鬼【イレギュラー】(中編) ◆2Y1mqYSsQ.




 あ~るのマイペースに振り回されながらも、エックスとソルティはTV局内を出た。
 その理由は、室内で争った跡があったからだ。エックスの提案で、ここには留まらず、シャトル基地にあ~るも連れて行くこととなった。
 壁を降りて、少し進んだ後、彼らは発見をしてしまう。誰かが埋まった跡を。
「これは……」
 エックスの動悸が早くなる。認めたくはないが、すでに十体のレプリロイドが破壊されているのだ。
 認めざるを得ない。
「あれ?」
 あ~るが間抜けな声と共に、墓を掘り起こす。止めるように言う前に、あ~るは墓を掘り起こしきった。
 元々それほど深くなかったのと、あ~るがアンドロイドらしく怪力を発揮したから、早くもその死体の姿を見せた。
「そんな……」
 ソルティが銃弾で穿たれた女性の死体に、目を逸らす。緑の長髪を二つに縛った髪型の美少女。
 彼女がなにをして、どう生きたのか知りようがない。穏やかな表情が、さらに死体の悲惨さを演出していた。
「う~む、見事!」
 あ~るが信じられないことを言う。扇子をどこからか取り出し、開いた。
「埋まってまで死体のふりを続けるとは、まこと見事! うむ、えらい!」
 ポン、と手を叩いたあ~るに、エックスは我慢ができずに殴りかかった。
 突き飛ばされたあ~るは地面を転がっていく。
「やめてください、エックスさん!」
「止めないでくれ、ソルティ!!」
「痛いなー。何をするんですか?」
「それはこっちの台詞だ! あ~る!!」
 エックスの怒りを受けても、あ~るは分けが分からず頭を捻るだけだった。
 それがエックスには、挑発しているように見える。エックスの怒りはただ加速続けた。
「ふざけるな! 死体を取り出して、死んだふりだとか、見事だとか、馬鹿にしているのか!?
その人が一生懸命生きていたのを、侮辱するのか!? 答えろ、あ~る!!」
 肩を上下させ、息を荒げながらもエックスは必死に訴える。エックスはさまざまな死に立ち会った。
 そのため、幾度の戦いは英雄という名と共に、心に傷を刻んでいる。


 エックスの怒りの声を聞き、あ~るはキョトンとした。
 彼は間違った認識を持ってしまった。それは、あ~るの日常が関係している。
 そのため、これは不幸な勘違いだったのだが、それを知る手段をもつものは神しかいない。
 だからこそ、このときのあ~るの回答は最悪のものだった。
「だって、これはゲームなんでしょう? みんなアンドロイドだから死なないし、サバイバルゲームみたいに下校時間まで死体のふりをするだけじゃないか」
 はははははは、といつもの馬鹿笑いをあ~るは続けた。気のせいか、眼前のエックスが俯いている気がする。
 無言ということは、あ~るの言うことを理解してくれたのだろう。
「ああ、そういえばまだゲームの途中でした! このゲームはHP制なので、気をつけねば。
その子を撃ったのは僕なんですよ。ね、君。……返事がないなー。ああ、そうか。下校時間まで死体のふりをしないといけなかったんだ」
 勝手に一人で喋って、勝手に一人で納得する。いつものあ~るの姿だった。
 ただ、時も相手も悪かった。
「その子を撃っただと!」
 エックスの拳が、再びあ~るに打ち込まれる。ソルティを振り払うほどの力を発揮したのだ。
 あ~るが他人を撃った、という事実にソルティの腕が緩んだのもある。あ~るはそのまま、エックスに馬乗りにされた。
 拳が、何度もあ~るの顔を叩く。
「痛いよ~!!」
「ふざけるなよっ! ゲームだと? 死んでいるふりだと? あ~る! よく見ろ……これのどこが、死んだふりなんだっ!!」
 ミクの生気のない顔が、あ~るに押し付けられた。その顔は人形のように整っており、今にも動きそうな気がする。
 だが、事実は違う。近くで見ると分かるが、銃弾であけられた孔から液体が漏れ、エックスの押し付ける動きに抵抗もしない。
 さすがのあ~るも、これは死んだふりではないと気づいた。気づかざるを、得なかった。
「僕が……殺した……?」
「そうだよ……そんなんだよ……あ~るッ!!」
 その時、あ~るとエックスはまったく同じ表情をしていた。大罪を犯した聖者のような表情を。
 あ~るが始めて、おのれの罪を自覚したことを。エックスが、イレギュラー以外のレプリロイドを、殺してしまったことを。
 ただの残酷な、歯車の狂いであった。


