・どっちも黒い
・お互い恋愛感情はあるが、言動はかなり冷めている
・やや無理やり
・真宵ちゃんがなるほどくんのために他の男に体を許している(他の男との間に恋愛感情はない)
・時系列は特に設定していませんが、少なくともなるほどくんが資格を失う前です。強いて言うならパラレルです。

*****


深夜三時も少し回ったというころ、あたしは重い体を引きずって事務所の扉をくぐった。
当然事務所の中は真っ暗で、あたしは手探りで電気のスイッチを探す。
本当はそのままお姉ちゃんから引き継いだマンションに帰ってベッドに飛び込みたいくらい疲れていたけど、一度寝入ってしまったらきっと次の日の夕方ごろまで目が覚めない自信があった。
その日あたしが苦労して手に入れてきた戦利品は、次の日の裁判でゼッタイに必要なモノだったから、そうなったら困る。
だからとりあえず事務所に寄って、その資料だけでも置く。
体力があればそのまま帰ってもいいし、無理なら所長室のソファを借りて寝よう。
そう考えて事務所までやってきたのだけど、やっぱりあたしの体は限界のようだった。
いくら事務所から近いとはいっても、こんなに疲れ果てて眠たい状況で、もう一度寒い外に出て、夜明け前の街を歩く気にはなれない。
あたしはもう早く体を休めたい一心で、さっきつけた電気を消すことも忘れて所長室のドアを開けた。

背後からの明かりで、室内がぼんやりと照らされる。
お目当ての、あたし一人くらいならラクラク寝られる大きなソファに視線をやったとき、そこに人が寝ているのが見えた。
一瞬、不審者かと思い身を固くする。
でもさっき入ってきたとき、玄関の扉には鍵がかかっていたし、室内にも特に変わった様子はない。
そもそも、強盗や空き巣がこんな何もない事務所に侵入して、ましてやそのまま寝入ることなんてありえない。
そう思い直して冷静にその人物を見ると、なんのことはない、ただのなるほどくんだった。
でも、あたしが最初から寝ている人影をなるほどくんだと思わなかったのには理由がある。
彼がここにいることは、ある意味で極めて自然で、同時にかなり不自然だった。
ここはなるほどくんが所長を務める事務所なのだから、彼がここにいようが泊まろうが、何の不思議もない。
実際、仕事が立て込んでいる時期はそうすることもままあった。
でもなるほどくんは、あたしに次の日の裁判で裏付けとなる資料の入手を頼むと(実際は脅迫に近かったけど)、昨日は定時で帰宅したはずだった。
特に他に大きな仕事があった様子はないから、事務所に泊まる理由もない。
というか、一回帰る姿をあたし自身が目撃しているのだから、なるほどくんは一度事務所を出てからまた引き返してきたことになる。
一体何の目的があって……?
訝しく思って、穏やかな寝息を立てている彼を上から見下ろす。
スーツの上着だけソファの背もたれに引っ掛けて、ネクタイもそのままに自分の右腕を枕にして眠り込んでいる。
端正な横顔は緩みきっていて、口が開いていた。
こりゃ、しばらく起きそうにないなあ。
あたしはソファで寝るのを諦めるしかなかった。
彼のためにこんなに骨折ってやっと帰ってきたっていうのに、あたしの安息の場所は他でもない彼に奪われて、まだ休めそうにない。
この事務所には他に寝転がれるほど大きなソファもスペースもないから、やっぱりマンションに帰るしかなさそうだ。
はあと大きなため息をついて、くるりと踵を返したその時。
あたしの手首を、大きな手が掴んでぐいっと引っ張った。
カンゼンに油断していたあたしはそのままバランスを崩して、ソファに倒れこむ。

「いったあ……」

不自然な姿勢で倒れたせいで、掴まれた手の方の肩を下敷きにして思い切りぶつけてしまった。
でも、痛めた肩をかばっている暇はなかった。
倒れたあたしの体を引き寄せるようにして、なるほどくんの両腕が後ろから絡みついてくる。
その手が合わせの間から侵入しようとしているのを感じ取って、あたしは必死で体をよじった。

「ちょっとなるほどくん!やめて!」

でも、あたしの抵抗なんて簡単に押さえ込まれてしまう。
なるほどくんはあたしの腰辺りに片腕を回してじたばたと暴れる腕ごと抱え込むと、そのままもう片方の腕で乱暴に合わせを開いた。
肩と胸元が冷たい空気に触れて粟立つ。
むき出しになったあたしの上半身に手を這わせながら、なるほどくんが耳元でくつくつと笑う声が聞こえた。

