして、相手の背後を取ったことがある。
何故だか分からんが、あの時はどうにも自分で勝った気がしなかった。だが……、今回は違う」
ナタクが右腕のスペルブレードを構え、ストロンガーに押し付けようとする。
ストロンガーの背に冷たい感触。
やられる……そんな考えがストロンガーの脳裏を過った瞬間、ストロンガーの首にかかっていた力がゼロになり、そのまま重力に任せて落下する。
何が起こったのか理解できないストロンガーが、ナタクがいたはずの方向に視線を向ける。
そこにいたのはナタク、そしてナタクを羽交い絞めにしているT-800。
「無事だったのか、T-800!」
「切れ味のいい刃物だったようだが、金属骨格部にまで攻撃は届いていなかった」
ストロンガーの疑問に答えながら、さらに両腕でナタクに力を込めるT-800。
そうなのだ。スペルブレードによる斬撃は、人体と同種の細胞組織で出来たT-800の表面を刻んだだけであった。
その程度のダメージは、T-800にとって存在しないのと同義であった。
倒れたのは、ナタクの攻撃を受けた際の衝撃ゆえのこと。
T-800はすぐに立ち上がったのだが、ストロンガーもナタクも見てはいなかった。
その後、ストロンガーのサポートに移ろうとしたが、粉塵が家中に漂い出した。
だが、T-800には何の意味も成さない。
T-800の瞳――否、それは義眼。
義眼の奥の超小型レンズ付き高感度ビデオセンサーは、温度を感知して物体の位置を感知できる。
それを行使して、T-800はストロンガーに襲い掛かるナタクを視認したのである。
「ちィ……!」
ナタクが全身に力を込め、T-800の拘束から抜け出そうとするが、T-800は微動だにしない。
人間で言えば少年と呼んでも違和感がないくらいの身長だが、ナタク
の腕力は決して弱くはない。
並以上の仙人でさえ、持ち上げられてしまえば抵抗できないほどだ。
その力をもってしても揺らがぬほどに、T-800のパワーは凄まじいのだ。
「茂、この参加者からT-1000の情報を聞き出す。
暴れられたり、逃げ出したりされては困る。動かなくなる程度に、ダメージを与えてくれ」
「ああ、分かってるさ」
立ち上がったストロンガーが、拳を握り締めて右腕をグルグルと回す。
T-800とストロンガーは、勝負が決まったと思っていた。
そう――――思い込んでいた。
「T-800ッ! そいつから離れろ!」
急にストロンガーが、大声をあげる。
ストロンガーは気付いたのだ、それまで刃を出していたM.W.S.の形態が変化していることに。
その形態をストロンガーは知っていた。
――ビームランチャーを放つ際の形態である。
「逃げるだと……!? フン、ナメるなよ!」
ストロンガーがナタクに飛び掛ろうとし、T-800はストロンガーの尋常ではない様子にナタクから距離をとろうとする。
だが、どちらも遅い。
ナタクは既に、T-800が『逃げ出したりしては困る』と言った時点でキレている。
ナタクの装着したM.W.S.から、ビームランチャーが射出される。数発で終える気などない。撃ち続ける。
T-800に羽交い絞めにされていたので、右腕は下を向いていたが、すぐに床はビームランチャーにより喪失。
足場をなくしたT-800が体勢を崩し、ナタクを解放してしまう。
T-800と同じく足場をなくしたナタクだが、ナタクは足場のない状態での戦闘には慣れている――むしろナタクが最も得意とする状況。
空中で体を捻って回転、上を見据えるナタク。
落下したT-800を心配して、ビームランチャーによって生まれた穴を覗き込んでいたストロンガーが、ナタクの視界に入る。
ナタクがストロンガーに右腕を向けて、撃つ、撃つ、撃つ。
ストロンガーは、それを回避。回避されたビームランチャーは、豪邸の壁や屋根を破壊していく。
ナタクは撃つのをやめようとせず――三つ数えるよりも早く、豪邸がミシミシと不吉な音を奏でだす。
まもなく倒壊する――さすがに、それに気付いたナタクが呟く。己を救い出してくれるであろう宝貝の名を。
同時に、外で待機していた哮天犬が、豪邸へと突っ込んでナタクの眼前まで直進する。
哮天犬が突っ込んだ衝撃で、豪邸が傾く。
もう一度何らかの衝撃が加えられれば、崩れてしまうのは明白。
子供でも推測できる有様であったが、ナタクは気にも留めず。
哮天犬の尾を掴むと、哮天犬を操作して豪邸の屋根を突き破って脱出した。
メキ、メキャ……ガッシャアァァアァァァアアアアン。
豪邸の前の通路にナタクが降り立ったとき、既に豪邸は豪邸という名ではなく。
『瓦礫の山』と名を変えていた。
■
豪邸が嫌な音を出し始めた。野郎が、主柱でも幾つかぶっ壊していったか。
またあの犬か……ありゃあ、主人の危機にやってくる忠犬ってやつかね?
倒壊までどれだけあるか。早く脱出しなくちゃならねぇ。
野郎を逃がすわけにはいけねえしな。
だが、T-800はどうする。
T-800は床の下に落とされちまった。T-800のことだから、やられちゃいないだろうが……
考えたのと同時に、体は動いていた。
野郎が床に空けてきやがった穴に飛び込む。
「T-800! 助けに来たぜ! 出てこい!」
叫んでみたが、返事はない。
何故だ? まさか――最悪の可能性が脳内に浮かんでくるが、T-800の死体はない。
ならば……?
