• 一応逆裁4の時間軸のどこかで真宵は家元。
  • 「男」は考えられる限り生理的に受け付けないオヤジを各々思い浮かべて頂ければ……。
  • 「彼」は旧作の誰か。

個人的には「彼」=成歩堂のイメージなので、ナルマヨが地雷な方は避けられた方が無難だと思います。


あたしは月に数日、人形になる。
綾里真宵を殺して、人形になる。

満月を見てた。
湯気が上り、硫黄の香りがぼんやり立ち込めるそこで、空を見上げて満月を見てた。

のぼせたようだ。
少しクラクラと目眩がして、縁に座って少し涼もうとお湯から立ち上がる。
視線を落とすと、湯気の立ち上る水面にぼんやりと月が揺らめき、夜の闇の中にあたしの肌が白く浮かび上がっていた。

盛り上がった胸の膨らみから、縦長に切れ込んだ臍。
腰骨に沿うように伝う丸い水滴は玉のまま、下腹部を覆う茂みへと消えていく。
それを追うように狭間に指を差し込むと、ぬるりと滑った指先が、あたしの発情を教えていた。

──濡れてる……。

自分の肉体の反応を、あたしは他人事のように無感情のまま見ていた。
火照った肌が、桜色に染まっている。
そっと手のひらで乳房を覆うと、心なしか硬度を増した頂きが、手のひらを押し返した。

あたしは『仕事』の為に月に数日、旅館に泊まる。
倉院から少し離れた老舗の高級旅館。
露天風呂が各客室についていて、好きな時間に温泉を楽しめる。
秋の虫達が奏でる涼やかな音色に耳を傾けていると、女一人の旅行客のような気分になる。

そうだったらどんなに幸せだろう……。

ぼんやりと満月を見上げた。
煌々と冴え渡る大きな月。
そういえば、大好きだったトノサマンの背景にこんな月がよく浮かんでたなあ……。
トノサマンを観なくなって、どれ位経つのかな。

ああ、そうだ。
ちょうど一年くらい前からだ。
最初の頃は、はみちゃんにだいぶ訝しがられたっけ……。

まだあれから一年しか経ってないんだなあ。
それなのに、あたしは……。

──ふと背後に人の気配を感じて振り向けば、いつの間にか背後に人が立っていた。

頭髪が薄くなった恰幅の良い、50代の男。
それがあたしの『仕事』の相手。
腰に巻かれたタオルの中心が不自然な盛り上がりを見せているのが、チラリと向けた視線の中に映る。

──変態。

バイアグラを飲んでまであたしを抱く男。
そして、それを心待ちにするあたしの肉体。

どっちも変態だ。

無垢だったあの頃には戻れない。
大好きな人と過ごした、輝くようなあの頃には、もう……。

×××

ザバザバとお湯に入って来た男が、背後からあたしに抱きつき、無遠慮に乳房をまさぐり
始める。双丘を揉みしだきながら、頂きの突起を摘まみ上げ、親指と人差し指で捏ねなが
ら引っ張られ、その痛みが痺れとなって下腹部に向けて走り、あたしは切ない溜め息と共
に自然に仰け反ってしまう。

「家元さん……おっぱい大きくなったなあ……」

お酒臭くて荒い息が、ハァハァと耳にあたり、嫌悪感から全身に鳥肌が立つ。

そうかもしれなかった。
乳房だけじゃなく、全体的に処女だった頃より確かに丸みを帯びた気がする。
乳首だって昔は粒のように小さかったのに、今はしっかりと存在を主張している。

男の指が、乳首を円を描くように刺激し、それに呼応して突起は硬くなっていく。

前に回り込んだ男は、舌を伸ばして乳首をチロチロ舐め始めた。
あたしはもう呼吸が乱れ始めていて、漏れそうになる喘ぎを必死に我慢する。
尖らせた舌の先端を左右に動かしたり、そうかと思えば下からこそぐように舐め上げられ、
あたしの乳首は益々主張を激しくして行く。
今にも声を上げんとしていたあたしは、むしゃぶりつかれた拍子にとうとう鳴いてしまった。

静かな山間の露天風呂に、あたしのか細い鳴き声が響く。

「あ……あ……はぁ……ッ……」

両の突起に舌と指でイタズラされ、次第にあたしはもっと違う場所への愛撫が欲しくなる。
太ももを擦り合わせてそれを抑えようとするけど、それが却って男の目に淫らに映るだけ
なのを、あたしはもう知っている。
そうやって、男を煽る術を知ってしまった。

ああ……秘所が熱い……。疼いて仕方がない。
早く……早く欲しい……。
あたしは待つ。
男の指が、ソコを侵略するのを。

×××

初めては1年前だった。
家元になった途端に始まったお見合い攻撃をのらりくらりとかわしてたあたしに、業を煮
やした長老が言い渡したのだ。

「この際結婚はいい。だけど早く跡継ぎは産め」

すぐに女の子が産まれるとは限らないから。
女の子だとしても、跡継ぎとなれる能力があるとは限らないから。

それが長老達の言い分。
お母さんとキミ子おばさまの確執を知っているあたしには、それに反論する術がなかった。

子供は一人じゃ作れない。
誰かに“協力”して貰わなければ……。

幸い、あたしのそばには親身になって相談に乗ってくれそうな男性が何人かいた。
だけどあたしは、その人達を……いや、その人達だからこそ、巻き込むつもりはなかった。
何故なら大なり小なり、この里に関わったことで傷付いた人達ばかりだったからだ。

