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314 : 神殿娼年◆AjMEp4Bsfk : 2010/10/03(日) 20:02:35 ID: Nfxb6BPI  古代、洋の東西を問わず生殖は神聖なものとみなされていた。  性に関する倫理観は宗教観と密接に結びつき、社会規範を大きく規定する。特に思春期の少年少女についての性規範は、大人への通過儀礼として現代では考えられないほど特殊な様相を呈していた。  例えば二次性徴を迎えた少年少女が、神殿にて一定期間売春をする「神殿娼婦」の風習などは、その最たるものであろう。  隊商の一団が荒野を進む。大量の荷物を載せたラクダと屈強な男たちの集団のなかに一人混じった少年は、ふと立ち止まって背後を振り向いた。  砂煙の向こうに自分の生まれ育った村がみえる。自分の家はどれだろう。そんなことを考えながら幼い瞳を凝らす彼に、隊商のしんがりを勤める若者が声をかけた。 「はぐれるぞ」 「あ……ごめんなさい」  少年は我に返ると、慌ててその若者の脇に従って歩き始めた。しかしそれでも、もう一度だけ振り向いて村の姿を目に焼き付ける。若者はどこか子供っぽい苦笑を浮かべながら少年に話しかけた。 「村から出るのは初めてかい?」 「は、はい」  この時代、大抵のことは自分の村のなかで賄えた。どうしても自給できないものは、不定期に訪れる隊商から買うことができる。危険に満ちた荒野をわざわざ旅する理由はほとんどの人間にはなかった。  しかし少年には、旅をする理由があった。いや、正確にはあるらしかった。 「あの」  しばらく歩を進め、少年は意を決して若者に尋ねた。 「あの……どうして僕は、神殿にいかなくちゃいけないんでしょうか」  若者は歩みを止めず、ただ黙って少年の顔をみつめた。  砂や日光から体を護る被り物は黒い髪を覆い、さらに深い漆黒の瞳は褐色の地肌の中にあって吸い込まれそうなほど鮮やかな印象を残す。全体にまだ成熟しきっていない体とあいまって、少女だといわれても納得してしまう雰囲気があった。  短くため息をつき、歩みの遅くなったラクダに軽く鞭を入れながら若者が答える。 「精通があったろ?」 「え……と。あのお漏らしみたいなアレですか?」  数日前の出来事を思い出し、少年は微かに頬を染めた。  何かフワフワした夢の中で体が熱くなるのを感じ、目を覚ますと股間がぐっしょりと濡れていた。小水とは異なり粘り気のある不思議な液体に驚き、彼は泣きながら両親に相談する。しかし両親は彼に祝いの言葉を送り、街の神殿へ行くよう命じたのだった。  折よく村に隊商が立ち寄る。両親は彼らに何かを告げ、幾ばくかのお礼とともに少年を神殿まで連れて行ってくれるよう頼んだ。そして彼は今、生まれて初めて村の外を歩いている。  若者は微かに苦笑を浮かべ、少し困ったように首を傾げた。そのどこか子供っぽい表情に少年もつられて僅かに頬を緩める。 「『儀式』については、詳しいことを説明するのは禁じられているんだ。でも大人になるためにみんなすることだから、あまり心配しなくていいよ」 「みんな……ということは、お兄さんも神殿に行ったんですか?」 「うん。もう5年ぐらい前になるかな。……ところで」  気が付けば前のラクダとの距離が少し開きすぎている。歩を速めながら若者が告げた。 「俺の名前はファタル。きみの名前は?」  少年はその時ようやく、まだ自分が名乗っていないことに気付いた。  * * * 315 : 神殿娼年◆AjMEp4Bsfk : 2010/10/03(日) 20:03:18 ID: Nfxb6BPI 「ここが神殿だ。それじゃヤーガ、また逢おう」 「ありがとうございました、ファタルさん」  街につき、わざわざ神殿の前まで送ってきてくれたファタルにヤーガ少年は礼を言った。