大切なものを喪う悲しみ(前編) ◆hqLsjDR84w



 シグマの用意したコロニーのうちの一つ、工業地区ブロック。
 そこの一角、エリアG-3とH-3をまたぐ巨大な白い建造物、修理工場。
 その最上階にある一室に、三人の男女が集まっていた。
 彼等が行っている行為は、この壊し合いに巻き込まれてからの経緯の教え合い。
 現在話しているのは、獅子王凱。
 椅子があるのにもかかわらず終始立ち上がって、握り締めた拳を上下させながら感情を込めてハカイダーとの激闘について語っている。
 その机を挟んで前には、チンクが座っている。風見の入れたコーヒーが熱かったのか、話を聞きつつもカップに息を吹きかけるのをやめようとしない。
 一方、チンクの隣に腰掛けているドラスは、童話を聞く子供のように目を輝かせて凱の話を聞いている。
 ハカイダーの仮面ライダーにも匹敵する強さについて、風見から先に聞かされていたために興味を持ったのだろう。

 先ほどまでこの部屋には風見志郎とゼロもいたのだが、今は別室へと出向いている。
 風見は自身が回復ポッド内で目醒めた後に起こったこと、そして仮面ライダーXに関する情報を――
 ゼロはチンクと別れてからのことを、それぞれ言うだけ言って出て行った。
 互いに『後はチンクが知っているから、チンクに聞いてくれ』とだけ残して。
 凱は、風見とハカイダーの共闘について詳しく聞きたがっていたが、ゼロの破損した左膝を見せられると何も言えなかった。

「――以上だっ!」
「…………さっきも思ったが、お前気絶してばっかりだな」

 コーヒーカップを口元に持っていきながら、チンクが抱いたことをありのままに言葉にする。
 不甲斐ないと頭を垂らす凱に、ドラスの興奮冷めやらぬ声がかけられた。

「そのハカイダーに勝っちゃうなんて、凱おじさんって強いんだねぇ。
 おじさんくらい強くなりたいなぁ。そうなれば、あの銀の仮面ライダーも……」

 最後まで告げられなかったその言葉は、ドラスにとって全くの本心であった。
 己を圧倒した仮面ライダーXこと、神敬介。
 同じく仮面ライダーの一人である仮面ライダーV3こと、風見志郎。
 彼が仮面ライダーと同等の強さと断言する、ハカイダー。
 そしてハカイダーに勝利したという、獅子王凱。
 かつてならば、それでも神となる自分には劣る――そうドラスは考えただろうが、今のドラスは自分以上の力を正しく認める。
 その上で、ドラスは心から凱の強さに憧れた。

 中途で話すのを止めて、歯を軋ませているドラス。
 自分の力が足りなかったことを悔いている様子のドラスの元へと駆け寄り、凱は笑顔を作って声をかける。

「ドラス君、君だって十分強いさ」
「……優しいね。でも今のままじゃあ、仮面ライダーには勝てない……みんなの仇を取ることは出来ない」

 消え入りそうな声を漏らし、ついには俯いてしまうドラス。
 どう声をかければよいか戸惑うチンクをよそに、凱はドラスを抱きかかえて同じ視点のところまで持ち上げる。

「強いっていうのはパワーとかスピードとか、そういうことだけじゃあない。
 君は、お姉さんであるチンクさんの危機に敢然と立ち上がることが出来た。
 恐怖や不安に屈したりしない勇気を持つ君は、誰がなんと言おうと強い!」
「勇……気……?」
「ああ、そうだ!」
「……それでも、銀の仮面ライダーの戦力は僕の遥か上を――」
「足りない分は、勇気で補えばいい!」

 ドラスが思い浮かべた弱い考えを言い終えるより早く、凱が言い放った。
 ぽかんとするドラスに構わず、凱は続ける。

「勇気が生み出すエネルギーには、限界なんてないんだぜ!」

 凱はドラスを椅子へと戻すと、右腕を曲げて上腕筋を誇示するようなポーズを取って白い歯を見せる。
 聡明なドラスの知性が、凱の言葉を論理で裏付けされていないものだと判別する。
 そういう気休めにもならない幻想を抱くから、下等生物は困るよ――少し前のドラスが抱いただろう感想。
 しかし、どうしてだろうか。
 頭脳のレベルは変わりないはずなのに、現在のドラスには凱の言葉がすごく力強いものに感じられ――何故だか口元を綻ばせた。
 笑顔を取り戻したドラスを確認して、凱は元いた位置に戻ると思い出したように口を開いた。

