聞こえた ◆hqLsjDR84w



 チンクと水色の髪の少女の脅威を知らせるべく、基地から飛び出した。
 アレから、どれだけが経過しただろう。
 体感時間では数十分。陽を見た限りでも、おそらくはそんなところであろう。
 現在の私の足場は雪原ではなく、アスファルトでもって舗装された道路。
 未だ目的地――エックスとソルティのいる地点――までは、結構な距離がある。
 もう数十分間走ったのに、である。
 鏡など見なくとも、己の顔が強張っていることがわかる。
 そのワケは、何であろうか。
 ……考えるまでもない、既に分かっている。
 出来ることならば、思い過ごしであって欲しかったが――どうやらそうはいかないようだ。
 何故か、働いているのである。
 今の状態で、作動するはずのないものが。

 ――自動人形(オートマータ)の黄金律(ゴールデンルール)。

 自らを改造し続けることで強化してきた我等でさえ、解明できなかった一種の命令回路。
 人形破壊者(しろがね)たちは、聖なるブラックボックスなどと呼んでいた。
 造物主様は、最古の四人を『人間たちに恐怖と苦痛を与える道化』として創りあげた。
 道化は、観客に見てもらわねばならない。見てもらわねば、観客に恐怖も苦痛も与えることはできない。
 我等は道化ゆえ、観客――ようするに人間に見てもらわねばならない。
 つまり、我等は人間の前では、人間が目で追える速度しか出せないのだ。
 人間の視覚が捕捉可能な限界など、楽に超越した速度で動くことができるのに……である。
 そのような命令を下すのがブラックボックスであり、下される命令を黄金律と呼ぶ。
 しかし、この黄金律には例外もある。
 人間が武器を持った時点で、人間は観客ではなくなる。
 観客でない相手ならば、道化は芸を見せてやる必要がなくなり、全速力を出すことができる。
 さて、その黄金律であるが……

 ――いま現在、確かに機能している。

 と言っても、ほんの少しだけだ。
 微弱ながらだが、何故か黄金律が働いている。
 周囲を確認。
 舗装されたアスファルト、電信柱、電線、民家、離れた場所に雪原。
 人間どころか、動くもの一つ見つからない。
 たとえ見つかったとしても、私が気付かぬうちから黄金律が働いていたのは、おかしいのだが……
 足を止めることなく、思案する。
 人間以上の速度は出ているが、やはり普段よりは遥かに遅い。
 何故だ。なんで、黄金律が働いている?
 約二百年の時をかけて解明しようとしたが、不可能であったブラックボックス。
 戦闘力、移動速度、反射神経、聴覚、視覚、etc、etc……
 それらについては構造を理解し、強化することが出来たのにである。
 そんなブラックボックスが司る黄金律を操作できる者など、この世にいるはずが……待て。

 ――たった一人だけ、いるではないか。

 最古の四人を創り出したあの男ならば、ブラックボックスの構造について知っていてもおかしくはない。
 いや、むしろ知っていなくてはおかしい。辻褄が合わない。
 やはりあのシグマという男の裏で糸を引き、我等を滑稽と嘲笑っているのか……造物主様――――フェイスレス様!
 機能するはずのないときに、黄金律が機能する。
 そんな身体にされたのは、私だけなのか。
 はたまた、パンタローネやコロンビーヌも、私と同じく黄金律が働いているのであろうか。
 だとしたらパンタローネ、お前は思うように身体が動かすことが出来ず、その結果破壊されてしまったのか?
 ……胸中で問うてみたが、答えが返ってくることはなかった。
 これ以上は、考えるだけ無駄であろう。
 どれだけ考えようと、答えは出ない。
 少なくとも、『私は』常時黄金律が働いているのだ。
 戦闘中でなく、いま気付いた幸運を噛み締めておこう。
 そう思ったときであった。突如、大地が鳴動した。

「なに……!?」

 足を止めて、周囲に目を配る。
 ある程度全方位を確認した後、音源と思われる西側へ視線を向ける。
 すると、もう一度轟音。それも、先ほどよりも大きい。
 現在、武器はない。愛用のリュートも、切り札と成り得た長ドスも、所持していない。
 戦力は、身体のみ。自動人形が襲い掛かってきても倒す自信はあるが、不安要素が一つ――即ち、黄金律。
 警戒しつつも、すぐに動けるよう腰を落として構えを取る。