「仕事はうまくいったの?」

耳が弱いあたしは何とか彼の頭をそこから引き離そうと、精一杯首を曲げながらうめき声をあげた。
でもなるほどくんはあたしの意図なんてお見通しなようで、わざと執拗に耳元に息を吹きかけてくる。
敏感な耳朶を噛んだり舐めたりされて、あたしの体からはどんどん力が抜けていく。

「ん……あっ……おねが……耳はやめてえ……」

「いいから。資料はちゃんと手に入ったのかな?」

なにが「いいから」なのかわからないが、なるほどくんは耳を攻めるのをやめるつもりはないようだった。
こういうとき、無理に逆らってもいいことは一つもない。
あたしは諦めて、「机の上」とだけ答えた。
なるほどくんはぐったりとして暴れる気力さえなくしたあたしの体をひっくり返すと、上に覆いかぶさってくる。

「よくできました」

こんな状況に似つかわしくない、不気味なほど爽やかな笑みを浮かべて、なるほどくんはあたしの帯を解いた。
ここまでされたらもう逃げられない。
せめてもの抵抗に顔をソファの背もたれ側に背けて、彼と目を合わせないようにした。
なるほどくんはおかまいないしであたしの装束の前を完全にはだけさせ、首のあたりに吸い付いている。
ああ、また痕つけてる。
今度はちゃんと隠れるかなあ。
煩わしい心配事が増えてげっそりする。
ただでさえ疲れているのに、身勝手な行動ばかりするなるほどくんに腹が立った。

「痕、つけないでって言ってるじゃん」
「逆らうの?」

即座にそう返されて、ぐっと言葉につまる。
なるほどくんに逆らえば、あとでもっと酷いことをされる。
経験からそうわかっているあたしは、もう何も言い返せなかった。
文句が止んだことに満足した彼は、再びあたしの首に顔を戻した。
何が楽しくてそんなところを吸っているんだろう。
あたしは、妙に冷めた頭でそんなことを考えていた。
顔の横に落ちていた髪の毛を横に払って頚動脈のあたりを探っていたなるほどくんが、ふいにふっと笑った気配がした。
完全にのしかかっていた体を少し起こし、そこに指を這わせながら「痕、ついてるよ」と言う。
あれだけ吸っていればそりゃ痕もつくだろうと訝しげな顔をしていると、それを読んだように「そうじゃなくて」と笑った。

「今日のお客サンの、アト」

それを聞いて、あたしはつい先ほどまでの行為を思い返す。
彼はなるほどくんほど首筋を執拗に責め立てはしないが、ごく自然な流れでそこに顔を寄せていたことはあったかもしれない。
まさか痕をつけられていたとは。
なるほどくんは自分であたしを違う男の人にけしかけるくせに、妙に嫉妬深いところがあった。
自分以外の痕が残っていると、行為はいつもの二十倍ぐらいしつこくなる。
もう。誰も彼も、めんどくさいことしてくれて。
すぐにでも眠りたいのにそうできない苛立ちと相まって、あたしは思い切り不機嫌なカオをしていたみたいだ。
なるほどくんは口元だけの笑みを崩さないまま、強引にあたしの顔を正面に向けると、今度は唇を吸ってきた。
初めは短い、啄むような口づけを繰り返すだけだったが、だんだんとそれは深くなっていく。
あたしは口をしっかりと閉じていたけど、なるほどくんの舌はそんなことにかまわずあたしの唇をこじ開けて侵入してくる。
喉の奥まで長い舌を突っ込まれて、思わずえづきそうになった。
涙目で睨んでも、楽しそうな顔で歯列をなぞるだけ。
逃げ回っていた舌を絡め取られて吸われる。
わざと大きく音を立てているようだ。うんざりした気分とは裏腹に、快感がぞわぞわと背筋を駆け上がってくる。
やっと唇を解放されて荒い息をつくあたしに、なるほどくんは相変わらず目だけ笑っていない笑顔で告げた。