必死で首を捻って、周囲を見渡す。T-800の名を叫ぶのも忘れない。
すると、入ってきた穴とは別に、光が射し込んでくる場所があるのを発見する。
走ってみれば、明らかに誰かがブン殴って空けたとしか思えない穴。
こりゃあ……既に自分で脱出してたってワケかい。
わざわざ倒壊寸前の建物の中で、無駄なことをしてたと思うと泣きたくなる。
T-800の空けた穴をよじのぼって、床下から脱出する。
ここは……居間か。俺の記憶が正しければ、家の真ん中じゃねえか。
メキ、メキャ……
何かが軋む音が聞こえた――『何か』と言っても、何が音を立てたのは分かるがな。
見てみれば、壁全体にヒビが入ってきてきている。
やれやれ、本格的にヤバくなってきたみてえじゃねえか。
俺がそう毒づいたのと、同時だった。
落下してきたシャンデリアに反応できず、後頭部にモロに受けてしまい、膝が地に付いたのは。
一瞬、視界がホワイトアウトし、意識が飛んだ。持ち直したとはいえ、まだクラクラする。
意識を落とした所為か、変身が解除されちまった。
早く脱出しなきゃならねえ。普段ならばすぐに出て行けるが、シグマのクソッタレに何かしらをされた今の状態では……
くじけそうになる心に喝をいれて、身体を無理矢理動かそうとして立ち上がったと同時に、轟音と共に天井や壁が砕けて俺に降り注いできた。
ヤベえ、回避できねえ。変身も間に合わない、駄目だ――――死ぬ。
ガッシャアァァアァァァアアアアン。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
Back:[[愛しい人は今どこに?]] Next:[[Wake Up . The ヒーロー その2]]
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**Wake Up . The ヒーロー その1 ◆hqLsjDR84w
シグマによって用意されし、四つのコロニーから成るバトルロワイアルの舞台。
四つのうちの一つ、左上のコロニー=所々に鉱山のそびえ立つ雪原ゾーン。その一画、エリアB-3。
そこの東側、今では瓦礫と化した民家前の通路をリングに二人の――いや正確には二体の男達の戦闘が、いま開幕のゴングを鳴らそうとしていた。
互いに睨み合い、言葉はないがギスギスとした雰囲気。ピシィと、空気が張り詰めている。
緊張感が、静かにだが確実に辺りを侵食していく。
常人ならば、存在することすらいたたまれなくなり、この場からの逃走を企てることであろう。
――とは、言ったもののだ。
生憎か、幸運か。偶然か、必然か。
このバトルロワイアルには常人は呼ばれておらず、このエリアに『常人のような感覚を持ったモノ』は存在しなかった。
「はッ! 不意打ちしかけといて何を言うかと思えば、戦えだあ?
言われなくても、テメェはこの俺がじきじきにぶちのめす! そうしねえと、こちらの気が収まりそうもないんでな!」
額からは真赤な巨角を生やし、緑色の複眼を持つ男が、右腕で空中を薙ぎ払いながら叫ぶ。
その言葉の節々から、堪忍袋がプッツンきていることが推測できる。
黒いボディスーツと赤いプロテクターに身を包んだ、その男の名は城茂――いや、この姿の時の名は、仮面ライダーストロンガー。
悪の組織に対抗するべく、自らの意思で改造手術を受けた電気人間である。
「だが、その前にこっちの質問に答えてもらおうか! なんでテメェが、T-1000……っつっても、分かんねえか。
なんでテメェが、シグマの影武者と俺が戦ったことを知ってやがる!?」
ストロンガーが先ほどから言葉を投げつけている相手、つまるところ怒りの対象は目の前の少年。
赤い髪を石製の髪飾りで掻き上げた、上半身裸で右腕に奇妙な箱を装着している少年の名は、ナタク。
太乙真人の作り上げた宝貝『霊珠』を胸に埋め込み、核としている宝貝人間であり、蓮の花の化身である。
「……知りたければ、俺を倒してみろ」
ストロンガーとの戦闘を前にうずうずしていたナタクが、相手の都合など知ったことかとばかりに言い放つ。
一瞬にして、大気が凍ったかのような緊迫感が、周囲に漂う。
それまでゆっくりであった緊張感の侵食速度が、一気に加速する。
期を伺っているのか、動かないストロンガーをよそに、ナタクは右腕を前に向ける。
■
何やら目の前の男――城茂か、はたまたT-800か――が、ぐだぐだと問いかけてくる。
……下らぬことに拘る奴だ、鬱陶しいことこの上ない。
話してやるのは別にかまわないが、話し出せばいつまで会話が続くだろうか。
時間が無駄でしかない。役に立ったのは、シグマの影武者が『T-1000』というらしいことくらいか。
早く戦いたいというのに、まったく面倒な男だ。
ゆえに、告げる。
俺を倒せば教えてやる、と。
男が黙る。
了解したということだろう。
そう認識し、M.W.S.を構える。
――シグマの影武者と戦い、放送を待つまでの間に知った新たな力を使ってみるか。
シグマの影武者との戦闘後、探知機に示された光点の場所に来るには、放送までの時間が足らなかった。