(俺は……イレギュラー以外のレプリロイドを……殺してしまった……)
 彼女は、青く長い髪を持つ女性型レプリロイドは、ただ仲間の仇を討とうとしたのだ。
 イレギュラーだったのは、あ~るの方なのだ。
(……取り返しのつかないことを……)
 エックスは数多のイレギュラーを倒してきた。それは平和のためであり、人間や同胞を守るためだ。
 たとえ、顔見知りでもそのバスターで砕いていかねばならないときも、一度ならずある。
 エックスは、心があり、泣くことのできるレプリロイドだ。その優しさが、仲間を撃つことで傷つき続けた。
 今回は違う。
 あ~るを守るために放ったバスターは、本来ならエックスが守るべき、もしくは共に戦うべきだった相手かもしれなかった。
 守ったあ~るは、エックスが本来なら討たねばならぬイレギュラーだった。
 どこを間違えてしまったのか。エックスを後悔が襲う。
「戻らなきゃ……」
「エックスさん」
 ソルティの心配そうな表情が、エックスを迎えるが、気づく余裕はない。
 エックスは今まで何度も立ち上がった、不屈の心でソルティに指示を出す。
「ソルティ、頼む。あ~るを見張っていてくれ。俺が…………あの人たちに接触してくる」
「それは……」
「頼む!」
 有無を言わさず、エックスが告げる。その背中に、悲しみを背負って、エックスはTV局へと戻っていった。


「エックスさん……」
 ソルティはなんと声をかけて言いか分からず、離れていくエックスを見送るだけだった。
 彼の背中には、行方不明の娘を探す時のロイの後姿が重なる。
(あなたなら……こういう時エックスさんになんといいますか……? ロイさん)
 記憶を失ったソルティを養った中年男性のことを思い出す。
 彼なら、今のエックスのような経験も何度かあっただろう。
 乗り越え方や、声のかけ方も、彼なら知っている気がする。
 ソルティは祈るように心の内で呟きながらも、あ~るをそのままにしていたことに気づいた。
 気は進まないが、拘束しないといけないだろう。そこら辺の鉄パイプを取り、手首に巻きつけようと考えた。
「……ソルティさん。僕は光画部の部長になったのです」
「はい?」
 話しかけてくるあ~るに律儀に答えながらも、ソルティは疑問を浮かべる。
 いつものことだが、唐突だったからだ。ただ、僅かだが先ほどとはあ~るの雰囲気が違う。
「とさかセンパイ、酷いんだよ。いっつも僕に痛いことをするんだ。コブラツイストかけたり、蹴ったり」
「はあ……」
「さんごはおにぎりくれたり、ご飯をくれたりしてくるんだ。たわばセンパイも、僕を光画部に入れてくれたんだよ。
みんなで野球をしたり、写真を撮ったり、部室を賭けたサバイバルゲームをしたりしたんだ……」
 穏やかな、とても優しい声色だった。彼が、光画部という部活のメンバーを大切に思っていたことが伝わる。
「みんなが笑えるように、面白いことしたり、新しい芸を身につけたりしたんだ。だけど…………」
 あ~るが一旦言葉を切って、ミクへと視線を向けなおす。
 ソルティは彼がどう思っているのか、知りたかった。

「僕はもう、彼女を笑わせたり、一緒に騒いだりできないんですね…………」

 ああ、彼はいい人なんだ。ソルティは確信を持った。
 エックスが死体を突きつけたとき、一瞬だけエックスと同じ表情をしたことを、ソルティは忘れない。
 あ~るは立ち上がり、エックスが消えた先を見た。もう、ソルティに彼を拘束する気はない。
 エックスの消えた先に、あ~るが身体を向ける。
「あ~る君……」
「ソルティさん、僕は行きます。光画部は自分の責任は自分でとる。僕は部長で偉いのだから、そうするのです」
「……厳しい道ですよ。人を殺しているのですから」
「なに! とさかセンパイなら、道は険しければ険しいほど、傍から見る分には面白い、というはずですから」
「それはどうかと……」
「それにですね……」
 あ~るは穏やかで、静かな様子でソルティを見た。間抜けな表情は変わらないのに、どこか神々しい。

