秩序と蓮花 ◆tu4bghlMIw


漆黒にも似た月の見えない空がゆらりと震える。
だが、そのような人情や侘び寂びにも似た感覚が彼女――KOS-MOSが理解できる訳もなかった。

U.M.Nネットワークが宇宙を一つに結び、合成人間「レアリアン」が当たり前のように人間の生活に溶け込んだ時代。
純粋なアンドロイドである彼女の存在は極めて異端なものだった。
故に彼女を制御するメインコンピュータは物事を基本的に合理的に処理する。
最優先保護対象である「シオン・ウヅキ」やその仲間達との触れ合いの中で、確かに彼女の擬似OSには純粋な"機械"であれば持ち得ない、"こころ"にも似た要素が付与されつつあったこともまた事実だった。

しかし状況を適切に分析し、今現在の彼女を取り巻く環境に対処する場合、いくつかの問題が浮上することになる。

『殺し合い』

言語に変換してしまえばソレは非常に単純、原始的な行為とも呼べるだろう。
先史時代から人が自らの領域を護るために闘争の歴史を繰り返していたことは、データベースにアクセスするまでもない自明の理である。
殺しは人の本能であり、根幹を成す要素だ。
もっともシグマと名乗った禿頭の男が言うように『この場に集められた者は少なからず身体の構成要素に機械を用いている』と言うのならば、何とも皮肉な話なのかもしれないが。

極めて限定的な空間における、一人の生存者のみを輩出するためのシステム。
状況を多少面積を増加させた古代ローマのコロシアムのような場所と想定するならば、あの言葉が当て嵌まる。
つまり、バトルロイヤル。
まるで何千年も時代を逆行したような催しに彼女が一切の共感や理解を示すことが出来ないのも当然であった。

KOS-MOSは当然のように、眉一つ動かさずに周囲の解析を開始する。
情報端末に記されていた情報は全てインストール済みだ。
支給品の転送自体も、彼女が普段の戦闘活動で行っているU.M.N.ネットワークを利用した空間転送技術による武装の換装と基本的に大差はないようだった。
内蔵兵器以外は通信が妨害され、大半が使用不能。
加えて各種センサーの効果範囲が極端に狭くなっているのは深刻な問題かもしれない。
たかが8km四方程度の空間だ。機器が正常に動作していれば、その全てを掌握することも十分に可能な筈であった。
せいぜい自身の周囲数十メートルが関の山とはお粗末としか言いようがなかった。

だから――ここまで無遠慮な接近を許してしまう。


「おい、そこの女」


第一声はあまりにも不躾な台詞から始まった。
機械的にKOS-MOSは振り向き、そして天を見上げた。

「私に、何か御用でしょうか」

彼女の声色には一切の動揺も浮き足立った調子も見られなかった。
あくまで、平穏。一点の曇りも無い透き通った眼差しで声の主を捉える。

彼女に話し掛けて来たのは赤い髪を石のようなヘアバンドで逆立てた少年だった。
上半身は裸ながら、鋼のような筋肉を覗かせている。
三白眼気味の瞳は強い意思と自信に溢れ、全身に刻まれた生傷は彼が過酷な戦闘を繰り返してきたことを――つまり戦闘タイプであることを雄弁に語る。

右腕には白いボックス状の武器。KOS-MOSはこの武装に見覚えがあった。
M.W.S.(Multiple Weapon System)だ。
ボム、ビームランチャー、格闘用ナックル、電磁ロッドなどが収容された携行型多用途兵器システムである。
本来コレはシオン・ウヅキの後輩であるミユキ・イツミが自らの先輩のために造り上げた武器だ。
つまりこの世に数点しか存在しないオーダーメイド品と言える。
ソレが当たり前のように眼の前の少年に支給されている。
ということは、シグマが言っていた『支給品』という物の中に、参加者の縁の品々が含まれている可能性が高いようだ。

だがそれ以上に彼女の眼を引いたのは彼が空を飛んでいる、という事実だった。
もっとも飛行自体はそれほど不思議な特徴ではない。
シグマが言うロボット、機械の身体を持つことが参加条件ならば飛行機能を有しているのは半ば自然だ。
ただ――少年の飛翔手段が『犬』であるという一点を除けば。

それは長毛種の犬であった。
彼女のデータベースの中に空を飛ぶ犬、というものは当たり前だが存在しない。
だが事実、少年は白い大きな犬に乗り飛翔している。
ただ何よりも彼女にとって異常なのは、その犬から一切の有機的な熱源反応を感じ取ることが出来ないことだ。
かといって、機械でもない。
まるで空を漂う巻雲のような捉えようのない存在と判断を下すしかなかった。

