暗闇の旅路 ◆ORLXh0TwxA



 F-6にある森林地帯、その乱立する樹木の中に黒のスーツを身に付けた一人の男がいた。
 一見してただの人間のように見えるが、この戦場に招待された以上、単なる人である事はありえない。
 その男は右手に一振りの刀を、左手に杖らしき物を持ち、自然体の形で立っていた。目は閉じられ、ただ何かを待つようにじっとしている。
 少しして、一筋の風が吹いた。強い風だった。それは木の葉を揺らし、辺りに葉と葉が擦れる音が響く。
 そして、その風はうず高くそびえる樹から何枚かの若葉を奪う事に成功した。風に吹かれて若葉はゆらゆらと地面に、男の周りに落ちていく。
 落ちる木の葉が男の目線まで達したとき、男の右手が閃いた。銀光が虚空に幾筋もの線を描く。光が消えた時、若葉はその全てが両断され地に落ちた。

 彼は二つの顔を持った男である。
 表向きは政府の秘密機関サイボーグ対策室、略称CCRの実行部隊隊長。 
 しかし、彼の正体は大神グループという巨大企業により生み出された第三世代型アンドロイドである。

 CCRとは灰原と同じ様にして生み出され、そして脱走したアンドロイド達を捕獲するために創られた大神の私設組織。
 そして、そのCCRを影から操り、アンドロイド達を処分してきた者。
 指揮官型として創られ、戦闘能力を補強するためにサイボーグとして再改造されたモノ。
 其の身に与えられた能力を振るい、己の創造主たちの邪魔者を次々と排除してきた狗。


 その名を灰原という。


  □ □ □

 灰原は一度は死んだ人間である。造反した自分の部下と一騎打ちで戦い、敗れ、死んだ。
 何故甦ったのか、それはどうでもいい事柄だった。考えたところで何かが解る訳ではない。原因の追求などは後でできる。
 この地に転送されたとき、まず灰原は、自分に支給された携帯端末の把握に努めた。
 端末をいじっている間に、参加者の中に知人がいない事、自分に支給された武器などの確認をする。
 食料なども転送できるらしいが今は必要ないので確認はしていない。その他、細々とした事を確認し終え、最後に自己の確認をする事にした。
 自分に支給された武器「リシュウの仕込み杖」ともう一つの支給品を転送し、刀を杖から引き抜き使い勝手を把握する。
 黄泉の世界――モノである自分が逝ける場所かどうかは知らないが――から舞い戻った自分の身体の調子を確かめようとしてついさっき軽くテストをしてみた。
 結果は……

 「いい刀だ……しかし」

 刀は相当な業物で、自分の性能を十全に出し切れるものだと認識する。しかし肝心の自分の調子がよくない。
 いつもの自分と大きな違いは無いのだが、どこか噛み合わない。なにかがズレている。
 実力の拮抗する相手との戦いではこのズレは致命的なものに成り得る。早いうちに気が付いて良かった、と灰原は思う。これには慣れるしかないと刀を杖に収めながら結論をだす。
 そして灰原の思考は次の段階に移行する。今までは現状の確認であり、次はこれからどうするかという事だ。

 さて今、灰原の前には二つの道ある。他者を破壊し、その残骸を踏み越えて生き残る道と仲間を集め、この戦場における理そのものを破壊する道…… 
 つまり参加者ではなくあのシグマという男、そしてその裏に潜むものを打倒する道だ。しかし、どちらの道を選んでも生き残れる可能性は限りなく低い。
 あの意思を持つ液体金属以外にも何者かが、それも途方も無く強大ななにかがシグマに協力している事は間違いない。
 もし、シグマ一人でこの戦争を引き起こせるのだとしたら、そもそも協力者など必要ないからだ。
 そう決め付けるのもまた早計ではあるが、まず確実だろう。人間にしろ、獣にしろ、機械にしろ、一個体でできる事には限りがある。
 だからこそ組織をつくるのだ。CCRのような組織を。
 そして自分を甦らせたそのなにかに自分を含めた参加者全員が勝てる見込みはまず、無い。
 あの会場の反応を見るになにも出来ずに呼び出されたものばかりなのだろう。
 それで一体どうやって勝つというのだろうか。もっとも自分のような死んだモノばかりなのかも知れないが。

 かといって、この戦争に参加するとしても結果は同じだろう。
 会場で解った事はもう一つある。明らかに場慣れした者ばかりだったという事だ。戦わせるために集められたのだから、それも当然だろう。
 一部、戦いには向かないであろう少女の姿もあったが油断できるものではない。
 シグマの物言いを鵜呑みにするなら、この場にいるのは全員、サイボーグもしくはロボットの類だ。
 戦闘能力を持たないモノもいるらしいが、なんの能力も持っていないと言った訳ではないと記憶している。
 サイボーグの外見程あてにできないものはない。実際にそういった市井に隠れた連中をCCRは狩り続けてきたのだ。灰原自身、見た目どうりの年ではない。油断はしない方がいいだろう。
 自分は一度死んでこの場にいるのだ。そんな連中ばかりの中で、ただの人間にすら敗北した自分が勝ち残る? 笑い話にもなりはしない。
 第一、灰原には叶えて欲しい願いなど存在しない。自分を甦らせたのだ、確かにどんな願いでも叶うかもしれないし、全てをやり直す事ができるかもしれない。
 しかし、冗談ではない。それこそ恥の上塗りと言うものだ。やり直すぐらいならば死を選ぼう。
 何をするにしても情報が少なすぎた。判断材料は何一つ無い。そして、なにもしないというのも無しだ。しかし、何の目的も無く行動するのは愚の骨頂。
 今、この瞬間にも状況は動いている。どちらにするにしても今、決断するしかない。こういう場合は……