「僕はともかく、あなた方は彼女たちと笑ってください」

 その決意に、ソルティはドキッとする。まるで、おのれの死を覚悟したような、あ~るの様子に。
「それに新作のギャグができたので、きっとみんなに受けますよ~! あはははははははははははは!」
「ちょっと、あ~る君。そっちは逆方向ですよー!!」
 気のせいだったかと、ソルティはため息を吐きつつ、ホッとした。
 彼女もまた、これ以上誰も死んで欲しくないと願っていた。


(周囲に人影はない……どこに行った?)
 ラミアがグロックを持ちながら、周囲を警戒して戦闘を進む。
 あ~るに銃が通じた様子はなかったが、何もないよりはマシだ。できればライドアーマーが残っていれば、楽だったのだが。
 毒ガスを吐き出す杖もあったが、舞台は室内。自分たちも巻き込みかねないため、置いてきた。
 何より、あれらの武器が登録されているPDAはあ~るたちが回収した。いつ、戻されるか分かったものではない。
(もう二度と……仲間を失うような真似はしない)
 元々はスパイとして活動していたラミアだったが、ハガネやヒリュウの底抜けのお人好したちとの出会いで、彼女自身も仲間意識というものを持つに至った。
 互いに言葉を交わしたことは少なくても、一緒にいた時間は短くても、ミクは、KOS-MOSは仲間だ。
 だから、ミクとKOS-MOSを殺した青いロボットと学生服の少年には容赦はしない。
 特に青いロボット……エックスと呼ばれた彼には期待をしていた。シグマに名を呼ばれた分、対抗できる手段とした。
 それが、どういういきさつがあったか知らないが、殺し合いに加わっている。情けない。あんなものを、頼りにしていた自分が。
 ラミアの目が鋭く周囲を見渡す。鷹の如き鋭さで、敵を索敵し続けた。


(ミク……こういう時、あなたはなにを望みますか……?)
 フランシーヌは前を行くラミアの、殺意に満ちた背中を見ながら心の中で純真であった少女に、語りかける。
 彼女はもういない。そのことが、フランシーヌの胸に重石となって圧し掛かった。
 人と違って、人形の彼女は成長するのに時間を要さない。ミクが人間に近い存在なのか、それとも自分たち自動人形に近い存在なのか。
 ただ、いずれにせよ、ミクの歌声を聴くことは叶わない。それがこんなにも辛い。
 だから、フランシーヌは自分が持つPDAの支給品を、彼女たちに渡すかどうか迷っている。
 ミクを殺した相手が憎くないわけではない。ただ、フランシーヌは喪失の重さを身をもって知った。
 ゆえに、誰かを殺すことが正しいのか分からない。たとえ、相手が仲間を殺した相手でも。
(人間なら……簡単に結論が出そうですが……)
 少し寂しい思いの中、フランシーヌは自嘲する。だから、相手を殺す確率を上げるこの武器を、ラミアに渡すのを躊躇った。
 それが間違いなのか、正解なのか、結局は答えが出ることがないのだが。


(敵が隠れているところはない……)
 バロットはガンナックルを構えながら、周囲を見渡す。殿を務めたのは、戦闘力のないフランシーヌを庇うためだ。
 TV局の中は障害物が多い。不意打ちや奇襲を行なうにはうってつけだ。
(ウフコック……あなたなら、どんなアドバイスをしてくれるの……)
 バロットはいつも自分の力になってくれた、金色のネズミを思い出す。
 バロットはミクとゲジヒト、そしてKOS-MOSを殺されたことにより、感情を高ぶらせている。
 ウフコックがいたのなら、冷静にその指摘をして、落ち着かせるよう諭してくれるのだが。
(けど……落ち着く必要なんてない)
 殺すつもりは、バロットにもない。殺してしまえば、仲間を奪った彼らと同じになってしまう。
 それだけは、許せなかった。それに、殺すだけでは生ぬるい。
 ひとまずは肩や足などを打ち抜いて、戦えないようにする。なんなら、四肢を奪ってもいい。
 殺さないのであれば、現実的に取れる手段はこれくらいだ。だからバロットの目が細くなる。
 獲物を逃がさない、容赦なき視線を。