「油断したね。消毒しなくちゃなあ」

抵抗なんてばかな行為だって頭では分かっていても、あたしの体はとっさに逃げようとした。
つまり、再び覆いかぶさってきたなるほどくんの下から這い出そうと体をねじったのだ。
とはいえ、下半身にはしっかりなるほどくんの体重がかかっていたし、肩も押さえつけられていたから、実際には微々たる動きにしかならなかった。
それでも、あたしが体に力を入れたことがお気に召さなかったらしい。
下半身にかけた体重は動かさないまま、なるほどくんは器用に自分のネクタイを外し、あたしの手首を頭の上にまとめて縛り付けた。
こうされると自分の意志では体を反転させることさえ難しくなるし、何よりあとで手首にうっ血の跡が残って痛い。
最近はできるだけなるほどくんの意思に沿うようにおとなしくしていたおかげで、ここまでされるのは久しぶりだった。
数秒前の自分のうかつな行動に腹が立ってくる。
なるほどくんは自分の手際の良さに満足した様子で、手をあたしの胸元に移す。
大して揉みごたえもなさそうなそれを、彼が執拗に、少し痛いくらいの力で責めるのもいつものことだった。
今日は、いつも以上に痕を残しているようだったけど。
なるほどくんの手があたしの胸を乱暴に押しつぶすたび、鈍い痛みが走る。生理が近いのかもしれない。
あたしが顔を歪めれば歪めるほど、声を我慢すればするほど、なるほどくんは嬉しいみたいだった。
あたしの喘ぎ声より押し殺したうめき声や吐息の方が、キモチよさそうな顔より何かを我慢したような苦しそうな顔の方が好きだと言われたことがある。
たぶん、彼はホンモノのヘンタイだ。

「んっ……ふっ……」

手首と胸の痛みに耐えかねたあたしが、何か違うことを考えて気を紛らわそうと目を閉じていると、なるほどくんはここぞとばかりに下半身に手を伸ばした。
下着があっという間に剥ぎ取られる。左足首に引っかかったままのそれは無視して、なるほどくんの頭がどんどん下がっていく。
膝を立てさせられ、大きく開かれてあたしはみじめな気分になった。
今日、既にさんざん酷使されてくたびれきったそこはさぞ充血して腫れ上がっていることだろう。
大事な場所を無遠慮に、薄笑いを浮かべながら覗き込んでいる彼を、あたしは軽蔑の眼差しで睨んでやった。
もちろん、そんなことでなるほどくんがたったの一ミリだって気にしてくれることは、ゼッタイにないんだけど。
長い指でそこを軽く擦りながら、「あいつにどんな風に触られたの?」なんて聞いてくる。
いやいやと頭を振って拒否の意思を示しても、泣いて嫌がってたとしても(もうわかってるから、泣いたりしないけど)、なるほどくんはまるで気にしない。
自分のしたいようにしかしないのだ。
だからあたしは、なるほどくんをできるだけ喜ばせないように、何も気にしていないような顔で答えるしかない。

「フツーだよ……みつるぎ検事は、だれかさんみたいにヘンタイじゃないもん」
「ずいぶんな言い草だなあ。ぼくがヘンタイだっていうの?」
「ヘンタイだよ。フツーの人は、そんなこと聞いたりしない。そもそも、自分のカノジョを証拠集めのために利用したりしないし」

あたしの精一杯のイヤミも、なるほどくんにはゼンゼンこたえない。
余裕の表情を浮かべて、「じゃあ、あいつの方がイイんだ?」なんて聞いてくるんだから。
この点に関しては、あたしはなるほどくんに降参するしかない。
多少乱暴であるにしても、セックス自体はなるほどくんの方が段違いに「イイ」ことは否定できなかったから。
でも、それを言葉にするのはしゃくだったから、膨れた顔を作って無言で目をそらす。
あたしの気持ちなんて彼にはお見通しなようで、にやにやしながら「カワイイなあ」と手で頬の空気を抜かれたけど。
本当に、何もかもがしゃくだった。
あたしの気持ちなんて考えずに好き勝手するなるほどくんも、彼の手のひらの上でいいように転がされている自分も。

なるほどくんの指が、本格的にそこを責め始める。
シャワーを浴びてきたとはいえ、さっきまでの行為の名残であたしのそこは十分すぎるほど解れて、潤っていた。
膨れ上がった芯をなるほどくんの指が弾くたび、いやらしい水音が実際より大きく響くような気がする。

「う、ああっ、なる、ほどくっ、やっ……」

声は押し殺そうとしても、もうどうにもならない。
自由にならない体をよじって、あたしは喘いでいた。

「嫌?イイの間違いじゃないの?」

あたしをいじめているときのなるほどくんは、他のどんな瞬間より生き生きしている。
あたしが必死で膝を閉じようとしているのを分かっていて、あえて両手で強く押さえているのだ。
両腕が塞がっているので、彼はそのまま舌であたしの芯に触れる。
電流のような快感が体を走り抜けた。