「運任せ、か……」

 灰原は合理思考を好むが、それだけでは行き詰まるときが来る。CCRでの管理職としての経験からそれを学んだ。
 人間というものはとかく不合理だ。それを管理する事で、ある程度の柔軟性を灰原は身に付けていた。
 とすると、どうするか。硬貨を持っていればコイントスもできるが、あいにく服以外のものは没収されていた。
 ふと自分に支給されたもう一つの物を思い出し、ポケットの中からそれを取り出した。
 それは一人の騎士が描かれたバッジだった。
 説明を読んでも今の自分には意味のないもので、自分で調べてみてもこれといった機能は見当たらなかった。
 特に役立つものでもなく、かといって、かさばる物でもないのでそのままポケットの中に放り込んでいたのだが早速役立つときが来た。
 コイントスならぬバッジトスという事になるが大した違いは有るまい。
 表なら徒党を組みこの場からの脱出を、裏なら羅刹となって生き残りを目指す。それだけ決めて、宙に軽くバッジを放り投げる。

 光差さぬ森の中でバッジが空中で静止したとき、微かな光がバッジから零れたように見えたのは目の錯覚であったのだろうか。
 ともかくバッジは螺旋を描いて地面に落下し、ほんの少し土の上で跳ねて静止した。
 その結果は――


 「表、か……」

 これで道は定まった。そもそも灰原は指揮官型のアンドロイド、たった一人で動くより仲間を作り、それを指揮する方が向いている。
 なるべくしてなった結果というべきであろうか。戦闘指揮というものは指揮する者と、される者、相互間における一定の信頼関係が無ければ意味が無い。
 この壊し合いに乗った、いつ裏切るとも知れないモノと手を組んだ所で信頼など生まれる筈もないだろう。

 バッジを拾い上げ、これから何をすべきか、考え始める。
 まず大前提としては未知の技術の情報を集め、出来る限り回収する。
 あの会場内で起った出来事の数々は灰原の中にある知識の中でも常識外と言う他無く、まさしく未知の超技術の結晶であった。
 参加者の中にも未知の技術で作られた者たちがいる事を想像するのは難しい事ではない。自分に支給された刀もまた、未知の金属でできている。
 灰原の場合、単に元の世界に帰っても意味が無い。彼の行動の全ては大神グループのためのものだ。彼自身には欲望などというものは存在しない。
 だからこそ帰還すること、それ自体に意味を持たせる為に大神の利益となるもの持ち帰らねばならないのだ。

 一面、樹木に覆われ視界の悪いこのエリア、ただ闇雲に歩き回っても意味が無い。
 だから、この近くにある飛行場を目指す事にした。光を求めて参加者がやってくる可能性や、さらに何らかの情報も入手できる可能性は低くは無いだろう。
 このエリアで人の集まりそうな場所は他にもあるが、わざわざ遠く離れた場所に行く意味は薄い。
 破壊者が潜んでいる可能性もあるが、それはこの世界のどこに行っても同じ事なので考えても仕方が無い。多少のリスクは覚悟の上だ。
 説得が通じそうな場合は説得し、応じない場合は排除もしくは撤退する。要するに臨機応変にという事だ。

最終的には、自爆装置を解除し、この戦いの首謀者達の捕獲、不可能な場合は破壊。
 そして奴らの使う技術を出来うる限り回収して帰還する。可能ならばシグマの撃破後、参加者の捕獲もだ。
 粗は有るものの大筋は固まった。あとは行動するのみ。飛行場に向けて灰原は歩き始めた。



  □ □ □


 灰原は死を恐れない。特に覚悟をしているわけではない。感情が無いという訳でもない。
 あくまで自分が消耗品であり、代替が効くモノであることを正しく認識しているだけだ。
 自分が死んだという事はCCRという組織の消滅を意味する。そして自分を踏み台にした量産型も生産体制に入っているはずだ。

 ならば自分に存在理由などもう、ない。

 たとえ無事に帰還できたとしても、良くて処分されるか、悪ければ兵器開発の実験体にされるだけだろう。
 逃げるという選択肢も無い訳ではないが、逃げ切れる訳が無い。灰原は、誰よりもその事を知っている。
 なにより逃げる気など、灰原の中には毛ほども存在してはいなかった。

 どの道、灰原が灰原である限り彼には死から逃れる術など残されていない。しかし灰原はそれでも構わなかった。
 任務に失敗したモノが廃棄されるのは当然の事である、と灰原は考える。それが彼の美意識であり、矜持でもあるからだ。
 そんな自分がなにかを成す事、そしてその証を残す事、それだけで彼にとっては十分すぎる意味を持つのだ。
 まだ見ぬ戦場に向かって灰原は歩き出す。このバトルロワイヤルという暗闇の中で、更なる闇に向かって歩き続ける。


   結果的に他者を救う選択を彼はした事になるが、そこに何者かの意思が介入したのかは定かではない。




【F-6 森林/一日目・深夜】
【灰原@パワポケシリーズ】
[状態]:健康
[装備]:リシュウの仕込み杖@スーパーロボット大戦シリーズ
[道具]:支給品一式、ゆうしゃバッジ@クロノトリガー
[思考・状況]
基本思考:シグマとその協力者達の捕獲、不可能であれば破壊して本社に帰還する。
     未知の技術の情報収集、及び回収して大神に持ち帰る。
1:空港を目指し、情報を集める
2:使えそうな人材の確保、油断はしない
3:この戦場からの脱出
※本編死亡後からの参戦です

【リシュウの仕込み杖@スーパーロボット大戦シリーズ】
示現流の達人、リシュウ・トウゴウの持つ仕込み杖。刀身はゾル・オリハルコニウム合金製。
使い手の腕次第で銃弾をも切り払う事が可能。



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