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**オール反BR派 対 大デストロン (1) ◆hqLsjDR84w
[06:00――臨時放送]
前触れもなくPDAが電子音を響かせ、ディスプレイに現在の時刻を表示する。
「あー、テステス……よし。
驚かせようと思ってぶっつけ本番だが、ちゃあんと聞こえてるみたいだな」
寸刻の後にスピーカーから発せられるのは、女性のものに近い合成音声ではない。
マイクを通した低い声。
やたらとイントネーションを強調しており、聞く者を小馬鹿にしたような態度をであった。
「さぁ~~て、これを聞く正義の味方諸君!
これから大事なことを伝えるから、聞き漏らさないようにその耳をかっぽじれよォ~」
すう、と深く息を吸い込む。
そしてこれまでの比較的静かな物言いから一変。
声を大きく張り上げて、高らかに宣言した。
「この要塞、およびこのバトル・ロワイアルはッ!! 俺達、『大デストロン』が乗っ取った!!!」
これまでの話者とは異なる落ち着いた渋い声が、短く表明を肯定する。
甲高い少女の高笑いを十秒ほど木霊させてから、PDAの画面は通常状態へと戻った。
◇ ◇ ◇
[04:33~04:42――宇宙要塞内部 通路]
イーグリードが、その二枚の羽を勢いよく前後させる。
鷲を模したボディゆえの堂々たる羽が生み出した烈風は、それが吹き抜ける障害となる七体を塵とした。
空中に静止したまま、イーグリードは眼下へと目を凝らし――
「…………ちぃっ!」
そして、苦々しく顔を歪めた。
散り散りになった金属の欠片が液状となり、目に見えるほどのスピードで集っていく。
その正体は、液体金属から成るターミネーター『T-1000』。
イーグリードのストームトルネードがT-1000軍団を破壊するも、即座にT-1000が再生する。そんな状況が長らく続いてしまっている。
転送カプセルを使用してからずっと到着地で足止めを食らっている事実に、若干甘く見ていたT-1000の性能をイーグリードは脳内で上方修正せざるを得なかった。
何せ、再生速度が尋常ではない。
四散させること自体は容易なのだが、それから十秒も経たぬうちに液体金属を回収し、さらに五秒で肉体を再構成してしまう。
さらに言えば、そもそもイーグリードの戦闘スタイルと相性が悪すぎる。
いくら風で吹き飛ばそうと、バラバラにしようと、壁に叩き付けようと、全てが無意味。
T-1000が所持していたマシンガンは初撃で破壊したが、攻撃を受けないとしても倒せないのだから長引くだけだ。
かといって――――
一瞬だけ再生中のT-1000から目を離すと、イーグリードは背後へと首を回した。
瞳に映ったのは、依然意識を取り戻さないソルティ、無理をして彼女を抱えている武美、二人を庇うように前に立つウフコック。
二人の女性に危害が及ばぬよう凛と佇んでいるものの、ウフコックの姿はどこか不甲斐なさそうであった。
(不可能だ)
一旦T-1000を破壊して、再構成を遂げ前にられる彼女達を連れてライト博士の下へと向かう。
そんな策を、イーグリードはすぐさま切り捨てた。
彼女達を連れた状態では、再生したT-1000に追いつかれるのは自明である。
また武美とウフコックの能力から考えて、気絶中のソルティは彼自身が運ばねばならない。
しかしそんな状態でストームトルネードなんぞ繰り出そうものなら、ソルティに危害が及ぶ可能性が高すぎる。
動くに動けない自分を呪った舌打ちとともに、イーグリードは何度目になるか分からないストームトルネードを放つ。
例の如く液体金属が散乱した瞬間、イーグリードのを背後から眩い光が照らした。
(新手か!?)
焦りを胸に振り返ったイーグリードだったが、彼の聴覚を刺激したのはあまりにも聞きなれた声だった。
「む、イーグリード?」
本郷からイーグリード達は大分前に転送カプセルを使用したと聞いていたため、ゼロは未だ転送地点に留まっている仲間の姿に目を丸くする。
「まだこんな所にいるとはな。何をチンタラしている、鶏がら」
冷静で淡々としつつも、こちらを囃し立てるような。
そんないつも通りの親友の声に、イーグリードは安堵の息を吐いた。
現れた男の能力がT-1000の天敵であるからではなく、ゼロが全てを任せられる相棒ゆえに。
「やはりいたか、T-1000!」
「っ、それって――」
人型に集う銀の雫から、すぐさまゼロはその正体を察する。
かつて聞いた話を思い返すドラスを後部座席に乗せたまま、白いカラスという名のバイクから飛び降りてスタンドを下ろすゼロ。
一度撃破したときのように展開させたセイバーに冷気を篭め、今にも飛び掛らんとしたところで前に出てきたドラスに出鼻を挫かれる。
「一体一体倒してたんじゃ、時間がかかるだけだよ。液体なら……」
ゼロが疑問を口にする前に、ドラスが纏った紅いマントが淡く輝きだす。
その真の姿はマントではなく、腰布の宝貝『混天綾』。
そして、その能力は――――
「集まって、いく?」
巻き起こる暴風により舌を噛まぬよう、ウフコックから沈黙を命じられていた武美だったが――思わず口を動かしたてしまった。
それほどまでに、異常な光景が眼の前に広がっていた。
T-1000を構成していた液体金属が集束していく。ここまでならば、今までと何ら変わりない。
異なるのは形だ。人間のようなシルエットを模るのではなく、デコボコとした不恰好な球体。
数も七つではなく、全ての液体金属がただ一つの巨大な球体を構成していく。
T-1000自身も、なぜこんな形態を取っているのか理解不能。
何とか理由を求めようとするも、コンピュータが導き出す結論はUNKNOWN。
再試行するも、やはり結果はUNKNOWN。
シグマが支給品に関する資料をデータとして残さなかった以上、科学が発達した世界のターミネーターに答えを導き出せるはずがなかった。
――――これこそが混天綾の能力、液体操作。
「はああ……!」
全ての液体金属を回収したのを確認してから、ドラスが紅い怪人態となる。
未だ状況を理解できないT-1000の前で、ドラスの左肩に刻まれた三つの点が輝き――そして一条の光線が放たれた。
見ただけでその光線が秘めた莫大なエネルギーを把握するT-1000。されど、混天綾により回避動作を取ることすらできず。
T-1000はマリキュレイザーを正面から受け、分子組成を破壊されて蒸発した。
制限が科せられていないマリキュレーザーのあまりに出鱈目な威力に、参加者の資料に目を通したイーグリードさえも唖然とする。
単純なスペックだけならば、ゼロやイーグリードを凌ぐかもしれない。少なくとも、破壊力という観点では。
しかし戦闘経験の少なさと――何より幼さゆえに、ドラスからはどこか危うさが醸し出されていた。
またドラスは否定するだろうが、ウフコックの嗅覚は『動揺』や『焦燥』を感じ取っており、それがウフコックに言葉にし難い不安感を与えていた。
ドラスが思い出したように体内から排出した起爆装置が床に落ちる音で、全員が思考の渦から帰還する。
「……っ、止まっている暇はないな。行くぞ」
「あ、ああ。まずはライト博士をターミネーターやメガトロン達から保護するため、修理室へと向かう。こっちだ」
ソルティを背負ったイーグリードを陣頭に立たせ、ゼロ、ウフコック、武美、ドラスと続く。
目的地を知るイーグリードが先頭なのは変えようがなく、ソルティを抱えているので攻撃に転じることができない彼をゼロが補佐。
奇襲を受けた際に防護壁とターンできるウフコック、戦闘能力ならばトップクラスのドラスが、武美を挟む陣形だ。
要塞内はバイクを乗り回せるほどに広かったが、後部座席に武美を乗せての戦闘はゼロとて厳しいとの判断から白いカラスはPDAに転送した。
(おかしいな……)
周囲を確認しつつ足を動かしながら、ドラスはある疑問を抱いていた。
先ほど除去した起爆装置のことだ。
吸収したナタクの物も取り出すはずだったが、それができなかったのだ。
取り込んでいる以上は可能なはずなのに。
――ドラスが導き出しようのない、答えが存在する。
ナタクに仕掛けられた起爆装置は、既に摘出されていたのだ。
エックスのスピアチャージショットが、彼の左胸を貫いた際に。
そう、彼は起爆装置を『本来の弱点でない胸部』に仕掛けられていた。
決して、彼だけが特別ではない。
ルーン・バロットという参加者も体内ではなく、首輪という形で爆弾を仕掛けられていた。
ナタクの場合はあえて強引に取り出しても致命傷を負わない場所に、バロットの場合は誰にでも目に入る場所に、あえてシグマが仕掛けたのだ。
解析を進めやすくするために。
つまるところ、これらもまたシグマの策の一つであった。
『開始直後はバトルロワイアルに乗るであろうナタク』、『全身改造でないがゆえに特例としてのバロット』。
たとえば本郷猛なんかの起爆装置を通常と異なる仕様にしたのなら、否応なしに疑われるであろう。