「っ、ああっ!」

舌はそのまま、生き物のようにあたしの恥部を這い回る。
だらしなく緩んで際限なく蜜を吐き続ける穴を探り当てると、ためらう様子もなくそのまま侵入してきた。
舌と指とでは持っている熱が全然違う。他の何を挿入されるのとも違う快感に、あたしの体は勝手に鳥肌を立てる。

「あ、ああっ、なるほどくん、なるほどくっ」

あげた声がだんだんと掠れてきたのを感じた。
縛られた腕で必死に彼の頭を押し返そうとしたけど、やめてくれるはずもない。
その分足の抵抗がおろそかになったので、なるほどくんは膝頭に置いていた片方の手を外し、あたしの亀裂を思い切り割り開いた。
舌は膣の中で動かしたまま、むき出しになった芯を二本の指で挟んで強く擦りあげる。

「ああっ、やっ、やあっ、なるほどくん、やだあっ……おねがっ、やめて……いっちゃうっ……」
「いっていいよ」
「やっ、やだあっ!」

あたしは必死になるほどくんの頭から逃れようともがく。
体の疲労はもう限界だった。
ここでいってしまったら、なるほどくんは元気なまま、あたしだけまた無駄な体力を使うことになる。
もう、なりふり構っていられない。あたしは死に物狂いで声を上げる。

「な、なるほどくんのがほしいっ!なるほどくんので、いきたいよ……」

なるほどくんは虚をつかれたように顔をあげた。あたしが彼の強要なしにそんなことを言ったのは初めてかもしれない。
あがった息を整えながら、あたしは自分の顔が紅潮しているのを感じた。

「なるほどくん……おねがい……」
「へえ……じょうずにおねだりできるようになったじゃないか。ダレに教わったのかな」

絶望の影がひやりと背筋を寒くする。逆効果だっただろうか。
なるほどくんは珍しく逡巡するように数秒顎に手をやっていたけど、「まあ、いいか」と呟いてベルトを外しにかかった。
あたしは内心かなりほっとしたけれど、それを表に出さないように細心の注意を払う。

「ゴム、しなくていいよね」

当然のように聞いてくる。
聞いたわりには、あたしに答える時間を与えず、そのまま一気に押し込んできた。

「ああっ!」

指や舌とは違う圧倒的な質量に、内蔵が押し上げられるような感覚を覚える。
なるほどくんは最初から遠慮もなしにがくがくとゆさぶってきた。
ただがむしゃらなように思えるけど、実際にはあたしのキモチイイところを全部知っていて、的確に突いてきているからタチが悪い。
一度達しかけていたあたしは、どんどん快感の頂上に押し上げられていく。

「あっ、あっ、だめっ、もっとゆっくりっ……!」
「ははっ、もういっちゃいそうなんだ?」

眉を寄せて喘ぐあたしの顔を嬉しそうに見つめながら、なるほどくんは相変わらず弱点を責め続ける。
なるほどくんの性格が悪いのは今に始まったことじゃないけど、このときは本気で腹が立った。

「ほら、いっていいよ。真宵ちゃんがほしくてしょうがなかった、このぼくので」

これはなるほどくんがいつも使う手だ。
わざと羞恥心を煽るような言い方をして、あたしの自尊心をへし折って屈服させようとしているのだ。
分かっていても、強い快感に生理的な涙で視界が滲むのを止められない。
あたしの泣き顔を見て、なるほどくんはますます図に乗るだろう。
別になるほどくんの言葉のせいじゃない、肉体的な快感からくる涙だと伝えたくても、口から出るのは喘ぎ声ばかりで言葉にはならない。
そもそも、男性であるなるほどくんがこの感覚を理解できるとは思えないけど。
くやしくて、せめて声は出すまいと必死で歯を食いしばる。
その顔も結局は彼を喜ばすことにしかならないのだけど、あたしにはほかにどうすることもできなかった。

「あれ、どうしたの?恥ずかしくて泣いちゃったのかな?」

ほら、やっぱり。でも、今のあたしに抵抗する術はない。
効果はないと分かっていても、涙で濡れた目で精一杯睨みつけることくらいしかできない。
なるほどくんは今にも鼻歌でも歌いだしそうな上機嫌であたしを突き上げている。
でも、あたしを上から見つめる視線は愛しげだった。言動とのギャップに調子が狂う。
まあ、涙で視界がぼやけたせいでそう見えただけかもしれないけれど。