だからあたしは、長老に宛がわれた見知らぬ中年男性に抱かれた。

×××

──純粋だった頃、これでも一応女の子らしい夢を持っていた。
いつか、初体験は大好きな人と……という、ささやかな、女の子ならきっと誰もが持つ夢。
だけどそれはあたしには贅沢過ぎる夢だった。

初めての夜、痛くて痛くて……あたしは一晩中泣いていた。
無垢な乳房や秘所を弄ばれながら泣いていた。

──初めてのそこが異物で埋まって行くのを、そしてそれが激しく出入りするのを感じな
がら泣いていた。

半ば無理矢理捩じ込まれた場所が痛かったのか、叶わなかった想いが可哀想で心が痛かっ
たのかは分からない。
とにかく涙が止まらなくて……。

全部終わって……。
胎内から垂れて来る男の体液の感触と、シーツに出来たあたしの血の染みを見て、また泣
いた。

──その頃のあたしには、好きな人がいた。
妹のように可愛がってくれた人。

最初の頃は、好きだった人の顔を浮かべながら抱かれていた。
瞳を閉じればその人に抱かれていられたから。

でも、それも長くは続かなかった。

いつの頃からだったろう。
あたしのカラダが変わり始めたのは……。
意に反して、カラダはオトコの味を覚え始めていた。
あたしはいつしか、犯されているのに下半身は悦んでしまう、なんとも淫らなカラダにな
っていた。
あの手この手で攻められるうちに、少しずつ苦痛から解放されて開発されていく。
自分でも止められなかった。

そんな中でその人を想えば、彼まで汚してしまいそうで……。

だからあたしは人形になった。
家元という、人形に。

×××

乳首にイタズラしていた男が立ち上がり、あたしの唇を貪り始めた。
左手は相変わらず乳首を摘んでこすり、右手でお尻を鷲掴みにして揺さぶる。
口内には舌を挿し込まれ、歯列をなぞられ舌を巻き取られた。
呼吸が苦しくなって、思わず吐息が漏れる。

あたしはキスが嫌いだ。
お酒臭い息で口内を犯される不快感。
生温かい唾液が流れ込んでくると、思わず吐きそうになる。
こんな気持ちの悪い行為の何が良いのか、サッパリ分からない。

それでもあたしは男の言いなりになる。
不快な行為に身を任せながら、あたしはただひたすらに待つ。
淫らな蜜を垂らしているソコに男が到達するのを。

お尻から太ももを撫で回される。
待ち望んでいるのはすぐそこなのに……もどかしい。

お尻を撫で回していた手が、太もも、そして内腿へと忍び寄って来て、下肢の付け根をソ
ロリと往復する。
その頃には散々焦らされたあたしは我慢が出来なくなっていて、男の手を取り秘所へと導
いてしまう。
お湯に漂う茂みを指に絡めて軽く引っ張られるが、それすらも甘い痺れとなって秘所の熱
さへと変化していく。
熱くなっている秘裂に指を挿し込まれたあたしのカラダは、ようやく待ち望んでいた刺激
に震えてしまった。

「ああ…っ!」

男の指が、あたしが最も悦んでしまう場所を弄ぶ。
あたしよりも一回り面積の広い指の腹を使って、包皮の上からねちっこく緩急をつけて芯
を捏ねる。
男はあたしに軽く脚を広げるように促すと、肩まで湯に沈んであたしのソコに顔を近付け
た。
硬く膨れ上がった芯を、今度は爪の先でコチョコチョとくすぐるように刺激され、あたし
はあられもなく身悶えてしまう。

淫らな声を挙げるあたしに男は言った。

「大きくなったのはおっぱいだけじゃない。ここもだ……」

中指でピンと芯を弾かれて、あたしは思いっきり腰を跳ねさせてしまった。
電気が走ったような鋭い痛みと、それ以上に甘美な感覚が、そこから下腹部へと突き抜け
る。

「生娘の時はあるか無いか分からないくらい小さかったのになあ……。いつの間にこんな
に大きくなった? いつも一人で慰めてるのかな?」
「ああ……言わないで……!」
「そうは言ってもね、今、中から何か垂れて来たよ? 本当はこうやって虐められるのが
好きなんじゃないの……?」

言葉巧みに追いつめられて行くあたしは、自分で自分に暗示を掛けるように男の発する言
葉を頭の中で繰り返し、更に燃え上がってしまう。

淫乱な女。
スケベなカラダ。
いやらしいオンナになってしまった、あたし。

「ほら、いやらしいクリトリスだ……! こんなに大きく膨れて、硬くして。真っ赤にな
って、ほら、今もヒクヒクしてる」
「いやあ……ダメえ……!」

触れられていないにも関わらず熱くなって行く膣の内壁が男の言葉に反応して、ビクン…
…ビクンと、物を呑み込むように痙攣する。
それはまるで、男を迎え入れるように──。