だが上記の理由がある二者ならば、疑われないだろう。
そんな考えがあったのだ。ナタクが反バトルロワイアルに転じるかは、真に分の悪い賭けであった。
…………まあ、この策は全くこれっぽっちも爆弾解析の役には立たなかったのだが。
唯一の影響が、現在ドラスに疑問を抱かせたくらいか。
「ぐう、大群だな」
イーグリードの毒づいたような言葉。
同時に、巨大な羽が空気を叩いて生まれた空気の乱れ。
続いてセイバーの展開音に、二桁を越すT-600の歩行による金属の軋む音。
(まあ放っておこう)
思索を中断させたドラスの前で、反転駆動してきたイーグリードが武美とウフコックを掬い上げる。
ソルティだけを抱えるのとは違い、両腕が塞がってしまえば防御の姿勢すら取れない。
それを見透かしてか、T-600達がイーグリードへとミニガンの照準を合わせる。
「させないよ」
しかしその全ては、ドラスが展開させた魔方陣から飛び出した魔力の塊により掻き消される。
それを目の当たりにしてなお、釣瓶打ちを続けるT-600。
ドラスの魔法弾と弾丸が相殺しあう中で、幾百もの蜂の羽音を思わせる響き。
「雷神撃!」
イーグリードを狙う間に肉薄していたゼロが、電気エネルギーと化した刃をT-600へと突き刺す。
伸張した刀身は一突きでもって、四体のT-600の頭部を炭とした。
即座に状況を理解し、群がっていたT-600が各自距離をとろうと判断を下す。
それを動作に移すより早く、ゼロは短い呼気とともにセイバーを横凪に振るった。
◇ ◇ ◇
[04:44~04:52――会場内 エリアD-3]
仮面ライダー1号は、ただ一人でT-888とT-800の集団に囲まれていた。
総数三桁を優に超えていたターミネーターも、今となっては残り二十と三。
それでも、ターミネーターのCPUは勝利を確信している。
数分ほど前から1号が攻撃をしてこないからだ。
おそらく1号のスタミナ切れと推測し、同じく攻撃してこないミーを放置してひとまず厄介な1号を殲滅するつもりだ。
ミニガンの弾切れのために接近せねばならなかったが、遂に1号まで五メートルを切った。
一体のT-888が飛び掛ったのを皮切りに、二十三体が一気に1号へと押し寄せた。
しばらくして1号の絶叫が響いた。
しかしその声が内包していたのは絶望ではなく、これまで幾千幾万の死闘と変わらぬ気合。
人類の自由と平和を守るべく、たとえ幾億幾兆の修羅場さえ潜り抜けるという強靭なる意志。
「ライダァァアッ! きりもみシュゥゥーーーット!!」
最初に飛び掛ったT-888が、1号によって宙へと投げ出される。
T-888に『技の1号』が加えたきりもみ回転は、次第に増幅して旋風を引き起こす。
1号に不用意に近づいていたため、残りの二十二体全ても旋風へと引き込まれる。
「今だ、ミー!」
「はいよ!」
1号の呼びかけにこたえるように、ミーがフルチャージしたバスターを掲げる。
銃口を向けられて初めて、ターミネーター達はスタミナ切れを装っていたのだと気が付いた。
戦争を知らぬターミネーターが新たな戦術をインプットした途端、巨大な光弾が一体の水素電池に命中。他の二十二体をも道連れに炸裂した。
「ふう……一段落、だね」
「ミー、体力は持つか?」
これまでの戦いが夢だったかのような静けさの中、一息つこうとしたミーに1号が尋ねる。
その手に握られたPDAの画面からは、あとボタンを一度操作するだけでサブタンクが転送されることが伺えた。
1号が気遣ってくれているのは分かるが、ミーはどうもいい気分がしなかった。
明らかに1号の方が倒しているし、疲労も大きいはずだ。
他人を気遣うのは素晴らしいが、それで無茶をしては本末転倒だ。
そう考え、ミーはやんわりと断る。
「大丈夫だから、それは本郷さんが使いなよ。
暴走してたゼロさんと戦ってから、ずっと休んでないでしょ?」
「いや、俺はいい。必要ないのなら取っておこう」
やっぱりか、とミーは心の中で呟く。
そんな時、ミーの聴覚が僅かな地鳴りのようなものを捉えた。
1号も察知したらしく、PDAを仕舞い込む。
大地の響きだけで分かるほどに、D-3へと向かってきているターミネーターは多かった。
当然である。
ゼロとドラスを送り込んですぐに、1号はライト博士への交信を試みた。
転送カプセルの電源を落としてもらうために。
ライト博士がいたのは修理室であったが、そこにもバトルロワイアル会場を司るコンピュータがあったのですぐに1号の案は執行。
この処置により、会場に散らばった転送カプセルから要塞へとターミネーターが侵入することはなくなった。
それでも四箇所に存在するシャトルを使うターミネーターはいるだろう。かと言って、君達がいるのにシャトルを遮断するワケにもいかない。
そうライト博士が漏らしたゆえに、1号は提案したのだ。
『D-3以外のシャトル基地への電気供給を遮断してくれ』と。
そんなことをすれば、会場全域に転送されたターミネーター全てがD-3へと向かうことになる。
ライト博士は強く忠告したが、1号はそれでも頼み続けた。
結局、要塞に向かった仲間にさらなる危険が及んではいけない、との意見にライト博士は折れた。
「いま来てるヤツらを全員倒せば、出発できるんだよね」
「ああ、そうだ」
元々D-3にいたターミネーターを倒すうちに、いつの間にやら新たなターミネーターは送り込まれないようになっていた。
バトルロワイアルを開催した世界にあった全ての平行世界移動装置が、破壊されたのだろう。
つまり、もうこれ以上ターミネーターの数が増えることはないのだ。
先陣を切って姿を見せたモトターミネーターを確認し、対抗するために1号はサイクロン号を転送させる。
シリウスと合体したミーでは、あの数のモトターミネーターには対抗できないと判断したからだ。
ミーの運転技術もなかなかの物だが、天才レーサーとしての顔も持つ1号には及ばない。
「もしもの時は、これを使え。効果は折り紙つきだ」
「え!? なんで、いつもいつもォォ!!」
サブタンクが入ったPDAを渡されたミーの絶叫は、刹那で最高速に到達したサイクロンのエンジン音に掻き消された。
◇ ◇ ◇
[04:54~04:59――宇宙要塞内部 修理室]
全面が蛍光灯の役割を果たす天井の下で、ライト博士はあらぬ方向を眺めていた。
瞳の焦点が合っておらず、その表情に生気はなかった。
毛髪やヒゲはとうの昔に白くなってしまったものの、それでも割りと年齢より若く見られるタイプであったのだが……
そんなことを感じさせないほどに、疲弊しきっていた。身体ではなく、精神が。
彼は、人とロボットの共存を夢見ていた。
平和や安全のためのロボットこそ、彼が作りたかった物だった。
時にはメルヘンな幻想などと揶揄されたが、それでも理想を追い求めた。
やがては人々にも認められ、『ロボット工学の父』とまで呼ばれた。
しかし――――彼は、ここに来て揺らいでしまっている。
彼の作り出した一体の行動が、不意に何度もフラッシュバックする。
それだけではない。
バトルロワイアルを開催した世界の人間達の、ロボットに対する嘲りが。
シグマが抱く人間への怒りが。
人間とロボットとの間にある深すぎる溝が。
執拗に、ライト博士を痛めつける。
――ライト博士の中で、人と機械における究極の問いが木霊する。
そんな時であった。
彼がいる修理室の壁に、軽快な音とともに丸い刃が入り込む。
T-Xに搭載された電動ノコギリだ、と理解していながらライト博士は動かない。
そもそも逃げようがない。ここで死ぬのも彼を作った罪滅ぼしか、とライト博士は穏やかに目を閉じようとして――爆音。
衝撃でか、ライト博士の瞳に光が宿る。
戦闘音が続く中で、カードキーが差し込まれたらしく修理室の扉が開く。
「ライト博士、無事ですか?」
「イーグリードくんか……」
ライト博士に傷がないのを確認すると、イーグリードはソルティをベッドに寝かせて部屋を飛び出す。
戦線に戻ろうと急いでいるらしく、ライト博士の悩みには気付かない。
勝手に扉が閉まった後に、オートでロックがかかる。
せめて償いにとソルティの修理に励もうとして、ライト博士の視界を大小二つの影が暗転させる。
「君達は……そうか、ここに避難しに来たのか」
「あ、えっと、そう、です」
明らかに相手が年上なため、若干しどろもどろで武美が答える。
当然ながら普通に敬語くらい使っていたのだが、どうにもいきなり現実世界に引き戻された気分で口篭ってしまった。
武美が沈黙を破って何かしら手伝おうかと申し出たが、ライト博士はやんわりと断る。
再び誰も口を動かさなくなり、武美がいたたまれない気分になった頃、ふとライト博士が口を開いた。
「君は……」
「えっ、あ、何ですか?」
「人間と――――いや、やめておこう。すまないね」
「あ、そう、です……か」
再び、会話がなくなる。
(何これ、すっごく気まずいー! 何で黙ってるの、ウフコックー! 空気をー、どうにかしてー!)