だから放送を聞くまで移動を行わなかったが、いざ待ってみればすぐに暇になった。
そこで暇を潰すためというワケでもないが、俺は未だ詳細のよく分かっていないM.W.S.についての説明をPDAに表示させた。
それを読んでみれば、何とも興味深いことが分かった。
――M.W.S.は、射撃用以外の武器も搭載している。
最初に読んだときは、『ビームランチャー』、『ボム』、『電磁ロッド』などの単語を流し読みしただけだった。
その為に気付かなかったし、あの時気付いても使う気は起こらなかっただろうが、今は別だ。
そう、燃料を気にせねばならない今は。
射撃用以外の武器は、燃料を気にせずに使える。
実に、都合がいい。
撃って撃ってひたすら撃つ武器も好きだが、近距離タイプの武器が使えないワケではない。
太乙真人に、俺用に改造させた『火尖槍』を手に入れてからは、近距離用の修行も積んでいる。
かつて、宝貝を飛び道具としか認識していなかった頃の俺とは違う。
火尖槍のように中距離戦闘までこなせはしないが、この武器ならば修行の成果が多分に発揮できそうだ。
頬が緩むのを感じるが、知ったことか。止められるわけがない。
■
「――『スペルブレード』」
ナタクがそう呟いたのと同時に、ナタクが右腕に装着している箱の先から、鋭利な刃が飛び出す。
刃自体の長さは、通常よくある剣の刀身とさほど変わらない。
されど、もとより箱自体が巨大なことにより、リーチは結構な長さになる。
……既にお分かりであろうが、ナタクが装着しているのはただの箱ではない。
数多の武器を内蔵し、非力な人間でも使用可能な武装なのである。名称はMultiple Weapon System、略してM.W.S.。
「何だと!?」
一見ただの箱に見えるM.W.S.から刃が現れるなどと考えてもおらず、ストロンガーは驚愕。一瞬、ナタクへの対処が遅れる。
構わずに、ナタクは地面を蹴って距離をつめる。
しかし、ここは幾つもの悪の組織を叩き壊してきた歴戦の猛者、仮面ライダーストロンガー。
動作が遅れた時点で回避することを放棄して、振り下ろされたスペルブレードを右の前腕で受けることにする。
スペルブレードの刃が、ストロンガーの腕に接触。同時にキィンと甲高い音。
だが派手に響いた音とは裏腹に、スペルブレードの刀身にもストロンガーの右腕にも傷はない。
「面白い」
誰にともなく言いながら、数メートルほど後ろに跳ぶナタク。
当然ながら、スペルブレードも引き戻される。
力をかけていた対象の突然の喪失に、ほんの少しストロンガーの体勢が崩れる。
その隙を狙い、ナタクが再び地面を蹴って距離を詰める。
体勢を立て直したストロンガーの瞳に映ったのは、横凪に振るわれたスペルブレード。
背中を反らすことによって回避するも、返しの二撃目を防ぐことは不可能。
だが、不可能を幾度となく可能として来たのが、仮面ライダーという名の平和と自由の為に戦う戦士達――!
背を逆海老に反らした状態で、ストロンガーは両足に力を込める。
そのまま、両足で地面を蹴り上げることで跳躍。
勢いを両足に乗せて、一気に蹴り上げる。
「おおおおおッ!!」
両足でのオーバーヘッドキック。
がむしゃらに放たれたストロンガーの蹴りは、迫ってきていたスペルブレードへと直撃。
スペルブレードを生やしたM.W.S.ごと、右腕が上空に引っ張られるナタク。
吹き飛んでたまるかと、踏ん張りをきかせるが――――それが仇となる。
右腕は引っ張られ、両足は地面に全ての力を。
ゆえに、ナタクのボディはがら空き。
そんな隙を逃すストロンガーではない。
今度はこちらの番と言わんばかりに、体勢を立て直したストロンガーは回し蹴りをナタクの脇腹に叩き込む。
「がァあ……」
強烈な一撃にナタクの表情が歪み、苦悶の声を上げる。
ストロンガーの蹴りの威力は凄まじく、ナタクは思いっきり吹っ飛んでいく。
その先には、民家。
ナタクの奇襲によって倒壊した物よりも、遥かに巨大な品の良さを感じさせる豪邸。
このままではナタクはそこに突っ込み、その衝撃により崩れるであろう豪邸の瓦礫に潰される。
そう思って、吹き飛んでいくナタクをただ見ていたストロンガーが、不意に怪訝な声を上げる。
豪邸に激突する寸前で、白い何かがナタクを掻っ攫っていったのだ。
疑問に思うストロンガーに、頭上から声が浴びせられた。
「やってくれたな」
ストロンガーにとって、明らかに聞き覚えのある声――さっきまで戦っていた相手と限りなく似ている。
唐突に起こった予想外な事態には、考えるよりも先に体が動く。
それは、改造人間であろうと、電気人間であろうと、意思持つモノ全てが持つ普遍の本能。
思いっきり上に首を捻ったストロンガーの視界に入ったのは、やはり先ほどまで戦っていたナタク。
無表情な彼にしては珍しく、頭に血が上っているということが表情から読み取れる。
そして、ストロンガーの複眼に映ったのはナタクだけではない。
ナタクともう一つ、それは――――
「上……なァ!?」
ナタクを乗せた巨大な白い犬――宝貝『哮天犬』であった。
(あの犬は……! そういや、最初に不意打ち吹っかけてきやがったのもあの犬じゃねえか!