あたしは被虐に酔っていた。
男の言葉だけでこんなにも昂り、軽い絶頂を迎えてしまうくらいに。

「お願い、お布団に連れて行って……」

あたしは息も絶え絶えだった。
膝がガクガクと震えて立っていられないくらい、全身の力は奪われている。
そんなあたしを、脚の間から見上げる。

「ダメだ。まだまだ……」

そうしてあたしの昂ぶりきった秘芯にむしゃぶりついた。

「ああああ……っ!」

嬌声が響く。
痛いくらいに吸われ顔を出している核に男の舌がチロチロと這いずり回り、じゅるじゅる
と卑猥な音を立てながら、あたしの蜜を吸う。
あたしはいつしか男の頭に性器を押し付け、淫らに腰を振ってしまっていた。
舌で胎内を抉り、溢れる蜜を舐め上げる。
あたしは芯を男の鼻に押し当て、更なる快感を求めていた。

何度も軽い絶頂を迎え、あたしの理性は次第に無くなって行く。

ヘニャヘニャと崩れ落ちそうになったあたしを抱き抱えると、男は風呂の縁に座らせた。

そして膝を立てさせられ、大きく広げられたあたしの秘所は文字通り丸見えだった。
その中心でヒクヒクと戦慄く膣穴に、男の指が沈んで行く。
節くれ立った中指で襞を探るようにグルリと掻き回して、あたしがいつも悦ぶ部分を捕ら
えると、蜜を導き出すように抽送を始めた。
自分の中に消えては出て来る指と、そこから響く卑猥な音。
抜き差しする度に蜜をまとい、掻き出された蜜は少し泡立っているのがよく見えた。
あたしはその光景を見ながら、ただただ啼いて腰を振る。

──胎内の前面に一際イイ部分がある。
初めて男にそこを見つけられた時は、強烈な快感に泣いてしまったほど……。
そこを弄られるとトイレに行きたいような感覚が生じて……。
トイレに行かせて欲しいと懇願しても許されず、「あっ」と思った時には秘所から水が滴
り落ちていた。
あたしは死にたくなるほどの羞恥を覚えていたけど、後にそれは潮吹きという反応だと教えられた。

それ以来、行為のたびに必ず一度は潮を吹かされる。

あたしのカラダはそうやってどんどんいやらしくなって行く。

浴槽の縁で執拗に指を抜き差しされ、あたしは潮を吹いた。
グジュグジュという淫猥な音と共に飛沫が飛び散る。
あたしの潮を腕まで滴らせて、やっと男は言った。

「部屋に入ろうか……」

×××

男があたしを連れて行ったのは、これ見よがしに敷かれた布団ではなく大きな姿見の前だ
った。
背後から抱き締められるように座らせられると、男はあたしの下肢の下に入れた自らの膝
を立てるようにして開いた。
自然、あたしの下肢も大きく開き、何もかもが姿見の中に晒される。
黒い茂みの中で卑猥なピンク色をした、発情したメスのそこが飛び込んで来て、あたしは
思わず目を逸らす。
そんなあたしの耳元で男は言う。

「いつもどうやって慰めてるの?」
「え……」
「いつもみたいにオナニーしてみせて」
「い、いや……っ」
「大丈夫、家元さんだけじゃない。セックスを覚えた女の子は皆してるから、ね?」
「でも……っ」
「……しなさい」

命令があたしの中に甘美に響く。
あたしは躊躇いがちに秘所に手を伸ばし、熱く戦慄くクリトリスを中指で弄り始めた。
触れるか触れないか程度の力加減でクリトリスを小刻みに弾く。
間もなく敏感なそこはあたしの指の中で硬くなって気だるい熱を持ち、コリコリと擦り続
ければ、下腹部から腰、そして腰から全身へと広がる熱に呑まれて、あたしは喘ぎ声を堪
えることなく達してしまう。

胎内からとめどもなく溢れて畳に染みを作っていた淫らな汁が、絶頂の膣の痙攣と共にと
ぷっと溢れ、戦慄く秘所からお尻を伝って落ちて行く。
呼吸を整えるあたしの乳房を揉みしだいていた男が、薄笑いを浮かべて耳元で囁いた。

「いやらしい女だなあ……。」

反論する気にもなれなくて、未だに小刻みに痙攣を繰り返す秘所を落ち着かせようとグッ
と力を込める。
すると、右手でそばにあった鞄を漁っていた男が、グッタリしているあたしの鼻先に何か
を突き出した。

黒くて厳つくて、なんとも奇妙で不気味な形をした棒状のモノ。

「そんなに物欲しげにしてる卑猥な下の口に、これをしゃぶらせてあげようね」

バイブレーター、だった。

あたしの手首ほどに太くて、根元の辺りが何かゴツゴツ玉のようなものが埋められていて、
根元の辺りから小さな突起物が生えている。
初めて見たその独特な物体はグロテスクな威圧感を放っていて、あたしの本能が黄色信号
を鳴らしていた。

「い、いやあ……! そんなの、無理……!」

あたしはベソを掻いて、大きくかぶりを振って拒絶の意思を示して命乞いをする。
男は乳首を弄んでいた左手の指にギュッと力を入れ、突起を引っ張る。
痛みと快感が一緒になって、クリトリスへと抜けて行った。

「いや? 嘘を吐いてはいけないよ。 おまんこは欲しがってるじゃないの」

そういうと、あたしの卑裂に宛がい蜜を掬って広げ、ズブズブとあたしの奥に埋め込み始
めた。
それは普段受け入れていた男の怒張よりも一回り太くて、入り口がチリチリと裂けるよう
に痛み、あたしは息を呑む。