当のウフコックはと言うと、嗅覚でライト博士の絶望具合を感じ取っていた。
だが、だからこそ何も言うことができないのだ。
◇ ◇ ◇
[05:07~05:28――会場内 エリアD-3]
仮面ライダー1号操るサイクロン号が、バイク型のモトターミネーターを追走する。
戦闘の余波で融解した雪が地面をぬかるませているが、どちらも足を取られてしまうことはない。
モトターミネーターが距離を離そうと加速するも、エンジンの性能ならばサイクロンのほうが遥かに上だ。
いくらか距離が縮まったのを見計らって、1号がハンドルを持ち上げサイクロンをウィリー運転の形とする。
ある程度の高さまで到達してから、凪ぎ下ろすように振り下ろされる前輪。
怪人の表皮をも粉砕するタイヤが高速回転し、モトターミネーターを強引に分断した。
「あと二台、か」
モトターミネーターの残骸が動かなくなったのを確認して、1号は残りのモトターミネーターへと視線を流す。
背後でバルカンの銃口を向ける二台を視認し、再びアクセルを捻る1号。
しかしながら加速しきっているモトターミネーターに対して、サイクロンは先の荒業により速度が落ちてしまっている。
如何にモンスターマシンとはいえ、モトターミネーターに装着されたバルカンのいい的だ。
計四つの銃口から、無数の弾丸が1号へと驟雨の如く降り注ぐ。
バルカンに火を噴かせつつも、速度を緩めないモトターミネーター。銃弾を受けたところを轢き殺すという、二段構えの戦法を取ったのだ。
――が、銃弾は一発たりとも1号に命中しなかった。
1号はサイクロン号の前方に体重をかけると、急ブレーキング。
後輪が大きく浮か上がったジャックナイフという呼ばれる状態となり、全ての銃弾はサイクロンの車体に傷を付けるに終わった。
またジャックナイフによる急減速に対応しきれず、サイクロンを追い越してしまうモトターミネーター。
直ちにUターンするも、その時にはもう1号は先ほどまでいた地点から消えていた。
バルカンの銃口を残されたサイクロン号に向けたまま、モトターミネーターは現状を把握しようとして――上方からの音声を探知した。
「ライダー……キィーーック!!」
1号が跳躍していたのだと気付いた直後、二台のモトターミネーターは機能を停止した。
バイクの運転技術に長けた自分が倒すべきモトターミネーターの全滅を確認し、1号は静かに呼気を整える。
とはいえ、それに費やすのは僅かな時間だ。
モトターミネーターを相手する途中で幾らか倒したが、まだターミネーターは無数に存在するのだから。
一人で戦わせたまま放置しているミーも、気がかりであった。
素早く周囲を見渡してメタルボディの猫型サイボーグを探し出すと、1号はすかさずサイクロンに飛び乗った。
思いっきりアクセルを捻った1号の表情は、変身前であったのならば眉をひそめていただろう。
ミーは善戦していたものの、あまりにも数の多いターミネーター達に囲まれてしまっていた。
ああなれば、多少の実力差など関係なく押し潰されてしまう。
数とは、それほどまでに凶悪なものだ。
「ヌゥン!!」
道中に転がっていたT-888の残骸をジャンプ台として、サイクロンごと飛び上がってミーを取り囲むターミネーターの群れへと飛び込む。
着地の際に同時に数体のT-800を踏み潰し、崩れかけた車体をアクセルターンで無理矢理に引き起こす。
ターンに巻き込まれて倒れたT-600とT-888の集団は、ご丁寧に全員が二度目のアクセルターンで頭部を砕かれた。
このままターミネーターを片端から破壊していくのも手だが、まず優先すべきは中心部にいるミーの下に駆けつけることだ。
再認識した1号は体勢を低くして、ターミネーターの群れへと突っ込んだ。
ミニガンから放たれる弾丸を身に受けても意に介さず、1号はひたすらサイクロンのアクセルをフルスロットルに。
どれだけのターミネーターを掻い潜っただろうか、ついに1号の複眼が水色のメタルボディを捉えた。
「えっ!?」
倒れたT-888の頭頂部からウィル・ナイフを引っこ抜きながら、ミーが驚愕の声を上げる。
掠り傷こそ至るところに刻まれているが、大きな被害はないようだ。
静かに安堵しながら、1号がサイクロンのハンドルを激しく回す。
いきなりの方向転換によりスライドした車体が、ミーの周囲にいたT-800シリーズを薙ぎ払う。
「ふッ」
ふらつくT-800シリーズの前で鋭く息を吐き、再び1号はサイクロンをジャックナイフの体勢へと持っていく。
そしてジャックナイフを維持したまま、前輪を支点にして車体を独楽のように回転させる。
結果――勢いよく振り回された後輪が、T-800シリーズの頭部を刈り取った。
現れていきなりジャックナイフターンという技術で何体ものT-800を蹴散らした1号に、思わずミーは呆然とする。
そんなミーへと、サイクロンから降りた1号はゆっくりと口を開いた。
「モトターミネーターは倒した。後はこいつ達だけ――――」
言い終えるよりも早く、1号は地を蹴る。
ターミネーターシリーズの群れの中で、ミーへと光り輝く右腕を向けたT-800が一体いたのだ。
それは少し前からエネルギーをチャージしていたのだが、サイクロン号に乗った状態では視線が低く1号は視認できなかった。
(間に合わん……!)
1号が駆け出したのとどちらが早かったか、T-800の砲台状となっている右腕が光弾を吐き出した。
相手に気付くのが少しばかり遅すぎた。
そう判断して即座に、1号は進行方向をT-800から変更。プラズマ弾の射線上へと飛び込んだ。
「グぁぁあああッ!!」
1号から、彼らしくない絶叫が漏れた。
ミーを庇うことだけを考えたために、急所を避けることすら出来ず。
プラズマから成るオレンジ色の炎弾は、仮面ライダー1号のエネルギーの源であるベルトへと直撃した。
変身が解除され人間の姿に戻っても、空中で身体を回転させて吹き飛ぶ距離を制限したのは、さすが本郷猛と言ったところか。
「本郷さん!」
本郷の下へとミーが駆け寄ろうとするが、Tシリーズの群れから飛び出してきた一体のT-800が阻むように前に立つ。
「邪魔だァァーーー!!」
一刻も早く本郷の安否を知りたいという焦りが、ミーの中で爆発。
声を張り上げて跳びあがり、T-800のカメラアイへとウィル・ナイフを押し込んだ。
傍から見れば致命の一撃を与えながら、ミーは腑に落ちないものを感じた。
ウィル・ナイフを差し込んだ箇所から一閃したのだが、伝わってくる感触があまりにも奇妙だった。
まるで豆腐でもスライスするかのような、手応えのなさ。少なくとも、これまで相手にしてきた金属骸骨を貫く感触とは異なっている。
疑問に思ったミーは、着地するより早く上を見上げる。
「なあッ!?」
思わず声を漏らすミーの眼前で、T-800に刻まれた傷跡が見る見る塞がっていく。
完全に塞がった後に、T-800が姿を金髪の女性のものへと変える。
その服装は、本郷猛が着込んでいる黒のレザー製ライダースーツに酷似していた。
ミーには知る由もないが、彼女はT-800ではなくその上位機種。
対ターミネーター用ターミネーターのT-X。
あえてT-800に擬態して、ターミネーターシリーズの群れに紛れ込んでいたのだ。
眩い光を放つT-Xのカノンと化した右腕を向けられて、呆けていたミーが我に帰る。
しまった、と吐き捨てるも時既に遅し。
ミーが距離を取るよりも、T-Xがプラズマ弾を撃ち出すほうが早い。
「むぅん! ライダーチョップ!」
しかしT-Xの背後から伸びた手刀が、右腕ごと銃口を横に移動させてしまう。
結局、吐き出されたプラズマ弾はミーの装甲を焼くことはできなかった。
周囲を囲むターミネーター達が巻き込まれ、水素爆発が起こる。
吹き飛ばされてから起爆したために爆心地が遥か彼方であったのは、ミー達とターミネーター達の両勢にとって幸運と言えるだろう。
「――――?」
首だけを百八十度回転させたT-Xのカメラには、精悍な顔付きの男が映った。
纏うライダースーツは一部消し炭となっており、そこから見える逞しい肉体もまた焼け焦げていた。
されど、その瞳の輝きに些かの曇りもない。
未来のテクノロジーによって作り出されたプラズマ弾は、本郷猛が抱き続けている決意を揺らがせるほどの物ではなかった。
軽やかな動作で足を払われ、T-Xの身体が宙に浮く。
力を感じさせない本郷の老獪なテクニックは、ターミネーターが即座に反応できる類のものではない。
対パワーを意図して製造されたT-Xならば、尚更のこと。
その隙を狙って本郷はT-Xの腕を掴み、勢いに任せて一本背負い。
一瞬にして、本郷はミーとT-Xの間に入り込んだ。
スペックが上のT-Xを救援するために、いくらかのT-800が本郷へと飛び掛る。
だが、ただ割り込んできただけの相手にやられる本郷ではない。
横凪に斬り払うようなハイキックで、数体まとめて地面へと叩き付ける。
頭部の破壊はさすがに適わなかったが、それでも隙を作り出すには十分であった。
「本郷さん……大丈夫?」
本郷に背後からかけられたのは、ミーの不安そうな声。
ダメージは決して軽くはないが、ミーに責任を感じさせるワケにはいかない。
その思いから、本郷は欠片もダメージを受けていないような素振りで微笑を向ける。
しかし本郷の無理をする性格を知っているミーは、素直に安心できない。
それを察した本郷は、答えの変わりに態度で示すことにする。
本郷が全身に力を漲らせるとともに、腰に巻いていた黒いベルトが鉛色の金属と変化する。
バックル部には巨大な赤い風車。そのベルトの名をタイフーン。
プラズマ弾の直撃で幾分黒ずんでいるものの、確かに顕現した。
その事実に胸中で安堵の息を漏らして、握った左拳を腰へと持っていき固定する。
「ライダー変ん……身ッ!!」
右腕を左側に伸ばして、そのまま右へと振るう。
それを合図として、本郷は緑色の体躯に赤マフラーを巻いた改造飛蝗人間の姿へと変身――
「何……?」
――しなかった。
タイフーンの風車が、気合を入れる心のスイッチに反応しなかったのだ。
ぽかんと口を開けたまま硬直した本郷に、上体を起こしたT-Xが再びエネルギーを充填中の右腕を向ける。
「危ないっ!!」
ミーの低空タックルを膝裏に受け、本郷が倒れ臥す。
直後、本郷がいた箇所をプラズマ弾が通り過ぎる。
電撃を纏ったオレンジ色の炎弾は、再びターミネーター達を彼方で炸裂させる。
対ターミネーター戦の中で水素爆発を何度も見たとはいえ、とても慣れるものではない。
「…………っ、う……」
耳朶を打った轟音に苦悶の表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がるミー。
そして、すぐさまそのメタルボディが照らされる。
光がT-Xの右腕から発せられるものだと気付いたと同時に、ミーは浮遊感を味わった。
いち早く体勢を立て直した本郷が、ミーを抱きかかえてサイドステップを踏んだのだ。
何とか直撃は回避し、脇腹を焼く程度で済ませる。
それでも苦悶の声は漏れ、ミーが心配そうに本郷へと声をかける。