村の粗末な建物とは比較にならない立派な石造りの神殿を振り向き、ファタルに教えられたとおり門の傍らに立つ男に「儀式を受けに来た」と告げる。  男は彼を大きな広間に通した。巨大な偶像が彼を見下ろす。その圧倒的な雰囲気にたじろいでいると、別の男がやってきて薬湯の入ったコップを差し出した。甘ったるく、どろりとしたその液体は喉にひっかかりとても飲みにくい。  何とかコップの中身すべてを飲み干すと同時に、司祭らしき男が数人広間に入ってきて偶像の前で祈りの詩を歌い始める。ヤーガは最初緊張した面持ちでそれを聞いていたが、徐々に瞼が重くなり、やがてそのまま眠りに落ちてしまった。  ――フワフワした不思議な夢をみたような気がした。体が熱く、まるで空中に浮いているように不思議な感覚にヤーガは安心感と不安感の両方を同時に感じる。 「ん……ああっ」  誰かの切なそうな声が聞こえた。少年はようやく重たい瞼を開ける。  最初に見えたのは幾つもの蝋燭の明かりだった。同時に、周囲を漂う甘い香の匂いが鼻をつく。その光景のなかで揺れる幾つもの褐色の物体が何であるか判別できるまで視界が定まるには、まだ少し時間がかかった。 (えっ……?)  そしてその物体が少年や男たちの裸体であることに気付いても、その現実を理解するまでにはさらに時間がかかった。  少年たちはヤーガとほぼ同じぐらいの年齢にみえた。そして彼らは一矢纏わぬ格好で、大人の男たちと抱き合っている。 「ああん。ひぃあ……っんんっ!」  大人の男たちは、屹立した股間の逸物を少年たちの口や肛門に突き刺し激しく腰を振っていた。そのたびに少年たちの口から甘く切ない悲鳴が漏れる。 「こ、これって……ええっ?」  そしてヤーガは、自らもまた生まれたままの格好になっていることに気付いた。体じゅうが熱く、特に下腹部の突起物が燃えるように固く屹立しながら火照っている。しかし頭は逆に鈍く霞み、まるでまだ夢の中にいるかのようにぼやけていた。  訳がわからずうろたえる彼に、背後から誰かが声をかける。 「目が覚めたかい、ヤーガ」 「ひっ! ……えっ。ファタルさん……?」  驚いてヤーガが振り向くと、そこには同じように裸になったファタルが座っていた。安堵感とともに、彼の裸体にかえって不安が大きくなる。少年を安心させるようにいつもの微笑を浮かべながら、若者は彼に話しかけた。 「これが神殿の『儀式』だよ」  * * * 316 : 神殿娼年◆AjMEp4Bsfk : 2010/10/03(日) 20:03:45 ID: Nfxb6BPI 「え……? えっと、どういうことですか?」 「ヤーガ。きみが先日お漏らししたという出来事はね、『精通』というんだ。あのネバネバした液体は精液といって、それが出るようになったということは、きみは大人の仲間入りをしたということなんだよ」  ファタルの説明をヤーガは黙って聞いていた。しかし頭の芯が痺れたような状態では、その説明の半分も理解できない。  折しも、少年の口に逸物を咥えさせていた男が彼の顔に遠慮なく白い液体を放出させている。別の少年は肛門に太い逸物を飲み込んで腰を振りながら、自らの幼い怒張から同様に精液を高らかに打ち出していた。  自らの股間にあるモノも同様に固く熱く膨張し反り返っていることを少年は感じていた。ファタルの鍛えられた裸体を見ていると不思議と体が熱くなる。 「精液は大人になるため必要な液体なんだ。だからまだ大人になりたてのきみ達には、たくさんの精液を注ぎ込む必要がある。だからヤーガ。きみはこれから6日7晩、ここで大人の男たちの精液を飲み続ける。これが『儀式』の内容なんだ」 「……」 「よかったら俺がきみの初めての『儀式』の相手になりたい。なってあげたい。きみに初めて注がれる精液は俺のもので構わないかな?」  ヤーガはぼうっとした頭でその言葉を飲み込み、小さく頷いた。ファタルは少年の華奢な体を手繰り寄せ、そっと抱きしめる。