「……一つ、聞きたいことがある」
「それは奇遇です。こちらも他の参加者とコンタクトを取りたいと思っていた所です」

少なくとも、いきなり襲い掛かって来ることはないようだ、KOS-MOSはそう判断する。
M.W.S.から発射されるボムやビームランチャーの当たり所が悪ければ、一瞬でエリアが壊滅しかねない。

「私は対グノーシス用人型掃討兵器KP-X シリアルNo.000000001。通称、KOS-MOSです」

少年が訝しげに答えた。

「ナタクだ。そもそも……"ぐのーしす"だの"しりあるなんばー"と言われても分からん。
 貴様、言いたい事があるならもう少し分かり易い言葉で説明しろ」
「グノーシスとは通常、虚数空間にのみその姿を確認される怪異生命体の通称です。
 彼らは実数領域には存在せず、一方的にこちら側へ接触を計ることが可能です。
 その際、異なる位相空間に位置する彼らを実数領域へと固着させるためにはヒルベルトエフェクトと呼ばれる特殊な力場の展開が必要です。
 この能力を有するのはプロトタイプの百式レアリアン、もしくは――」
「おい、女。その説明にはあとどれくらい掛かる?」

ナタクがKOS-MOSの言葉を遮り、不快そうな表情、そして声で問い掛ける。
巨大な犬に跨り、空を飛行する少年は若い。
加えて全身の温度の分布が異様だ。
アンドロイドに近い存在のようにも見えるが、それでは心臓部の極端に妙な反応の説明が出来ない。

「はい、ナタク。予期せぬ問題が発生しなければ、グノーシスの解説に2分20秒。
 ヒルベルトエフェクトの解説に3分13秒ほどの時間を要します」
「……もういい。先に俺の質問に答えてもらう。嫌とは言わせん」
「はい、私にお答え出来ることでしたら何なりと。
 我々には情報が足りません。言語媒体を介さなければ交換出来ない事柄も多数存在すると予測されます。
 単刀直入に申し上げれば、私はこの状況を図りかねています。どのような行動を取るにせよ、情報収集は欠かすことが出来ません。
 是非ともナタクにも幾つか情報を提供して頂きたく思います」
「……ああ。俺が満足したら好きなだけ答えてやる」

一瞬、空気が凍りつくような緊迫感が両者を包み込んだ。
ナタクが大きく息を吸い込み、不適な笑みを浮かべた。

「女。貴様、強いな?」

言葉と共にナタクが右腕に装着したM.W.S.から一直線にKOS-MOSへとビームランチャーを発射する。
眩いばかりの光線は文字通り光の速さでKOS-MOSへと迫る。
互いの間合いは直線距離にして約十二メートル。
それなりの距離があるとはいえ、普通の人間であれば確実に身体を貫かれていたことは確実だ。
だが、KOS-MOSは予めナタクが攻撃してくることを予測していたかのような動作で身を捩り、直撃を回避する。

「警告します。単純な出力差では私とあなたの間には明確な差があります。
 このような威嚇行動は敵対意志有りとして、排除の対象になります」
「…………」

ナタクは向かい合ったまま、相手の話を聞くことが大嫌いだったこと。
無駄に物事を説明するというその行為、それが彼の生みの親である太乙真人とソックリであったこと。
この二つの事象はナタクが相手を攻撃するのに十分過ぎるものだった。
そもそも、KOS-MOSが戦う力を持たない非力な参加者であると、彼はこれっぽちも思ってはいなかったのだが。


 □


「仕方ありません。少し痛い目を見て貰います」

KOS-MOSはそう呟くと、すぐさま右手に自らの支給品である『闇夜の鎌』を転送した。
普段の彼女はU.M.N.ネットワークの空間転移システムを利用し、武器庫に補完してある各種武装をダイレクトに転送させることが出来る。
加えて腕部分をそのまま武器と入れ替えることも可能であり、弾切れの心配もない。
だがこの空間においては、どうもネットワークの不備なのかそのような武器の転送システムが使用することが出来ないのだ。
唯一可能な事といえば、自信の情報端末にID登録した物体を予備動作なしに転送することだけ。
普段の彼女が行っている膨大な演算処理を考慮すれば児戯に等しい。

「ほざけ……!」

ナタクは自分に向けて凄まじい速度で疾走してくるKOS-MOSをあざ笑うかのように、跨っている犬――哮天犬を急加速で発進させる。
くるり、と向きを変えKOS-MOSに背を向けながら深夜の住宅街を高速で移動する。

(あの女……アイツらと同じ、近接タイプか)