ちいッ、あの野郎自身が仕掛けてきやがったから、犬にまで気が回らなかったぜ……ッ)
「死ね」
混乱しつつも、思考を落ち着かせようとしていたストロンガーに浴びせられたのは、ナタクの無慈悲な死刑宣告。
たった二文字の言葉なのに、それを言い終えるより早くに、ナタクの持つM.W.S.からは無数の光線が射出されていた。
■
あの野郎の装着した箱から、数多の光線が俺目掛けて発射される。
さっきまでの剣は、内部に収納されたのか?
剣が仕込まれただけの篭手かと思っていたが、それだけじゃねぇみたいだな。
……他にも、何か仕込まれてねえとは言い切れねえ。
警戒して然るべき、だな。
つっても、何が入ってるか分からねえ以上、具体的な案は思い浮かばねえが。
「――ッ!?」
気付けば、背後には豪邸。
もちろんぶん殴れば、余裕で壊せる。
だが、そんなことしてる暇はない。
そんなことをしていたら、一秒にも満たないだろうが隙が生まれる。
そうすれば、さっきから滅茶苦茶に飛んできてる光線が、俺に当たっちまうだろう。
やれやれ、本当にやれやれだ。
がむしゃらに撃ってるだけかと思いきや、なかなかに考えていやがる。
だが……これじゃあ、仮面ライダーの命を狙うにゃあ甘すぎるな!
「トゥ!」
一度、ジャンプ。
さっきまで俺のいた場所に光線が命中、幾つもの穴が空く。
さて、空中で野郎の方を見れば……けッ、笑いやがった。
「死、ね」
銃口をこちらに向けての一言。
テメェの乗ってる犬みたいなんを持ってない俺が、空中で身動きが取れるワケ無ぇってか? 馬鹿が。
「ぬうゥんッ!」
豪邸の壁を蹴って、空中で方向転換。
野郎の放った光線を回避する。少し掠ったが、軽すぎる痛み。何も問題ない。
方向転換した今の進行方向は、野郎とは離れた方向。
まさかこっちに行くとは思ってなかっただろ?
ある程度移動したところで、両手を握りしめて掴む。民家の周囲にあった電線を。
普通の人間やただの改造人間なら、電線なんか触ったらひとたまりもないだろうが、俺は別だ。
野郎の方を見れば、こちらに銃口を向けている。
何をするか分からねぇが、とりあえず殺すってことかい。
はッ、いいぜ。仕掛けてやるから、目ェ見開いてじっくり見やがれ!
逆上がりの要領で回転して手を離す。地面に向かって勢いよく落下していく俺、その頭上を野郎の光線が飛んでいく。
回避成功だが、野郎の銃口は俺を追っている。
だがよ、銃ってのは……撃たせる前に叩くのが定石だろうがァ!
「エレクトロサンダァアアアーーーッ!! とォッ!」
着地した俺が、即座に両手から火花を散らして電撃を放つ。
空中を奔って、野郎の真上に集う電気エネルギー。
目に見える速度で、電気エネルギーが拳大の小さな塊へと集束していく。
野郎がそっちに目がいってる間に、こちらはまたジャンプさせてもらおうか。
それまで、バチバチと音を立てていた電流の塊が静かになった途端、極大極太の雷となって野郎を襲う。
咄嗟に野郎の乗った犬が空中を駆けて、ギリギリで回避。
だろうな。あの犬の機敏さは、さっきので分かってたぜ。
だから――――さっきのエレクトロサンダーには、大して力を込めてはいない。『避けさせるため』の技さ。
既に俺は、跳躍している。今度はまっすぐ、野郎目掛けてだ。
エレクトロサンダーを回避し、犬を静止させた野郎と目が合う。
会ってからずっとムッツリしてたくせに、珍しく驚きが顔に出てるじゃねえか。
この距離じゃ、犬を動かすのも無理だろうが……
こんな下らねえ殺し合いに乗る奴になんか、容赦はしねえし、出来ねえな!