「ああ、そうだ、思い出したぜ!
 ドラス君、おじさんってのはないだろう? 凱兄ちゃんとかにしようぜ! そもそも、俺はまだ二十歳なんだぜ?」
「え?」
「何……?」

 二つ重なった驚きを含んだ声に凱は軽く泣きたくなったが、ドラスの前で情けない所を見せられないと、気にしていないような素振りで話し手の座をチンクに譲るのだった。


 ◇ ◇ ◇


 修理工場の二階にある一室、白い天井の下に二人の男がいた。
 成人男性一人がどうにか横たわれるサイズのベッドに横たわるは、端正な顔立ちの赤いレプリロイド――ゼロ。
 切れ長の目を持つサイボーグ――風見志郎が、ゼロの破損した左膝部位に触れる。

「く――、ぐァァ――――っっ」

 回路を伝達して、ゼロに襲い掛かるくる激痛の奔流。
 破損箇所を、さながら焼き付けられているかのような――そんな熱さも伴う。
 風見が触れている限り治まることはなく、むしろ増していく痛みの波。
 ゼロは歯を噛み締めて耐えようとするものの、思わず空気が漏れてしまう。

「こんなに熱するまで放置するとは……どれだけ我慢していたんだ?」

 暫し患部を触診して、風見は思わず溜息を吐いてしまう。
 抱いた呆れの感情を隠そうともせず、風見はゼロに向き直る。

「まだ夜が明ける前からだったか」
「やれやれだな」

 チンクといい、ハカイダーといい、どうにも強情な輩ばかりに出会っている気がする。
 そんなことを考えながら、風見はこの部屋の備品であった救急箱へと手を伸ばす。
 救急箱の中からチューブ型容器を取り出し、蓋を開けて中身を捻り出す。

(…………こんなものが、本当に役に立つのか?)

 左手に出てきた白い粘液を見て、思わず風見はそんなことを考えてしまう。当然の反応である。
 本郷猛や結城丈二ほどの知識はないとはいえ、風見もある程度は工科系の知識を所持している。
 しかし目の前の粘液は、どうにも洗顔料だとか軟膏剤だとかの類にしか風見には見えなかった。

 この部屋に備え付けられていた救急箱は、風見が二階を調べていた際に見つけたものである。
 貼り付けられていた紙曰く、その救急箱はただの救急箱ではない。
 故障した機械の修復に使えるらしく、その名も『メカ救急箱』。
 例によって、使い方は記載してあった。
 しかし、かなりの量の回復ポッドが設置されているので、使うこともないだろう。
 風見本人はそう考えていたのだが……
 ドラスへ行った荒治療の後、皆で情報交換を行うために最上階へと向かった時の話である。
 ゼロの歩き方がぎこちないのに気付いた風見が、再びゼロに回復ポッドを使うのを薦めた。
 シグマの思い通りになるなど反吐が出ると、ゼロは吐き捨てたが、背後から風見が軽く左膝に触れただけでゼロは苦悶の声をあげた。
 その様で意地を張られるほうが、迷惑だ。同行している者の身になれ。
 そう言われて、ゼロは仕方なしに修理工場の設備を使用するのを認めた。
 だが、休眠するのだけは拒否したので、メカ救急箱が置いてある部屋へと呼び込んだのである。

「本当に、この道具でいいんだな?」
「回復ポッドが使用に堪えるのにもかかわらず、その救急箱だけが罠ということもないだろう」
「確かに、そうではあるのだがな」

 風見は、ゼロのアーマーに刻み付けられた傷に粘液をよく塗り込んでいく。
 ほぼ全身に塗布し終わったかというところで、風見は最も損傷が激しい左膝に手を伸ばす。
 苦痛に表情を歪めるゼロ、次第に微弱な声が漏れ、ついには悲鳴へと変わっていく。
 あえて風見は気にも留めないかのように、一気に粘液をゼロの左膝にすり込んでいく……――――



「よく耐えたじゃあないか」

 破損箇所に膏薬を張ったゼロの全身へと、風見は包帯を巻いていく。
 勿論、その膏薬と包帯もメカ救急箱に入っていたもの。
 修復箇所を保護する為の、プラ膏薬とポリ包帯である。