ナタクの脳裏に浮かぶのはいけ好かない二人の兄の姿だった。
基本的に今までナタクが戦って来た道士や妖怪仙人は遠距離タイプの者が多かった。
加えて彼自身の戦い方も他の仙人達と比べれば大分特殊であった筈だ。

宝貝人間である彼は普通の仙人であれば、力を吸い取られて衰弱死してしまうような在り得ない数の宝貝を通常身につけている。
この殺し合いに参加した時、彼は生まれてから絶えず身に着けてきた宝貝である『乾坤圏』『風火輪』『混天綾』を失った。
それに太乙真人が用意した『金磚』『火尖鎗』『九竜神火罩II』も含めて全部だ。
特に風火輪と金磚が手元にないことは、かなりのマイナスであると言えるだろう。

特別な防御手段を持たない彼にとって、移動と攻撃の中心になるこの二つがないことは戦力の大幅な弱体化を意味する。
自信の支給品の中にヨウゼンの宝貝である『哮天犬』、そしてM.W.S.という不思議な火器が含まれていたことは僥倖ではあったが、本来の装備とは程遠い。

「死ね」

哮天犬を急速停止、そしてすぐさま急速旋回させる。
振り向きざまにKOS-MOSへ向けてビームランチャーとボムを発射。
眉一つ動かさずに彼女は左右へステップを踏む。飛び散った細かな破片が彼女の身体に当たるが、傷一つ付けられずに弾かれる。
そのまま何事もなかったようにナタクへと迫るKOS-MOS。
十メートル程度の高度から彼女を牽制しつつ、弾幕を貼る。

どちらの武装も金磚や乾坤圏と比べれば微々たる破壊力しか持たない。
圧倒的な火力による制圧――それこそが、彼の本来取るべき戦略なのだが。

(爆弾があと九発……光線の燃料が9割か……)

ナタクは思わず下唇を噛み締めた。今までの戦闘では考えたこともなかった問題が、今彼に迫っていたのだ。
それはつまりエネルギーに関する懸念事項だ。

通常、仙人が扱う宝貝にはエネルギー制限や残弾を気にする必要などはない。
投擲系の宝貝(例えば鑽針釘のような)ならばともかく、使用者の体力が続く限りどれだけでも使用出来る。
ナタクに関して言えば、彼の体力は無尽蔵であり、加減をしながら戦闘した経験などほとんど皆無に等しい。
この支給されたM.W.S.も様々な機能を備えた優れた武器ではあるが、やはり火力の低下は否定できない。

「ナタク、無駄です。その武器の性能を私は知り尽くしてます」

高速で接近したKOS-MOSに一気に間合いを詰められる。
いかに哮天犬で飛行しているとはいえ、彼女の一つ一つの動きの加速力は異常なくらいだ。
シグマという男が言っていた言葉、すなわち『参加者は身体の構成要素に機械を用いている』を前提としても彼女の身体能力はトップクラスだろう。
武器に頼らなくても、高密度な戦闘を行うことが出来るという訳だ。

「――S-SAULT」
「ちっ……!!」

一瞬でナタクのすぐ近くまで接近したKOS-MOSはそのままの勢いで大きく回転蹴りを放った。
サマーソルト。腰骨に中心を置き、時計の針のように身体を回しながら蹴りを放つ技だ。
通常の蹴技に加えて遠心力、そして体重が掛けられる。
ちなみにKOS-MOSの体重は92kg。その一撃は細身の女性にしか見えないその外見を遥かに上回るほど重い。

ナタクはすかさず、M.W.S.から電磁ロッドを展開し彼女のサマーソルトを弾く。
バチッ、と電気がショートしたような音が響くが大したダメージは無いだろう。

(近付かれると厄介……とはいえ、この武装では遠距離からの戦いでも決め手に掛ける。……ならば)

そこまで考えると、ナタクはすかさず動いた。
M.W.S.だけの火力では彼女に深手を負わせることは難しい。
ならば――宝貝人間の名に恥じない手段を講じるまで。

KOS-MOSは体勢を立て直し落下しつつあった。
地面との距離はあと僅か。このまま攻撃しても、回避運動が間に合ってしまう可能性は高い。
次の機会を待つべきか。とはいえ敵の武装は近距離接近タイプ。
余裕を持って戦っていては、次の邂逅で手痛い一撃を食らう確率も高い。
ナタクは迷わず、今現在の自分が持つ最大の攻撃手段でもって反撃に転じた。

