(編集注:蟲との絡みにつき注意)

 

家元継承の儀式の為、倉院の里より、もっと人里離れた霊山に行く真宵
そこの修験堂は、まるで倉のような作りで、扉は頑丈な閂で外から閉ざすようになっていた
上のほうに換気用の小窓がある程度で、日の光も月明かりも射さない
そんな場所に、真宵は一人、いつもの装束のまま、明かりも暖房器具も無しで放り込まれた
長年この儀式を執り行ってきたという老婆は言う
「何があっても決して恐れてはいけない」そして「儀式が終わるまで外に出てはいけない。出ようと望んでもいけない」と

やがて日が暮れ夜になり――といっても中の真宵にはわからない事だったが――倉の中の闇に、変化が表れ始めた
ぎちぎち、ぐるぐる、奇妙な音が、堂の奥から聞こえてくる
やがてそこから這い出したのは、暴力的なまでにおぞましく、冒涜的で名状しがたい、巨大な蟲だった
思わず悲鳴を上げ、逃げようと動きかける真宵、しかし咄嗟に老婆の言葉を思い出し、その身を固くする
やがて蟲は節を鳴らし体液を垂らしながら、さも当然というように、真宵を犯し始める
蟲は身体中を這いずり、ついには生殖器を真宵の子宮にぶち込み、処女膜を破った
体内外問わず蟲の体液を注ぎ込まれた真宵は、そのあまりに強すぎる快楽と、反面未だ完全に捨て去る事の出来ない自我と恐怖の間で、ぐちゃぐちゃになっていった
やがて、その生殖器が膨れ上がると、真宵の胎内に、今度は固形物が送り込まれ始めた
やがてその固形物は、真宵の中でそのまま膨れ始め、そして、弾けるように孵化した
真宵は膨大な痛みと快楽に獣のような声をあげながら、自分の膣から同じ蟲が何匹も何匹も孵るのを見た

そして夜が明け、老婆が入ってきた
蟲の気配は既に無く、真宵はかつていた蟲と、自らが生んだそれに蹂躙された状態のまま、穴からどろどろとだらしなく体液を零し続けていた
老婆は手に持った錫杖で真宵を打ち、無理やり意識を取り戻させた
「あれほど恐れても逃げてもいけないと言ったのに、何故破ったのか。
お前が恐れず、真の慈愛の心を持って接すれば、こんなヒルコが生まれるわけがない」と
真宵は茫然としながら、老婆の言葉を聞いていた

綾里供子……神に供えられし子
彼女が供えられた「神」こそが、まさにあの蟲だったのだ
供子はあの醜い蟲を全く恐れず、むしろ喜んでその身を差し出した結果、蟲からあの霊媒能力を授けられたのだという
そして、授けられたのは霊媒能力だけでなく、同じく霊媒能力を持った赤子だったと
家元継承の儀式とは、即ち、蟲を愛する心で受け入れ、その子供を孕む儀式だったのだ
清い慈愛の心で蟲を受け入れれば、霊媒能力は強化され、また後継ぎの子供もその身に宿る
しかしもし蟲を少しでも恐れ、その場から逃げようとちらとでも思えば、孕むのは子供ではなく、同じ蟲だという
これは代々直属の家元にしか伝えられない儀式であり、分家筋に届く事はまずないのだという

「供子」の意味、自分が父親の事を尋ねた時、母が言葉を濁した訳、そして、自分自身の、出生
全てを悟った真宵は、この儀式は正しく子を孕むまで続ける、という老婆の声を聞きながら、その自我を亡くした

最終更新:2011年10月09日 00:19