「はぁぁぁ……っ!」

温度のないものがあたしを拡げて行く。
圧倒的な圧迫感が襲う。
それでも鏡の中のあたしの膣は、大きく開いて涎を垂らしながら、どんどん異物を呑み込
んで行った。

「あ、あ、あ、あ……」

狭い空洞を拡げられる快感で、あたしは小さな絶頂に達してしまう。
挿し込まれたものを、更に奥へ奥へと呑み込もうとする膣。
その不随意なうねりがあたしに新たな快感を呼び起こす。

──姿見の中に、肌を桃色に染めていやらしい顔で悦びきった女が映っていた。
半開きの口に紅潮した頬、潤んだ瞳。
乳房を背後から揉み上げられて乳首はツンと立ち上がり……。
真っ赤に充血した性器は分泌液でテラテラ光り、突起物は恥ずかしげもなく勃起し、黒く
て太いものを挿し込まれ……。

──あれは、誰……?

股間に突き刺さったモノを握る男の手が忙しなく前後に動く。

「あ、あ、あん、あ、んんっ!」

あたしの中に埋まった異物の玉が、いつも潮を吹いてしまう場所に当たる。
そこを中心に熱が生じ、その熱は段々全身に広がって行く。

「もっと、もっと……!」

あたしはいつの間にか自分からねだっていた。
あと少し、あと少しで──……!

ところが、ピタリと男は手を止めた。

「ああ……っ! やめないで……!」

あたしは切なくてすすり泣きながら乞うてしまう。
堪えきれずに自分の手で抽送しようと、秘所に手を伸ばし掛けた時だった。
男は何の前触れもなく、グッと痛いくらいに異物を押し込んだ。
同時に「カチッ」と小さなスイッチ音が響き、最も深いところをグングンと抉り始めた。
いやらしいモーター音が響く。モーター音もあたしの声も外に聞こえているかもしれない
が、そんなことはもうどうでも良かった。
冷たい異物に子宮は抉り揺さぶられ、根元に付いていた突起物がクリトリスを刺激していた。
否応なしに与えられる胎内の熱い快感と核の発する鋭い快感に、あたしは腰を跳ね上げて
嬉しがっていた。

「ア……ッ、ハ……ァ!」

声にならなかった。
頭から爪先まで仰け反り、男に支えられた膝から先がガクガクと大きく痙攣してしまう。
なんとか声を取り戻したあたしの口からは、言葉らしい言葉は出ない。
獣のような呻き声にも似た嬌声。

「あっあっあっ、あんっ! あああああんっ……あああ!」

胎内をグリグリと掻き回されたあたしは、次第に思考能力を失い、視界は涙が滲んで何も
見えなくなっていた。
下腹部で急速に熱い光の玉が膨れていく。

「あああ……っ! ああああっ! イクっ、イクぅ、イ……クぅぅぅ……っ!!」

余りの快感に、あたしは絶叫するしかなかった。
光の玉が全身を神々しく包み、あたしの意識は遠くに消えて行った。

×××

──気が付くと、あたしは布団にうつ伏せに寝かされて、肩を支えに腰を高々と掲げられ
ていた。
秘裂を掻き回す様に、男の怒張が往復している。

挿れられちゃう……!

失神していたあたしは、ぼんやりと事態を察してお尻を捩って抵抗する。
まだ男の抽送を受け入れられるほど体力は戻っていなかった。
だが男はあたしの小さな抵抗などもろともせず、怒張を埋め込んで来た。

「ア……ッ」

満たされていく快感に全身に鳥肌が立つ。
大きく深い絶頂の余韻でカラダはグッタリとしているのに、下半身の一部だけが悦んで迎
え入れて行く。

後ろから犯されていた。
敏感になっているそこはすぐに刺激を察知して、あたしを高みに連れて行く準備を始める。

一度膣で絶頂に達すると、あたしは何回でもイッてしまう。
男が限界に達するまで、何度も、何度も……。

×××

当然のことながら、あたしはこのことを頑として誰にも言わなかった。
あたしを慕ってくれる従妹すら知らないことだった。

だけど、相手の男は違った。
倉院流霊媒道の若き家元の純潔を奪い、定期的に抱いていると、身近な人物に吹聴してい
たのだ。
貧相なあたしの肉体でも、男から見れば、若い女を開発して思い通りにしているというだ
けで一種のステータスなのかもしれない。

世間知らずだったあたしは、改めて、それまで自分の周囲にいた男性達がいかに紳士だっ
たのかを知ったのだった。

男が話した内容は男の知人の知人という警察関係者の耳に入り、それがかつての仲間伝い
に一番知られたくなかった人物の耳に入ったらしい。

ある日、突然、その人物が里を訪ねてやってきた。

すっかり外見が変わっていた。
だけど、優しい眼差しのまま。
不意に涙が溢れそうになったけど、泣きたくなんてなかったから、あたしは悠然と笑ってやった。

お茶を飲む彼を眺めながら、あたしは言葉を待つ。
何か言いあぐねている様子が手に取るようにわかる。昔から分かりやすい人だった。

「気になる話を聞いた」

そう言いたいのだろう。

──だけど、事態はあたしが考えていたよりも深刻だった。
目の前のその人は、おずおずと紙包みを差し出し、そして言った。

「ぼく、席を外してるから……一人で確認して」

彼はそう言うと、帽子を目深に被り直しながらそそくさと出て行った。

手元に残された紙包みを見る。

茶封筒、かな……?
表には彼の住所と名前が印字されたシールが貼られていて、郵便物として届けられたこと
が窺えた。
差出人の名前は……ない。
手触りから、中身はビデオテープのようだった。