そんなミーを地面に下ろし、PDAを取り出した本郷は静かに口を動かした。
「――すまん、ミー」
それだけ告げて、本郷は虚空より出現したサイクロン号に跨る。
前輪をロックさせた状態でアクセルをフルスロットルに――すると、動かない前輪を軸として後輪が円を描く。
雪解け水が染みていた地面は既に固まっており、スリップすることもなくマックスターンという名の状態が継続される。
同じ箇所を走り続けているために、サイクロンのタイヤが磨り減って黒い煙が立ち込める。
そんな煙では目潰しにもならない、とばかりにプラズマ弾が射出されるが、その途端に発進したサイクロンに当たることはなかった。
その事実に舌を打つこともなく、T-Xは小さくなる本郷の背を見つめているミーへと歩み寄る。
モトターミネーターが倒された以上、サイクロンを追いかける術はない。そもそも、わざわざ逃亡した者の相手をするだけ無駄だ。
「くっ!」
ミーは構えたウィル・ナイフをT-Xの首へと押し付けるも、水に手を差し込むかのように刀身が沈むだけだ。
ろくな手応えも味わえないままに、ミーはT-Xの右腕から響くチャージ音を耳にする。
スパーク音を高鳴らせた砲口が向けられたミーは、空中で右手をT-Xへと向ける。
ミーの小さな右手には既にアームパーツが発現させており、初撃のナイフの時点でエネルギー充填は開始してある。
プラズマ弾とエネルギー弾。発射されたのはほぼ同時であり、弾丸自体も同速に近い。
半ばで相殺しあい、強大なエネルギーの波が発生した。
ターミネーター達は踏み止まるが、着地前であったミーはT-600の群れへと突っ込みそうになる。
何とかT-600の内の一体を蹴り飛ばして、T-Xの前へと舞い戻るミー。
彼に対して、T-Xが問いかける。
倒す意思がなくなったのではない。単純な興味からの行動だ。
「理解不能だな。
お前より戦闘力が上の参加者が逃走を図ったというのに、ただ一人で抗うとは」
今まで無言であった相手に疑問を投げかけられる。
そんな予想外の事態に、ミーは暫し唖然。
思わず、状況を飲み込むために深呼吸。
そしてやっと現実を受け止め、そして――
「はッ」
ミーは鼻で笑った。
ターミネーターシリーズに囲まれている現状で笑うなど、T-Xのコンピュータには到底理解できない。
説明を求めようとして、それを口にする前にミーが吐き捨てる。
「逃げないよ、本郷さんは。仮面ライダーだからね」
「――――?」
改めてミーの言動は理解不能だ、そう判断したや否やT-Xの付近に奇妙な陰が出現した。
すかさず首を上げると、T-Xの視界に入ったのは逃亡したはずの本郷猛。
ボディプレスを見舞うかのように、落下してきている。
不測の事態ではあるが、T-Xは冷静に計算する。
如何に落下エネルギーを上乗せしようとも、変身前の本郷猛では最上位機種T-Xを破壊することは不可能。
体当たりをあえて受けてから攻撃するべく、プラズマカノンにエネルギーを蓄える。
そしてT-Xと本郷の距離が五メートルほどになった時、T-Xは気付いた。
落下する本郷は伸ばした四肢を後ろに回しており、かつ上半身を前に突き出しているのだ。
つまり落下によって生まれる風圧は、腹部に最も襲い掛かる。そう、風車をあつらえたベルトを含めた腹部に。
プラズマ弾を受けたタイフーンは変身ポーズに反応しなかったが、強烈な風を受ければ無理矢理に回転する。
そして、一度回転すればそれでよかった。
風のエネルギーがタイフーンを回し、莫大なエネルギーを生み出していく。
ベルトを中心に強烈な光が広がり、本郷猛の肉体を包み込む――!
「ライダーパァァァンチ!!」
繰り出された拳は、緑色がかったグローブに包まれている。
咄嗟にバックステップで遠ざかったT-Xを睨むのは、赤と言うよりもピンク色の複眼であった。
そしてその顔面は普段よりもダークグリーン色が強く、それがクラッシャー部にまで及んでいた。
T-Xとミーの間に立つ鍛え抜かれた肉体には、銀のラインが走っていない。そしてこれまた、黒ではなくダークグリーンのボディ。
「よく耐えてくれた、ミー」
普段と違う姿に疑問を覚えるミーに、振り返ることなく仮面ライダー1号が語りかける。
その言葉はたった一言だが、十分にマスクの下の顔が本郷だと納得させるに足るものだった。
――1号がこの姿をとっているのには、理由がある。
変身ポーズが生み出すエネルギーに比べ、落下による風圧では弱すぎた。
グレイ・フォックスとの再戦の際は風圧をプラスした変身だったが、今回は違う。ただ風圧のみによる変身だ。
そのため、再改造によって得た能力を引き出すことができなかった。
いわば、現在の1号のボディはかつてのもの――――旧1号とでも呼ぶべきか。
「どういうことだ」
不可能であったはずの変身を遂げた1号に、T-Xが問いかける。
言ってしまえば、本郷は元より逃げ出したワケではなかった。
落下による風圧目当てで、戦いの余波で少し曲がった電柱を目指したのだ。
マックスターンもまた目晦ましではなく、ただ電柱を登るだけの加速を発進前から得ようとしただけ。
ターミネーターシリーズによる壁には、プラズマ弾によって道ができていた。
そこを通り電柱に到達して、すぐさま登り出す。エンジンがほどよく温まっていたので、本郷にとって難しい作業ではなかった。
頂上にてサイクロン号をPDAに戻して、本郷はT-X目掛けて落下したのである。
――――だが、そんな工程を長々と説明する道理はない。
仮面ライダーが立っている理由を語るには、ほんの短い言葉で十分なのだから。
ショッカーの敵として、仮面ライダーを名乗った時から。
そのショッカーを壊滅させてなお、人類の自由と平和のために戦いを続ける決意をしてから。
そして――――イーグリードより人類の行き着く一つの可能性を聞かされてからも、ずっと。
「この世に悪がいる限り、仮面ライダーは倒れん!
そして仮面ライダーがいる限り、悪の野望を叶わせはしない!!」
1号の宣言を受け、ターミネーター達が臨戦態勢に入る。
右腕にエネルギーを充填するT-Xに、その他のターミネーター達がミニガンの銃口を1号へと向ける。
旧1号の肉体では、これだけの数を相手にするのは少々厳しい。
ならば、どうするか。IQ600の頭脳を使うまでもない。
足りないのならば、増やせばいいだけの話だ。
「力を貸してくれるか?」
首を少し後ろに回して、1号が尋ねる。
「もちろんさ!」
数秒かけて言葉の意味を理解して、ミーが1号へと飛びつく。
ミーの背中から伸びるケーブルを上半身に巻かせて、1号が両足に力を篭める。
「ライダージャンプ!」
ただの垂直跳びだが、弾丸を回避するのにはちょうどいい。
上昇する途中でミーが悪魔のチップを起動させ、1号の肉体へと沈み込んでいく。
1号の濃緑の肉体とグローブに青みが差し、まるで長き時を経て出現した青錆のよう。
胸部には、メカニカルなデザインをした猫の顔面が浮き出る。
そして濃い青緑色となった1号の頭部には、猫の耳が生えた。
「ライダー……」
仮面ライダーの肉体を構成する改造筋肉は、戦闘経験を積めば積むほどに成長する。
ゆえに供給されるエネルギーが少ない現状だろうと、その肉体に刻まれた数々のスキルが消えることはない。
1号が持つ『技の1号』や『伝説のダブルライダー』などの異名は、改造飛蝗人間のスペックだけがもたらしたのではない。
長きに渡る悪との戦いの日々が、協力してくれる仲間との特訓が、1号を伝説としているのだ。
だからこそ――――旧1号の姿でも、当時は存在すら知らなかった技術を使用可能なのだ。
「反転キィィィイイイック!!」
一度の跳躍で辿り着いたコロニーの天井に、1号は思い切り右足を叩き込む。
通常の落下スピードに蹴りの勢いがプラスされるも、何事でもないように宙返りして体勢を調整する。
身体を一陣の矢とした1号は、プラズマ弾を充填させたまま反応しきれないT-Xを貫いた。
T-Xの肉体を構成する液体金属は吹き飛ばされ、形を作る骸骨じみたフレームまでも完膚なきまでに粉砕された。
自らの作ったクレーターに立ち尽くす1号へと、T-800およびT-600達がミニガンの銃口を向ける。
1号が動き出すよりも早くミニガンは火を噴いたが、弾丸が1号へと命中することはなかった。
「当たらないね!」
1号の身体からミーのケーブルが伸び、ミニガンの銃口をズラしたのである。
この場にいるのは、たった一つの肉体の、しかし二つの心を持った戦士。
ターミネーターシリーズがそう再認識した頃には、クレーターから脱出した1号がT-600の群れへと猛進していた。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|ゼロ|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|本郷猛|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|広川武美|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|ソルティ・レヴァント|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|イーグリード|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|ドラス|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|ミー|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|メガトロン|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|コロンビーヌ|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|T-800|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|トーマス・ライト|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
|153:[[あなたはここにいますか? 後編]]|シグマ|154:[[オール反BR派 対 大デストロン (2)]]|
**オール反BR派 対 大デストロン (1) ◆hqLsjDR84w
[06:00――臨時放送]
前触れもなくPDAが電子音を響かせ、ディスプレイに現在の時刻を表示する。
「あー、テステス……よし。
驚かせようと思ってぶっつけ本番だが、ちゃあんと聞こえてるみたいだな」
寸刻の後にスピーカーから発せられるのは、女性のものに近い合成音声ではない。
マイクを通した低い声。
やたらとイントネーションを強調しており、聞く者を小馬鹿にしたような態度をであった。
「さぁ~~て、これを聞く正義の味方諸君!