「ストロンガァァアアーー! 電キィィイイイイーーーック!!」
■
少し前にストロンガーの放ったエレクトロサンダーをも上回る轟音が、周囲に響き渡る。
大地を揺らすほどの衝撃も同時に生まれたが、急にそれまで騒々しかったエリアが静かになった。
「……ちッ」
動くものすらなかったその場で、最初に動いたのはナタクであった。
不機嫌そうに舌を打つと、もたれかかっていた哮天犬から起き上がる。
空中で静止していたはずの哮天犬は、地面に落下したナタクを支えるために地面へと降りてきている。
「テメェ、何をしやがった……ッ」
ナタクが立ち上がって一秒と経たぬ間に、最初のナタクの奇襲でできた瓦礫の中からストロンガーが現れる。
ストロンガーは驚愕と怒りの混ざった語気で、疑問を吐き捨てる。
ナタクは答える素振りを見せず、M.W.S.を装着した右手をストロンガーに向ける。
「電……パァアアンチ!!」
ストロンガーは喉を鳴らすと、拳を握り締めて駆け出す。
電撃を纏ったストロンガーの右ストレート。その行く先には、ナタクの顔面。
発光しながら迫る拳を確認したナタクは、M.W.S.の電磁ロッドを展開する。
電磁ロッドから発せられた電気エネルギーを、M.W.S.に覆われた右拳に纏わせるナタク。
「『イナヅマブロー』……!」
そう呟いて、ナタクが右ストレートを放つ。
電気の覆われた拳同士がぶつかり合い――またしても、接触と同時に轟音。
結果、ストロンガーもナタクも後方へと吹っ飛ばされる。
「ガあッ!」
「……ちッ、またか」
苛立ちながら呟いたナタクの言葉に、ストロンガーは理解する。
渾身の力を込めた電キックも、いま放った電パンチと同じく、電磁ロッドより展開された電気エネルギーに相殺されたのだと。
ストロンガーの推測は、当たっている。
ナタクがストロンガー渾身の電キックに気付いた時点で、哮天犬を駆動させての回避は不可能とナタクは判断した。
そこで、ナタクはPDAの説明で知った、『イナズマブロー』という電磁ロッドから発した電気エネルギーを纏わせたパンチを放ったのだ。
イナズマブローと電キックに纏われていた電気エネルギーは、ほぼ互角。
結果、互いに相手を吹き飛ばしながら、相手の攻撃に吹っ飛ばされたのだ。
これは、ストロンガーのポテンシャルとM.W.S.の電磁ロッドの性能が互角というわけではない。
確かに、M.W.S.は元来戦闘する力を持ち得ぬ者でも、人外の化物と戦闘可能な実力者にするほど優秀な武器だ。
それでも、である。ストロンガーとM.W.S.、そしてM.W.S.を操るナタク。
全てが万全の状態であったならば、『電気』の技という観点ではストロンガーの圧勝であろう。
超電子の力に頼らずとも、スペックに加えて数多の戦闘経験が武器となる。
しかし、ストロンガーは休息を取ったとはいえ、T-1000とマルチから受けたダメージが残っていて万全ではない。
対して、ナタクの持つM.W.S.はどこも故障しておらず。ナタク自身もこれといったダメージはない。
むしろ、こんなコンディションで互角の技を放ったストロンガーは、大したものなのだ。
……とは言っても、そんなことはバトルロワイアルには関係がない。
生憎バトルロワイアルは、万全の相手同士が正々堂々闘う格闘技トーナメントではないのだ。
「使ってみて分かったが、どうも電気は好かん――『スペルブレード』」
ナタクが電磁ロッドを収納し、刃を展開。
M.W.S.のモードをスペルブレードへと変化させる。
「くッ!」
振り下ろされたスペルブレードの横腹を、右の裏拳で叩いて軌道をずらすストロンガー。
ストロンガーが空いている左拳で、ナタクの顔面にフックを打ち込もうとするが、M.W.S.のボックス部分に阻まれる。
そのまま、押し合い。力比べの形になる。
暫し経過し、両者が背後に飛ぶことで力比べは終局する。
幾度目かの睨み合い。今度は、ストロンガーが仕掛ける。
「電チョップ!」
ストロンガーは電気エネルギーを右掌に纏わせ、手刀の形状のままナタクに打ち込もうとする。
が、それは腕をスペルブレードの横腹で叩かれることで、ナタクに届くことなく終わった。
バチリと軽快にスパーク音を立てたが、腕にまでは電気が及んでいないので、スペルブレードを電流が伝うことはない。
痺れないことを確認したナタクがニィと笑みを浮かべ、ストロンガーの右腕に沿ってスペルブレードを移動させて、ストロンガーの斬首を狙う。
ストロンガーは、勢いよく首を曲げる。スペルブレードの刃は、空気を切断するに終わる。
返しの袈裟懸けを行う前に、ストロンガーは横っ飛びで一旦距離をとり、二撃目を放ち隙の出来たナタクへと飛び掛る。
◇ ◇ ◇
互いに、勝負を決める一撃を決めることが出来ない。
ときどき放たれる決め手はことごとくが回避、或いはいなされ続ける。
もしや永遠に終わらないのではないか――そう思われていた戦闘に、異変が生じ始めた。
「おッ……らあ!」
歯を軋ませながら、大振りの右フックを打ち込むストロンガー。
しかし、軽々とナタクに回避されてしまう。
ストロンガーの動きは、少し前より格段に精彩を欠いてきている。
ストロンガーにスペルブレードによる斬撃が少しずつ決まり出し、少しずつストロンガーの全身に切り傷が刻まれていく。
対するナタクには、大して変化はない。
戦闘開始から新たに生まれた傷も、始めのほうにストロンガーから受けた回し蹴りの分くらいだ。
一気に勝負が傾き始めた理由は――
(ちィ、T-1000の野郎から受けた腹の傷が開いてきやがった……!)