再生したあたしは目を疑った。

姿見に映る全裸の男女。
後ろから抱えられた女は乳房を揉みしだかれ、自らの秘所に指を這わせている。
その部分を視覚的に遮るものなど何も無く──。

そのうち、性器にはバイブを突き立てられ、髪を振り乱して喘ぎ。
そして絶頂に達して失神した女は腰を抱えられ、意識を取り戻すと同時に仰け反った。


──観られた。
彼はこれを観たんだ……。

あたしは無意識のうちに、座卓に放り投げていた携帯電話を引っ掴んで履歴を探していた。
手が震える……。

あんな映像を撮れるのは一人だけ。

盗撮されてたんだ──……!


『大人になった家元さんを見て貰わなきゃね』

電話の向こうで、男は悪びれもせずにククッと笑った。

あたしの気持ちが他にあることを知って、わざと送り付けたんだ……。
よりにもよって、こんな……こんな……!

いっそ、死んでしまえたらどんなに良かっただろう。

テープを停止する気力もなく、呆然と立ち尽くした。
テレビからは、貫かれてよがるあたしの嬌声が虚しく響いていた。

×××

「──真宵ちゃん……?」

どれ位立ち尽くしてたんだろう。
呼びかけられて我に返ると、障子に彼の影が映っていた。
雪見障子のガラスから、外に立っている彼の黒っぽいスウエットが見えた。
何も言わずにあたしの反応を待っている。

「……入って、いいよ」

彼もあたしの扱いに戸惑っているのだろう。
数秒の沈黙のあと音もなく障子が開き、彼は伏し目がちのまま入って来ると、後ろ手でそれを閉めた。
10畳ほどの和室の真ん中に置かれた座卓を挟んで、彼とあたしの二人きり。どちらも口を開かない。
お互いがお互いの言葉を待っていた。

これほど気まずい沈黙って、今まであったかな……。

その沈黙が、現在の彼とあたしの距離を如実に物語っていた。
あたし、何を言うべきなんだろう。
彼はどんな言葉を望んでる?

風が強いのだろう。
庭で枯れ葉が風に舞い、カサカサと乾いた音を立てていた。
その音に、或いは人の気配を感じたのかもしれない。
障子越しに庭の様子を窺おうと振り向いた彼の背中に、あたしは呟いた。

「──観たんでしょ……?」
「……ごめん」

一瞬息を呑み、彼もまた呟くように答える。
溜め息と共に身体の力が抜けていく。

観たからこそ彼は来たのだろうに、あたしはこの期に及んでも、彼がビデオを観ていない
ことを、心のどこかで期待していたらしい。

馬鹿げた話だ。
伝聞の噂だけであれば、もしかしたら笑い飛ばしてくれたかもしれない。
だけど、彼は突然訪問して来た。
それが良い証拠だというのに。

一番知られたくなかったあたしを知られてしまったことで、心の中の何かが音を立てて乾
いていく気がした。

胸の中で、目の前で俯く彼に話し掛ける。

もう、あなたの知っているあたしじゃない。
純粋だった綾里真宵はいない……。
生殖の為だと言い訳しながら悦楽を求めて男に犯され悦びよがる女。

── それが今、あなたの目の前にいる人間の正体なんだよ。


「それで?」
「……え?」

あたしの低い声に、彼は怪訝そうに首を傾げた。

「こんなに身近に、手軽に一発ヤれる女がいるなんて思わなかった?」
「…………!」

どうしてこんな言い方しか出来ないんだろう?
もっと可愛らしく気持ちを伝える方法をあたしは知っていたはずなのに。
19歳のあたしが知っていたことが、どうして今のあたしに出来ないんだろう──。

彼はあたしの酷い言葉に一瞬唖然とし、そして激しい怒りにその顔を歪ませた。
こんな顔を彼がするのは久し振り……いや、あたしに向けられたのは初めてかもしれない。
まっすぐに射抜くような鋭い視線があたしに放たれる。

それでもあたしは怯まなかった。
19歳の頃ならば、恐らく縮み上がってしまっていただろう。
だけど、大人の快楽を知ってしまったあたしは、心のどこかに「どうせ男なんて……」と
男性に対する偏見を持っていた。

「……見くびらないでくれ。ぼくはキミをそんな風に思ったことなんて──」
「……いいよ、無理しなくて。男と女の間に友情なんてないんだよ」
「──ははっ。……酷い言い草だなあ……」

彼はあたしから目を逸らして、口元をわずかに上げた。
以前の彼はこんなに皮肉の色の濃い笑みは浮かべなかった。
あたしも変わってしまったけれど、彼もまた随分変わってしまっていて、あたし達の間に
流れた数年という月日の重さを感じさせた。

あたしはもう、戻れないところまで来てしまっているのだろう。
涙も出なかった。
あたしは漠然と、もうあの街を訪れることも、かつての仲間と会うこともないだろうと思
っていた。

