遅過ぎた出逢い ◆9DPBcJuJ5Q



 クロと呼ばれていた猫型のレプリロイドとの戦闘後、エックスは回復に専念する為に暫く動かずにいた。だが、明らかに自動回復の速度が遅い。
 これもシグマによる制限だろうと考え、エックスは予定を変更し、移動に問題が無い程度に回復すると、すぐに発電所を発った。
 奇しくもそれと同じ頃、“鬼”となったエックスの打倒を願うサイボーグの少女と金色のネズミが、仮面ライダーと出逢っていた。
 そんなことは露知らず、エックスは真っ直ぐ北上した。
 目指す先は、修理工場だ。
 そこを目指す理由は2つ。1つは、損傷した各所の修復の為。そしてもう1つは、修理工場は間違いなく、人が集まる場所だからだ。
 この殺し合いも、始まってから半日以上が経過した。ならば、傷を負い、修理工場を目指している戦闘者が続々と集まり、そこで戦闘が勃発する可能性は極めて高い。いや、もしかしたら既に始まっているかもしれない。
 ならば、その戦いを潰す。徹底的に、完膚なきまでに叩き潰す。
 それこそが、平和を願い、平和を求めて戦う戦士が導き出した、たった一つの答えだった。
 喩えそれが唯の一度も、他の誰にも理解されなくとも――構わない。
 自分はただ、戦いの果ての平和を信じて戦い抜き……その平和を見届けた後、自分自身も破壊する。それでいい。
 あまりにも不器用で、あまりにも残酷な信念。
 しかし、自分が間違っていると理解していても、エックスは止まろうとはしなかった。
 起きてしまった事を、無かった事になんて出来ない。
 過ぎ去ってしまった事を、やり直すことなんか出来ない。
 ならば、自分が破壊してしまった彼らの死を無意味にしない為にも、今、自分に出来る最善を、最速で成し遂げる。
 そうすれば、確かに何かを守れるはずなのだと、そう信じて。
 ……だから、要らない。
 倒すべきモノを倒して、傷付いて、悲鳴を上げるような、硝子のように脆弱な心など必要無い。
 今、必要なのは――そう、鋼だ。
 生かさず殺さず、折れず曲がらずの程度であれ、打たれれば打たれる程、耐えれば耐える程、強度を増していく鋼。
 その鋼の心こそ、今の自分が求めるもの。
 犯した過ちが、斃した者達の怨嗟が、どれほど鈍く音を立てて自分の心を責め立てようとも、その度に折れず、耐え続けるほど、強さを増していく鋼の心。
 それこそが、今の自分の求めるものだと、エックスは断じた。

 硝子のように繊細な――優しい――心を捨て去り。
 鋼のように強硬な――孤独な――心を選んだ。

 途中、エックスは移動しつつ、新たに入手したPDAをチェックした。
 もしかしたら武器チップのような、自分にとって有益なものが支給品となっているかもしれないと、そう考えたからだ。
 そこで、PDAと一緒にまだ持っていた、赤い仮面に気付いた。
 この赤い仮面と、もう1つの青い仮面が、ソルティとエックスを繋ぐものだった。
 ――ギチリ
 だが、こんな何の役にも立たない物、今の自分には必要ない。
 そう考えて、エックスは何の機能も有用性も無い仮面を、握り潰した。
 その破片に一瞥をもくれず捨て去ると、エックスは、バロットとあ~る――自分が殺した2人のPDAをチェックした。
 ――ギチリ、ギチリ
 一瞬、唇を噛んだものの、すぐに支給品の内容を改めてチェックした。
 バロットの支給品で有用な物は、やはりこのファルコンアーマーだけだった。銃もあるが、バスターを持つエックスには無用の長物だ。
 次いで、あ~るの支給品をチェックし、とある支給品の説明項目に目を止めた。
 『…………猫のサイボーグ、クロの装備品の1つで…………』
 ――ギチリ、ギチリ、ギチリ
 思わず、PDAを持つ手に籠める力が強くなった――だが、それだけだ。
 NIKU・Q・マックス――水上移動を可能にし、ジャンプ力も向上するのは魅力的だが、フットパーツを装備していては履けないだろう。そもそも、足のサイズからして違いすぎる。
 残るドクターケイトの杖も、自分との相性は良くないと判断し、そのまま放置した。
 ……結局、成果はゼロ。この状況を改善できるようなアイテムは、そうそう都合良くあるものではない、ということだ。
 この損傷と消耗を考えると、エネルギー満タンのサブタンクがあれば、と思うが、無いもの強請りをしても仕方があるまい。
 そうして、他の参加者と遭遇することも無く順調に北上を続けて、H-6に至った時だった。
 突如、センサーがナニカに刺激された。
「……っ。なんだ……?」
 センサーが、奇妙な感覚に戸惑う。
 その刺激の発生源は、ファルコンアーマーのヘッドパーツだ。
 ヘッドパーツが、何かに反応しているらしい。
「……向こうに、何かがあるのか?」
 或いは、シグマがファルコンアーマーに仕掛けた仕組みが発動して、自分を陥れようとしているのかもしれない。
 そんな考えもあったが、エックスは、行くべきだ、と感じた自分の直感を信じて、ナニカが導く方へと向かって行った。