 …………が、何も起こらない。

 どれだけ両目に力を込めようと、音源であろう方向に人影は見えない。
 ならば、先程の音は錯覚か? いいや、ありえない。
 と、なれば――音源は、自動人形の視力をもってしても目視不可能な場所ということか?
 そうとしか考えられんが……なんということだ。

 このアルレッキーノが『真夜中のサーカス』の楽士たる証拠である、リュートでの波動攻撃。
 両掌の十二の穴から空気弾を放つ、パンタローネの『深緑の手』。
 コロンビーヌの『蟲使い』である能力を使った、巨大なドリルを作り上げての攻撃。
 ドットーレの……む? はて……ドットーレの技で最も破壊力があるのは、一体何だったか……失念してしまった。まあいい。
 我等、最古の四人が持つ最大威力の技。
 どれを使っても、ここまで巨大な音は出まい。

 しかし、音源の場所にいるであろう参加者は、それをやってのけたのだ。

 はっきり言って、脅威である。
 その参加者が、造物主様の作った自動人形であるかは分からないが……
 もしそうであった場合、武器のない状態の私では相手にならないだろう。
 ならば、どうするか。
 同志を探すしかない。
 茶々丸の推測では、このバトルロワイアルには異世界の自動人形――いや、ロボットだったか。
 異世界のロボットが参加しているらしい。彼等と組みたい。

 さて、これからの予定を整理しよう。

 まずは、ソルティとエックスとの早期合流。
 チンク、そして水色の髪の少女の危険性を知らせる。
 その後、茶々丸とも合流したい。
 『放送の後』に合流するとは言ったが、細かい時間は指定していない。
 今から向かっても会えるかは分からないが、出来るだけ早く会わねばならない。
 もしも、彼女が信頼できる参加者を連れてきていれば、その者とも会いたい。
 彼女と彼女が出会った仲間――後者は、いないかもしれないが――にも、チンクと水色の髪の少女について伝える。
 その後、音源の方にいる参加者の話をし、どんな者か確かめたいが……その時には移動をしているかもしれないな。
 しかし今から向かって、相手がもしも造物主様が作った自動人形ならば、そこで終わりだ。
 チンクと水色の髪の少女の危険性すら、誰も知らないまま終わってしまう。
 それだけは、避けねばならない。

「やるべきことは、実に多いな」

 思わず言葉が漏れる。
 だが、決して面倒とは思わない。 
 この苦労が、最終的にはフランシーヌ様の助けとなるはずだ。
 フランシーヌ様――何故、機械の身体でない『あちらのフランシーヌ様』が、参加させられているのか。
 どうしても理解できないが、造物主様のやることだ。理解なんて出来るワケがない。
 そうだとも、もはや考えるだけ無駄なのである。
 無駄なことを考えるくらいなら、エックスとソルティの元へ向かうべく足を動かさねばならん。
 ただただ、フランシーヌ様のために。



【C-3 南部 路上/一日目 午前】
【アルレッキーノ@からくりサーカス】
[状態]:全身が焦げている。全身に中程度のダメージ、七分袖
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本思考:エレオノール(フランシーヌ人形)を生還させる。出来れば自分や茶々丸も共に脱出したい。
1:一旦エックスとソルティのもとに戻り、チンクとドラスの危険性を伝える。
2:その後、茶々丸とも合流。チンクとドラスの危険性を伝える。
3:音源にいるであろう参加者と接触。フェイスレスの作った自動人形ならば破壊したいが、今の戦力では……
4:エックスとソルティ以外にも、信頼できる人物にチンクとドラスの危険性を伝える。
5:フェイスレス側の自動人形は積極的に破壊する。
※名簿の『フランシーヌ人形』はエレオノールの事だと思っています。
※この殺し合いに参加している自動人形には、白銀とフェイスレス以外の何者かが作った者もいるのではと考えています。
※シュトロハイムとゲジヒトを、ナチスがあった時代に作成されたナチス製の自動人形であると思っています。
※チンクは殺し合いに乗り、シュトロハイムを殺害したと思っています。
※ロボットの事を「自分の知っている自動人形とは違う作られ方をした自動人形」と認識しました。
※茶々丸と情報交換しましたが、完全には理解できていないようです。
※制限に気付きましたが、『フェイスレスが何かしたに違いない』と思ってます。
※アルレッキーノが聞いた音は、超電急降下パンチと超電子ドリルキックによるものです。



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89:兄弟/姉弟/家族(後編) アルレッキーノ 103:アルレッキーノは自動人形を見ると、つい殺ちゃうんだ☆





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