なるほどくんにいいように突かれている部分はもうどろどろに溶けそうなほど熱く充血していて、限界がすぐそこなのは明らかだった。
抵抗はすればするほどなるほどくんを喜ばせるだけだから、酸欠でぼおっとした頭で考えて、あたしはベツの方向に最後の力を振り絞ることにした。
腹筋と太ももに力を入れて、行き来するなるほどくんのをできるだけ強く締め上げる。
作戦は成功したようで、今まで眉一つ動かさなかったなるほどくんの顔が、苦しげに歪んだ。
うっと、小さく声まで漏らしている。
ただ強く締め上げるだけではすぐに慣れられてしまうから、自分から腰を動かしてリズムをつけながらたまにお腹を波打たせるようにして締めてみた。
なるほどくんの顔からはだんだん余裕が消えて、ときどき中で動いているものがびくりと反応するのがわかるようになった。
彼も限界が近づいてきたようだ。わずかに眉を寄せて、悔しそうに耳元に囁いてくる。

「ずいぶんうまくなったじゃないか。はじめてのときは、痛がって泣いてるだけだったのに」
「ゼンブ、なるほどくんの、せいだよっ……」

真冬だっていうのに、二人ともすごい汗をかいていた。前髪がおでこに張り付いて気持ち悪い。
なるほどくんは、それを察したように優しく前髪を掻き上げてくれた。こういうところが、ワルいオトコだと思う。

「んっ……あっ、あっ、なるほどくんっ、あたし、もうっ……!」

収まりかけていた涙が再び視界を埋めていく。頭が沸騰しそうだ。
なるほどくんのが、あたしの中で一層大きくなったのを感じる。

「んっ……いいよ……ぼくも、一緒に……」
「あっ、あっ、ああっ、もっ、だめ、いくっ、いっちゃうっ……!」

目の前が一瞬、真っ白になる。頭の血管が全部切れたみたいにぐにゃぐにゃして、何も考えられない。
びくびくとカラダが勝手に跳ねるのを抑える術もないまま、あたしは思い切りなるほどくんのを絞り上げるようにしながら達した。
その締め付けを受けたなるほどくんは、苦しげに息をついて一際深くあたしの体を穿つと、最奥に向かって何度も震えながら射精する。

随分長いこと、二人ともその快感の波の中にいた。
やがて、なるほどくんがずるりと体の中から抜けていく。
栓が抜けたように体の中からどろどろと粘り気のある液体が流れ出る感触を感じて、あたしは気持ち悪さに眉をひそめた。
起き上がってシャワーを浴びたかったが、その気力はもう本当に残っていない。
文字通り、精魂尽き果てた状態だった。

「……中に出したでしょ」
「デキたら結婚しようか」

ぼそっと一言文句を言うと、なるほどくんがさらりとそんなことを言ってきたから、「なるほどくんの子じゃないかもよ」と意地悪を言ってみる。

「ぼく以外の男に中に出させたの?」

あたしがそれだけは一度も許したことがないことを分かっていて、なるほどくんはそんなことを聞く。

「……させてない」

なるほどくんはあたしの手首を縛っていたネクタイを解くとどさりとあたしの上に倒れてきて、頭を抱え込むように髪をなでてくれた。

「おつかれさま。よく頑張ったね」

そのねぎらいが今日の仕事に対してのものなのか、今の行為に対してのものなのか、あたしには判断できなかった。
あるいは両方なのかもしれない。
髪をやさしくなでる大きな手の感触と、頬に感じるあたしより少し熱い体温が心地よくて、そんなことはどうでもよく思えた。
とにかく今は休みたかった。

大きく息をつきながら目を閉じたあたしが次に目覚めたのは裁判がとっくに終わってしまったあとで、真宵ちゃんの資料のおかげで勝てたよ、と無邪気な笑顔で言うなるほどくんに苦笑いしながら、ああ、やっぱりどうしたって好きだなあと思う。
起き出そうとして、体になるほどくんのスーツの上着がかかっていたことに気づいた。
こんなに寒いというのに、彼は今日ワイシャツ一枚にコートだけを羽織って法廷に向かったのだ。
裁判長や検事につっこまれなかったのだろうか。
いつもの青い上着を着ていないのを指摘されてしどろもどろで言い訳するなるほどくんを想像して、愛しさが急激に募る。
昨日はあんなに腹を立てていたはずなのに、こんなささいな優しさであたしは簡単にほだされてしまうのだ。

「……ホーシューは、みそらーめん十杯でカンベンしてあげるよ」


スーツの上着を渡しながら照れ隠しでぶっきらぼうにそういうあたしに、なるほどくんは優しく唇を寄せた。

最終更新:2014年02月06日 18:38