自分でぶち壊してしまったことなのに、胸の中に倦怠感のような鈍い痛みが広がっていく。

あたしは目の前にいる人をしげしげと眺めた。

忍んできた恋だった。
気持ちが伝わらなくたって良いと思っていた。

これ以上綾里に翻弄させるわけにはいかなかった。
だからこそ誰にも相談せずに一人で選んだ道のはずだった。
だが本人を目の前にするとどうだろう?
あれ程悩んで悩み抜いて出した決意が、いとも簡単に揺らいでしまう。

あの結論を導き出したあたしと今のあたしでは決定的に変わったことがあった。
胸に秘めた想いこそが全てで、それを支えに自らを律する頃が出来た純粋なあたし。
だけどあたしは知ってしまった。
男と女の間に、甘い甘い大人の行為があることを。
そしてあたしは、純粋なんかじゃない、ただのオンナだってことを。

あたしは彼を前に、胸が痛くなるほどの切なさを覚えていた。

一度で良いから想いを遂げたい……。
一度で良いから、女として彼に抱いてもらいたい……。

数分間……いや、実際はほんの数十秒だったのかもしれない。
頭の中では色々な想いが去来していた。
葛藤そしてまた葛藤。
それを繰り返した先で、あたしは顔を上げ、座卓の向かいで胡座を掻いていた彼の横につ
と膝を揃えて座ると、彼の広い肩を突いて畳の上に押し倒した。

「え。」

外見の雰囲気は酷く気だるげでそれでいてどこか理知的に変わったのに、このまぬけ声は変わっていなかった。

「ねぇ……しよ?」

あたしの思いがけない行動に、完全に思考が停止してしまっているらしい。
冷や汗をダラダラ掻きながら、目をパチクリさせている。

なーんだ、昔と変わらないんじゃん。

四六時中一緒にいた頃の彼が脳裏を過ぎり、安堵と共に涙が滲みそうになった。
溢れそうになった涙を笑みに変え、彼の下半身の中心をまさぐる。
ズボンの上からしっかりと男性自身の手応えを感じて、形をなぞるように手で揉みさする。
するとあっという間に硬度が増して来て、そのままズボンに手を掛けるとトランクスごと
引き下げた。
あらわになる彼自身。
それを、あたしはおもむろに頬張った。

「ちょ、まよ──……っ!」

彼が息を引いたのが分かった。
唾液をたっぷり溜めて舌を絡めると、彼自身が見る見る間に口の中で膨張していく。
大切なそれを両手で捧げ持ち、右手で根元を扱きながら怒張を横から食む。

「う……あ……真宵ちゃん……!」

彼の呻きに反応してあたしのカラダも熱くなってしまう。
考えてみれば、色々と経験を重ねてしまったあたしだけど、こうして身体を合わせるのは
二人目なんだ。
彼は夢中になって愛撫するあたしを引き離そうと、あたしの肩に置いた腕に力を込めた。

「だ……ダメだよ、真宵ちゃん……!」

あたしは一旦口を離して彼を見上げた。
右腕で目を隠してハァハァと荒い呼吸を整え、勢いに呑まれまいと必死になっている彼が
愛しかった。

──出来ることなら、これが初体験であれば良いのに……。

今更そんなことを思っていた。

こんなに積極的じゃなくて、初々しくて。
裸になることだって恥ずかしくて。
彼のしてくれること、一つ一つが嬉しくて、気持ち良いに違いない。
破瓜の痛みすらも幸せで、流す涙は悲しい涙なんかじゃなくて、大好きな人と一つになれ
た嬉し涙で……。

ああ、あたしもそんな初体験がしたかった。

でも、もう遅過ぎることを、あたしは知っている。

「……お願い。一回だけで良いから」

枯れ果てたと思っていた涙が一筋あたしの頬を流れて行く。
震える声音で気付いたのだろう。
まじまじとあたしを見つめ返した彼が掴んでいた肩に込めていた力が不意に緩んだから、
あたしは体勢を変えて彼の顔に股がり、下着をずらして誘った。

「あたしにも、して……?」

彼の唇に秘所を押し付けると、おずおずと伸びて来た舌が秘穴に侵入してあたしを犯し始めた。
淫らな雫がどんどん溢れて滴り落ちて行くのが分かる。

すっかり形の変わった怒張を頬張る。
根元から先端へ、力を入れて尖らせた舌で舐め上げ、溝まで行ったらまた根元まで、今度
は食むようにしながら唇を往復させる。
何度も繰り返すと彼が腰を浮かせて切なげな溜め息を漏らすから、今度は最も張り詰めた
場所の下の溝を舌でなぞる。
いやらしく光る先走りの水を味わいたくて、滾々と溢れさせている亀頭を口に含んだ。

しょっぱくて、ほんの少し苦いお水。

愛しいそれを塗りつけるように頬ずりすると、あたしの頬と彼の先端に銀色の橋が出来た。
あたしは秘所を愛してくれる彼を感じながら、もっと気持ち良くなって欲しくて夢中で頬
張る。
今まで男に仕込まれた全てのものを彼に注いだ。

「真宵ちゃん──……っ!」

亀頭が一際膨らんだかと思ったら、ドクリドクリと脈打ち口の中に彼の劣情が溢れた。
たっぷり吐き出された白濁を飲み込んだ。
いつもは苦くてえづいてしまうそれも、彼のものだと思えば美味しかった。