ナタクとの戦闘より前に受けた傷。
ストロンガーは、思案する。勝利する方法を。
『切り札』である超電子ダイナモを使い、超電子人間となる――その案は既にストロンガーが考えた後だ。
しかし、ストロンガーは未だ電気人間のまま。
何故か。
制限時間が短くなっているから? 違う。
たとえ制限時間が短かろうと、一度チャージアップすれば確実に相手を倒しきる自身をストロンガーは持っている。
ならば、なんでなのか。それは――
(こんなボロボロの状態で、超電子ダイナモが起動するかどうかが分からねえ。
最悪なのは、『チャージアップできない』ことじゃない。『チャージアップしようとして出来ない』って事態だ。
超電子ダイナモを起動させる際の隙は、チャージアップ出来たなら余裕で回収できるが、出来なければ……)
そう、ダメージの多さと連戦の疲労のため、チャージアップ出来るかどうかが疑問なのだ。
だが、ストロンガーは諦めない。勝利の可能性を高める方法を考える。
「しま――!?」
ストロンガーが、素っ頓狂な声をあげる。
考え事をしていたため、ストロンガーの足元が疎かになっていて、その隙をナタクは逃さずに足をかけたのだ。
体勢を崩すストロンガー、すぐに体勢を立て直そうとするが――怪我と疲労ゆえに足を踏み外す。
ナタクがスペルブレードを振りかざす。
ストロンガーはそれに気付くも、バランスの取れない状態では反撃も回避も不可能。
スペルブレードを斜め下に振るおうと、ナタクが右腕に力を込める。
――――このとき、両者は目の前の相手との勝負だけに、全神経を集中させていた。
――――――もはや瞳は目の前の男だけを捉え、鋭く研ぎ澄まされた神経は攻撃と防御だけに。
――――――――だから彼らは、本来ならばすぐに気付くことに、二人とも気付くことはなかったのである。
――――――――――凄まじい速度で接近してくるエンジン音にも。只者ではないことをアピールしてくる気配にも。
ドッガァァアアアアアアンッッツ!!
耳をつんざく鈍い音。
ナタクとの戦い以外に思考が回っていなかったストロンガーが、その音で我に返る。
それまでナタクしか映っていなかったストロンガーの視界に、入り込んだのはナタクではない別の男。
黒いボディスーツに身を包んだ、筋骨隆々の白人男性……の姿をしたロボット――T-800。
彼は、ストロンガーにスペルブレードを振りかざしていたナタクを発見。
即座にナタクを排除すべき対象と判断し、彼の運転していた特殊バイク『テントロー』のハンドルを思いっきり持ち上げた。
テントローはウィリー運転の形となり、そのままの勢いでナタクに体当たりをぶちかましたのだ。
万に一つどころか、兆に一つも考えていなかったT-800の奇襲に、ナタクは哮天犬を呼び出すことすら出来ずに、豪邸へと突っ込んでいった。
助けられたとはいえ、突然の事態に目を白黒させている――緑色の複眼だが――ストロンガーをまじまじと見つめ……
何事もなかったかのように、T-800は口を開いた。
「ダメージが多いようだな、茂」
「……見れば分かんだろうが」
パンとT-800の肩をストロンガーが叩く。
その行動には、T-800への感謝の意が含まれていたのだが、T-800は気付いていないようである。
ストロンガーはそのことを察したようだが、わざわざ説明するガラでもねえや――などと一人で呟いた。
◇ ◇ ◇
T-800が前方、ストロンガーが後方の陣形で、二人がナタクの突っ込んだ豪邸へと入り込む。
ナタクがT-1000を知っているようだと、ストロンガーから聞いたT-800が、ナタクから情報を聞き出そうと言い出したためだ。
ストロンガーも、殺し合いに乗っていると思われるナタクを見逃すわけにはいかないと、T-800に同意した。
ちなみに室内での戦闘になるということで、テントローは邪魔になると判断され、ストロンガーのPDAに戻してある。
あえてナタクが突っ込んだ穴ではなく、別の窓を破って入り込んだ二人。
彼らの間に会話などは一切ないが、ちゃんと事前に割り振ったとおり、一方が警戒を払い切れない場所をもう片方が警戒する。
両者とも自分以外を気にかけたりするタイプではないのだが、二人とも修羅場を潜っているためか。
即席タッグにしては、なかなかに息の合ったチームである。
■
四肢に力を込め、壁に埋まった体を少しずつ抜き出していく。
やっと両腕が壁から開放された。
あとは両腕に力を込めて一気に――よし、脱出できたな。
あの男、やってくれたな……!
城茂かT-800か、どちらがどちらか分からんが、どちらも面白い。
においは消えてはいない。
おそらく俺が生きているのかを確かめに来るはずだ。
その時に決める、殺す。
パリィン、カツリ、カツリ、カツリ、カツリ……――――
何かが割れる音、そして足音。
忍んでいるつもりかもしれないが、聞こえているぞ。
確実に、近づいてきている。
俺が突っ込んだ穴を知っているのだから、当然か。
フン、むしろ好都合だ。
M.W.S.を構え、『スペルブレード』を展開。
城茂とT-800、さあ来い……!