 ここで、ある話をしよう。
 この壊し合いを主催している陣営の、ちょっとした事情についてだ。
 彼らは数多の世界から、時をも超えて壊し合いの参加者に相応しい者達を選別するのと同時に、支給品とするに相応しい物も収集していた。
 その収集自体は(一部を除いて)然程問題は無かったのだが、その後の管理が問題となった。
 中でも、シグマが特に支給品に相応しいと推薦した物――ファルコンアーマーやガイアアーマー等のエックスのアーマーは、管理や運用に困難を極めた。
 特別な技術で作られたエックスの専用装備を、ある程度体格が適合すれば誰でも装備できるように調整し直すのは、シグマやスカイネットの保有する技術でも難しかった。
 そこで、ある解決策が提案され、すぐさま実行に移された。
 それは、それらのアーマーの開発者であり、全てのレプリロイドの創造主とも言える存在――トーマス・ライト博士の拉致であった。
 シグマはライト博士を誘拐すると、博士の助手をしているロボットを人質に取り、アーマーパーツの調整や、その他の技術協力を強要した。
 ライト博士はロックマンまでもが拉致されていることを告げられ、シグマとスカイネットの行おうとしている悪魔の所業に憤慨した――ものの、家族同然の者達を見捨てることが出来ず、協力せざるを得なかった。
 このケースと、ライト博士の優秀な頭脳と有能さに目を付けたスカイネットは、同様に参加者の開発者や親しい関係にある科学者を幾人か拉致し、今回の壊し合い――バトルロワイアル・プログラムへの協力を強要した。
 ……スカイネットが、異なる時空に存在する世界にどのようにして干渉しているのかは、別の機会があれば、その時に語られるだろう。
 話を戻そう。
 ライト博士らは表面ではシグマやスクイネットに唯々諾々と協力しているように見せて、水面下で、バトルロワイアル・プログラムの参加者達に希望を託していた。
 その中で、ライト博士が行った一手がある。
 それは、ファルコンアーマーのヘッドパーツに施した細工だ。
 これを装備した者が『彼ら』のいるエリアに近づいた時に、その位置を教えるようにしたのだ。
 加えて、ライト博士は願いを籠めて、『彼ら』が特定の条件をクリアした場合には、更に別の仕掛けも発動するようにした。
 ファルコンアーマーが『彼ら』と装着者を繋ぐ友好の架け橋になることを願って。或いは、この鎧を身に纏った殺戮者を、『彼ら』が止めてくれることを切望して。
 そして万に一つにも満ちない可能性だが、『彼ら』が特定の条件をクリアしてくれることにも、個人的な願いや望みを託して。
 ライト博士は、その仕掛けをファルコンアーマーに組み込んだ。
 ――その仕掛けが、今、発動しているのだ。






 エックスはセンサーを刺激する感覚に導かれるまま歩を進め、やがて、見つけた。
 それは、首を切断されたレプリロイドの残骸だった。
 そのレプリロイドは、似ていた。
 青いボディの形状も、胴体と別たれている頭部のヘルメットの形状も。
 エックスに、とても、似ていた。
 エックスは、そのレプリロイドの残骸を無視できず、ゆっくりと、そちらに近付いていった。
 物言わぬ骸。二度と動かない身体。何も映さぬ瞳。
 その光景が、どうしても受け入れ難く思えて。
 エックスは、そっ、と、その骸に触れた。
 瞬間、エックスの記憶回路<メモリー>に、“思い出【メモリー】”が駆け巡った。
「こ、これは……!?」