やがて二人は静かに口付けを交わした。 「んっ……んんっ」  少年の小さな唇をこじ開けて若者の舌が入ってくる。唇同士、舌同士が絡まりあい、泣きなくなるほどの切ない気持ちが心臓を高鳴らせていく。  長いキスの間もにファタルの冷たい指先は少年の薄い胸板の上をゆっくりと降りていった。そして心臓の真上にある小さな突起を優しく包みこね回す。火照った体は彼の冷たい指の感触を際立たせるかのようだった。  もう片方の手はヤーガの汗に濡れる背中に回され、彼を安堵させるかのようにゆっくりと愛撫していた。やがてその手が背中から腰、お尻へと回される。柔らかい尻肉を揉み上げられ、たまらず少年はかわいい悲鳴を上げた。 「気持ちいいの?」 「……わからない、でも……ああん!」  戸惑いつつ唇を離したヤーガの半泣きの顔を見ながら、若者は乳首に這わせていた指をそっと下ろした。臍の近くを通り抜け、まだ陰毛も生えていない少年自身の突起物を軽く撫でる。ぞくぞくっとした感覚が背筋を駆け上がり、少年はさらに大きな悲鳴をあげた。  * * * 317 : 神殿娼年◆AjMEp4Bsfk : 2010/10/03(日) 20:04:24 ID: Nfxb6BPI  ファタルが床の上に仰向けに寝転がり、彼を手招きする。ヤーガは脇の少年がしているのと同じように、彼の顔面の上に腰を下ろした。そして自らは彼の逸物の前に顔を下ろし、反り返るソレをまじまじと見つめる。  自分の父や村の大人の裸は見たことがあるが、ここがこんなに膨張しているのを見たことはなかった。少年自身のものと違い、先端の皮は完全にめくれて赤黒い亀頭が露になっている。 「んっ……」  見よう見まねでその先端をそっと舌で舐めてみた。少し塩辛いが不快な味ではない。ファタルの気持ちよさそうな声を聞き、ヤーガはさらに全体を口に咥えてみた。  熱くて固い逸物はせいぜい亀頭までしか彼の口に入らないが、それでも彼は丁寧に敏感な部分を舐め続ける。 「ふうっ!?」  次に悲鳴を上げたのはヤーガのほうだった。両足を大きく開き突き出したお尻に若者が指をかける。褐色の肌の中にあって薄い桃色をした窄まりに彼の舌が伸び、その未知の感触にたまらず少年は逸物から口を離した。 「ふああ……ファタルさん、ダメ……汚い、よぉ」 「そんなことないさ。ほら、力を抜いて」  少年の抗議に一切耳を貸さず、ファタルは舌で丁寧に彼の陰部を愛撫した。肛門の襞を伸ばすようにしゃぶりついたかと思うと、舌先で会陰部から睾丸にかけてを嘗め回し、さらに力の抜けた窄まりを舌でこじ開けようとする。  ヤーガはもう、ファタルの逸物を舐めるどころではなかった。熱くたぎった自らのモノが千切れそうなぼと切なく震える。今まで意識したことのなかった不浄の窄まりも、今はさらなる刺激を求めていやらしくひくついていた。  それをみて若者は一旦唇を菊門から離し、自らの指をそっと舐めた。ヤーガが荒い息を繰り返し、ねだる様に肛門を震わせる。ファタルの太い指が唾液をたっぷりと絡ませながらその花弁にあてがわれると、そのままゆっくりと内側へと挿入されていった。 「ふぁ! ……っ、やぁ!」  一方通行のはずの器官に生まれて初めて異物が逆流してくる。しかし不思議と恐怖や嫌悪感はなかった。むしろぞくぞくとした快感が背中を駆け上がり、口からは甘い吐息が漏れてくる。  彼の指が根本まで挿入された。肛門が痺れるような感覚にヤーガはただ荒い息を繰り返し、それにあわせて括約筋がひくひくと蠢きながら指を食いちぎらんばかりに締め付ける。 「ほらもっと力を抜いて」 「そ、そんなぁ……無理……ああん!」  少年の抵抗を敢えて無視して、ファタルは指を軽く抜いた。全て抜けきる直前に僅かな角度をつけて再度挿入していくと、僅かにほぐれた菊門は幾分滑らかに彼を受け入れてくれる。それを何度も繰り返すうち、ヤーガの口からは荒く切ない悲鳴が上がり始めた。  