■
最後に残った部屋の前で、ストロンガーとT-800が顔を見合わせる。
数秒経ったところで、二人同時に頷いて――ストロンガーが部屋のドアを蹴破った。
同時にT-800がストロンガーの前に割り込み、部屋の中へと発砲。
一発目、正面。二発目、右上。三発目、左上。四発目、左下。五発目、右下。
それだけ引き金を引くとT-800がしゃがみこみ、かがんだT-800の上をストロンガーが飛び越える。
そのままの勢いで、電撃を纏わせた拳を振り上げて部屋に飛び込んだストロンガー。
「電パァアア――――何ッ、いねえ!?」
ストロンガーは、空中で拳を振りかざしたまま驚愕する。
そのストロンガーに声がかけられる。方向は――背後。
即ち、ドアのあった場所にいるT-800と部屋の中にいるストロンガーの間。
「残念だったな」
ストロンガーが空中で腰を捻って移動しようとするも、スペルブレードをナタクが横凪に振るう方が早い。
勝利を確信したナタクが口角を吊り上げ、ストロンガーは一発食らうのを覚悟する。
――しかし、ストロンガーの身に刃が入ることはなく。
「貴様……ッ」
焦りの含まれた声は、ナタクの口から漏れたもの。
次いで、ナタクが壁に激突する音。
ドアの前にいたT-800が、ストロンガーに切りかかるナタクに飛び蹴りを放ったのである。
すぐに立ち上がったナタクが、今度は乱入者であるT-800目掛けて駆ける。
T-800の着込むライダースーツの脚部には、スタンガンが仕込まれている。だが、ナタクを痺れさせるには弱すぎた。
体勢を立て直したストロンガーが、T-800とナタクの間に割り込もうとするが、間に合わない。
スペルブレードの刃が、T-800の胸部から腹部を斜めに切り刻んだ。
「この程度の電撃では、ダメージを与えられんか」
何事もないようにそう言いながら、倒れるT-800。
大きな斬撃の痕からは、火花が飛び散っている。
「T-800!? おおおおおおおおッ!!」
間に合わなかったストロンガーが、勢いのままナタクに右ストレートを放つ。
ナタクはM.W.S.のボックス部で受けるが、今度はストロンガーの左フックがナタクの顔面を襲う。
舌打ちしながらナタクが、後ろに跳ぶ。
逃す気などさらさらないストロンガーも床を蹴って、ナタクを追う。
跳んだ先で、ナタクは背に違和感を感じ取った。一瞬、視線を背後に投げればそこは壁。
これ以上逃げ場はなく、前方からはストロンガー。
ナタクが意図せずとも、ナタクの顎に力が込められ歯が軋む。
チャンスとばかりに、ストロンガーが渾身の右ストレートを打ち込む。
咄嗟に首を曲げるナタク。ストロンガーの右ストレートは、先ほどまでナタクの顔面の背後にあった壁に激突し――
当然ながら、いかに豪邸とはいえ、ストロンガーのパワーに壁が耐え切れるはずもなく。
哀れ、壁は粉々に砕け散ってしまった。
◇ ◇ ◇
「くそったれッ!」
破砕して塵埃となった壁の所為でナタクを見失ってしまい、ストロンガーが悪態をつく。
――己の背後に探しているナタクがいるのだとも、気付かくことなく。
ナタクは『におい』で相手の位置を大まかにだが、把握できる。
これだけ近くならば、間違えることはない。
相手の居場所を探知する『カブトキャッチャー』を使用しようとしているストロンガーに、ナタクが左腕を伸ばす。
ストロンガーは第六感――いや、不自然な煙の動きに気付いたため、背後にナタクがいることを知る。
横っ飛びで距離を取ろうとするが、それより早くナタクがストロンガーの首根っこを掴んだ。
ナタクの身長はストロンガーと比べて低いとはいえ、腕を伸ばされてしまえばストロンガーの足は地面に着くことはない。
「ガ――ッ、テメェ……!」
「かつて粉塵で相手を惑わして、相手の背後を取ったことがある。
何故だか分からんが、あの時はどうにも自分で勝った気がしなかった。だが……、今回は違う」
ナタクが右腕のスペルブレードを構え、ストロンガーに押し付けようとする。
ストロンガーの背に冷たい感触。
やられる……そんな考えがストロンガーの脳裏を過った瞬間、ストロンガーの首にかかっていた力がゼロになり、そのまま重力に任せて落下する。
何が起こったのか理解できないストロンガーが、ナタクがいたはずの方向に視線を向ける。
そこにいたのはナタク、そしてナタクを羽交い絞めにしているT-800。
「無事だったのか、T-800!」
「切れ味のいい刃物だったようだが、金属骨格部にまで攻撃は届いていなかった」
ストロンガーの疑問に答えながら、さらに両腕でナタクに力を込めるT-800。
そうなのだ。スペルブレードによる斬撃は、人体と同種の細胞組織で出来たT-800の表面を刻んだだけであった。
その程度のダメージは、T-800にとって存在しないのと同義であった。
倒れたのは、ナタクの攻撃を受けた際の衝撃ゆえのこと。
T-800はすぐに立ち上がったのだが、ストロンガーもナタクも見てはいなかった。
その後、ストロンガーのサポートに移ろうとしたが、粉塵が家中に漂い出した。
だが、T-800には何の意味も成さない。
T-800の瞳――否、それは義眼。
義眼の奥の超小型レンズ付き高感度ビデオセンサーは、温度を感知して物体の位置を感知できる。
それを行使して、T-800はストロンガーに襲い掛かるナタクを視認したのである。