 ――彼は、とても優しかった。
 最初は家庭用の家事手伝いロボットとして作られた彼は、世界征服を企む悪党が許せず、自分の開発者に自分を戦闘用に改造してくれと頼んでいた。
 ――彼は、幾度も傷付いていた。
 幾度も起こる戦いの度、彼は有象無象の雑魚ロボットや数多のトラップ、何故か毎度お馴染みの8人の強敵と戦い続け、その度に傷付いていた。
 ――彼は、何度も泣いていた。
 敵の中には、心優しい者もいた。ただ、悪の科学者に改造を施されてしまった者や、その想いを向ける方向を間違えてしまった者もいて……そんな彼らと戦い、倒す度に、心の中で人知れず泣いていた。
 ――それでも、彼は笑っていた。
 たくさんの、笑顔があった。
 彼自身も、彼の周りの人達も。戦いが終われば、いつも笑顔だった。
 彼の開発者である、どこかで見た覚えのある老人も。
 金髪のポニーテールが綺麗なレプリロイドの少女も。
 ずんぐりとしたボディのちょっと間抜けそうなレプリロイドも。
 彼の相棒である犬や鳥や猫のサポートメカも。
 彼が戦いの中で分かり合えた、かつての敵で今日の友となったレプリロイド達も。
 どこかゼロを思わせる、ニヒルな赤いレプリロイドも。
 皆、誰もが笑顔だった。
 平和を謳歌し、それを守り抜いてくれた者への感謝の念が籠められた――とても、いい笑顔だった。
 そんな笑顔が、誰よりも、彼にはとてもよく似合っていた。
 ……なのに。

 ――ギチリ、ギチリ、ギチリ、ギチリ、ギチリ
「あ、ああ、ぁ……」
 ファルコンアーマーのヘッドパーツから放たれた記憶の奔流が収まると同時に、エックスは力無くその場に膝を屈した。
 そして、目の前の首を見た。
 信じられない、という表情がこびりついた、酷い顔だった。
「…………ロック」
 気が付くと、名を呼んでいた。
 彼の名を。
 とても優しくて、強くて、純粋で、笑顔がこの上なく似合う、自分達レプリロイドの祖でもある少年の名を。
 けれど、その顔は、ピクリともしない。
「………………ロック」
 もう一度、名を呼ぶ。
 けれど、彼の――ロックマンの末期の、絶望の表情は寸毫も変わらない。
「ロック――――ロック! ロォォォオオオォォォォォォォック!!」
 エックスはロックマンの首を抱き締め、力の限り呼んだ。叫んだ。吼えた。慟哭した。
 だけど、何も変わらない。
 この絶望も、無常も、非情な現実も――何一つ、変わりはしない。
 ――――ギチリ、ギチリ、ギチリ、ギチリ、ギチリ……ギシ、ギシ、ギシ、ギシ、ギシ
 ギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシ
 エックスの鋼となった心が、どんどん、擦り切れていく。
 哀し過ぎて、辛過ぎて、切な過ぎて――どんどん、どんどん、擦り切れていく。

 打ちのめされる痛みには、耐えられても。
 擦り切れる辛さには、耐えられなかった。

「あんまりだ! こんなの、こんなの…………こんなの、あんまりじゃないか!! どうして……どうして、ロックが死ななくちゃいけないんだ!?
あんなに優しくて、真っ直ぐで、笑顔に溢れていたロックが死んで! どうして――俺なんかが生き延びているんだ!!」
 エックスは目から止め処無く涙を流しながら、尚も叫び続けた。
 世界は、非情だ。あまりにも、非情だ。
 こんな不条理が、どうして許される?
 どうして、ロックが死んで、ロックを殺した奴が生き延びている?
 どうして、ロックを死なせたシグマが、今ものうのうとしていられる?
 どうして――自分が死んで、ロックが生きていない?
 おかしいだろ、こんなの。
 心優しい者や正義の味方が死んで、悪党や外道がのうのうと生き延びるなんて……そんなの、不条理以外の何ものでもない。
 世界は、こんなにも非情なのか。
 力さえあれば、それが正義でも、悪でも、関係無いというのか。
 強い者が弱い者を食い潰して生きる――弱肉強食こそが、世界の黄金律だっていうのか!?
「そんなの、認めない…………! 絶対に、認めないぞ! 俺はぁ!!」
 エックスは、吼えた。
 世界に向けて、宣言した。
 この不条理こそが、非情な現実こそが間違いであると。
 だが、それを覆すことは出来ない。出来ないからこそ、エックスは鬼となり、ロックマンは骸となった。
 ならば、どうする? どうすれば、この間違いを正せる?
 ……答えは、簡単だ。
 力を止める為には、更なる力があればいい。
 相手が強いのなら、自分がそれよりも強くなればいい。
 今までやってきたことと、何ら変わらない。
 だから今回も――非情を凌駕する為に、更なる非情に徹すればいい。
 ただ、それだけのことだ。
「正してみせる……俺が、終わらせてやる! ロックを殺したこの戦いを! 誰の笑顔も無い、笑顔を奪い続ける戦いを、俺が潰してやる!!
戦う者、戦わせる者、戦いを広げる者、戦う意志を持つ者――全てが、俺の倒すべき敵だ!!」
 それは、現実への宣戦布告。
 エックスの鋼の心に、最早迷いは無い。
 迷う心は、既に擦り切れて消え去った。