 彼女たちは仲間の死によって、一見まとまっているように見えているが、実は内心はバラバラであった。
 殺すことを容赦しないラミア。殺し以外を容赦しないバロット。殺すどころか、傷つけるのを躊躇うフランシーヌ。
 これは彼女たちの責任ではない。それぞれの環境の差が出てしまった結果だ。
 だからこそ、緊張の高まる彼女たちの目の前に、エックスが躍り出たのは、状況的には正しくなかった。
 たとえ、それが誤解を解くためでも。


「待ってくれ! こちらの話を……」
「聞いてもらえる立場だと、本気で思っているのか?」
 エックスの必死の訴えを、ラミアの冷酷な声が否定する。それもそうだ。
 エックスは彼女たちの仲間を殺した一人なのだ。罠だと考えるのが、自然だ。
「ただし、主催者であるシグマの情報のためになら、口を開かせてやる」
「ああ、分かった。そのために……」
 エックスの言葉は、途中で切られる。バロットのガンナックルから、エネルギー弾が放たれたのだ。
 驚愕の表情のエックスが視線を向けると、氷のように冷たい目を、バロットは向けてくる。
≪ラミア。話を聞く前に、いつこちらに襲い掛かるか分からない。だから、動けなくしてから喋らせる≫
「了解した」
 彼女たちの容赦ない言葉に、エックスは戦慄する。抵抗しない証として、PDAから手を離そうとしたのだが、それも無駄だろう。
 だとすると、これは手放せないが、アイテムを使う気にはなれなかった。
 そんなことをすれば、二度と信用してもらえない。ならば、エックスがとるべき道は一つ。
(彼女たちの頭が冷えるまで、攻撃を凌ぐしかない……)
 おのれの無実を証明するのは、言葉では無理だ。ならば、行動で示す。
 エックスにガンナックルのエネルギー弾が迫るが、ダッシュジャンプで大きく跳躍して避ける。
 その行動からラミアが落下地点を予測して、着地点であろうと頃に銃弾を向けていた。
 弾丸がエックスの着地点へと発射される。しかし、エックスは壁へと足をつけ、蹴りつけながら昇っていった。
「変則三角蹴り!? 非常識な……」
≪くっ!≫
 バロットがガンナックルをスナークして、さらにエネルギー弾を撃つ。エックスはそのエネルギー弾の軌跡を冷静に見極めて、バスターを向けた。
 三発のエネルギー弾それぞれに、エックスもまたエネルギー弾を撃つ。互いにぶつかり合ったエネルギー弾は相殺し、消え去った。
 その結末を見届けたエックスは、壁を強く蹴って距離を遠くとる。彼女たちと近づく気はなかった。
 エックスは知りようがないが、正しい判断をした。バロットのスナークによって、行動を阻害されることがないからだ。
≪速いッ……!≫
「チィッ!」
 エックスの動きは素早い。シグマやイレギュラーの仕込んだ、罠だらけのステージを乗り越えるだけの機動力。
 そして、周囲を一瞬で見極める観察力。エックスは成長を続け、それらを身につけ、活用を続けた。
 彼女たちの攻撃は確かに手ごわい。しかし、エックスもまた、それ以上の攻勢を潜り抜けてきた歴戦の戦士。
(逃げ切って見せる……そして……)
 自分に戦う意思はないことを知ってもらう。もちろん、彼女たちの仲間を殺したことは、償いきれる物ではない。
 一生許されないだろう。むしろ、そうであるべきだ。
 だから、エックスはこの後なにを言われても構わない。ソルティや、彼女たちがシグマの思惑に乗って欲しくないから。

「エックスさんッッ!!」

 だから、その声が聞こえてきたときは、エックスには珍しく内心で彼女を罵った。
(馬鹿!! 何で来たんだよ!! ソルティ!! 危な……)
 危険を知らせる声は、届かない。バロットがソルティに向かっている。
 エックスはたまらず、軽いチャージをした一撃を、バロットの腕に向かって放つ。
 同時に、もう彼女たちとの和解は無理だと、諦めた。


 バロットは入ってきたエックスの仲間の女を、見逃しはしなかった。
 彼女はエックスの仲間だ。殺し合いに乗っている可能性が高い。ラミアやフランシーヌが襲われる前に、戦闘力を奪う。
 ガンナックルをスナークして、関節部へと向ける。殺すことだけはしない。
 エックスの光弾も放たれたが、予想内だ。まずはバロットのガンナックルで膝を砕き、スナークでエックスの光弾をソルティの肩部に当てる。
 それで、行動を制限ができるはずだ。あまりにも短い現在で、脅威の把握力を持ってバロットはそう判断した。
 一番被害の出ない結果を、呼吸するかのごとく自然に動く。それこそが、バロットの才能。
 彼女の高い認識能力は、ソルティと一緒に入ってきたあ~るの存在を確認するにも及んだ。
 だが、バロットにとってのあ~るはミクを殺した、卑劣で許せない男。彼の対処は、ソルティが済んでからと決めた。
 ゆえに、あ~るがとった行動は、バロットには予測ができないことであった。