これから大事なことを伝えるから、聞き漏らさないようにその耳をかっぽじれよォ~」
すう、と深く息を吸い込む。
そしてこれまでの比較的静かな物言いから一変。
声を大きく張り上げて、高らかに宣言した。
「この要塞、およびこのバトル・ロワイアルはッ!! 俺達、『大デストロン』が乗っ取った!!!」
これまでの話者とは異なる落ち着いた渋い声が、短く表明を肯定する。
甲高い少女の高笑いを十秒ほど木霊させてから、PDAの画面は通常状態へと戻った。
◇ ◇ ◇
[04:33~04:42――宇宙要塞内部 通路]
イーグリードが、その二枚の羽を勢いよく前後させる。
鷲を模したボディゆえの堂々たる羽が生み出した烈風は、それが吹き抜ける障害となる七体を塵とした。
空中に静止したまま、イーグリードは眼下へと目を凝らし――
「…………ちぃっ!」
そして、苦々しく顔を歪めた。
散り散りになった金属の欠片が液状となり、目に見えるほどのスピードで集っていく。
その正体は、液体金属から成るターミネーター『T-1000』。
イーグリードのストームトルネードがT-1000軍団を破壊するも、即座にT-1000が再生する。そんな状況が長らく続いてしまっている。
転送カプセルを使用してからずっと到着地で足止めを食らっている事実に、若干甘く見ていたT-1000の性能をイーグリードは脳内で上方修正せざるを得なかった。
何せ、再生速度が尋常ではない。
四散させること自体は容易なのだが、それから十秒も経たぬうちに液体金属を回収し、さらに五秒で肉体を再構成してしまう。
さらに言えば、そもそもイーグリードの戦闘スタイルと相性が悪すぎる。
いくら風で吹き飛ばそうと、バラバラにしようと、壁に叩き付けようと、全てが無意味。
T-1000が所持していたマシンガンは初撃で破壊したが、攻撃を受けないとしても倒せないのだから長引くだけだ。
かといって――――
一瞬だけ再生中のT-1000から目を離すと、イーグリードは背後へと首を回した。
瞳に映ったのは、依然意識を取り戻さないソルティ、無理をして彼女を抱えている武美、二人を庇うように前に立つウフコック。
二人の女性に危害が及ばぬよう凛と佇んでいるものの、ウフコックの姿はどこか不甲斐なさそうであった。
(不可能だ)
一旦T-1000を破壊して、再構成を遂げられる前に彼女達を連れてライト博士の下へと向かう。
そんな策を、イーグリードはすぐさま切り捨てた。
彼女達を連れた状態では、再生したT-1000に追いつかれるのは自明である。
また武美とウフコックの能力から考えて、気絶中のソルティは彼自身が運ばねばならない。
しかしそんな状態でストームトルネードなんぞ繰り出そうものなら、ソルティに危害が及ぶ可能性が高すぎる。
動くに動けない自分を呪った舌打ちとともに、イーグリードは何度目になるか分からないストームトルネードを放つ。
例の如く液体金属が散乱した瞬間、イーグリードのを背後から眩い光が照らした。
(新手か!?)
焦りを胸に振り返ったイーグリードだったが、彼の聴覚を刺激したのはあまりにも聞きなれた声だった。
「む、イーグリード?」
本郷からイーグリード達は大分前に転送カプセルを使用したと聞いていたため、ゼロは未だ転送地点に留まっている仲間の姿に目を丸くする。
「まだこんな所にいるとはな。何をチンタラしている、鶏がら」
冷静で淡々としつつも、こちらを囃し立てるような。
そんないつも通りの親友の声に、イーグリードは安堵の息を吐いた。
現れた男の能力がT-1000の天敵であるからではなく、ゼロが全てを任せられる相棒ゆえに。
「やはりいたか、T-1000!」
「っ、それって――」
人型に集う銀の雫から、すぐさまゼロはその正体を察する。
かつて聞いた話を思い返すドラスを後部座席に乗せたまま、白いカラスという名のバイクから飛び降りてスタンドを下ろすゼロ。
一度撃破したときのように展開させたセイバーに冷気を篭め、今にも飛び掛らんとしたところで前に出てきたドラスに出鼻を挫かれる。
「一体一体倒してたんじゃ、時間がかかるだけだよ。液体なら……」
ゼロが疑問を口にする前に、ドラスが纏った紅いマントが淡く輝きだす。
その真の姿はマントではなく、腰布の宝貝『混天綾』。
そして、その能力は――――
「集まって、いく?」
巻き起こる暴風により舌を噛まぬよう、ウフコックから沈黙を命じられていた武美だったが――思わず口を動かしたてしまった。
それほどまでに、異常な光景が眼の前に広がっていた。
T-1000を構成していた液体金属が集束していく。ここまでならば、今までと何ら変わりない。
異なるのは形だ。人間のようなシルエットを模るのではなく、デコボコとした不恰好な球体。
数も七つではなく、全ての液体金属がただ一つの巨大な球体を構成していく。
T-1000自身も、なぜこんな形態を取っているのか理解不能。
何とか理由を求めようとするも、コンピュータが導き出す結論はUNKNOWN。
再試行するも、やはり結果はUNKNOWN。
シグマが支給品に関する資料をデータとして残さなかった以上、科学が発達した世界のターミネーターに答えを導き出せるはずがなかった。
――――これこそが混天綾の能力、液体操作。
「はああ……!」
全ての液体金属を回収したのを確認してから、ドラスが紅い怪人態となる。
未だ状況を理解できないT-1000の前で、ドラスの左肩に刻まれた三つの点が輝き――そして一条の光線が放たれた。
見ただけでその光線が秘めた莫大なエネルギーを把握するT-1000。されど、混天綾により回避動作を取ることすらできず。
T-1000はマリキュレイザーを正面から受け、分子組成を破壊されて蒸発した。
制限が科せられていないマリキュレーザーのあまりに出鱈目な威力に、参加者の資料に目を通したイーグリードさえも唖然とする。
単純なスペックだけならば、ゼロやイーグリードを凌ぐかもしれない。少なくとも、破壊力という観点では。
しかし戦闘経験の少なさと――何より幼さゆえに、ドラスからはどこか危うさが醸し出されていた。
またドラスは否定するだろうが、ウフコックの嗅覚は『動揺』や『焦燥』を感じ取っており、それがウフコックに言葉にし難い不安感を与えていた。
ドラスが思い出したように体内から排出した起爆装置が床に落ちる音で、全員が思考の渦から帰還する。
「……っ、止まっている暇はないな。行くぞ」
「あ、ああ。まずはライト博士をターミネーターやメガトロン達から保護するため、修理室へと向かう。こっちだ」
ソルティを背負ったイーグリードを陣頭に立たせ、ゼロ、ウフコック、武美、ドラスと続く。
目的地を知るイーグリードが先頭なのは変えようがなく、ソルティを抱えているので攻撃に転じることができない彼をゼロが補佐。
奇襲を受けた際に防護壁とターンできるウフコック、戦闘能力ならばトップクラスのドラスが、武美を挟む陣形だ。
要塞内はバイクを乗り回せるほどに広かったが、後部座席に武美を乗せての戦闘はゼロとて厳しいとの判断から白いカラスはPDAに転送した。
(おかしいな……)
周囲を確認しつつ足を動かしながら、ドラスはある疑問を抱いていた。
先ほど除去した起爆装置のことだ。
吸収したナタクの物も取り出すはずだったが、それができなかったのだ。
取り込んでいる以上は可能なはずなのに。
――ドラスが導き出しようのない、答えが存在する。
ナタクに仕掛けられた起爆装置は、既に摘出されていたのだ。
エックスのスピアチャージショットが、彼の左胸を貫いた際に。
そう、彼は起爆装置を『本来の弱点でない胸部』に仕掛けられていた。
決して、彼だけが特別ではない。
ルーン・バロットという参加者も体内ではなく、首輪という形で爆弾を仕掛けられていた。
ナタクの場合はあえて強引に取り出しても致命傷を負わない場所に、バロットの場合は誰にでも目に入る場所に、あえてシグマが仕掛けたのだ。
解析を進めやすくするために。
つまるところ、これらもまたシグマの策の一つであった。
『開始直後はバトルロワイアルに乗るであろうナタク』、『全身改造でないがゆえに特例としてのバロット』。
たとえば本郷猛なんかの起爆装置を通常と異なる仕様にしたのなら、否応なしに疑われるであろう。
だが上記の理由がある二者ならば、疑われないだろう。
そんな考えがあったのだ。ナタクが反バトルロワイアルに転じるかは、真に分の悪い賭けであった。
…………まあ、この策は全くこれっぽっちも爆弾解析の役には立たなかったのだが。
唯一の影響が、現在ドラスに疑問を抱かせたくらいか。
「ぐう、大群だな」