「…………許しておくれ」
 老人は、泣いていた。
 何の為の涙か、誰の為の涙か、それは分からない。
 ただ、老人は泣いていた。
 本来ならば、あの記憶<メモリー>が絆となるはずだった。
 時空を越えて出逢った彼らが互いを理解し、手と手を繋ぐ、切っ掛けになるはずだった。
 だが、全ては――遅過ぎたのだ。
「愚かな私を、許しておくれ……」
 老人は咽び、此処にはいない誰かに許しを請うた。
 誰にも届かない贖罪の言葉を、ただただ、老人――トーマス・ライトは繰り返していた。










 こうして、ひとつの祈りが生まれた。
 千の生命を奪ってでも、戦いの終わりを、平和を、幸福を願う、切なる祈りが。
 その祈りは、誰かの望みと重ね合うことは出来ず。
 誰かの望みを喰らい、ひとつの願いを掻き消し。
 止められぬ悲しみの連鎖を、繰り返してゆく。












【G-5 /一日目・日中】

【エックス@ロックマンXシリーズ】
[状態]:疲労大、全身に大ダメージ(徐々に回復中)、深い悲しみ、現実への絶望と失望、鋼の心、爆風により装甲に凹み。
[装備]:ファルコンアーマー@ロックマンX5
[道具]:PDA(エックス、あ~る、バロット)、クロマティ高校の制服@魁!!クロマティ高校  グロスフスMG42(予備弾数20%)
    NIKU・Q・マックス@サイボーグクロちゃん、ドクターケイトの杖@仮面ライダーSPIRITS(ミーが所持、転送可能)。
[思考・状況]
基本思考:戦う者、戦わせる者、戦いを広げる者、戦う意志を持つ者――全てが敵だ
0:ロックマンを埋葬する。
1:修理工場へ向かい、傷を修復/集まってくる者達が起こす戦いを潰す。
2:戦っている者を、誰であろうと潰す。
3:戦わない者は基本放置。だが、戦う意志があるのなら潰す。
4:ゼロと合流。ただし、賛同を得られず、戦うことになったら潰す。
5:ロックマンの仇を討ちたい。
6:シグマは潰す。絶対に、確実に潰す。
7:全てが終わった後、自分自身を破壊する。
[備考]
※神敬介の名前を、Xだと思っていましたが、勘違いだったと思っています。
 また、神敬介が死んでしまっていると考えています。
※ライドアーマー“イーグル”@ロックマンX4は破壊されています。
※ファルコンアーマーの制限。
 1.フリームーブの時間は、本来の半分。
 2.フリームーブによる特定のダメージの無効はない(ただし、威力の軽減はある)。
※他にも、ファルコンアーマーの制限はあるかどうか不明。後の書き手さんに任せます。
※ロックマンの“思い出”を知り、ロックマンについて大まかな知識を得ました。



【ライト博士の仕掛けについて】
  • ファルコンアーマーのヘッドパーツには、エックスかロックマンが上下左右斜め何れかの隣接するエリアにいる場合、
 その方向を装着者に知らせる機能が付加されています。
  • ファルコンアーマーのヘッドパーツには、装着者がエックスだった場合にのみ、
 ロックマンと接触した際にライト博士が記録していたロックマンの“思い出”がエックスに伝わる機能が付加されています。
  • 何故エックスとロックマンなのかは、2人とライト博士の関係からお察し下さい。



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116:涙の証明(後編) エックス 131:仮面のはがれた殺人機械





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