海外版 フェニックス×マヤ


「ただいま~…って何この空気!?」
どよよんと擬音をつけたくなるような暗い雰囲気。
ロスのフェニックス・ライト法律事務所の影の所長ことマヤ・フェイはいつもみたいに買い物から帰って来て思わず後ずさりしてしまった。
「マヤちゃん…おかえり」
「ニックどうしたの?ほら、ハンバーガーでも食べて元気出して」
ギザギザにとんがった髪も今日はしおれて見える。
青いスーツの弁護士さんはハンバーガーを差し出されても溜め息をついて受け取ろうともしてくれなかった。
「一体どうしたの?ニックらしくないよ」
仕方ないので隣に座って自分でハンバーガーをぱくついて悩みを聞いてみる事にした。
「いいんだ、大した事じゃないよ」
「大した事じゃない顔じゃないよ!大した事だから顔が大した事の顔なんじゃない!だから大した事じゃない事ないじゃ……アレレ?」
ニックは苦笑いして頭を撫でてくる。
「と、とにかく!このマヤちゃんに言ってみなよ?いいアドバイスはできないかも知れないけど、言うだけでも気が晴れるかもよ?」
「う~ん…何だかちょっと恥ずかしいんだけどさ」
「ニックが恥ずかしいのは今に始まった事じゃないよ!」
「マヤちゃん…」
しまった。また落ち込ませちゃった。
「だーかーら!言うだけ言ってみなよ?ね?」
バシバシ背中を叩いて喝を入れる。
うなだれてた顔がちょっとだけこっちを向いて、ようやくポツポツ話だした。

「マヤちゃんてさ、自分の名前の意味知ってる?」
「え?え~と…マヤは、マヤ文明のマヤ?」
「違うよ、ラストネームの方。マヤちゃんはチャイニーズアメリカンじゃないか」
「うん。それがどうかしたの?」
ニックは頭をポリポリ掻いて目を合わさないまま続けた。
「フェイっていうのは“fly”っていう意味なんだってさ。
だから……いつかマヤちゃんも大人になって何処か遠くに飛んで行っちゃうのかなって…
そう考えたら、なんか、さ…」
「ニック…」
なんだか胸がきゅんとなって、あたしはハンバーガーを置いてニックにフライングアタックしてしまった。
「うわわっ!な、何だよ急に」
そのままぎゅっと腕を回す。
「ニック、自分の事忘れてない?」
「え?」
「ニックはフェニックスじゃない!だから、あたしが何処に飛んで行っても捕まえてくれるでしょ?」
「マヤちゃん…」
ニックも優しくあたしを包み込んでくれた。
「それに、ライトでしょ?飛ぶ時は光の方へ飛んでいくに決まってるよ」
「That's Wright!
今のは“その通り”じゃないぞ。僕はフェニックス・“Wright”であって“light”でも“right”じゃないからな。
マヤちゃんわざと間違えただろ」
「えへへ~バレた?」突き出した人指し指で、おでこをつつかれた。
それから一緒になって笑って、抱きあって、あたし達はもっと仲良しになった。


例え遠く離れて暮らしたとしても、気持ちはいつだってニックと一緒だよ。
だってニックはあたしの───だから。
最終更新:2010年03月26日 23:20