「……これは、動きづらいな」

 全身包帯で雁字搦めになるなど初体験なゼロは、思わず呟いてしまう。

「傷自体は、三時間も経たないうちに塞がるようだ。激しく動けば、傷が開くようだがな」
「案外早く治るものだな」

 元より両者とも寡黙なこともあり、そこから会話を交わすこともなく彼等は仲間のいる部屋へと階段を上った。


 ◇ ◇ ◇


 風見とゼロが同行者のいる部屋へと帰還したのは、ちょうどチンクが話を終えた時だった。
 彼らが聞けなかった内容を凱は話そうとしたが、風見とゼロはあとで誰かから伝えてもらえればいいと断った。
 すっかり冷めてしまったコーヒーを喉に流し込み、風見は凱の隣の椅子に腰掛けてドラスに向き直る。

「何があったか、話してくれるか?」
「……うん」

 ドラスの隣で、チンクは自分の中での高鳴りを感じずにはいられなかった。
 チンクの妹であるノーヴェが、どのようにドラスと出会い、どのような過程を経て弟と認めるようになったのか――――
 妹思いなチンクにしてみれば、気にするなという方が到底無理な話であった。

 凱が使用していない椅子に座ったゼロも、似た心地であった。
 ノーヴェは、ゼロがこの地で始めて出会った少女だった。共に戦い、彼女がいなければ自分は破壊されていたかもしれない。
 その彼女とドラスが出会ったとすれば、ハカイダーを彼女から遠ざけた後。メカ沢とロボの名が出た以上、それは自明である。
 別れてから仮面ライダーXに殺害されるまで、彼女達の身には何が起こったのか。
 どうしてだか、ゼロにはそのことがすごく気になった。

「…………僕は、」

 暫しの沈黙の後、ドラスは静かに、そしてゆっくりと口を開いた。

「最初は、この壊し合いで優勝するつもりだったんだ――――」

 予期していなかった告白に、話を聞いていた全員が息を飲んだ。

 ――否、

「そうか」

 ドラスの発言と真の姿から、ドラスを他の組織が作り出した怪人と予想していた風見志郎。
 彼だけは、ゼロが飲もうとしないコーヒーを口元に近付け、冷静にドラスに続きを促した。


 ◇ ◇ ◇


「ドラスの話を聞く限り、タチコマとボブおじさん――特に後者とは迅速に合流すべきだな」
「ああ、スカイネットとやらの情報を得るには、合流が必須だ。
 しかし、注意深い男だな。本名を隠すというのは確かに利口ではあるが、探す身からすれば面倒なことこの上ない」

 ドラスは、全てを話した。
 参加者の一人であるタチコマを利用しようとしていたドラスの前に、ボブという偽名を名乗る男が現れた。
 最初の部屋にいた液体金属に関する知識も持ち、『スカイネット』などの情報を提供したボブ。
 彼はドラスの外見に疑問を抱き、ドラス=シグマの影武者=液体金属の可能性があるとして、ドラスに銃口を向けた。
 ドラスは、タチコマに乗ってどうにかして逃げ切ったが――と。

 それを聞いた上でのゼロの提案に、風見が賛成の意を示す。

 ボブ曰く、T-1000と言うらしいただの打撃が通用しないと思われる液体金属の結晶体。
 風見達にとって、T-1000が壊し合いの参加者となっているのは予想外の事態であった。
 だが何にせよ、最終的にシグマを打倒するのならば、相手をすることになるのである。
 はっきり言ってしまえば、T-1000と対面するのが少し早くなるだけのことでしかない。
 どうにかしてボブと出会って、T-1000に関して知っている情報を提供してもらいたい。

「それにしても、ドラスがあの男と会っていたとはな……
 私が逃げたルートの所為で、ドラスはヤツとかち合ったのだろう。
 姉でありながら、弟を危険に巻き込んでしまうとは情けない。しかし、よく逃げ切れたな」
「うん、もしもタチコマがいなかったらと思うと……怖いね」

 ドラスは、全てを話した。
 ボイルドと出会い、タチコマに乗せられて退却したことも。

 ゆえに、チンクは臍を噛む。
 あの場面では、チンクと風見の前は逃亡以外の選択肢が存在しなかった。
 それは紛れもない事実であるとはいえ、そのおかげでドラスは危機に晒されてしまったのだ。
 その頃のドラスは優勝を目指していたとはいえ、今ではドラスはノーヴェが認めた弟である。
 悔やんでも悔やみきれないといった表情のチンクに、ドラスは生きているのだからいいと微笑む。