イーグリードの毒づいたような言葉。
同時に、巨大な羽が空気を叩いて生まれた空気の乱れ。
続いてセイバーの展開音に、二桁を越すT-600の歩行による金属の軋む音。
(まあ放っておこう)
思索を中断させたドラスの前で、反転駆動してきたイーグリードが武美とウフコックを掬い上げる。
ソルティだけを抱えるのとは違い、両腕が塞がってしまえば防御の姿勢すら取れない。
それを見透かしてか、T-600達がイーグリードへとミニガンの照準を合わせる。
「させないよ」
しかしその全ては、ドラスが展開させた魔方陣から飛び出した魔力の塊により掻き消される。
それを目の当たりにしてなお、釣瓶打ちを続けるT-600。
ドラスの魔法弾と弾丸が相殺しあう中で、幾百もの蜂の羽音を思わせる響き。
「雷神撃!」
イーグリードを狙う間に肉薄していたゼロが、電気エネルギーと化した刃をT-600へと突き刺す。
伸張した刀身は一突きでもって、四体のT-600の頭部を炭とした。
即座に状況を理解し、群がっていたT-600が各自距離をとろうと判断を下す。
それを動作に移すより早く、ゼロは短い呼気とともにセイバーを横凪に振るった。
◇ ◇ ◇
[04:44~04:52――会場内 エリアD-3]
仮面ライダー1号は、ただ一人でT-888とT-800の集団に囲まれていた。
総数三桁を優に超えていたターミネーターも、今となっては残り二十と三。
それでも、ターミネーターのCPUは勝利を確信している。
数分ほど前から1号が攻撃をしてこないからだ。
おそらく1号のスタミナ切れと推測し、同じく攻撃してこないミーを放置してひとまず厄介な1号を殲滅するつもりだ。
ミニガンの弾切れのために接近せねばならなかったが、遂に1号まで五メートルを切った。
一体のT-888が飛び掛ったのを皮切りに、二十三体が一気に1号へと押し寄せた。
しばらくして1号の絶叫が響いた。
しかしその声が内包していたのは絶望ではなく、これまで幾千幾万の死闘と変わらぬ気合。
人類の自由と平和を守るべく、たとえ幾億幾兆の修羅場さえ潜り抜けるという強靭なる意志。
「ライダァァアッ! きりもみシュゥゥーーーット!!」
最初に飛び掛ったT-888が、1号によって宙へと投げ出される。
T-888に『技の1号』が加えたきりもみ回転は、次第に増幅して旋風を引き起こす。
1号に不用意に近づいていたため、残りの二十二体全ても旋風へと引き込まれる。
「今だ、ミー!」
「はいよ!」
1号の呼びかけにこたえるように、ミーがフルチャージしたバスターを掲げる。
銃口を向けられて初めて、ターミネーター達はスタミナ切れを装っていたのだと気が付いた。
戦争を知らぬターミネーターが新たな戦術をインプットした途端、巨大な光弾が一体の水素電池に命中。他の二十二体をも道連れに炸裂した。
「ふう……一段落、だね」
「ミー、体力は持つか?」
これまでの戦いが夢だったかのような静けさの中、一息つこうとしたミーに1号が尋ねる。
その手に握られたPDAの画面からは、あとボタンを一度操作するだけでサブタンクが転送されることが伺えた。
1号が気遣ってくれているのは分かるが、ミーはどうもいい気分がしなかった。
明らかに1号の方が倒しているし、疲労も大きいはずだ。
他人を気遣うのは素晴らしいが、それで無茶をしては本末転倒だ。
そう考え、ミーはやんわりと断る。
「大丈夫だから、それは本郷さんが使いなよ。
暴走してたゼロさんと戦ってから、ずっと休んでないでしょ?」
「いや、俺はいい。必要ないのなら取っておこう」
やっぱりか、とミーは心の中で呟く。
そんな時、ミーの聴覚が僅かな地鳴りのようなものを捉えた。
1号も察知したらしく、PDAを仕舞い込む。
大地の響きだけで分かるほどに、D-3へと向かってきているターミネーターは多かった。
当然である。
ゼロとドラスを送り込んですぐに、1号はライト博士への交信を試みた。
転送カプセルの電源を落としてもらうために。
ライト博士がいたのは修理室であったが、そこにもバトルロワイアル会場を司るコンピュータがあったのですぐに1号の案は執行。
この処置により、会場に散らばった転送カプセルから要塞へとターミネーターが侵入することはなくなった。
それでも四箇所に存在するシャトルを使うターミネーターはいるだろう。かと言って、君達がいるのにシャトルを遮断するワケにもいかない。
そうライト博士が漏らしたゆえに、1号は提案したのだ。
『D-3以外のシャトル基地への電気供給を遮断してくれ』と。
そんなことをすれば、会場全域に転送されたターミネーター全てがD-3へと向かうことになる。
ライト博士は強く忠告したが、1号はそれでも頼み続けた。
結局、要塞に向かった仲間にさらなる危険が及んではいけない、との意見にライト博士は折れた。
「いま来てるヤツらを全員倒せば、出発できるんだよね」
「ああ、そうだ」
元々D-3にいたターミネーターを倒すうちに、いつの間にやら新たなターミネーターは送り込まれないようになっていた。
バトルロワイアルを開催した世界にあった全ての平行世界移動装置が、破壊されたのだろう。
つまり、もうこれ以上ターミネーターの数が増えることはないのだ。
先陣を切って姿を見せたモトターミネーターを確認し、対抗するために1号はサイクロン号を転送させる。
シリウスと合体したミーでは、あの数のモトターミネーターには対抗できないと判断したからだ。
ミーの運転技術もなかなかの物だが、天才レーサーとしての顔も持つ1号には及ばない。
「もしもの時は、これを使え。効果は折り紙つきだ」
「え!? なんで、いつもいつもォォ!!」
サブタンクが入ったPDAを渡されたミーの絶叫は、刹那で最高速に到達したサイクロンのエンジン音に掻き消された。
◇ ◇ ◇
[04:54~04:59――宇宙要塞内部 修理室]
全面が蛍光灯の役割を果たす天井の下で、ライト博士はあらぬ方向を眺めていた。
瞳の焦点が合っておらず、その表情に生気はなかった。
毛髪やヒゲはとうの昔に白くなってしまったものの、それでも割りと年齢より若く見られるタイプであったのだが……
そんなことを感じさせないほどに、疲弊しきっていた。身体ではなく、精神が。
彼は、人とロボットの共存を夢見ていた。
平和や安全のためのロボットこそ、彼が作りたかった物だった。
時にはメルヘンな幻想などと揶揄されたが、それでも理想を追い求めた。
やがては人々にも認められ、『ロボット工学の父』とまで呼ばれた。
しかし――――彼は、ここに来て揺らいでしまっている。
彼の作り出した一体の行動が、不意に何度もフラッシュバックする。
それだけではない。
バトルロワイアルを開催した世界の人間達の、ロボットに対する嘲りが。
シグマが抱く人間への怒りが。
人間とロボットとの間にある深すぎる溝が。
執拗に、ライト博士を痛めつける。
――ライト博士の中で、人と機械における究極の問いが木霊する。
そんな時であった。
彼がいる修理室の壁に、軽快な音とともに丸い刃が入り込む。
T-Xに搭載された電動ノコギリだ、と理解していながらライト博士は動かない。
そもそも逃げようがない。ここで死ぬのも彼を作った罪滅ぼしか、とライト博士は穏やかに目を閉じようとして――爆音。
衝撃でか、ライト博士の瞳に光が宿る。
戦闘音が続く中で、カードキーが差し込まれたらしく修理室の扉が開く。
「ライト博士、無事ですか?」
「イーグリードくんか……」
ライト博士に傷がないのを確認すると、イーグリードはソルティをベッドに寝かせて部屋を飛び出す。
戦線に戻ろうと急いでいるらしく、ライト博士の悩みには気付かない。
勝手に扉が閉まった後に、オートでロックがかかる。
せめて償いにとソルティの修理に励もうとして、ライト博士の視界を大小二つの影が暗転させる。
「君達は……そうか、ここに避難しに来たのか」
「あ、えっと、そう、です」
明らかに相手が年上なため、若干しどろもどろで武美が答える。
当然ながら普通に敬語くらい使っていたのだが、どうにもいきなり現実世界に引き戻された気分で口篭ってしまった。
武美が沈黙を破って何かしら手伝おうかと申し出たが、ライト博士はやんわりと断る。
再び誰も口を動かさなくなり、武美がいたたまれない気分になった頃、ふとライト博士が口を開いた。
「君は……」
「えっ、あ、何ですか?」
「人間と――――いや、やめておこう。すまないね」
「あ、そう、です……か」
再び、会話がなくなる。
(何これ、すっごく気まずいー! 何で黙ってるの、ウフコックー! 空気をー、どうにかしてー!)