やがて若者は指をもう一本、少年の窄まりに滑り込ませた。括約筋が微かに悲鳴を上げるが案外痛くない。逆に、強い圧迫感、強烈な異物感は下腹部の蕩けるような熱さを一層強くした。ぶるっと体を震わせ、切羽詰った様子で少年が叫ぶ。 「ファタルさあん……何か出そう、漏れそう……」 「それでいいんだ。気にせず力を抜いて」 「で、でもファタルさんにかかって……ひあぁっ!?」  彼の反論を無視してファタルは直腸内部に入った二本の指の先をぐっと曲げた。下腹部の熱い塊の中心をいきなり抉られ、少年は甲高い悲鳴を上げる。と同時に、数日前の精通と同様の快感が突起物を駆け抜け、勢いよく放出される。  ヤーガは全身をがくがくと震わせながら人生で二度目の射精の快楽を味わい続けた。  * * * 318 : 神殿娼年◆AjMEp4Bsfk : 2010/10/03(日) 20:05:11 ID: Nfxb6BPI  快楽の波が過ぎ去り、力なくファタルの裸体の上にヤーガが倒れこむ。肩で息を繰り返す少年の体から指を抜くと、若者は自らの胸の上に広がった少年の精液を指で掬いとった。  そしてまだ青い果実独特の酸味と苦味のあるその粘液を舐め取り、まだ力なくうつ伏せになったままの少年の尻に手をかける。 「……あ」 「それじゃ行くよヤーガ。力を抜いて」 「あ……ああ……いぎっ!」  汗にまみれた褐色の尻肉がを押し広げ、その中心にある窄まりにファタルは自らの逸物を押し付けた。ヤーガの括約筋は一瞬きつく閉じあわされたが、ほどなく元通り緩んでいく。彼の息が落ち着くのを見計らって若者は逸物をゆっくりと挿入していった。  指とは比べものにならない太さと熱さに、思わずヤーガが呻き声を上げる。肛門だけではなく直腸も強引に広げられ、未開の奥地へと掻き分けていく怒張の感触はまさに生まれて初めての体験、未知の快楽であった。 「根本まで入ったよ。どう、痛くない?」 「だ、大丈夫……です」  ヤーガはため息まじりにそう応えた。若者の逸物は少年の直腸のいちばん奥にまで届いており、先端はその狭いくびれを貫き通そうとするかのように腸壁を圧迫している。体が裂けそうなほとの痛みは、子供から大人へと羽化する苦しみでもあるように感じられた。  少年の返事を聞いてファタルは静かに逸物を抜き始める。直腸が空になり、正しい向きに肛門括約筋が引っ張られる感覚にヤーガは甘い息を吐く。  だが亀頭の手前まで抜いた途端、彼は再度挿入を始めた。再び直腸が満たされていく圧迫感に少年は小さな悲鳴を上げた。 「あ、ああ……ああん!」  異物感を和らげるために放出された腸液が潤滑油となり、徐々に逸物の出入りする速度が滑らかになっていく。粘り気のある音が結合部から響き、少年は直腸と肛門から湧き上がる痛みと快楽に少しずつ飲み込まれていった。  一旦放たれて萎んだ下腹部の熱い快楽の膨らみが、再び膨らんでくる。四つんばいの姿勢で肛門を犯されながら、ヤーガは我知らずファタルの名を何度も繰り返し呼んでいた。 「ファタルさん……ファ、タル、さあん!」  と、ファタルは突然、逸物を根本まで挿入したところで動きを止めた。そして訝しがる少年の体をひょいと裏返し、二人が向かい合うような姿勢にする。  ヤーガは戸惑いつつも彼の肩に手を伸ばした。彼もまた、少年の華奢な体を抱きかかえるようにして体位を変える。 「うあ……深いいっ!」  よく鍛えられた胸板に抱きしめられながら改めて腰を振られると、彼の逸物はさらに深く挿入され、狭いくびれすら抜けてしまうようだった。しかしヤーガはさらに足を開き、彼の挿入をより容易にしようとする。  反り返った幼い突起物の先端からじわじわと薄く濁った液がにじみ出る。突起の裏側辺りが痺れ、震えだしているのがヤーガには判った。体がバラバラになりそうなほどの快感に溺れつつ、少年は必死に何かにしがみつこうとファタルの体を強く抱き寄せた。 「……つっ!」  