「あ~る君ッッ!!」
≪嘘……なんで……?≫
 バロットには、理解できなかった。あ~るが飛び出したことじゃない。
 彼が飛び出し、ソルティを庇うことは、万に一つありえるかもしれない。
 それでも、なぜ彼が……
≪何で……彼女だけじゃなく……私も庇ったの……?≫
 バロットの疑問があ~るに届く。しかし、あ~るはいつもの顔に、笑顔を浮かべている。
 腕でバロットのガンナックルを受け止め、吹飛んで隻腕となっている。
 身体でエックスの光弾を受け止め、腹部の左半分を失っていた。
 あ~るのとった行動は、ソルティとバロット、両方を庇うことだった。
 バロットの疑問に、あ~るはいつものとぼけた表情を見せる。その行為に、バロットは苛立った。
 もしかして、自分は大きな間違いを犯したのではないか?
 その想いが、奔流する。だからこそ、彼に答えて欲しかった。何かしら、裏があると。
「悪いのは……勘違いをしていたのは……僕です。だから、彼らは平に、ご容赦ください」
 その言葉は、バロットにとって、何よりも残酷な物だった。
 裏がないと分かるほど、真摯な言葉であったからこそ、余計に。


「いったい、お前はなにがしたいんだ!?」
 ラミアの言葉ももっともだった。ミクを殺したかと思えば、いきなり謝罪を始める。
 一貫性がない。元々、あ~るには常識の通用しない成原博士が作り上げたアンドロイドだ。
 常識などハナから持ち合わせてはいない。しかし、彼には光画部の愉快な面子から、受け取った物がある。

「テレスドンの目」

 あ~るの顎が角ばり、三白眼となる。若年層には分からないネタを、異世界の彼らが知るわけもない。
 それどころか、意味不明な行動に、周りは置いてけぼりをくらった。
「あ~る君……なにを……」
「あれ……受けが……悪いようですね……」
 ぐらり、と身体を倒したあ~るを、ソルティは受け止める。身体の回路がショートしている。
 もはやあ~るは限界だ。ソルティがどうにかしないと、と思うが、手が出せない。
「失敗……したなぁ……。僕が……殺したあの子の分も……皆さんに笑って欲しかったのに……。
皆さん……ごめんな……さい。ソルティさんと……エックスさんは……僕と違います…………。
だから……エックスさんたちと一緒に……笑ってあげてください…………」
「それ以上喋らないでください! あ~る君!!」
「大丈夫……何も悲しくはありません。全てが……元に戻るだけなのです……。
それでは皆さん……また……お会いしま……しょう。今度は……光画部の皆さんと……一緒に……」
 最期まで、あ~るが死を理解していたのかは、知りようがなかった。
 それでも、彼は確かに罪を認識し、動いた。彼が狂ったわけではない証拠が、そこにある。
 そして、命を懸けた彼の行動は、その場にいる誰にも伝わった。


(笑う……)
 フランシーヌは、死んでいくあ~るの言葉を聞き終え、笑顔がもたらすものを思い出す。
 エレオノールが笑ってくれるから、みなは幸せな日々を過ごしていた。
 彼女が笑ってくれたから、フランシーヌは命の重さを知ることができた。
 彼はそのことを知っている。だからこそ、みなに笑顔を取り戻して欲しいとあの行動をとったのだろう。
 ミクを殺したことは許せることではない。それでも、笑わせる行為を持って、彼らの仲を取り持とうとしたあ~るを、罪深きフランシーヌがどうして責めれようか。
 フランシーヌはあ~るにもう、敵意はもてない。彼は自分だ。
 命の重さを知らず、人形たちに命令を送り、奪い続けた自分なのだ。
(私に言えることではありませんが、あなたを許します……。構いませんね、ミク……)
 もしも咎があるとすれば、自分が被ろう。
 フランシーヌの脳裏に、満面の笑顔を浮かべるミクの姿が浮かんだ。



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