当のウフコックはと言うと、嗅覚でライト博士の絶望具合を感じ取っていた。
だが、だからこそ何も言うことができないのだ。
◇ ◇ ◇
[05:07~05:28――会場内 エリアD-3]
仮面ライダー1号操るサイクロン号が、バイク型のモトターミネーターを追走する。
戦闘の余波で融解した雪が地面をぬかるませているが、どちらも足を取られてしまうことはない。
モトターミネーターが距離を離そうと加速するも、エンジンの性能ならばサイクロンのほうが遥かに上だ。
いくらか距離が縮まったのを見計らって、1号がハンドルを持ち上げサイクロンをウィリー運転の形とする。
ある程度の高さまで到達してから、凪ぎ下ろすように振り下ろされる前輪。
怪人の表皮をも粉砕するタイヤが高速回転し、モトターミネーターを強引に分断した。
「あと二台、か」
モトターミネーターの残骸が動かなくなったのを確認して、1号は残りのモトターミネーターへと視線を流す。
背後でバルカンの銃口を向ける二台を視認し、再びアクセルを捻る1号。
しかしながら加速しきっているモトターミネーターに対して、サイクロンは先の荒業により速度が落ちてしまっている。
如何にモンスターマシンとはいえ、モトターミネーターに装着されたバルカンのいい的だ。
計四つの銃口から、無数の弾丸が1号へと驟雨の如く降り注ぐ。
バルカンに火を噴かせつつも、速度を緩めないモトターミネーター。銃弾を受けたところを轢き殺すという、二段構えの戦法を取ったのだ。
――が、銃弾は一発たりとも1号に命中しなかった。
1号はサイクロン号の前方に体重をかけると、急ブレーキング。
後輪が大きく浮か上がったジャックナイフという呼ばれる状態となり、全ての銃弾はサイクロンの車体に傷を付けるに終わった。
またジャックナイフによる急減速に対応しきれず、サイクロンを追い越してしまうモトターミネーター。
直ちにUターンするも、その時にはもう1号は先ほどまでいた地点から消えていた。
バルカンの銃口を残されたサイクロン号に向けたまま、モトターミネーターは現状を把握しようとして――上方からの音声を探知した。
「ライダー……キィーーック!!」
1号が跳躍していたのだと気付いた直後、二台のモトターミネーターは機能を停止した。
バイクの運転技術に長けた自分が倒すべきモトターミネーターの全滅を確認し、1号は静かに呼気を整える。
とはいえ、それに費やすのは僅かな時間だ。
モトターミネーターを相手する途中で幾らか倒したが、まだターミネーターは無数に存在するのだから。
一人で戦わせたまま放置しているミーも、気がかりであった。
素早く周囲を見渡してメタルボディの猫型サイボーグを探し出すと、1号はすかさずサイクロンに飛び乗った。
思いっきりアクセルを捻った1号の表情は、変身前であったのならば眉をひそめていただろう。
ミーは善戦していたものの、あまりにも数の多いターミネーター達に囲まれてしまっていた。
ああなれば、多少の実力差など関係なく押し潰されてしまう。
数とは、それほどまでに凶悪なものだ。
「ヌゥン!!」
道中に転がっていたT-888の残骸をジャンプ台として、サイクロンごと飛び上がってミーを取り囲むターミネーターの群れへと飛び込む。
着地の際に同時に数体のT-800を踏み潰し、崩れかけた車体をアクセルターンで無理矢理に引き起こす。
ターンに巻き込まれて倒れたT-600とT-888の集団は、ご丁寧に全員が二度目のアクセルターンで頭部を砕かれた。
このままターミネーターを片端から破壊していくのも手だが、まず優先すべきは中心部にいるミーの下に駆けつけることだ。
再認識した1号は体勢を低くして、ターミネーターの群れへと突っ込んだ。
ミニガンから放たれる弾丸を身に受けても意に介さず、1号はひたすらサイクロンのアクセルをフルスロットルに。
どれだけのターミネーターを掻い潜っただろうか、ついに1号の複眼が水色のメタルボディを捉えた。
「えっ!?」
倒れたT-888の頭頂部からウィル・ナイフを引っこ抜きながら、ミーが驚愕の声を上げる。
掠り傷こそ至るところに刻まれているが、大きな被害はないようだ。
静かに安堵しながら、1号がサイクロンのハンドルを激しく回す。
いきなりの方向転換によりスライドした車体が、ミーの周囲にいたT-800シリーズを薙ぎ払う。
「ふッ」
ふらつくT-800シリーズの前で鋭く息を吐き、再び1号はサイクロンをジャックナイフの体勢へと持っていく。
そしてジャックナイフを維持したまま、前輪を支点にして車体を独楽のように回転させる。
結果――勢いよく振り回された後輪が、T-800シリーズの頭部を刈り取った。
現れていきなりジャックナイフターンという技術で何体ものT-800を蹴散らした1号に、思わずミーは呆然とする。
そんなミーへと、サイクロンから降りた1号はゆっくりと口を開いた。
「モトターミネーターは倒した。後はこいつ達だけ――――」
言い終えるよりも早く、1号は地を蹴る。
ターミネーターシリーズの群れの中で、ミーへと光り輝く右腕を向けたT-800が一体いたのだ。
それは少し前からエネルギーをチャージしていたのだが、サイクロン号に乗った状態では視線が低く1号は視認できなかった。
(間に合わん……!)
1号が駆け出したのとどちらが早かったか、T-800の砲台状となっている右腕が光弾を吐き出した。
相手に気付くのが少しばかり遅すぎた。
そう判断して即座に、1号は進行方向をT-800から変更。プラズマ弾の射線上へと飛び込んだ。
「グぁぁあああッ!!」
1号から、彼らしくない絶叫が漏れた。
ミーを庇うことだけを考えたために、急所を避けることすら出来ず。
プラズマから成るオレンジ色の炎弾は、仮面ライダー1号のエネルギーの源であるベルトへと直撃した。
変身が解除され人間の姿に戻っても、空中で身体を回転させて吹き飛ぶ距離を制限したのは、さすが本郷猛と言ったところか。
「本郷さん!」
本郷の下へとミーが駆け寄ろうとするが、Tシリーズの群れから飛び出してきた一体のT-800が阻むように前に立つ。
「邪魔だァァーーー!!」
一刻も早く本郷の安否を知りたいという焦りが、ミーの中で爆発。
声を張り上げて跳びあがり、T-800のカメラアイへとウィル・ナイフを押し込んだ。
傍から見れば致命の一撃を与えながら、ミーは腑に落ちないものを感じた。
ウィル・ナイフを差し込んだ箇所から一閃したのだが、伝わってくる感触があまりにも奇妙だった。
まるで豆腐でもスライスするかのような、手応えのなさ。少なくとも、これまで相手にしてきた金属骸骨を貫く感触とは異なっている。
疑問に思ったミーは、着地するより早く上を見上げる。
「なあッ!?」
思わず声を漏らすミーの眼前で、T-800に刻まれた傷跡が見る見る塞がっていく。
完全に塞がった後に、T-800が姿を金髪の女性のものへと変える。
その服装は、本郷猛が着込んでいる黒のレザー製ライダースーツに酷似していた。
ミーには知る由もないが、彼女はT-800ではなくその上位機種。
対ターミネーター用ターミネーターのT-X。
あえてT-800に擬態して、ターミネーターシリーズの群れに紛れ込んでいたのだ。
眩い光を放つT-Xのカノンと化した右腕を向けられて、呆けていたミーが我に帰る。
しまった、と吐き捨てるも時既に遅し。
ミーが距離を取るよりも、T-Xがプラズマ弾を撃ち出すほうが早い。
「むぅん! ライダーチョップ!」
しかしT-Xの背後から伸びた手刀が、右腕ごと銃口を横に移動させてしまう。
結局、吐き出されたプラズマ弾はミーの装甲を焼くことはできなかった。
周囲を囲むターミネーター達が巻き込まれ、水素爆発が起こる。
吹き飛ばされてから起爆したために爆心地が遥か彼方であったのは、ミー達とターミネーター達の両勢にとって幸運と言えるだろう。
「――――?」
首だけを百八十度回転させたT-Xのカメラには、精悍な顔付きの男が映った。
纏うライダースーツは一部消し炭となっており、そこから見える逞しい肉体もまた焼け焦げていた。
されど、その瞳の輝きに些かの曇りもない。
未来のテクノロジーによって作り出されたプラズマ弾は、本郷猛が抱き続けている決意を揺らがせるほどの物ではなかった。
軽やかな動作で足を払われ、T-Xの身体が宙に浮く。
力を感じさせない本郷の老獪なテクニックは、ターミネーターが即座に反応できる類のものではない。
対パワーを意図して製造されたT-Xならば、尚更のこと。
その隙を狙って本郷はT-Xの腕を掴み、勢いに任せて一本背負い。
一瞬にして、本郷はミーとT-Xの間に入り込んだ。
スペックが上のT-Xを救援するために、いくらかのT-800が本郷へと飛び掛る。
だが、ただ割り込んできただけの相手にやられる本郷ではない。
横凪に斬り払うようなハイキックで、数体まとめて地面へと叩き付ける。
頭部の破壊はさすがに適わなかったが、それでも隙を作り出すには十分であった。
「本郷さん……大丈夫?」
本郷に背後からかけられたのは、ミーの不安そうな声。
ダメージは決して軽くはないが、ミーに責任を感じさせるワケにはいかない。
その思いから、本郷は欠片もダメージを受けていないような素振りで微笑を向ける。
しかし本郷の無理をする性格を知っているミーは、素直に安心できない。
それを察した本郷は、答えの変わりに態度で示すことにする。
本郷が全身に力を漲らせるとともに、腰に巻いていた黒いベルトが鉛色の金属と変化する。
バックル部には巨大な赤い風車。そのベルトの名をタイフーン。
プラズマ弾の直撃で幾分黒ずんでいるものの、確かに顕現した。
その事実に胸中で安堵の息を漏らして、握った左拳を腰へと持っていき固定する。
「ライダー変ん……身ッ!!」
右腕を左側に伸ばして、そのまま右へと振るう。
それを合図として、本郷は緑色の体躯に赤マフラーを巻いた改造飛蝗人間の姿へと変身――