そんな少年に、若者は優しく口付けを交わす。熱い吐息が互いの喉を往復し、ヤーガは夢中で彼の唾液を啜った。やがて少年の体内でファタルの逸物が大きく震え、さらに一回り大きくなる。  押し出されるような荒い息を飲み込みながらヤーガもまた自らのお腹の中が大きく震えているのを感じていた。 「ファ、タ、ル……さぁ……んんっ!」 「ヤーガっっ!」  思わず相手の名前を叫ぶ。と同時に相手もまた彼の名前を呼んだ。そして次の瞬間、今までで一番深くまで差し込まれた逸物の先端から熱い液体が噴出し、少年の内臓を打ち付ける。  その衝撃が最後の引き金となって、ヤーガは本日2回目の、そして生まれて3回目の射精を行った。  * * * 319 : 神殿娼年◆AjMEp4Bsfk : 2010/10/03(日) 20:06:13 ID: Nfxb6BPI  心臓が飛び出しそうなほどの荒い息を、少年はファタルの胸板にもたれながら整えていた。若者も激しい呼吸を繰り返しながらヤーガの頭を撫でる。ようやく言葉を口にできるようになり、少年は静かに言葉を紡いだ。 「あ、あの。ファタルさん。僕……」  しかしファタルは指を少年の唇に押し付け、その続きを封じる。戸惑う彼に若者は身を起こしながら告げる。 「今きみが考えていることはわかるよ。俺もそうだった。……でもそれは薬湯と媚香がみせる幻覚にすぎない」 「え……」  恋というものを知らない少年でも、ファタルとずっと一緒にいたいという思いは本物だと思っていた。しかしそれを当の彼自身に否定され、ヤーガはただ呆然とファタルの瞳を見つめる。 「初めての相手にはどこか特別な想いを持つものさ。でもそれをいつまでも引っ張っちゃいけない。いいかい、これはあくまでもきみが大人になるための『儀式』なんだ」 「で、でも」 「大丈夫、これからここで何十人もの男を相手に『儀式』をすることになるけど、最後のほうには俺のことなんてすっかり忘れているさ。……俺ももう、きみのことは忘れることにする。またきみの村に立ち寄っても、僕ときみの間には何もない」 「そんな……」  知らず知らずのうちにヤーガの頬を涙が伝う。ファタルはあの困ったような子供っぽい苦笑を浮かべ、その涙を優しく拭った。そしてもう一度軽い口付けを交わすと、ゆっくりと立ち上がり出口に向けて歩き出した。  待って……! ヤーガは慌てて立ち上がり、途端に激しい眩暈を起こした。そのまま床に倒れこみ意識をなくす。再び目を開いたときには既にファタルの姿はどこにもなかった。  代わりに別の男達が彼の体をまさぐっている。乱暴な口付け。強引な愛撫。ファタルとあまりに違う乱暴で一方的な行為。 (……ファタルさんじゃない。ファタルさんじゃない……のに、どうして? 気持ちいい。お尻が蕩けるような感じがする。ファタルさんじゃないのに……あれ、ファタルさんって誰だっけ?)  それからヤーガは昼夜の区別なく大勢の男に犯された。何人の相手をしたのか、何回犯されたのかすら判然としない。ただ怠惰な肉欲の日々は永遠にも一瞬にも思えた。しかしある日、幾度目かの気絶から回復すると、そこは最初に通された神殿の広間だった。  儀式が終わったことを神官から告げられ、言われるがままに儀式の内容を他言しないよう誓わされる。そうして神殿の外に出たヤーガは、数日ぶりにみる太陽の眩しさに目を細めた。 (……そうだ、ファタルさん!)  しばらく神殿の前でぼうっと立っていた彼の脳裏に、あの優しい微笑みが蘇る。うろ覚えで通りを駆け抜け、隊商たちの溜まり場となっている市場に駆け込んだが、そこには既にファタル達の隊商の姿はなかった。  その後、ヤーガは自分の村へ向かう別の隊商を見つけ、村に帰った。以後彼は二度と村から出ることなく、平凡ながら幸せな人生を送ったという。  了

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