「それにしても、メカ沢にノーヴェにロボ……
 ドラス君を目覚めさせるほどの勇気を持つ彼等が、なんで……ッ」

 ドラスは、全てを話した。
 タチコマを修理工場へと向かわせたドラスは、メカ沢達に出会った。
 いずれ利用するつもりであったが、自分が襲い掛かった仮面ライダーXによって皆殺された。
 利用されるとも知らずに絡んできて、いちいち鬱陶しい輩だと思っていた。
 だが、彼等を失って初めて、一番欲しかったものに気付いた。
 零れる涙を止めることも出来ずに、ドラスはそのことも語った。

 凱の言葉に、ドラスだけでなく風見とチンクも歯を軋ませる。
 妹の死、後輩の凶行、彼等も思うことがあるのだろう。
 急速に冷え切った部屋の空気の中、ゼロが口を開く。
 その右手の上には、小さな立方体の金属のようなもの。
 参加者の物と思われる残骸から、ドラスが見つけたという物体。
 正体は不明。爆破装置か、戦闘力を弱めている装置か、はたまた関係のないものか。
 最後の一つでない場合は、これを手に入れたとシグマに知られれば、爆破装置を起爆させられてしまう可能性がある。
 部屋の中に監視カメラのようなものは見つからず、上空に衛星カメラが仕掛けられていたところで室内は見ることが出来ない。
 だが、安心しきるのは愚行。爆弾と一緒に、盗聴機を体内に仕込まれた可能性もある。
 その可能性を考え、ゼロの言葉からはあえて肝心な所が抜き取られている。

「――手はあるか?」

 言葉を投げかけられた四人、ほぼ同時に首を横に振る。
 またしても室内を沈黙が支配する前に、風見が口を開く。

「本郷先輩……本郷猛という名の参加者ならば、体内に仕掛けられたという爆弾を見つけて何とか出来るかもしれん」

 勿論、その爆弾と思わしき物体を『手に入れている』ことは伏せる。
 口振りだけからは、自分達は体内の爆弾を『見つける』ことから始めねばならないと思わせるブラフ。

「そのレプリロイドは、工科系の技術に長けていると」
「あの人と、この場にいない結城という仲間がいる以上……
 どんな頭脳の持ち主でさえ、日本で三番目以下の実力になってしまうだろう。それだけ素晴らしい科学者であり、最初の仮面ライダーだ」

 ――パパの技術力だって、日本一の座に輝けるレベルにあると思うけど。
 ドラスはそう言おうと思ったが、あくまで『工科系』の技術の話をしているのだと自分を納得させた。

「ほう、つまり身を守る力もあるということか……
 とはいえ、ハカイダーのような強者もいるから安心は出来んな」

 ゼロは、金属片を包帯の隙間へと隠す。

「悪いが、風見の言っていた通路に行く暇はない。一刻も早く会わねばならん輩がいる」

 そう言って、ゼロは立ち上がる。
 風見の言った通路とは、修理工場の二階に風見が見つけた隠し通路のことである。

「チンク、バイクを貸してくれないか?」
「何?」

 予想していなかったゼロの発言に、チンクは思わず聞き直す。

「凱、お前もいつまでもボサッとしているな。そろそろ行くぞ。会わねばならない者が、さらに増えた。
 チンク、俺と凱はハカイダーを探さねばならない。あと、本郷猛もだな。
 ハカイダーはバイクを所持していた。追い着くには、同じような移動手段が必要だろう」
「だから、バイクをよこせだと? 都合のいい話も、あったものだな。
 そもそも、これはカザミのバイクだ。そんな欲しければ、カザミから許可を取れ」

 後輩が暴走している現状、今すぐにこの場を飛び出したいのは風見も同じだろう。
 バイクを簡単に手放すわけがない。
 風見がバイクを運転し、後部座席にチンクが乗る。ドラスは小柄なのので、一緒に乗ることも可能だろう。
 神敬介の元へ向かい、何としてもノーヴェの仇を取りたいチンクは、そう考えた。
 だが――