「何……?」
――しなかった。
タイフーンの風車が、気合を入れる心のスイッチに反応しなかったのだ。
ぽかんと口を開けたまま硬直した本郷に、上体を起こしたT-Xが再びエネルギーを充填中の右腕を向ける。
「危ないっ!!」
ミーの低空タックルを膝裏に受け、本郷が倒れ臥す。
直後、本郷がいた箇所をプラズマ弾が通り過ぎる。
電撃を纏ったオレンジ色の炎弾は、再びターミネーター達を彼方で炸裂させる。
対ターミネーター戦の中で水素爆発を何度も見たとはいえ、とても慣れるものではない。
「…………っ、う……」
耳朶を打った轟音に苦悶の表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がるミー。
そして、すぐさまそのメタルボディが照らされる。
光がT-Xの右腕から発せられるものだと気付いたと同時に、ミーは浮遊感を味わった。
いち早く体勢を立て直した本郷が、ミーを抱きかかえてサイドステップを踏んだのだ。
何とか直撃は回避し、脇腹を焼く程度で済ませる。
それでも苦悶の声は漏れ、ミーが心配そうに本郷へと声をかける。
そんなミーを地面に下ろし、PDAを取り出した本郷は静かに口を動かした。
「――すまん、ミー」
それだけ告げて、本郷は虚空より出現したサイクロン号に跨る。
前輪をロックさせた状態でアクセルをフルスロットルに――すると、動かない前輪を軸として後輪が円を描く。
雪解け水が染みていた地面は既に固まっており、スリップすることもなくマックスターンという名の状態が継続される。
同じ箇所を走り続けているために、サイクロンのタイヤが磨り減って黒い煙が立ち込める。
そんな煙では目潰しにもならない、とばかりにプラズマ弾が射出されるが、その途端に発進したサイクロンに当たることはなかった。
その事実に舌を打つこともなく、T-Xは小さくなる本郷の背を見つめているミーへと歩み寄る。
モトターミネーターが倒された以上、サイクロンを追いかける術はない。そもそも、わざわざ逃亡した者の相手をするだけ無駄だ。
「くっ!」
ミーは構えたウィル・ナイフをT-Xの首へと押し付けるも、水に手を差し込むかのように刀身が沈むだけだ。
ろくな手応えも味わえないままに、ミーはT-Xの右腕から響くチャージ音を耳にする。
スパーク音を高鳴らせた砲口が向けられたミーは、空中で右手をT-Xへと向ける。
ミーの小さな右手には既にアームパーツが発現させており、初撃のナイフの時点でエネルギー充填は開始してある。
プラズマ弾とエネルギー弾。発射されたのはほぼ同時であり、弾丸自体も同速に近い。
半ばで相殺しあい、強大なエネルギーの波が発生した。
ターミネーター達は踏み止まるが、着地前であったミーはT-600の群れへと突っ込みそうになる。
何とかT-600の内の一体を蹴り飛ばして、T-Xの前へと舞い戻るミー。
彼に対して、T-Xが問いかける。
倒す意思がなくなったのではない。単純な興味からの行動だ。
「理解不能だな。
お前より戦闘力が上の参加者が逃走を図ったというのに、ただ一人で抗うとは」
今まで無言であった相手に疑問を投げかけられる。
そんな予想外の事態に、ミーは暫し唖然。
思わず、状況を飲み込むために深呼吸。
そしてやっと現実を受け止め、そして――
「はッ」
ミーは鼻で笑った。
ターミネーターシリーズに囲まれている現状で笑うなど、T-Xのコンピュータには到底理解できない。
説明を求めようとして、それを口にする前にミーが吐き捨てる。
「逃げないよ、本郷さんは。仮面ライダーだからね」
「――――?」
改めてミーの言動は理解不能だ、そう判断したや否やT-Xの付近に奇妙な陰が出現した。
すかさず首を上げると、T-Xの視界に入ったのは逃亡したはずの本郷猛。
ボディプレスを見舞うかのように、落下してきている。
不測の事態ではあるが、T-Xは冷静に計算する。
如何に落下エネルギーを上乗せしようとも、変身前の本郷猛では最上位機種T-Xを破壊することは不可能。
体当たりをあえて受けてから攻撃するべく、プラズマカノンにエネルギーを蓄える。
そしてT-Xと本郷の距離が五メートルほどになった時、T-Xは気付いた。
落下する本郷は伸ばした四肢を後ろに回しており、かつ上半身を前に突き出しているのだ。
つまり落下によって生まれる風圧は、腹部に最も襲い掛かる。そう、風車をあつらえたベルトを含めた腹部に。
プラズマ弾を受けたタイフーンは変身ポーズに反応しなかったが、強烈な風を受ければ無理矢理に回転する。
そして、一度回転すればそれでよかった。
風のエネルギーがタイフーンを回し、莫大なエネルギーを生み出していく。
ベルトを中心に強烈な光が広がり、本郷猛の肉体を包み込む――!
「ライダーパァァァンチ!!」
繰り出された拳は、緑色がかったグローブに包まれている。
咄嗟にバックステップで遠ざかったT-Xを睨むのは、赤と言うよりもピンク色の複眼であった。
そしてその顔面は普段よりもダークグリーン色が強く、それがクラッシャー部にまで及んでいた。
T-Xとミーの間に立つ鍛え抜かれた肉体には、銀のラインが走っていない。そしてこれまた、黒ではなくダークグリーンのボディ。
「よく耐えてくれた、ミー」
普段と違う姿に疑問を覚えるミーに、振り返ることなく仮面ライダー1号が語りかける。
その言葉はたった一言だが、十分にマスクの下の顔が本郷だと納得させるに足るものだった。
――1号がこの姿をとっているのには、理由がある。
変身ポーズが生み出すエネルギーに比べ、落下による風圧では弱すぎた。
グレイ・フォックスとの再戦の際は風圧をプラスした変身だったが、今回は違う。ただ風圧のみによる変身だ。
そのため、再改造によって得た能力を引き出すことができなかった。
いわば、現在の1号のボディはかつてのもの――――旧1号とでも呼ぶべきか。
「どういうことだ」
不可能であったはずの変身を遂げた1号に、T-Xが問いかける。
言ってしまえば、本郷は元より逃げ出したワケではなかった。
落下による風圧目当てで、戦いの余波で少し曲がった電柱を目指したのだ。
マックスターンもまた目晦ましではなく、ただ電柱を登るだけの加速を発進前から得ようとしただけ。
ターミネーターシリーズによる壁には、プラズマ弾によって道ができていた。
そこを通り電柱に到達して、すぐさま登り出す。エンジンがほどよく温まっていたので、本郷にとって難しい作業ではなかった。
頂上にてサイクロン号をPDAに戻して、本郷はT-X目掛けて落下したのである。
――――だが、そんな工程を長々と説明する道理はない。
仮面ライダーが立っている理由を語るには、ほんの短い言葉で十分なのだから。
ショッカーの敵として、仮面ライダーを名乗った時から。
そのショッカーを壊滅させてなお、人類の自由と平和のために戦いを続ける決意をしてから。
そして――――イーグリードより人類の行き着く一つの可能性を聞かされてからも、ずっと。
「この世に悪がいる限り、仮面ライダーは倒れん!
そして仮面ライダーがいる限り、悪の野望を叶わせはしない!!」
1号の宣言を受け、ターミネーター達が臨戦態勢に入る。
右腕にエネルギーを充填するT-Xに、その他のターミネーター達がミニガンの銃口を1号へと向ける。
旧1号の肉体では、これだけの数を相手にするのは少々厳しい。
ならば、どうするか。IQ600の頭脳を使うまでもない。
足りないのならば、増やせばいいだけの話だ。
「力を貸してくれるか?」
首を少し後ろに回して、1号が尋ねる。
「もちろんさ!」
数秒かけて言葉の意味を理解して、ミーが1号へと飛びつく。
ミーの背中から伸びるケーブルを上半身に巻かせて、1号が両足に力を篭める。
「ライダージャンプ!」
ただの垂直跳びだが、弾丸を回避するのにはちょうどいい。
上昇する途中でミーが悪魔のチップを起動させ、1号の肉体へと沈み込んでいく。
1号の濃緑の肉体とグローブに青みが差し、まるで長き時を経て出現した青錆のよう。
胸部には、メカニカルなデザインをした猫の顔面が浮き出る。
そして濃い青緑色となった1号の頭部には、猫の耳が生えた。
「ライダー……」
仮面ライダーの肉体を構成する改造筋肉は、戦闘経験を積めば積むほどに成長する。
ゆえに供給されるエネルギーが少ない現状だろうと、その肉体に刻まれた数々のスキルが消えることはない。
1号が持つ『技の1号』や『伝説のダブルライダー』などの異名は、改造飛蝗人間のスペックだけがもたらしたのではない。
長きに渡る悪との戦いの日々が、協力してくれる仲間との特訓が、1号を伝説としているのだ。
だからこそ――――旧1号の姿でも、当時は存在すら知らなかった技術を使用可能なのだ。
「反転キィィィイイイック!!」
一度の跳躍で辿り着いたコロニーの天井に、1号は思い切り右足を叩き込む。
通常の落下スピードに蹴りの勢いがプラスされるも、何事でもないように宙返りして体勢を調整する。
身体を一陣の矢とした1号は、プラズマ弾を充填させたまま反応しきれないT-Xを貫いた。
T-Xの肉体を構成する液体金属は吹き飛ばされ、形を作る骸骨じみたフレームまでも完膚なきまでに粉砕された。
自らの作ったクレーターに立ち尽くす1号へと、T-800およびT-600達がミニガンの銃口を向ける。
1号が動き出すよりも早くミニガンは火を噴いたが、弾丸が1号へと命中することはなかった。
「当たらないね!」
1号の身体からミーのケーブルが伸び、ミニガンの銃口をズラしたのである。
この場にいるのは、たった一つの肉体の、しかし二つの心を持った戦士。
ターミネーターシリーズがそう再認識した頃には、クレーターから脱出した1号がT-600の群れへと猛進していた。
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