「……いけ、哮天犬」
「!?」

ナタクは自らの身も省みず、跨っていた哮天犬を真っ直ぐKOS-MOSに向けて突撃させた。
哮天犬はただ空を飛ぶ犬型の宝貝ではない。
元々の使用者であるヨウゼンが抜群の信頼を置くほど、高い攻撃力を持った強力な宝貝なのだ。
その破壊力は鉄筋コンクリートのビルであっても一撃で倒壊させるほど。

そして――その白い巨体がKOS-MOSと激突した。


 □


「……終わったか?」

地面とぶつかる直前に帰ってきた哮天犬に再度跨ったナタクは、爆心地のように大きな穴が出来てしまった道路を見つめる。
手応えはあった……はずだ。とはいえ、どうも逃げられたようではある。

なぜならば――未だに魂魄が飛んでいない。
そして姿もない。ソレはすなわち、上手く逃げ果せたということ。どうもアチラは本気で戦っていたように見えないが。

とはいえ、ひとまずコチラの火力が極端に弱い、という弱点は見つかった訳だ。
弱者には興味は無いが、確実に高い戦闘能力を持つ参加者がいることも分かった。
常に最大武装で戦っていたため分からなかったが、少なくとも他の武器を入手する必要がある。

ふと空を見上げる。
黒く、そして深い。吸い込まれそうな黄金の月。
ナタクは小さく息を吐き出すと、夜の闇に消えた。


【A-6 住宅地・空中/一日目・深夜】

【ナタク@封神演義】
[状態]:疲労(小)
[装備]:哮天犬@封神演義、M.W.S.(ボム残り九発 ビームランチャー エネルギー90%)@ゼノサーガシリーズ
[道具]:支給品一式、ランダム不明支給品1
[思考・状況]
基本思考:強い敵と戦う
1:強い敵と戦う(弱者に興味はない)
2:馴れ合うつもりはない
3:宝貝を探す
[備考]
※仙界大戦終了後からの参戦。
※周囲にA-6の道路が壊される音が響きました。

【哮天犬@封神演義】
天才道士・ヨウゼンが使用する犬型の宝貝。
見かけによらず凄まじい破壊力を秘めており、跨ることで飛行も可能。
普段は小さくして衣服の中に隠している。

【M.W.S.@ゼノサーガシリーズ】
箱のような本体内に格闘用ナックル、帯電ロッド、スペルソード、ボム、ビームランチャーといった様々な武器が内蔵されている。
遠距離、近距離両方の攻撃に優れ、非力な人間でも高い攻撃力が期待できる優れモノ。本来の使用者はシオン・ウヅキ。



「損傷は軽微、活動に支障は無し……」

ナタクから一つ離れたエリア、A-7にKOS-MOSは来ていた。
結論だけ言えばあの時、ナタクが打ち出した哮天犬は彼女に命中はしなかった。
直撃するギリギリで回避行動が間に合い、彼の説得を早々に諦めKOS-MOSはあの場を後にしたのだ。

X・BUSTERを使用すれば、少なくともこのように打ち負けることはなかった。
だが、妙なことに相当戦闘能力が弱体化していることを彼女は自覚していた。
通常はほとんど消耗もなく使用出来る、各種武装にも制限が掛かっている可能性が高い。
そもそも万全の状態であるならば、哮天犬の直撃でさえ片手一本で塞ぎ切ることが彼女には可能なのだから。

KOS-MOSは構えていた武器を再度転送すると、夜の街を歩き出す。
彼女が思うことはただ一つ。
生きてこの場から脱出しシオン・ウヅキの元へ――元いた宇宙へと帰還すること。


【A-7 道路/一日目・深夜】

【KOS-MOS@ゼノサーガシリーズ】
[状態]:ダメージ(微)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、闇夜の鎌@クロノトリガー、仙桃x3@封神演義、FN ブローニング・ハイパワー(13/13)@攻殻機動隊、マガジン(13/13 9mmパラベラム弾)x2
[思考・状況]
基本思考:自身の「生還」を前提とし、状況に応じたその時点で「最も」適切な行動を取る。
1:他参加者と接触を試みる。
2:施設、支給品など情報を収集する。
[備考]
※KOS-MOSの躯体はver.4です(Ep3後半の姿)
※参戦時期は改修後からT-elosとの融合前までの間。
※各種武装(R-BLADE、G-SHOT、DRAGON-TOOTHなど)はU.M.N.ネットワークの問題で転送不可。
 少なくとも内蔵兵器であるX・BUSTERは使用可能。エンセフェロンダイブ、ヒルベルトエフェクトなども一応使用可能。

【仙桃@封神演義】
水に溶けるとその水が酒になる桃。太公望の好物。


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GAME START ナタク 060:強者をめぐる冒険
GAME START KOS-MOS 037:Kokoro








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