「……カザミ、何を黙っている」

 チンクの考えに反して、風見は沈黙を貫いている。

 凱とゼロが、ハカイダーを追う。
 それは、風見にとって理想の展開だった。
 ボイルドをこちら側へと引き込もうとしているのは、恐らく自分だけ。
 神敬介を止めるべきなのは、先輩の自分。
 村雨良の件もあるゆえ、ハカイダーも止めたい。
 しかし一つだけでも成し遂げるのは一苦労。可能なのは、せいぜい二つまで。
 となれば優先すべきは、上の二つ。
 ハカイダーの元へは自分が行かなくとも、凱とゼロなら最善を尽くすことが出来るはずだ。
 ゼロの提案は、はっきり言って願ってもない申し出であった。

 しかしサイクロン号を渡すとなれば、話は別。

 ゼロはハカイダーに追い着く為には必要だと言うが、そんなことはこちらも同じだ。
 神敬介は数時間前に隣のコロニーにいたというし、ボイルドは行方知らず。
 自分だって、サイクロン号で虱潰しに周囲を探索したいのだ。

 ――どちらを選ぶべきか。

 チンクの射抜くような視線を受け流しながら、風見が思案し出して数刻。
 修理工場中に、強烈な破壊音が響いた。
 一階に襲撃者が現れたのだろうか?
 違う、正解は――

「上だ! 攻撃されたのは……あっちの部屋か!」

 逸早く音源に気付いた凱が、立てかけてあったグランドリオンを掴み取る。
 そして戦闘形態となり、そのまま乱暴に扉を開けると真っ先に駆けて行った。


 ◇ ◇ ◇


 ドラスは、全てを話したのである。
 嘘偽りなく、ありのままのことを。
 人間も機械も、神となる自分の足元にも及ばない。
 そんな、過去の自分の考えさえも。
 仮面ライダーZO――麻生勝との戦闘についても。
 ドラスは明かした。
 生まれ変わったがゆえに。

 ――ただ一つのことを除いて。

 仮面ライダーZOに敗北したドラスは、気付いたらこの壊し合いに呼び出された。
 タチコマに出会い、T-800に疑われたので逃走し、ボイルドと交戦の後に逃走し、一旦タチコマと別れる。
 ノーヴェ達と出会い、仮面ライダーXに敗北を喫し、満身創痍の状態だった時にチンクに助けられる……――――

 そう、ドラスの説明からは――――『スバル・ナカジマ』に関することだけが、綺麗に抜き取られていたのである。

 間違ってはならない。
 これは、決してドラスがよからぬことを企んでいるというワケではない。
 むしろ、その逆なのである。
 ドラスが初めて自分の欲していたものに気付いた時には、全てを喪失してしまっていた。
 そんな時に、チンクが現れた。『姉』と名乗ってくれた。『弟』と呼んでくれた。
 凱も、ゼロも、風見も、まるで『兄』のように接してくれている。

 そんな彼等に、スバルのことを話せばどうなるか。
 自分を信じきっていたスバルの腕を食らい、疑心暗鬼状態に追いやった。
 そんな残虐非道なことをやらかしたと話してしまえば、どういう反応が返ってくるか。
 チンクの話では、かつてのドラスの計略通りにスバルは暴走しているという。
 全ては、ドラスの仕業である。
 引き金を引いたのはドラスではないだろうが、疑心暗鬼という名の弾薬を装填して安全装置を解除したのは――紛れもないドラス。

 ドラスは幼稚な、されど利口な生命体である。
 数秒とかからずに、家族のようだった者達から激しく攻め立てられるヴィジョンがドラスの中に浮かんだ。
 ドラスの中に流れ込むは、家族が家族でなくなってしまう映像。
 ゆえに、話さなかった。否、話せなかった。

 手に入れてから喪失する悲しみを、ドラスは知っている。
 だからこそ、二度と味わいたくない。

 ドラスの中に芽生えた感情は、ドラスに嘘を吐かせる。

 そこに悪意など断じて入り混じっておらず、ただただ純粋な家族への執着心からの行動であった。



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097:芽生え(後編) 風見志郎 114:大切なものを喪う悲しみ(中編)
097:芽生え(後編) 獅子王凱 114:大切なものを喪う悲しみ(中編)
097:芽生え(後編) ゼロ 114:大切なものを喪う悲しみ(中編)
097:芽生え(後編) ドラス 114:大切なものを喪う悲しみ(中編)
097:芽生え(後編) チンク 114:大切なものを喪う悲しみ(中編)





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