背後からまだ熱く弾んでいる吐息が聞こえてくる。
彼は懸命にあたしの秘所に舌を這わせていた。

彼の欲情にまみれたその呼吸音が、あたしを更に興奮させる。
恩人であり友人でありかつての同僚であり、上司でもあり、兄のような想い人の施してく
れる愛撫に没頭していた。

勝手に腰が動いてしまう。悲鳴をあげながら、あたしは仰け反った。
たまらず胸をはだけさせて両の乳房を揉み上げ、乳首を捏ねる。

剥き出しのクリトリスをチロチロと舌が刺激する。

「あ、あ、そこ……いい……!」

一度萎えた彼のペニスは、再び力を得ていた。
彼は陰核を舌で絡めとり、器用に唇で扱いたり舌を使って弄んだ。
軟体動物が這いずり回るような感覚に、あたしは酔って行く。
元々そこが弱いあたしはどんどん高みに追いやられてしまう。

「あんっ、あ、あ、イッちゃう……っ!」

胸と下半身の突起があたしを絶頂に導いた。
腰を痙攣させて、あたしは彼の身体に倒れこんだ。
乱れた呼吸が苦しいけど、酸欠状態すら快楽に変換されていく。

あたしは身体を起こすと、反転して彼と向き合った。
パーカーの中に手を忍ばせ、乳首を人差し指で弄び呼び覚ます。
小さな粒は、すぐにキュッと硬くなった。

彼の瞳が見る見る潤んで行く。
熱っぽい瞳が酷く扇情的で、「こんな顔、初めて見たなあ」と、彼が欲情して行く様を眺
めていた。

彼の下半身に跨がったあたしは、お臍に届きそうに反り返って勃つペニスを握って数回扱
くと、薄笑いを浮かべたまま腰を落とした。
硬い棒を秘所に宛がい、腰をくねらせて先端に蜜を広げる。

これから挿入するという期待感と、指でも舌でもないモノにそこを探られる感覚はとても
官能的で、興奮を誘う。

あたしは秘所で存分に彼の怒張を味わうと、挿入すべき場所に導いた。
焦らされた彼がクイとわずかに腰を突き出すと、腰を落としていくあたしの中を拡げなが
らズブズブと埋まって行く。
膣内が彼でいっぱいになり、満足感が熱い吐息になって漏れる。
入って来るこの瞬間、あたしはいつも軽い絶頂感を覚えてしまう。

気持ちいい……!

あたしの中を満たす大好きな人を味わいたくて、抽送運動を始める前にじっと瞳を閉じる。
肉体的な充足感を上回る、精神的な幸福感。
幸せ過ぎて身体中に鳥肌が立つなんて、初めての経験だった。

うっとりと酔いしれていたあたしに、彼は言った。

「あのさ、ぼくの子にしなよ」
「は……?」
「家元だから、こんなことしてるんだろ……?」

突然の言葉に、あたしは繋がったまま彼を見下ろす。
思わず目を瞬かせてしまった。

「どうせぼくを巻き込みたくないとか思ってくれたんだろうけどさ、もう今更だろ?」
「──……」
「見たくないよ、こんな真宵ちゃん。こんな状態のぼくが言っても説得力ないけど、見た
くないよ、キミのそんな姿……」
「……だって仕方ないじゃない……」
「なんでもっと頼ってくれないんだよ」

泣きそうな声をしている彼を見ることが出来ない。
彼はあたしの考えていたことなんてお見通しなのに、あたしは口に出して答えることは出
来なかった。

「……キスして良い?」

だんまりを決め込んだあたしに、彼は低い声で囁きかけた。
何故か泣きそうになりながら、あたしはゆっくりと彼の唇に唇を寄せた。
少しだけ突き出した唇同士を重ねてチュッと可愛い音を立てる。
それはまるで小さな子供を思わせるキスだった。
今度は少しだけ長く重ね合わせる。
中学生同士の淡い恋を象徴するような初々しいキス。
そうやって彼は少しずつ、深くあたしの唇を求めていく。

まるで、何もかもを全て素っ飛ばしてしまったあたしに、大切なことを一つ一つ経験させ
るように。

そしてあたしは初めて知る。
キスがセックス以上に甘美で幸せな行為だということを。
好きな人の柔らかい唇がこんなに愛おしいなんて、知らなかった。

お互いを貪るように絡め合わせた舌を離すと、二人の間をキラリと光る糸が繋がっていた。
その糸すらも愛しい。

感極まったあたしは、紅潮した彼の耳朶を食みながら囁いた。

「──あたし、今日、危険日なんだ……」
「え……?」
「……ごめんね……」

身じろぎもせずにあたしを見つめる彼と視線を絡めたまま、あたしは泣きながら、腰を振
った。
大好きだった厚い胸板に手を付いて、一心不乱に……。
そんなあたしを、彼は微笑とも悲しみとも形容出来ない切なげな顔で見つめていた。

彼の身体に覆い被さり、首筋や鎖骨、胸板に情交のシルシを付けて行く。
あたしを見つめる瞳も徐々に欲情の色を濃くして、あたしを下から小刻みに突き上げて来
る。
怒張があたしの膣の襞を抉り、そこから生まれる熱は否応なしにあたし達を高めていく。