「ちィ……!」
ナタクが全身に力を込め、T-800の拘束から抜け出そうとするが、T-800は微動だにしない。
人間で言えば少年と呼んでも違和感がないくらいの身長だが、ナタク
の腕力は決して弱くはない。
並以上の仙人でさえ、持ち上げられてしまえば抵抗できないほどだ。
その力をもってしても揺らがぬほどに、T-800のパワーは凄まじいのだ。
「茂、この参加者からT-1000の情報を聞き出す。
暴れられたり、逃げ出したりされては困る。動かなくなる程度に、ダメージを与えてくれ」
「ああ、分かってるさ」
立ち上がったストロンガーが、拳を握り締めて右腕をグルグルと回す。
T-800とストロンガーは、勝負が決まったと思っていた。
そう――――思い込んでいた。
「T-800ッ! そいつから離れろ!」
急にストロンガーが、大声をあげる。
ストロンガーは気付いたのだ、それまで刃を出していたM.W.S.の形態が変化していることに。
その形態をストロンガーは知っていた。
――ビームランチャーを放つ際の形態である。
「逃げるだと……!? フン、ナメるなよ!」
ストロンガーがナタクに飛び掛ろうとし、T-800はストロンガーの尋常ではない様子にナタクから距離をとろうとする。
だが、どちらも遅い。
ナタクは既に、T-800が『逃げ出したりしては困る』と言った時点でキレている。
ナタクの装着したM.W.S.から、ビームランチャーが射出される。数発で終える気などない。撃ち続ける。
T-800に羽交い絞めにされていたので、右腕は下を向いていたが、すぐに床はビームランチャーにより喪失。
足場をなくしたT-800が体勢を崩し、ナタクを解放してしまう。
T-800と同じく足場をなくしたナタクだが、ナタクは足場のない状態での戦闘には慣れている――むしろナタクが最も得意とする状況。
空中で体を捻って回転、上を見据えるナタク。
落下したT-800を心配して、ビームランチャーによって生まれた穴を覗き込んでいたストロンガーが、ナタクの視界に入る。
ナタクがストロンガーに右腕を向けて、撃つ、撃つ、撃つ。
ストロンガーは、それを回避。回避されたビームランチャーは、豪邸の壁や屋根を破壊していく。
ナタクは撃つのをやめようとせず――三つ数えるよりも早く、豪邸がミシミシと不吉な音を奏でだす。
まもなく倒壊する――さすがに、それに気付いたナタクが呟く。己を救い出してくれるであろう宝貝の名を。
同時に、外で待機していた哮天犬が、豪邸へと突っ込んでナタクの眼前まで直進する。
哮天犬が突っ込んだ衝撃で、豪邸が傾く。
もう一度何らかの衝撃が加えられれば、崩れてしまうのは明白。
子供でも推測できる有様であったが、ナタクは気にも留めず。
哮天犬の尾を掴むと、哮天犬を操作して豪邸の屋根を突き破って脱出した。
メキ、メキャ……ガッシャアァァアァァァアアアアン。
豪邸の前の通路にナタクが降り立ったとき、既に豪邸は豪邸という名ではなく。
『瓦礫の山』と名を変えていた。
■
豪邸が嫌な音を出し始めた。野郎が、主柱でも幾つかぶっ壊していったか。
またあの犬か……ありゃあ、主人の危機にやってくる忠犬ってやつかね?
倒壊までどれだけあるか。早く脱出しなくちゃならねぇ。
野郎を逃がすわけにはいけねえしな。
だが、T-800はどうする。
T-800は床の下に落とされちまった。T-800のことだから、やられちゃいないだろうが……
考えたのと同時に、体は動いていた。
野郎が床に空けてきやがった穴に飛び込む。
「T-800! 助けに来たぜ! 出てこい!」
叫んでみたが、返事はない。
何故だ? まさか――最悪の可能性が脳内に浮かんでくるが、T-800の死体はない。
ならば……?
必死で首を捻って、周囲を見渡す。T-800の名を叫ぶのも忘れない。
すると、入ってきた穴とは別に、光が射し込んでくる場所があるのを発見する。
走ってみれば、明らかに誰かがブン殴って空けたとしか思えない穴。
こりゃあ……既に自分で脱出してたってワケかい。
わざわざ倒壊寸前の建物の中で、無駄なことをしてたと思うと泣きたくなる。
T-800の空けた穴をよじのぼって、床下から脱出する。
ここは……居間か。俺の記憶が正しければ、家の真ん中じゃねえか。
メキ、メキャ……
何かが軋む音が聞こえた――『何か』と言っても、何が音を立てたのは分かるがな。
見てみれば、壁全体にヒビが入ってきてきている。
やれやれ、本格的にヤバくなってきたみてえじゃねえか。
俺がそう毒づいたのと、同時だった。
落下してきたシャンデリアに反応できず、後頭部にモロに受けてしまい、膝が地に付いたのは。
一瞬、視界がホワイトアウトし、意識が飛んだ。持ち直したとはいえ、まだクラクラする。
意識を落とした所為か、変身が解除されちまった。
早く脱出しなきゃならねえ。普段ならばすぐに出て行けるが、シグマのクソッタレに何かしらをされた今の状態では……
くじけそうになる心に喝をいれて、身体を無理矢理動かそうとして立ち上がったと同時に、轟音と共に天井や壁が砕けて俺に降り注いできた。
ヤベえ、回避できねえ。変身も間に合わない、駄目だ――――死ぬ。
ガッシャアァァアァァァアアアアン。
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