「あ、あ、あ、あんっ! んんっ! あ……!」

少しでも深いところで彼を感じたくて、あたしはより腰を落として彼を迎え入れた。
結合部から響く彼の先走りとあたしの蜜が生み出す卑猥な音が、どんどん激しくなって行
く。
カラダの一番奥深くを突かれて、あたしは喘ぎを堪えることも出来ずに快感に身を委ねた。

「真宵ちゃん……、もう……!」

熱に浮かされたような目で、彼が限界を訴える。
あたしももうすぐそこに頂上が見えていた。

やがて、端正その顔が歪んで膣の中でペニスが膨らんだ瞬間、あたしは彼から離れ、ビク
リビクリと脈打つソレを咥えた。
二人の作り出したいやらしい水でテラテラ光る先端に舌を這わせながら、右手で上下に扱
いて射精を手伝う。

「う…………っ!」

荒い呼吸と低い呻き声が共に漏れた。
下腹部を痙攣させながら欲情を吐き出している彼が最高に愛しくて、苦悶にも似た熱っぽ
い絶頂の表情を脳裏に焼き付けるように見つめながら、口に勢い良く溢れる欲情の証を受
け止めた。
それは顔を歪めてしまうほど苦いのに、彼のものだと思えば甘く感じるのだから不思議だ。
彼があたしに「あげる」と言ってくれた、子種を、大切に嚥下して行く。

口の端に付いた白濁を指先で拭い取ってペロリと舐めたあたしに、彼は呼吸を整えながら
泣きそうな顔でポツリと呟いた。

「なんで……」
「……ごめんね……」
「なんで謝るんだよ……」

重いカラダをやっと起こして、鉛が入ってるように重い下肢を引き摺りながら、あたしは
隣の部屋との雪見障子を開けた。

──そこには一部始終を見ていた男がいた。

彼の顔が一瞬にして蒼白になり、あたしに鋭い視線を投げつける。

ビデオの件で電話した時に、言われたのだ。

「抱かれろ」と。

もちろん、あたしには拒否することが出来たし、したつもりだ。
実際、彼と交わったのはあたしの意思が決めたことだから。
あたしが望んで彼に抱いてもらったのだから。

彼の鋭い視線を痛いほどに背中に感じながら、あたしは後ろ手で障子を閉める。
男はあたしの身体を反転させて、障子に手を付きお尻を突き出すようにように命じた。

絶頂を迎える寸前だったあたしのカラダは、貫かれる期待に震えて淫らにお尻を振ってし
まう。
つい数分前まで彼と愛し合っていたそこは、前戯も必要ないほどに濡れそぼっていて、そ
の淫液を広げるように数回秘裂を往復した後に突き立てられた男根を難なく咥え込んでし
まった。

「ああ……っ!」

障子を挟んだすぐそこに彼がいるのに、一際高くて鋭い淫らな声をあげてしまった。
彼のモノで刺激され続けていた膣は、嫌悪感を感じる男のモノですら悦んで迎え入れる。
襞を拡げながら入って来て、内壁を擦りながら出て行く。
根元までいっぱいに引き抜かれると、敏感な入り口に太いくびれの部分が引っ掛かって熱
を生み、今度は思いっきり深く貫かれて空洞が満たされるとカラダが震えた。
すすり泣いてよがるあたしの太ももを、愛液が流れ落ちて行く。

「あ……すご……っ!」

突かれる衝撃で障子がカタカタと音を立てている。
すぐそこに彼がいるのだからと言い聞かせて、手の甲を噛んで声を抑えようとするのに、
そうすればするほどあたしは悦んでしまう。

「あ、あ、あ……あん……っ!」

お預けを食らっていたあたしのカラダは強い刺激を欲していて、昂ぶり切っているあたし
は恥ずかしげもなく言葉に出してねだっていた。

「あ……っ、クリ……トリス……弄ってえ……!」

ジュブジュブと淫猥な音に煽られていよいよ昂ぶって行くあたしは、自分の身体を支えら
れなくなっていた。

障子越しにずるずるとくず折れたあたしの視界に、鋭い視線を投げ掛けたままの姿勢で横
たわる彼が目に入った。
へたり込んで四つんばいの姿勢で男に犯されながら、雪見障子のガラス越しに彼の瞳がゆ
っくりとあたしをとらえるのを見た。

視線が交わる。
彼に見つめられたまま、あたしは一際激しく後ろから貫かれた。

「あんっ!」

激しく突き上げられる子宮の疼きに、耐え切れずに嬌声が零れてしまう。
悲しく沈んだ彼の瞳が、小刻みに突かれて絶頂へと追いやられて行くあたしをずっと見つめていた。

彼に抱かれている錯覚に陥りながら、あたしは思っていた。

人形になるのは今日が最後だろう、と。

積年の想いを遂げて解放されたあたしは、この情交で身籠る気がしていた。
女の本能だろうか、予感というよりも確信に近いものを感じていた。


人形になると決めた時にもう泣かないと誓ったのに、人形である今、涙が出そうなのは何
故だろう。

「好きだったのに」

胸の中でそう叫ぶのは、誰?

あたしを見ないで。
あたしに触れないで。

目から溢れた水が頬を流れ落ちていくのを感じながら、あたしは抱かれていた。
虚ろな目であたしを見つめる彼に、ガラス越しに抱かれていた。
最終更新:2010年03月26日 22:05